ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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カリン様「最近、挑戦者がすぐに諦めて帰ってしまうのお」


第二十九話 始動

 リゼット達が戦闘力を上昇させていたのと同時刻。

 フリーザは既にこの惑星にいくつかの不穏分子が紛れ込んでいる事を掴んでいた。

 気を肌で感じる事こそ出来ないが、ナメック星人達の村に突然現れた正体不明の一団(悟飯達)に、ベジータ(もっともベジータは既にザーボンが始末したらしい)。

 そして今現在、この惑星の気温を変化させている誰かがいる。

 無論自分が動けば全て片付くという事を疑ってはいないし、脅威にも思っていない。

 だが面倒だとは考えていた。

 故にフリーザはそれらを片付けるべく、己が最も信頼する配下……即ちギニュー特戦隊を呼び出す事を決めたのだ。

 

「大変です、フリーザ様!」

 

 そこに、特戦隊への連絡を命じたザーボンが戻って来た。

 ドドリアを失うという僅かな痛手はあったものの、鬱陶しいベジータを見事討伐した彼は、しかし焦燥に満ちた顔でフリーザの前へと走る。

 

「我が軍に紛れ込んでいた内通者が『フリーザ様に謀反の意志あり』とクウラ様へ連絡を入れていました!」

「何ですって!? 一体誰です、それは!」

「アプールです! 既に奴は始末しましたが、連絡はクウラ様へ渡った後でした」

「ちっ、クウラめ……私に代わって不老不死を手に入れる気ですか?! そうはさせませんよ!

ザーボンさん、特戦隊はまだですか! クウラと戦うには戦力が必要です!」

「はっ! 後数時間で到着する模様!」

 

 ……無論、言うまでもなくその内通者とはザーボンその人であった。

 彼は己の力では逆立ちしてもフリーザに勝てないと判断し、毒を以て制す事を思い付いたのだ。

 最強に対抗出来るのは最強のみ。唯一フリーザが恐れる実兄クウラを呼び、フリーザと潰し合わせる。

 これは最悪、企みが露呈すればフリーザ兄弟から袋叩きにされる恐れもあったが、ザーボンはあえてこの手を選んだ。

 永遠の美しさを得るには危険な橋も渡る必要がある。その決意が彼にはあった。

 

(ふふふ、悪いなアプール……貴様には私の為の礎となってもらった。

あの世から眺めているがいい。私の掌の上で宇宙最強の二人が踊る様をな)

 

 美しき野望は止まらない。

 背に核爆弾を背負い、地雷原の上でタップダンスを踊りながら死地へと続く道を全力疾走する。

 その先に求める永遠があるのなら、躊躇いなどない。

 既にザーボンは死の恐怖すらも超越していた。

 

「ザーボンさん。私は少しここを離れます。後はお任せしますよ」

「わかりました。しかしどちらへ?」

「何、この惑星にいる目障りな有象無象をそろそろ始末しようと思いましてね……。

本当はギニュー特戦隊にやらせるつもりだったのですが、事情が変わりました。

クウラと戦う時になって余計な横槍を入れられては困りますからね。今のうちに皆殺しにしてしまいます。

幸い、貴方がベジータから奪ってくれたスカウターがあるおかげで場所も分かっていますしね」

 

 ザーボンの暴走は一つのイレギュラーを招いていた。

 それは、本来ならばベジータが自分で踏み潰してしまうはずのスカウターが無傷の状態で回収され、フリーザの手に渡ってしまった事だ。

 つまりフリーザはリゼット達の居場所を把握出来るのである。

 更にベジータが付けていたスカウターは最新型であり、数十万の戦闘力ですら感知出来る優れ物であった。

 それでもリゼット達が全力であればスカウターは許容限界を超えて爆散したのだろうが、普段は気を抑えているのが逆に仇となった。

 故に未だスカウターは壊れず、そしてフリーザはリゼット達の居場所を突き止めてしまう。

 

 宇宙の帝王が、ザーボンの暴走により本来よりも早く行動を開始した。

 その向かう先は――地球人達がいる場所だ。

 

 

「神様、これからどうします?」

 

 最長老達を地球へと送り、戻ってきたリゼットへと天津飯が問う。

 戦力は上がった。今生きているナメック星人達も助けた。

 ならば後は戦う以外にないのだろうが、闇雲に突撃をすれば最悪他の陣営からの袋叩きに遭うだろう。

 リゼットはそれらを踏まえてまず最初に慎重策を考えるも、恐らくそれではいずれ耐えられなくなった悟空が暴発するだろうと予想した。

 

「ところで、ドラゴンボールはどうしたんですか?」

「私が創り出した亜空間に保管しています。相手が空間に干渉する能力でも持っていない限り、たとえ私が殺されても奪われる事はありません」

 

 ヘブンズゲートの元となったデッドゾーンは本来、空間移動ではなく『自ら創り出した空間に敵を閉じ込める』技である。

 つまり空間移動だけではなく、空間作成の力でもあったのだ。

 技の錬度を上げたリゼットはその力を以て自分だけが出入り出来る空間を創り、そこにドラゴンボールや、ついでに持ち運びが面倒な私物のいくつかを放り投げた。

 擬似的な四次元ポケットのようなものだ。

 この空間はリゼットが死のうが消える事はなく、彼女が意図的にボールを出さない限り何者も手出しする事が出来ない。

 ついでにこの能力の完成を見たリゼットは地球に戻った際に、神殿に保管していた究極のドラゴンボール4つをこの亜空間へと移動させた。

 3つは精神と時の部屋。4つはリゼットの亜空間。これでますます揃えるのが困難になったわけだ。

 

「そりゃ凄い。つまり少なくともこれで、奴等は絶対に願いを叶える事が出来なくなったわけだ」

 

 ヤムチャが楽観的に笑い、目的の一つが遂げられた事を理解する。

 リゼットの手にボールが一つ渡ったこの現時点をもって、ナメック星で行われているドラゴンボール争奪戦の意味は消えた。

 何をしようが奪えなくなったのだから、もうフリーザ達に願いを叶える目は残っていない。

 

「ここから私達が取れる道は二つあります。

一つは、このまま動かずに彼等をしばらく潰し合わせる慎重策。

もう一つは、こちらから動いて積極的に敵を減らしていく脳筋策……というか策でも何でもありませんね」

 

 今の自分達の戦闘力ならば、どちらでも問題ないとリゼットは考えていた。

 他陣営の袋叩きに遭う危険も勿論あるが、それだってターレスとスラッグを悟空とピッコロに任せ、他の雑兵を天津飯達に任せれば充分いける。要はフリーザとさえ直接ぶつけなければいい。

 そのフリーザでさえ、今の自分ならば勝てる相手なのだからもう恐れる必要はない。

 だがそれはそれとして、勝率は高ければ高いほどいい。

 理想はフリーザ、ターレス、スラッグが潰し合ってフリーザ一人になってくれる事。

 最終的な勝者がフリーザというのは動かないが、ターレス達だって特戦隊くらいは蹴散らせるはずだ。

 もっとも、そんな消極的かつ漁夫の利狙いな策は悟空が嫌うだろう。

 

「オラは断然、2番目だな。相手が減るのを待つってのはオラ、あんま好きじゃねえな」

「同感だ。倒せるパワーがあるのに何を躊躇う。こちらから出向いて叩き潰せばいい」

 

 悟空とピッコロの二人が当然のように脳筋策を選ぶ。

 相手が勝るならば慎重になるくらいの機転はある二人だが、そうでないならば積極的に戦いたがる困った性質も持っていた。

 それに続くように天津飯が拳を握り締める。

 

「やりましょう、神様。今の俺達は強い。

十分蹴散らせますよ」

「天さんがやるなら僕もやる」

「俺の狼牙風風拳で全員纏めて片付けてやりますよ」

「俺もやるぜ。今までコキ使われた恨みを晴らしてえ」

 

 天津飯に追従するように餃子が賛成し、ヤムチャとナッパが自信に溢れた声で続く。

 やはり彼等は武闘家だ。上昇したばかりの力を試したくて仕方がないのだろう。

 クリリンと悟飯、人参化はあまり気乗りしないように見えるが、反対意見は出していない。

 どうやらこれは突撃決定かな、と少しゲンナリするリゼットだが実際に戦略としては悪くない。

 時には勿体ぶって慎重になりすぎるよりも大胆に動いた方がいい事もあるのだ。

 

「わかりました。ではフリーザ以外の陣営を最初に叩き、その後フリーザを……――。

いえ、待って下さい。これは……」

 

 だがやはりリゼットは少し慎重になりすぎていたのだろう。

 いや、この場合に限ってはこれでよかったのかもしれない。

 出遅れた、とも取れるが各陣営からの袋叩きを防ぐ事も出来た、とも言えるのだから。

 リゼットはその顔を僅かに険しくし、気の動きから察知した事を悟空達へと告げる。

 

「どうやら私達は出遅れたようですね……ターレスが移動を開始しました。

それにこの気……ベジータもいますね」

「ほ、本当だ……! 何でターレスとベジータが?」

「奴等はサイヤ人同士だ。別におかしな事じゃあるまい」

 

 リゼットに数秒遅れて気を感知したクリリンが困惑の声をあげ、ピッコロがつまらなそうに推測を口にする。

 実の所リゼットはとっくにベジータとターレスの合流には気が付いていたのだが、そこまで気にはしていなかった。

 それはピッコロの言う通り、打倒フリーザの目的の為ならば手を組んでいてもさほど不思議には思わなかったからだ。

 

「それにフリーザも……目的地は、どうやら此処のようですね」

 

 リゼットの理想はターレス、スラッグ、フリーザが勝手に潰し合う展開である。

 それを考えるとターレスとベジータ、フリーザがこちらへ接近しているこの展開はあまり望ましいものではない。

 しかも悪い事というのはどうも重なるらしい。

 遙か遠方、宇宙の彼方から巨大な気がこのナメック星へと移動している事をリゼットは感知していた。

 しかも更に深く感知――遠視して分かった事実は今のリゼットをして背筋を冷やすものだ。

 フリーザの最終形態によく似たシルエットに、紫と白のカラーリング……間違いない、クウラだ。

 一体何がどうしてこの事態を招いたのかは分からぬが、クウラがこの惑星に接近して来ている。

 しかも……流石にフリーザの兄だ。量産型のポッドとは宇宙船の性能が違うのだろう。

 移動速度が驚くほどに速い。このままでは僅か1時間もせずに到着してしまう。

 

(一体どうしてクウラが……? いえ、むしろクウラが来るからフリーザが自分で動いている?

わからない……けど、何か私の予想していない事態が発生している……)

 

 表面上こそ冷静なままのリゼットだが、その内心は大慌てであった。

 一体何故フリーザが自分で動く? 性格を考えればギニュー特戦隊が来るまで待つはずでは?

 いや、そもそも自分で動くにしたってスカウターがないはずだ。ナメック星人達が全部壊したはずなのに、何故こちらの居場所を把握出来る。

 どうせスカウターがないと踏んであえて気配を消す指示を出さなかったのは過ちだった。完全に気を消したまま動くべきだったと反省するも後の祭りだ。

 勿論こちらの気を感知してベジータくらいならば来るかもしれないと想定していたが、それは別によかった。

 ノコノコと出てきた所を倒せばいいだけの話で、むしろそれを狙ってわざと釣り竿を垂らしていた部分すらある。

 だがフリーザが一緒に行動を起こすなんて予想していない。

 だがそれでも、まだここまでは何とかなった。最悪、自分が全力で全員を蹴散らせばそれで済んだ。

 だがクウラだ。本当に何故こいつがこのタイミングで動く?

 意味が分からない。

 

(何かの作為が働いているとしか思えない……まさかあの魔族達?

それとも別の要因? どちらにせよ、早急に決断を下さないと)

 

 クウラと特戦隊の到着は気の移動速度から見て恐らく1時間以内。

 それまでに何とか他の陣営を無力化する必要がある。

 ここに来る順番は距離と速度からして、まずはターレスとベジータが最初だろう。

 上手くすれば彼等とは共闘も出来るだろうか? 

 フリーザは……仕方ない。こうなったら自分が終わらせてしまおう。

 最初は余裕こいて第一形態や第二形態で来るはずだから、本気を出す間も与えずに消滅させる。

 最早フリーザよりも後で来るクウラをどうするかを考えねばならず、フリーザに手こずっている余裕などない。

 何せクウラは最初からフリーザにとっての最終形態になっている。同じ方法では倒せない強敵なのだ。

 いや、何も戦う必要はないのではないか? クウラの宇宙船がここに来るタイミングでヘブンズゲートを発動し、遠くの宇宙へ飛ばしてしまえばどうだ?

 クウラの速度や宇宙でも生存可能な事を考えると避けられてしまう可能性も大きいがやってみる価値はある。

 

「か、神様! ど、どうします?! もう来ちゃいますよ!」

「ここで迎え撃ちます。まずは先に来るターレスに対処しましょう。

恐らく打倒フリーザの目的は共通のはず……上手くすればフリーザとの戦いでは共闘出来るかもしれません」

 

 まずはターレスを説得する。失敗すれば自分が早急に倒す。

 続いてフリーザも全力を出す間を与えずに消す。

 その後にクウラの宇宙船を遠くへと飛ばす。かなりギリギリだが、これしかない。

 スラッグは最後に倒してしまえばそれでいい。

 そう結論付け、リゼットは到着したターレスとベジータを見上げた。




内なるリゼット「何でクウラ来てるんですかヤダーーー!
あの魔族二人組絶対許しません!」
魔族女「濡れ衣よお……」

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