ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第三話 神との邂逅

 カリン様の下で修行して十年。

 実年齢にして三十路半に到達したところでリゼットは、カリン様から『もうお前に教える事ないよ』と言われて追い出されてしまった。

 格闘どころか仙人が扱う超能力的なものまで得てしまったリゼットに最早カリン様では何も教えられなかったのだ。

 あれからも欠かさず気のコントロールを試していた甲斐もあり、遂に気の感知と操作、更に舞空術をも身に付ける事に成功したリゼットはカリン様から卒業祝いに黒い筋斗雲を貰ったものの邪心不足で乗れず、黄色の雲を貰った。

 リゼットはそこまで心が清らかでないと自覚しているが、普通に乗れたので邪悪でさえなければ乗れるらしい。

 まあよく考えればコラボ作品で海賊のはずのルフィとかも乗っていたし、実は条件が緩いのだろう。

 しかし次の目的地は神様の神殿だったので筋斗雲の出番はなく、リゼットは自力で空を飛んだ。

 筋斗雲涙目である。

 尚、余談だが一年に何度かのペースでちゃんと実家には顔を出している。 

 筋斗雲が手に入ってからは移動も楽になり、実家帰りの頻度が上がった。

 筋斗雲ドヤ顔である。

 

 ならば、と次にリゼットが向かったのは前述の通り神様の住まう神殿だ。

 普段は地球とは別次元に存在していると言われる神殿だが、如意棒でカリン塔と接続している間だけ現世に実体化するらしい。

 もっとも、実体化しているといっても飛行機などで入る事は出来ない。

 如意棒を伝った移動以外は全てバリアによって弾かれてしまうのだ。

 幸いにして如意棒はまだカリン様の手元にあり(亀仙人が貰う前だったようだ)、リゼットは無事に神殿へと行く事が出来た。

 

 さて、神様の下へ行ったリゼットだが実の所彼に弟子入りする気は微塵もなかった。

 だってもう気の操作出来るし。

 だから神様に頼む事は一つ。『重い服下さい』ただこれだけであった。

 

 一方の神様はといえば、こちらも実の所大混乱であった。

 何せ神に就任して以来、初めて下界の人間が来たと思えば言う事がそれである。

 しかもその人間、よく見れば初めてドラゴンボールを使用して願いを叶えた不老少女だ。

 というか現状、彼女以外にドラゴンボールを集めて願いを叶えた者がいない。

 まあ、神としては悪しき人間が願いを叶えさえしなければそれでいいのだが、問題は彼女がここに来た理由であった。

 

「……重い服? それだけかね?」

「はい、それだけです」

 

 この娘、神殿を服屋と勘違いしとりゃせんだろうか。

 というかそんなの下界で用意しろ。わざわざここまで来るな。

 馬鹿なのだろうか? というか馬鹿なのだろう。

 服貰う為に神様に謁見とか無礼にも程がある。神罰下すぞこら。

 いや、下さないけど。

 

「修行を付けてやってもいいのだぞ?」

「大丈夫、気の操作は覚えましたから。後は伸ばしていくだけです」

 

 何か独学で気の操作をマスターしていた。何この娘凄い。

 天才じゃったか。

 やはり天才か……。

 大した奴だ……。

 というか明らかに最初から気の操作という概念を理解している。どういう事だってばよ。

 何はともあれカリンが認めた証の鈴もあるし、折角の来客だ。手ぶらで帰すわけにもいくまい。

 

「服……服か。わかった、特別に力作をプレゼントしてやろう」

 

 弟子入りもしないというなら、せめてこちらに本気を出すしかない。

 神様だって出番が欲しいのである。

 まず彼女の容姿を見る。

 白金の髪の毛に透き通るような白い肌。宝石のような瞳。

 驚く程に白で統一されたその姿は神聖さすら感じさせ、まるで妖精か天使を思わせる。

 ならば衣装もそれに準じたものがいいだろう。

 なるべく彼女のイメージを崩さず、かつ見栄えをよく。

 

 現在の服装は――言ってしまえば貧相そのもの。

 別に汚くはないのだが、何というか村娘そのままといった出で立ちだ。

 どうせならもっと美麗に。彼女の持つ神聖さを強調する服装にしてやろう。

 何せ史上初めてドラゴンボールを使い、神様と相まみえた人間だ。そのくらい特別な方がいい。

 

「よし、これなどどうだ。サービスで自動修復機能も付けてやる」

 

 リゼットの服装が一瞬で変わる。

 それはケープのかかった、純白のゆったりしたヒラヒラのドレスだった。

 スカートはフワリと広がり、彼女本来の白い容姿と相まって清廉さを感じさせる。

 靴は有名な童話になぞらえてガラスの靴。サイズもピッタリ合わせ、履き心地も悪くないはずだ。

 ついでに固い。宇宙最硬のカッチン鉱とまでは流石にいかないが、地球最硬の物質である天命石にも匹敵する硬さだ。

 頭には天使の羽根を模した髪飾りを付け、彼女の妖精染みた神聖さを引き立てる。そして肘から先には白の長手袋。

 初見でこれを見れば神の遣いか天女と見紛う者も出るだろう。

 無論優雅なだけでなく重い。ケープと靴、手袋を合わせて200㎏は下らないはずだ。

 

「……あの、ヒラヒラしてて凄い動きにくいんですが」

「それも修行だ」

 

 無論嘘だ。神様だって嘘くらい吐く。

 実際のところは服一つ貰うためだけにここまでやって来た彼女への嫌がらせが8割といったところだ。

 リゼットは納得がいかないのか、頬を膨らませてしばらく服と格闘していたが、やがて諦めたらしく肩を落とした。

 

「あの、神様……これではいざという時に重装備を外せません」

「安心せよ。ケープは簡単に取れるようになっておる」

 

 神様に言われ、気付いたようにリゼットがケープを外す。

 なるほど、本気で戦う時はケープと靴と手袋だけ取ればいいわけだ。

 そう思ったが、直後にリゼットは顔を赤くして悲鳴をあげた。

 

「これケープ取ったら肩露出するじゃないですかヤダー!」

「ふっふっふ」

 

 神様流の嫌がらせ炸裂である。

 人間よ、神を侮辱した罪を知るといい。

 別にリゼットとしては侮辱したつもりはないのだが、神様にしてみれば神に就任して以来初の来客で気合入れて威厳たっぷりに出迎えて『よくぞ来た。褒美に神の修練を受ける権利を授けよう』とかドヤ顔で言ったら『そういうのいいんで、服だけ下さい』である。

 これはいくら何でも怒る。というかヘコむ。

 わし神様よ? 偉いのよ? 凄いのよ?

 なのに服屋の代わりでそれ以外用はないとかチト酷すぎませんかね。

 気合入れたわしの高揚返せ。

 何ともせせこましく、茶目っ気に溢れた小さい仕返しであった。

 まあ、神様を(本人に自覚がないとはいえ)侮辱してこの程度なのだからむしろ寛大さに感心するべきなのかもしれない。

 善良なナメック星人は相手が悪人でない限り、基本的には本気で怒ったりしないのだ。

 

 

 神様に嫌がらせをされて更に幾年、幾十年もの年月が経過した。

 親が天寿を全うして他界してからは実家に帰る事もなくなり、リゼットは世界各地を転々としながら時に悪人を懲らしめたり、時に犯罪組織を潰したり、時に虐げられている民を救ったりしていた。

 例を挙げるならばグルメス王国の暴君であるグルメス大王を懲らしめてみたり、太陽を破壊しようというとんでもない計画を立てていた魔族を纏めて叩きのめしたり、といったところだ。

 勿論それらは善意からの行動というよりは、単に戦いを求めての行動である事は言うまでもない。

 単にぶちのめしても問題なさそうな悪人に積極的に喧嘩を売って実戦経験を稼いだだけであり、少なくとも無償の人助けとはほど遠い行動であった。

 しかし結果として、彼女の後ろにはいつだって弱者がいた。虐げられている民がいた。

 助けられた側が彼女の本音を知るわけもなく、その神秘的な容貌と相まっていつしかリゼットは御伽噺に語られる天女の如き扱いを受ける羽目となった。

 『龍天女』……だったか。

 史上初めてドラゴンボールを集めて願いを叶え、雲のマシンに乗り、神にも認められた存在。

 弱き人々を救う見目麗しき少女。

 無論本人はそんなイメージとは程遠い存在であり、龍天女などという恥ずかしい名前で呼ばれるようになっていた、と知った時は赤面して奇声をあげながら転げ回った。

 

 天女扱いされた最大の要因は恐らく、リゼット自らが編み出したパクリ……もといオリジナル技のせいだろう。

 気の操作を極めていくにつれ、リゼットは一つの考えに行き付く。

 それは『自分で技作れるんじゃね?』というものだ。

 亀仙人のかめはめ波だって元を辿れば彼のオリジナルであり、それ以外にも類似技は沢山ある。

 どんな凄い技だって最初はオリジナルだ。

 ならば自分にだって出来ない道理もあるまいと考えての事だ。

 そこで何を血迷ったか、リゼットが挑戦したのは気功波系ではなく、界王拳のようなドーピング系だった。

 体内の気を爆発させ、平常時を遥かに超える出力を生み出す。

 これが出来れば超サイヤ人にだって追いすがれるはずだ。

 

 そんな無謀とも思える試みはしかし、何故か成功した。

 

 運がよかったとしか言えない。

 奇跡的に相性が噛み合い、奇跡的に思い付いた気の動かし方が正解だった。

 だが所詮は真似事。エセ物のパチ物だ。

 望んだ通りの効果は得られたものの、その技は明らかに界王拳ではなかった。

 炎のように燃えるあの外見とはまるで異なり、雪のように白い輝きが粒子として溢れる。

 全身が白く、それでいて静かに発光し、まるで雪が舞い散るように白い気が全身から溢れるのだ。

 例えるならば初進化したエンジェモン。何かキラキラした光をずっと出し続けていたあれだ。

 無意味なまでに神々しい。だから私そういうキャラじゃないって。

 正直界王拳の方が格好いいので何度もああならないかと試行錯誤したが、試せば試すほど何故か神々しくなり、グロー効果までかかってしまった所で遂に諦めた。リゼットは泣いた。

 

 しかし見た目はともかく、効果としては完成に近い。

 使えば力やスピード、気の出力など全てが倍になるし、なによりこれは修行に適している。

 全身の気を最大限解放して身体に負担をかけ、疲労困憊になってから休む。

 まるでハンターハンターの修行のようだが、これを繰り返す事で確かに気が増えているのをリゼットは実感した。

 この世界の人類の肉体というのはどうも、苛めれば苛めるほどに反発して強くなるらしい。

 でなければ重力修行とか出来ないと解ってはいたが、効率が凄まじい。

 だからリゼットは可能な限りこの技を使い、どうでもいい悪党相手でも使用して圧倒した。

 それが災いしてしまったのだろう。

 

 追い立てられ、虐げられ、救いを求める人々の前に文字通り舞い降りる白い少女。

 純白のケープドレスを纏い、白い輝きに包まれ、無償で救いの手を差し伸べて微笑み、そして去って行く。

 なるほど、まるで童話だ。

 単に強くなりたいだけ、という彼女の本質と目的を知らなければ救いの天女だ。

 百年ほどそうして、ようやく鈍間で間抜けな本人が気付いた時にはもう手遅れ。なんか崇拝してる連中が山ほどいるし、変な宗教も出来上がっていた。

 しかも本人そっちのけで宗教戦争までしてた。天女様のパンツは白だのピンクだのと死ぬほどどうでもいい争いに何故か命まで懸けて全霊で戦争していた。千人単位の軍隊を結成して戦車まで引っ張り出してガチバトルしてた。

 何あれ怖い。

 自分を模した像が神殿に普通に突っ立っていた時は目を疑ったものだ。

 これに対し、元凶ともなった服を贈った神様はこう言った。

 

『久しぶりに爆笑した』

 

 リゼットは無言で神様を殴った。




※ちなみに宗教戦争時はギャグ補正が全力で仕事をしていたので実際には死者は出なかった模様。
アラレちゃんのようなポップな絵柄になり、戦車が爆破されても中の人は黒焦げになるだけで普通に這い出して来る。
ギャグ時空である初期DBだから出来る事。

ちなみにドロワーズなので両軍不正解。

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