ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
「まずは掃除だ。さっさと消してやろう、雑魚共」
クウラが手に気を集約させ、リゼット達へと向ける。
そこには遊びも、雑魚を甚振ろうという加虐心もない。
弟とは決定的に異なる氷の如き無慈悲さ。それがクウラにはあった。
やはりこの男を放置していたらあっという間に悟空達が皆殺しにされる。
そう確信したリゼットは、己がまず倒すべき相手をフリーザではなくクウラと決めた。
フリーザは多少なりとも遊ぶ傾向がある。強いからこそ相手を嬲り者にし、必死の抵抗を楽しもうとする。だがクウラにそれはないのだ。
少なくともこの場面で真に怖いのはフリーザではなくクウラだ。
リゼットは無動作の気合砲をクウラへと叩き込み、その身体を弾き飛ばした。
「ピッコロ、私は
「ちっ……簡単に言いやがる」
リゼットは翼を出して飛翔し、吹き飛んで行くクウラを追う。
空中でクウラもすぐに体勢を立て直すが、そこを狙い澄まして第二撃。腹に手刀を叩き込み、反撃の拳を紙一重で避けて顔面に掌底。
更に突き出されたままのクウラの腕を左手で掴み、右手で突き上げるように肘関節を叩く。
メキ、という音が聞こえるも流石に一発では砕けない。だがミラほどの異常な強度でもなさそうだ。
掴んだ左腕を捻り、大きく弧を描いて地面へ投げ、超能力と気合砲を追撃で上乗せ。地面へ向けてクウラを『発射』した。
「ぐうっ……こ、こいつ!?」
「
堕ちるクウラを追いながら気の固形化により、槍を持った戦乙女を5人創造。
空中で何とか止まったクウラへとけしかけ、四方を囲ませる。
当然クウラはこれに応戦して戦乙女達を殴るが――その瞬間に爆発。触れれば爆発する初見殺しは知識がない限りほぼ確実に引っかかる。
爆発によりよろめいたクウラへと気のリングを発射して拘束し、更にリゼットは攻撃を続ける。
ガラ空きの腹へと蹴りを叩き込み、超能力+気合砲の合わせ技でまた吹き飛ばす。
海を割り、水平線の彼方へと飛んだクウラを追いゲートを展開。亜空間を通過し、一瞬でクウラよりも先へと移動。剣を生成し、飛んで来たクウラの背へとバットのように叩き込んだ。
(斬れ――ない!?)
間違いなく切断だと思ったのだが、クウラは命中の瞬間に身体を何とか逸らして直撃を避けたらしい。
薙ぎ払った気の刃はクウラの後頭部と背中の皮を僅かに削り、尾を切断するだけで留まってしまった。
だがリゼットは空振りの勢いをあえて殺さずに回転。遠心力を上乗せし、自分を追い越して行ってしまったクウラへと剣を投擲した。
ここにきてようやくリングを力ずくで振りほどいたクウラだが、直後に飛んで来た剣に脇腹を貫かれて吐血する。
背中を削られ、尾を切断され、脇腹を串刺しにされる。きっと今までに味わった事のない痛みだろう。
その痛みと混乱から立ち直る間も与えてなるものかとリゼットが手を翳し、亜空間を開く。
そして連続で亜空間へ向けて気功波を発射。それと同時にクウラの横に開いたゲートから気功波が放たれ、クウラを吹き飛ばした。
一発で終わりではない。吹き飛んだ先にもゲートが開いてまたしても気功波でクウラを吹き飛ばす。
その先にも更にゲートが開いて気功波が放たれ、その先にも更に――。
まるでパチンコ玉のようにクウラの身体が次から次へと吹き飛ばされ、体勢を立て直す事を許さない。
やっとクウラが攻撃に慣れたところで、今度は彼を囲むように一斉に複数のゲートが展開され、そこから一斉に気功波が解き放たれた。
避ける事も出来ないクウラは亀のように丸まり、ただ耐えるしかない。
爆炎が彼を包み込み、その体を焼き焦がす。
やがて攻撃が終わったと思えばすぐに次の攻撃が始まり、何時の間にか接近してきたリゼットのしなやかな手がガードの隙間を掻い潜ってクウラの顎へ掌底をブチ当てた。
頭を守れば腹! 腹を守れば頭! 反撃すればカウンター!
『武』の錬度の差により、面白いようにクウラの防御を抜いてリゼットの攻撃が入る。
それでもクウラが亀のように丸まって防御に徹すれば、手を鞭のようにしならせたビンタが腕を叩いた。
「~~~ッッ!!?」
驚くべきは、その
まるで皮膚を削られたと思うような耐え難い、痛覚神経を直接刺激したような痛みがクウラを襲う。
鞭打ちの拷問というものがあるが、その拷問の痛みは想像を絶するという。
大の大人でも泣き叫び、場合によっては痛みのあまりショック死も引き起こしかねない。
リゼットは極限まで脱力した状態から放つ鞭の如きその掌打を以て鞭の痛みを再現し、クウラへと与えたのだ。
当然彼がそんな痛みを経験した事などあるはずもなく、思わずガードを開いてしまったとて誰が責められるだろう。
だがガードを開けばそれは攻撃のチャンスに他ならず、リゼットは指先に気を集中させるとクウラの臍部へと遠慮なく指を突き刺した。
「――ッ!?」
クウラが怯み、腹を守る。
すると待ってましたとばかりに耳に指を突き刺し、血に塗れた指先を引き抜いた。
「ガァ、アアアアアアア!!」
クウラが叫びながら、闇雲に拳を繰り出す。
だがリゼットは冷静にその全てにカウンターを返した。
一打目――真っ直ぐ突き出された右拳を避け、クウラの顔に掌底を放つ。
二打目――やや上の方へ突き出された左拳を、姿勢を低くする事で避けて腹に手刀を見舞う。
三打目――振り降ろすように飛んで来た右拳に合わせて起き上がるように腕を振り上げる。交差しつつ回避し、顎に掌をめり込ませた。
四打目――避けるまでもない。見当違いの方向へ放たれた左拳を無視し、更にクウラの頬を張った。
五打目――体勢を崩しながらの右のフック。少し身体をずらして胸の前を素通りさせて丁度いい位置に来た所で関節に手刀を叩き込み、関節を砕いた。
六打目――体勢を何とか直しながらの大振りなテレフォンパンチ。軽く掻い潜り、胸に零距離で掌底を放つ。胸骨が折れる音がした。
七打目――腕が動かないから今度は蹴り。軽く跳躍して避け、首筋に手刀を叩き込む。
八打目――来ない。首を打たれた事で咳き込んでいるクウラへと遠慮なく攻撃させてもらう。
打つ、打つ、打つ、打つ――!
鞭のように手をしならせて少女の細い腕が次々とクウラの身体を打ちのめす。
頬を張って左へ! 左へ飛んだ所をすかさず狙い打って今度は右へ!
腹が開けば腹! 屈めば顎! 頭!
頭部の守りがガラ空きになった瞬間を狙って気の刃を纏った指を薙ぎ、クウラの右眼球を切り裂く。
様々な武を学んだからこそ、接近戦において発揮されるリゼットのえげつなさ。
それを全身で体感しながらクウラは混乱していた。
何だこれは、何が起こっている? 俺はやられているのか?
いや、やられているどころではない……
的確に、確実に、そして丁寧に。この女はあろう事かこのクウラを、完膚なきまでに
何だこの女。外見は弱そうなヒューマンタイプの女だというのに、攻撃が今まで味わった事がないほどに容赦ない。
やばい、この距離は危険だ。離れないと……。
(……逃げる? 俺は今、逃げようとしたのか?)
全身を打ちのめされながらクウラは考えた。
今自分は何を思った? どうしようとした?
危ないから離れようと、そう思ったのか?
――この宇宙最強たるクウラがか!?
(……ざけるな……)
「ふざけるなァァァァァーーー!!!」
「ッ!?」
クウラの全身が発光した。
身体が膨張し、頭部の形が変わる。
眼は真紅に輝き、切断されたはずの尾と裂かれたはずの眼球までが再生した。
リゼットは咄嗟に距離を取り、剣を生成してクウラの首筋へと放つ。
だが通らない。クウラの全身を覆う気が刃を弾いてしまった。
いくら剣の形にしようと気は気。ならばより巨大な気とぶつかれば消えてしまう道理だ。
そうしている間にもクウラの変化は続き、口元のマスクを除いて変身は完了した。
「よくも……よくもこのクウラ様をここまでコケにしてくれたな、女。貴様ただで死ねると思うなよ!」
「変身、ですか……こうなる前に勝負を付けてしまいたかったのですが、難しいものですね……」
リゼットは指先で汗を拭い、クウラと己の実力差を冷静に分析する。
身体に負担のかかるバーストリミットの40倍を使うと仮定しても、相手の戦力はそれの約2倍。いや、ギリギリで2倍はないか? という程の差だ。
絶望的、とまでは言わない。引っくり返す事はまだ可能なレベルだ。
かつて悟空とピッコロが戦闘力にして3倍の開きがあるラディッツを倒した事を思えばそこまで無理な差でもない。
問題は時間だ。いかにリゼットでも40倍は負担が大きい。
そんなに長時間は続けられないのだ。
勝ち筋があるとすれば大きく分けて三つ。
一つ。斬撃系の気弾を高速回転させて――要するに気円斬を首に命中させる。
それもただの斬撃気弾では駄目だ。先ほどの剣のようにかき消されてしまう。
やるなら気をギリギリまで込めた最大出力でないと、あの首は取れない。
二つ。ここぞというタイミングで一瞬のみバーストリミットを80倍まで跳ね上げて一気に消し去る。
だがこれをやると間違いなくリゼットは動けなくなる。
今でさえバーストリミットの錬度と身体の自己治癒力により限界以上の出力を出している状態なのだ。流石にこれ以上の無理をすればいくらリゼットの自己治癒力でもすぐには動けないだけのダメージを負ってしまう。
フリーザがまだいる以上、出来ればこれは避けたい。
三つ。ヘブンズゲートで遙か遠くの宙域へと放逐してしまう。
いかにクウラが宇宙でも生存出来るといえど身体一つで付近に何もない暗黒の宇宙空間へ放り出されてしまえば上下左右もわからなくなり、まず帰還してくる可能性はないだろう。
いや、いっそ太陽に送ってやるのもありだろうか?
問題は、どうやってアレをゲートへ放り込むかだ。
まあ、どれを選ぶかは戦いながら考えるとしよう。
「さあ――始めようか!」
クウラが再戦を宣言し、口元をマスクが覆い隠した。
それと同時に彼の巨躯が一瞬にしてリゼットの眼前に広がる。
(――速い!?)
クウラが急接近し、拳を繰り出す。
流石に速いが、それでもリゼットならばかろうじて反応出来る速度だ。
リゼットの両腕を合わせたよりも太い腕を避け、相手の速度に合わせた掌底を顔に放つ。
だがクウラに効いた様子はなく、すぐに第二撃が放たれる。
それも避けてカウンターを取るも、すぐに次撃!
避ける、当てる、避ける、当てる、避ける、当てる……。
次々と繰り出されるクウラの攻撃を的確にいなし、リゼットの攻撃だけが一方的に当たる。
これだけならば先ほどまでの焼き直しだが、決定的に違うのはリゼットの表情に余裕がない事だった。
クウラの攻撃の一撃一撃、その悉くが重く、速い。
カウンターは取れている。恐らくダメージも入っている。
だがどれも先ほどのように体勢を崩すダメージにはならず、平然と撃ち返してくるのだ。
痛みがないわけではないだろうが……失敗した。先ほどに散々叩きのめして痛みに慣れさせすぎた。
加えて今のクウラには烈火の如き憤怒がある。多少の痛みなど最早無いに等しいのだろう。
避けて当てて、避けて当てて……その繰り返しを二十は経ただろうか。
リゼットの集中力がまさに途切れるか否かのタイミングで、クウラの尻尾が彼女の足を払った。
「しまっ……!?」
「もらったァ!」
クウラの豪腕が遂にリゼットを捉える。
咄嗟に自ら後ろへ飛んでダメージを最小限に抑えるも、ダメージは大きい。
少女の華奢な身体は弾かれたように吹き飛び、いくつかの岩に激突して砕き、尚も止まらない。
ようやく地面に墜落した時、リゼットは満足に動く事も出来なかった。
まるで麻痺したように指先が痺れ、身体がバラバラになったかのような痛みが腹部を中心に全身へ駆け巡る。
「かっ……はァ……! あ、あぁ……く、ぁ……!」
このままでは不味い!
痛みに支配されながらもかろうじてそれだけを考えたリゼットは自らの後ろにゲートを開いて落ちるようにその中へと飛び込んだ。
とりあえず回復するまでのエスケープだ。
10kmほど離れた位置にあった洞窟へと移動し、気を0に落とす。
尚、この洞窟は以前にフリーザをやり過ごしたあの洞窟だ。どんな場所でも記憶しておくものである。
クウラの気はリゼットが先ほどまで倒れていた位置に到着し、ウロウロしている。
遠視で視ると、周囲一体を気弾で消し飛ばしていた。
危ない……あのままあそこにいたら仕留められていた。
(い、いきなりいいのを貰っちゃいましたね……それにしても私、打たれ弱いんでしょうか?
悟空君とか、劇場版で戦闘力が倍どころじゃない相手にボコボコにされても戦闘継続してるのに、まさか一発でこれとは……)
戦闘力倍くらいのパンチならば数発程度は何とかなると踏んでいたが、まさか一発でこれとは思わなかった、とリゼットは自嘲する。
やはり不老になろうとあらゆる環境に対応しようとベースが地球人。打たれ強さが違うという事か。
よく考えたら天津飯も戦闘力が倍とちょっと上程度のナッパの攻撃で腕がもげたり、ピッコロもナッパの一撃で気絶したりしていた。
こう考えるとやはりサイヤ人が異常に打たれ強いのだろう。
(とにかく、相手の攻撃には当たらないようにしないと……。
さて、第3ラウンドを始めましょうか)
リゼットは靴を脱ぎ、長手袋も外す。最後にケープを脱ぎ、今まで一度として外した事のない重装備を外した。
このドレスはケープを取ると肩が露出してしまうデザインなので今まで取らなかったのだが、恥ずかしがってヤダーとか言っている場合でもない。
ゲートを開き、クウラの背後へと転移する。
まだ自分を探しているらしい彼に、なるべくダメージを感じさせない声で己の健在を示した。
「こっちですよ!」
「!」
言うと同時に気弾を放つ。
クウラの背で爆炎が上がり、再びこの惑星における頂上の戦いが始まった。
リゼット「私、紙防御じゃないですかヤダー!」
【悲報】リゼット、260年生きてきて初めて自分が紙防御であることを知る。
リゼットの脆さは、自分の倍くらいの戦闘力の相手に殴られると一発でHPが赤バーになるくらいです。
互角の相手でも10も受ければグロッキーになります。
なので劇場版の悟空みたいに格上にボコボコ殴られると、確実に死にます。
ちなみに『とくぼう』は高いので超能力や魔法などの特殊攻撃には耐性がありますが、DB世界でとくぼうが高くても……。