ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
過程が長くなるから、まずは結論を先に語ろう。
悟空はあの後無事にフリーザを倒し、ナメック星を脱出した。
フリーザも思ったよりは頑張っていたのだが、何せ戦闘力に差がある上にフリーザの100%はすぐにパワーダウンを始めてしまう。
彼が惑星を壊そうとしてから実際に壊れるまでが5分なわけだが、100%になった時は残り3分程度にまでなっていた。
そして残り1分程度の所でピークを過ぎてパワーが落ちる。つまりフルパワー持続時間は驚きの2分である。
短い、短すぎる。ウルトラマンだってもう少し頑張るというのに、これはどうした事だ。
リゼットの記憶ではフリーザのフルパワーは結構長い時間続くイメージがあったのだが、それは原作に追いつかないように薄く薄く引き伸ばされて、『残り5分』を数話に渡って放映したアニメのせいだ。
実際に経験してみればまさにあっという間であり、遠視で悟空とフリーザの戦いを見守っていたリゼットはフリーザのパワーダウンのあまりの早さに『体力少なっ!?』と呟いてしまったレベルである。
100%になるまでの時間が無駄に長くて隙だらけ。その上やっと100%になっても持続時間2分でそれを過ぎれば弱体化。
なるほど、フリーザが100%になりたがらないわけだ。これならずっと70%くらいで戦っていた方がマシである。
その後悟空はフリーザの宇宙船に乗って脱出しようとしたのだが、ここで一悶着が起きた。
何と悟空が乗る前にフリーザの宇宙船が勝手に飛び立ってしまい、悟空を置いて脱出してくれやがったのだ。
一体何事かとリゼットが遠視してみれば、船内には何故かまだ生きているザーボンが搭乗しており、宇宙船を操作していた。本当に何でこいつまだ生きてるんだろうか。
ともかく悟空はフリーザの宇宙船に乗れなくなってしまい、リゼットは念話で悟空をギニュー特戦隊のポッドへと誘導した。
本当はリゼットならば悟空をヘブンズゲートで回収する事も可能だったのだが、あえてそれはしなかった。
というのも、悟空には是非ヤードラット星へ行って瞬間移動を会得して欲しいからだ。
悟空の瞬間移動は今後、大局をも左右する重要な能力となる。
取り逃しで地球滅亡とか、そんなアホな展開だけは御免だ。
とはいえ、本来の流れと違う点はある。
本来の流れでは悟空は瞬間移動を会得するまでは地球へと戻ってこれないが、この世界にはリゼットがいる。
つまり彼女がヤードラット星と地球を往復する事で悟空は簡単に地球に帰還する事が可能となり、家族と過ごしながら瞬間移動の修行の時だけヤードラット星に行く、という事が可能となったのだ。
ついでにリゼットも修行を見学して、瞬間移動を習得しておいた。
フリーザとの戦いは終わった。
いや、正確に言えば終わりではない。1年と260日経てばサイボーグになって再び元気な姿を見せてくれるだろう。
しかしその点に関しては、ハッキリ言ってリゼットは全く気にしていなかった。
どうせトランクスの噛ませ犬になって終わるだろうし、そうでないとしても最早敵ではない。
サイボーグフリーザの戦闘力は1億5千万と聞いた事があるが、何て事はない。要するに変身していないクウラと同じだ。
問題はその3年後。人造人間の登場である。
時間にして約5年後に次の戦いが始まるわけであり、そして場合によってはここで詰む。
少なくとも『絶望の未来』ではそうなってしまっており――そして、この世界線が『絶望の未来』の世界線でないという保証はどこにもないのだ。
だから、“そうだった時”の事を踏まえて対処を考える必要がリゼットにはあった。
まずリゼットが真っ先に思い付いたのは、当然ながらゲロの捕獲ないしは抹殺である。
ここが絶望の未来でなければいいのだ。
17号、18号、そして16号はそこまで悪い連中ではないし、むしろ彼らの出現に呼応して悟空達が強くなるのだから、これを排除してしまうのは危険ですらあった。
もしリゼットが人造人間の登場そのものを阻止してしまった場合、悟空達の強さが伸びずにバビディの襲来に対応出来なくなってしまう恐れすらある。
先にゲロを始末してセルも始末して……悟空達が今の強さのまま、バビディとダーブラが来たならば……その未来を想像すると、背筋が冷えた。
薄氷の上で成り立っているような危ういバランスではあるが、強敵の存在は戦士達を高みに押し上げるための試練にもなっている。
実際、目指すべき高みがある時とそうでない時の伸び方の差は明らかだ。
かつて天下一武道会が終わってからラディッツ襲来までの5年間は、悟空を始めとして他の戦士達もほとんど強さが変わらなかった。
しかしいざ強敵の存在を示唆されるや、たったの1年間で数倍もの強さになってしまったのを忘れてはいけない。
それは心の余裕の差が生むのだろうか。それとも戦士としての本能故なのだろうか。
詳しい原理は分からないが、ともかく強敵がいる事によって悟空達は強くなれる。
しかしここが『絶望の未来』ならば、そんな悠長な事を言ってられない。
だからその時は、ゲロを消そう。
研究所を吹き飛ばし、17号と18号の出現そのものを阻止するしかない。
だがそれは出来れば避けたい事だ。
先が全く分からなくなるし、後に現れる敵を思えば不安しかない。
だからそうならない為にも、まずは悟空を生存させる。
フリーザ親子襲来の日にトランクスが来ればそれでよし。彼から心臓病の特効薬を貰えばいい。
もし来なければ、ドラゴンボールを使ってでも悟空を死なせない。
そしてもう一つするべき事はリゼット自身の更なる強化であった。
ここから先は超サイヤ人のバーゲンセールだ。超サイヤ人と超ナメック星人以外は戦線から置いていかれる。
だがリゼットはそんな位置に甘んじるつもりなどなかった。あくまで喰らい付き、可能ならば引き離すつもりでいた。
これでも地球の神なのだ。異星人ばかりに星の守りを任せて自分は何もしないで見守るなんて、そんな恥ずかしい真似はしたくない。
押し付けられたに等しい地位ではあるが、それでもやるからには徹底する。
この惑星を砕くならば、まず己を超えてみせろと敵に言い放ってやりたい。越えられない壁になってやりたい。
だからリゼットはフリーザとの戦いが終わった次の日から修行に明け暮れた。
まずは今まで通りの修行。服の重量を更に増し、気霊錠を常時付け、バーストリミットを常に発動し、重力室に篭った。
気の固形化で空想の対戦者を創り出し、あえて自らの気を抑えて戦う事で対格上の状況を作り出し、経験を重ねた。
ナメック星でのクウラとの戦闘はまさに僥倖であった。
あれがあったからこそ自らの打たれ弱さに気付けたし、格上の恐ろしさとタフさを思い知った。
リゼットは日々、気の固定により創り出したクウラを相手に限りなく実戦に近い模擬戦を繰り広げ、妥協のない訓練は時に彼女自身に深手をも負わせた。
勿論仮想敵はクウラだけではない。今までに見た戦いの記憶を総動員する事により、出会った全ての戦士を再現して模擬戦に努めた。
まさか悟空も予想すまい……自分が10人に増えて、何の遠慮もなくリゼットを袋叩きにしているなど。
リゼットの創り出した仮想悟空はその動きをほぼ忠実に再現されているが、甘さだけはあえて再現されなかったのだ。
他にもベジータ、ピッコロ、フリーザ、ターレス、クリリン、天津飯などを再現して、かつ強さだけはあえて己より上と設定して苦行の如き修行に励んだ。
地球人の基礎スペックはサイヤ人やナメック星人に劣る。
その上で彼等に並び、前を往こうと言うのだ。
ならば相応の修行が必要になるのは必然。拷問染みた苦行を己に課した先にこそ彼等の前に立って戦うという未来が開ける。
その為の痛みならば、彼女はあえて受け入れたのだ。
「ふッ!」
リゼットの為だけに新設された修練場の中で白い少女が舞う。
ケープドレスはそのままに、しかし全身には無数の傷と痣が刻まれていた。
少女を取り囲み拳を振るうのは4人の戦士。いずれも今のリゼットの倍近い気と強度を持たされている。
勿論リゼットがその気になれば容易く消し飛ぶ相手である。自分が創り出した気より自分が弱いなんて事は有り得ない。
だがリゼットはあえて気を抑えている。故に今だけはこの仮想敵の力はリゼット本人を凌駕していた。
『だありゃああ!』
髪を逆立てた、普段とは雰囲気の異なる悟空が突進する。
これは超サイヤ人を仮定して創り出された仮想敵であり、他の仮想敵よりもワンランク上の強さを持たされている。
彼が放った蹴りをスレスレで回避して脚を獲り、そのまま関節を極めて投げる、
そして彼自身の攻撃の勢いをも利用して、独力だけではビクともしないだろう脚をへし折った。
いかにサイヤ人だろうが身体の基本的な構造は地球人とそう変わらない。つまり関節技は効く。
だが投げた直後に背中が爆ぜ、顔から地面に倒れ込んだ。
すぐに地に手を突いて倒立し、追い討ちの踏み付けをかろうじて避ける。
踏み付けを行ってきたのは、頭部がMの字に禿げたサイヤ人――ベジータだ。
彼はリゼットが距離を取ったのを見るや、凄まじい勢いで気弾を連射し始める。
俗に言う王子戦法だ。彼は何かというとすぐに気弾を連射してきて困る。
だが気弾に対抗する技も最近完成した。
ドラゴンボールではある意味お馴染みの防御であるそれは、バリアだ。
超能力によって己の周囲の全てを遠ざける念動力の場を作り、更にその上からベジットやブロリーでも出来る気のバリアを展開。
この二重の防御壁により、仮想ベジータの気弾をほぼ防ぎ切っていた。
だがそうして防いでいると、今度は3人目の男が気弾の中を突っ切って蹴りを繰り出してきた。
その姿は現状でリゼットが知る限りの最強の敵、クウラだ。
彼の蹴りがリゼットの真中を捉え、宙へ蹴りあげる。
だがリゼットは極限の脱力を以てあえて威力に逆らわずに衝撃を流し、フワリと浮いた。
打たれ弱いのは理解している。だからこそ、それを補う防御が必要だった。
その発想の元到達した答え――打たれ弱いからこそ、あえての脱力!
インパクトの瞬間に身体から力を完全に抜き、防御は気と超能力のバリアのみに任せる。
どうせ自分自身がいくら力んでも防御力はそう変わらない。
それよりも力を抜く事で、激流を制する静水のように……あるいは宙を舞う羽毛のように衝撃を殺し、ダメージを抑えるという答えに至ったのだ。
だが敵は3人ではない。もう一人いる。
『キネクト!』
4人目の敵――それは他ならぬリゼット自身を模した仮想リゼットであった。
それが複数の気弾を自在に操り、リゼットを包囲した。
あえて己自身を敵にする事で、敵視点でしか見えない動きの粗や隙を見付けることが出来るのだが……流石にリゼットのコピーだ。技がどれもえげつない。
『そこ!』
偽リゼットは、まるでリゼットの動きが読めているかのように気功波を発射した。
爆煙が上がり、バリアの上からリゼットにダメージを与える。
小柄な身体が壁に叩き付けられ、少女の顔が苦悶に歪んだ。
続けて両手に剣を装備した偽リゼットが急接近してきた。
一刀目を跳躍して避け、二刀目を空中で回転して避ける。
背後から飛んで来たベジータの拳を避け、腕を獲って投げた。
狙いは同士打ち! しかし偽リゼットは気弾でベジータを破砕し、何事もなかったかのように攻撃を続行する。
『落ちなさい!』
「っ……」
放たれた気弾を避ける。
しかしその隙を突いてクウラがリゼットの背を蹴り、地面へと押し付けた。
こうなると脱力も何もない。床や壁に押し付けられてしまえば効果を失うのがこの防御法の欠点だ。
何とか脱出しようとするもパワーは向こうが上だ。
二度、三度、四度とクウラの足がリゼットを踏み躙り、ダメージばかりが増していった。
そこに畳みかけるように悟空がかめはめ波の構えを取り、偽リゼットが腕を頭上で交差させる。
残念ながら、完全に詰みだ。
「神様、そこまで! それ以上は駄目!」
万一の時の為に端で観戦していたポポの叫びが耳に入り、リゼットは言われるまでもなく気の固形化を解除……仮想戦士達を消失させた。
ようやく踏み付けから解放されたリゼットは激しく咳き込み、荒く息を吐く。
仮想クウラは実戦の厳しさや敵の容赦なさを存分に教えてくれる優秀な仮想敵だが、容赦がなさすぎるのが時々辛い。
「神様、やりすぎ。あそこまで自分を痛めつける必要、ない」
「はーっ……はー……。……はぁっ、はぁ。
……い、いえ、このくらいはやらないと、置いていかれてしまいますから。
特に、これからの戦いでは……」
「神様は今、この地球で一番強い。超サイヤ人になった孫悟空よりも強い。
なのに置いていかれると思っている。それ変」
「はは、今だけですよ、それは。
サイヤ人……特に悟空君の成長速度は驚異的です。
頼もしいのは事実ですが、同じくらい負けたくないと思う気持ちもありましてね。
ま……一応武術家の端くれですから、私も」
悟空達には強くなって欲しい。それは決して偽りの気持ちではない。
だが同じくらい、抜かれたくないという思いもあった。
決して悟空達に弱く在って欲しいわけじゃない。しかしそれ以上に強く在りたいという気持ちもまたあるのだ。
だからリゼットはこうして、日々己自身を限界まで追い込んでいる。
別に限界まで身体を痛めつけた所でサイヤ人のようにパワーアップするわけではないが、それでも得るものはあるはずだ。
だからリゼットは明日も、そしてその次の日も、この無茶な修練を続けるだろう。
そして、その無謀な挑戦は確かに彼女の戦闘力を高みへと導いているのだ。
そう……彼女自身の想像をも超えるほどに。
※リゼットがフリーザのフルパワーを長いと誤認していた理由
第97話 ナメック星消滅か!?大地を貫く魔の閃光(ここから残り5分スタート)
第98話 勝つのはオレだ…生き残りをかけた最終攻撃
第99話 神龍よ宇宙を走れ!! 迫るナメック星消滅の時
第100話 ボクは孫悟空の息子だ!! 悟飯、再び決戦場へ
第101話 俺はこの星に残る!!勝利への最後の闘い
第102話 とことんやろうぜ!!消えゆく星に残った二人
第103話 哀れフリーザ! 震えだしたら止まらない!!
第104話 悟空の勝利宣言だ!! フリーザが自滅するとき…
第105話 フリーザ敗れる!! すべての怒りをこめた一撃
第106話 ナメック星大爆発!!宇宙に消えた悟空(やっと爆発)
リゼット「……そういえば5分だったんですねえ」
ナメック星「本当なら5分で爆発するところを5時間近く粘った俺の努力は認められるべき」