ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

4 / 176
第四話 この世で一番強いヤツ(前)

 リゼットの住む家は標高五千mを超える山の、その頂上にある。

 以前までは気ままに放浪してそこらの宿に泊まっていたのだが、この服のせいで目立つ上に天女扱いされたせいでそれも出来無くなったのだ。

 なので仕方なく、リゼットは自らが就寝出来る場所を自分自身で用意する他なかった。

 そこでリゼットはミスターポポを拉致……もとい協力者として招き、彼の協力の下二人で超能力を無駄遣いして家を作った。

 しかしそこに何故か無駄にハッスルした神様が乱入し、『暇だからわしも手伝ってやる』と一瞬で豪華絢爛な白亜の聖堂に変えられた。一人でここに住めってか。部屋余りすぎるだろこれ。

 挙句、リゼットの承認もなく地上における神様の代理人的な役目も押し付けられた。

 当然リゼットはそれに断ったが、『ぶっちゃけ偉そうにふんぞり返って、わしに伝えるべき事があれば伝えるだけでいいよ』と軽く言われたので、その程度ならばと仕方なく受け入れてやった。

 いよいよもって本格的に神様の巫女化してきた気がしないでもない。

 しかもこの聖堂、神様の神殿への直通経路まである。

 勝手に家を繋げるなナメック星人。

 

 まあそれはいい……それはいいのだが……。

 

 

 

「なんか筋斗雲が巨大化してる……」

 

 リゼットはそう呟き、妙に大きくなってしまった己の雲を見上げた。

 カリン様から貰った時は確かにリゼット一人が横になれる程度の大きさだったはずの筋斗雲は、何かここ数年で明らかに巨大化し、今では長さにして十m近くにまで達していた。

 理由として考えられるのはあれか……ここ近年で急激に筋斗雲の乗り手が減っている事だ。

 信じられない事だが、この世界において筋斗雲は珍しい存在ではない。

 乗り物として割とポピュラーな存在であり、結構色々な人が乗っていたのだ。

 だが近年に入って人々の心が悪しき方向へ傾いたらしく、乗り手がすっかり減ってしまった。

 そして乗り手を失った雲は行き場を失い、他の乗り手……つまりリゼットの所へ集まってしまったわけだ。

 

 リゼットはこれを見て孫悟空の誕生が近い事を確信した。

 悟空が世界を巡る頃にはもう筋斗雲の乗り手はいなくなってしまっていたはずだ。

 そしてそれを語った人物は『若い頃にはまだ沢山あった』と言っていたのだ。

 ならばもう、原作までの時間はそう長くない。

 あって精々六十年か七十年……少なくとも百年はないだろう。

 ……あれ? まだ結構あるぞ。

 とはいえ、リゼットの今まで生きた年月を思えばそう長い月日でもない。

 何せ生まれてから今日までで既に百八十年は経過しているのだ。

 

 期待がある。不安もある。

 あれからずっと休まずに――とは言わないが、怠る事なく修行はしてきた。

 今までに得た格闘技の長所を合わせ、実戦の中で研磨し、己だけの流派とも呼ぶべき戦い方を編み出した。

 界王拳モドキ(リゼットはこれをバーストリミットと名付けた)を倒れる寸前まで行う事で気の底上げと身体の耐久力を上げる修行は暇さえあればやっている。

 気の操作も磨き、様々な応用が出来るようになった。

 切断、操作、追跡は勿論の事SGカミカゼアタックのような簡単な自律思考を持つ気弾だって作り出す事が出来る。

 ドラゴンボールも暇潰し代わりに集め、今度は『どんな環境でも生きられるようにしてくれ』と願い、生身で宇宙へも飛べるようになった。

 とはいえ、今のままではまだ速度不足なのでちょっと大気圏抜けて帰って来るくらいが限度だが。

 ついでにここでリゼットは一つの裏技を使用した。

 飛び散るその瞬間に跳躍し、ボールのうちの一つを確保したのだ。

 もしかしたらまたドラゴンボールを必要とする時が来るかも知れないし、その時に一つでも最初から持っていれば苦労が全然違う。

 手にしたのは……五星球。まあ四星でなければどれでもいい。

 流石に四星は確保する気がない。あれを持ったままにしてしまうと最悪この世界の未来そのものが滅茶苦茶になってしまうからだ。

 

 リゼットは憂鬱気に瞼を伏せ、それから空を見上げる。

 背中からゆっくりと白い気が溢れ、しかし散る事なくその場に留まる。

 すると気は純白に輝く光の翼となり、リゼットの身体を宙へと運んだ。

 これが百八十年の修練の成果。気の操作を極めた先にある『気の固定化』。

 やっている事自体は劇場版でサウザーがやった気の斬撃とそう変わらない。

 本来散るはずの気をその場に留めて形にするだけだ。

 だがこうして生まれた翼は舞空術を補佐し、本来よりも遥かに複雑な変則飛行を可能としてくれる。

 宇宙で飛ぶ事を想定して編み出した飛行補助用の技だ。

 飛行速度そのものも実力以上に上昇させてくれるので、リゼットのお気に入りでもある。

 難を言えば色は赤がよかった。その方がデスティニーガンダムとかみたいで格好いい。

 白はないだろ、白は。どんだけ私に使われてるカラーパレット少ないんだ。

 

 空を舞う。

 翼をはためかせ、自由に空を遊泳する様は正に天使か天女そのもの。

 リゼットは思考を纏める時、よくこうして空を飛ぶ。

 重力という束縛から自らを解き放ち、自由な空に飛び上がれば思考も冴える。

 自らの実力を疑ってはいない。

 きっと自分は強いのだと信じている。

 だから期待がある。自分がどこまで届くのか知る時が来たと。

 宇宙に通じるか、それとも地球止まりか。

 いずれ悟空が大人になればぶち当たるだろう宇宙の壁。サイヤ人編以降のインフレ。

 宇宙にはそんな連中が溢れていて、世界の果てまで既知で塗り変えるというリゼットの目的を考えるならば、己の実力を知るのは必要最低事項。

 少なくともサイヤ人などに後れを取るようではその程度。宇宙などとても目指せない。

 絶対に途中で死んでしまう。

 

 まだ先だ、まだ未来の話だ。

 そう思い、誤魔化し、修行に明け暮れ、とうとうカウントダウンが始まった。

 七十年……普通の人間が幸せに天寿を全うするならば充分な時間。

 もう“たったそれだけしか残っていない”。

 

「――私は、通じるんでしょうか」

 

 弱音が自然と口をつく。

 スカウターなんて便利なものはない。

 戦闘力の数値化など出来ない。

 だから自分の強さがどの領域にあるのか分からないのだ。

 一応の比較対象として神様がいるし気は読めるので推測くらいは出来るが正確ではない。

 一応神様を1とするならば今のリゼットは50はある。

 確か神様は300とかだった気がするので、リゼットは15000前後というところか。

 

「あ、やばい。ベジータ以下だ」

 

 リゼットはショックを受けたように呟く。

 いや知ってた。うん知ってたよ。

 この程度の推測はとっくに出来ていた。

 大丈夫、私にはバーストリミットがある。散々身体に慣らしたから軽く5倍くらいまでなら出力を上げられるし、無理すれば七倍くらいまではいける。

 つまり7万5000は固い。おお、私強いじゃないか。

 地球でこれって破格と言っていいだろう。

 

「……ギニュー隊長以下かあ」

 

 うん、僅か数年であっさり超えられる数値だ。

 数年どころかナメック星編のインフレ具合では一日で超えられる。

 サイヤ人がちょっと死にかければすぐだ。

 フリーザ第一形態なんぞもっての他。手も足も出ない。

 地球の科学者がちょっと頑張って人造人間作っただけで億を超えるのに百八十年生きて自分はこの程度。なんだか涙が出てきた。

 

「もっと頑張らないと、ですよねえ……」

 

 実戦を積もうにも、もう相手がいない。

 実力差がありすぎて誰を相手にしても弱い者苛めで、これならまだ岩でも叩いてる方がいい。

 強さを目指すにあたって、この地球は環境に恵まれているとは言い難かった。

 ……競う相手がいないのだ。

 同じ力量の相手が一人でもいれば効率は跳ね上がる。実力の伸びは飛躍する。

 だがリゼットは強くなりすぎた。彼女の相手足りえるのは彼女自身しかおらず、一人で黙々と修練する以外に方法がない。

 天下一武道会というファンなら注目するしかないあの大会の記念すべき第一回にも参加してみたが、まるで敵がいなかった。

 全て戦闘にもならず、片手を軽く振っただけで終わりで物凄くガッカリしたのを覚えている。

 強過ぎるというのも考えものだ。

 

「――……」

 

 いや、訂正しよう。

 やはり強さは必要だ。でなければ、身に降りかかる火の粉すら払えない。

 リゼットは翼を広げ、油断なく下を見る。

 そこには見知らぬ老人と、どう見ても人間ではない化物が5体。

 明らかに平和的に話し合おうという雰囲気ではなく、自分に何かしらの悪しき用があって来たのだろうと推測出来る。

 この聖堂に来客とは珍しいが、招かれざる客である事は疑いようもない。

 リゼットは翼を解除せぬまま、地上へと降下した。

 

「美しい……お会い出来て光栄ですぞ、龍天女よ」

「何者です?」

「儂の名はDr.コーチン……貴女を迎えに来ましたぞ、この世で最も強き者よ」

 

 Dr.コーチン……原作にはいない名前だ。

 しかしその名前には聞き覚えがある。

 禁忌の研究に手を伸ばし、学会でも爪弾きにされている者の名だ。

 そして確かサイヤ人編をインスパイアした劇場版、『この世で一番強い奴』にそんな名前の奴がいた気がしないでもない。

 どちらにせよ、友好的な人物でないのだけは確かだろう。

 

「私と共に来て頂きましょう。Dr.ウィローがお待ちです」

「……そうですね。貴方に案内して頂きましょうか」

「――何!?」

 

 リゼットの目つきが鋭く変化する。

 それと同時にコーチンの周囲に控えていた化物達が粉々に四散し、コーチンの右腕が消し飛んだ。

 見ればリゼットは何時の間にか指を突き出しており、その指先からは煙が上がっている。

 何の事はない。コーチンには知覚出来ぬ速度で攻撃動作に移り、そして護衛とコーチンの腕を気で消し飛ばした。それだけの事だ。

 

「私を連れ出して何をする気だったのかは知りませんが、相手が悪かったですね。

その無知を悔いて永久に眠りなさい」

「……! く、くくく、なるほど……流石は伝説に謳われし龍天女。

バイオ戦士では相手にもならぬか……ならば!」

「――!」

 

 周囲に強い気を感じ、リゼットは表情を変えぬまま新たな来客へ視線を向ける。

 彼女を取り囲むように現れたのは3体。いずれも人間ではない異形の者だ。

 緑色の肌の、小柄な異形。

 黄色の肌の、ゴムのようにブヨブヨした肥満の怪物。

 赤いモヒカンの、ピンク色の肌の怪物は棘付きの肩パッドを付け、まるで世紀末に出て来るモヒカンのようだ。

 名前は確か――何だったっけ? エビフライとかミソカツとか、そんな美味しそうな名前だった気はするのだが。

 

「わしが作り出した凶暴戦士達だ! さあゆけい! 天女を捕らえよ!」

 

 コーチンの命令と同時に3体の異形がリゼットへ迫る。

 だがリゼットには微塵の動揺もない。

 繰り出される拳を避け、左手で掴み、右手で軽く殴り飛ばす。

 それから掴んだ肥満の化物を投げ、小柄な緑色へと叩き付けた。

 

「え、ええい! エビフリャーよ、凍結拳で凍らせてしまえい!」

 

 どうやらエビフライというらしいピンクのモヒカンが手から冷気を放出する。

 モヒカンのくせに冷気とは嘆かわしい。火炎放射器を使え。

 しかしどちらにせよリゼットには通じない。あらゆる環境でも生存可能な彼女の、その生存区域には当然宇宙すら含まれる。

 極寒の宇宙空間でも生きられるものが、たかがマイナス数百度の冷気程度に怯むはずもない。

 リゼットはまるで何でもないとばかりに冷気の中を歩き、エビフライの胸に手を当てる。

 そして、気弾で胸部を貫いてその機能を停止させた。

 

「な、馬鹿な! ならばキシーメ、電撃鞭だ!」

 

 緑色の異形が鞭を伸ばし、リゼットはそれを容易く掴む。

 直後、掴んだ鞭から電流が流れリゼットの全身を駆け巡った。

 だがそれがどうした。

 リゼットはまるで表情を変えずに鞭を通じてキシーメを引っ張り、体勢を崩した彼の頭部を気弾で消し飛ばした。

 そして最後に止めとばかりに気を円盤状にした斬撃気弾で残る肥満体の五体を切り刻む。

 確か記憶が正しければこいつは某海賊漫画の主人公みたいなゴムゴムだったはず。

 ならばこういう攻撃が効果的だろうと思ったのだが、その通りだった。

 ギア2を習得してから出直してこい。

 

「馬鹿……な……! わしの、凶暴戦士達が……!」

 

 唖然とするコーチンの前へ無造作に歩み、微笑を浮べてリゼットは彼へお願い――もとい、脅迫をした。

 

「さあ、案内して頂きましょうか。貴方の主、Dr.ウィローの許へ」




・以下、ちょっとした解説

【この世で一番強いヤツ】
ドラゴンボールの劇場公開作第5弾。
悟空が界王拳と元気玉を習得し、悟飯がピッコロを尊敬している事からサイヤ人編以降である事は確実。
しかし悟空が超サイヤ人化を習得していないのでナメック星以前であり、恐らくはピッコロがナッパに殺されずにナメック星に行く必要がなかった世界線と推測されている。

【Dr.ウィロー】
かつては「不世出の天才」と呼ばれていたが狂気に染まっていた為に学会を追放され、ツルマイツブリ山に潜伏して何かやばい野望を抱いていた人。
その途上で病に倒れたが、助手であるDr.コーチンの手を借りて脳だけを生命維持装置へと移植され、そのまま研究所の最深部で生き延びていた。
が、間抜けにも異常気象によって永久凍土に閉じ込められてしまい50年間放置された。
劇場版では50年ぶりに助手のコーチンが彼を永久凍土から解放し、当時地球最強の肉体の持ち主と思い込んでいた亀仙人の身体を乗っ取る為に行動を開始する。
この作品は永久凍土に閉じ込められる前にリゼットの存在に気付き、リゼットの身体を奪う為に動いた。
ちなみにこいつ自身のサイボーグボディの戦闘力は推定で3万以上。
バイオテクノロジーで生物を作り出す事も出来る。
お前そんだけ頭いいなら自分で自分の理想のボディ作ればよかったんじゃ……。

【Dr.コーチン】
ウィローの助手。
こいつもサイボーグだが、大した事はなかった。
50年かけて永久凍土から自力で脱出し、ドラゴンボールを集めた努力の人。
そこまで頑張って尽くしたのに、映画本編ではウィローが壊した床の崩落に巻き込まれて死亡した。

【キシーメ】
凶暴戦士と呼ばれるバイオテクノロジーで生み出された生体兵器。
電撃鞭を使う。映画パンフレットによると戦闘力は7000。ナッパくらいなら倒せる。

【エビフリャー】
凶暴戦士と呼ばれるバイオテクノロジーで生み出された生体兵器。
モヒカンで肩には棘が付いているが汚物は消毒しない。
相手を凍らせる凍結拳という技を使う。
映画パンフレットによると戦闘力は7500。ナッパを余裕で倒せる。

【ミソカッツン】
凶暴戦士と呼ばれるバイオテクノロジーで生み出された生体兵器。
ゴムゴムの実を食べたゴムバイオ人間。懸賞金は3000万ベリー。
映画パンフレットによると戦闘力は4300。こいつだけ妙に弱いがギリギリナッパを倒せる。
こいつらが存在している世界線で何故ラディッツやベジータがスカウターで気付かなかったかは不明。
永久凍土の中にまでは電波が届かなかったのだろうか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。