ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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番外・絶望の未来

 リゼットにとって誤算はいくつもあった。

 計算と違う結果が幾度となく頻発し、タイミングも間も、何もかもが悪すぎた。

 まるで運命が孫悟空の死を望んでいるかのように。運命の改変など認めぬと宣告しているように、あらゆる全ての条件が最悪の形で噛み合った。

 やはり独善的だろうが何だろうが、ドラゴンボールはこちらで完全に管理、独占しておくべきだった。

 そうすれば少なくとも、ピラフ一味が願いを叶えるなどという事はなく最も必要な時に使う事が出来たはずだ。

 発病のタイミングも知識と違った。

 まるで運命が悟空を必ず殺せる隙を待ち望んでいたかのように、最悪のタイミングで心臓病で倒れた。

 リゼットはこの報を受け、ドラゴンボールが使えないと悟るやすぐに新ナメック星へと空間転移で飛んだ。

 だが、ここもまた間が悪かった。

 一体何故そうなったのか……フリーザ軍残党を倒す為に宇宙中が一致団結して立ち上がり、その中にナメック星人もいて……そしてあろう事か、その闘いでポルンガを使用していたのだ。

 因果応報――リゼットの修行から始まった奇妙な因果は巡りに巡って、彼女本人へと跳ね返った。

 残る手段は一つ、究極のドラゴンボールのみ。

 だがその使用条件はピッコロと先代の融合だった。二人がかつて一人のナメック星人だった時に作られた究極のドラゴンボールは、二人が分離したままでは石ころでしかない。

 しかしそれは即ち先代の消滅を意味し、故にリゼットを迷わせた。

 そして、その迷いが致命的だった。

 

 リゼットが迷っている間に、孫悟空が死んだ。

 その時リゼットは確かに聴いた。

 運命という列車が、絶望というレールの上に乗ってしまった音を。

 

 一体何が悪かったのだろう?

 ドラゴンボールを不用意に使用してしまった地球人だろうか?

 心臓病の進行が早くなるような無茶な修行をした孫悟空だろうか?

 それとも、ポルンガを使ってしまったナメック星人達だろうか?

 ……否。

 最も悪しきは、リゼット自身。少なくとも彼女はそう考えた。

 未来を唯一人知っていたのに、唯一人、己だけが未来を変える事が出来たのに。

 なのに、心のどこかで甘く見ていた。侮っていた。

 きっと何とかなる、大丈夫、為せば為る、どうせ上手く行く。だって孫悟空は主人公なんだから。

 何の根拠もなく甘え、油断し、侮り、軽視し、軽く見積もり……そして取り返しの付かない事態を招いた。

 それでもリゼットはまだ、事態を深くは考えていなかった。

 本人は十分以上に深刻に考えている“つもり”だったのだが、やはり甘く考えていた。

 そしてその代償は、彼女自身ではなく仲間達が払う事となった。

 

 

 荒廃した大地の上で白い少女は目を閉じて、過去に思いを馳せていた。

 あの時は毎日が幸せだった。

 修行漬けの日々ではあったが、それでも悟空達とは会おうと思えばいつでも会えたし、数年来の再会であっても昨日別れたばかりのように笑って話せた。

 それを失ってしまったのは、ひとえに己の甘さゆえ。

 未来を余りに軽く見積もり、本気で足掻かなかった己の失態。

 全ては遅きに失した。失ったものはもう取り戻せない。

 万能の願望機であるドラゴンボールはなく、死者は戻って来ない。

 それでも、せめて『今』を守りたいから……。

 この地球という惑星に生きる人々の未来を。孫悟空が守るはずだったものを、せめて少しでも残したいから。

 だからリゼットは、この日を以て己の全てを燃やす覚悟を決めた。

 

「リゼットさん」

 

 後ろから悟飯の声が聞こえた。

 神様、と呼ぶ事はもう随分と前に止めさせた、父親そっくりの声。

 昔とは比べ物にならぬほどに逞しくなった――逞しくならざるを得なかった、かつての少年。

 その顔立ちからは甘さが完全に消え、父と同じ胴着を着込んだ姿は父とそっくりだ。

 顔にはいくつもの傷が奔り、今日まで繰り広げてきた激戦を物語っている。

 こことは違う、絶望を回避出来た世界ならば……『原作』の世界ならば今頃は、ビーデルと結婚して娘に恵まれていたはずだったろうに……。

 そのビーデルも、サタンも、もういない。

 

「悟飯君……私は来るなと言ったはずです。

この先は死地。貴方を巻き込むわけにはいきません」

「一人であいつら全部を倒す気ですか? そんなの無理ですよ。

俺を使って下さい。囮くらいにならなれますから」

 

 リゼットは振り返り、悟飯の目を見た。

 それは覚悟を決めた戦士のものであり、そして死地を見付けた受刑者の目だ。

 彼もまた、ずっと苦しんでいた。

 己があの時、もっと強かったならば。

 悟空の異変にもっと早くに気付けていれば。誰かがドラゴンボールを使う前に病気の兆候を発見できていれば、もしかしたら今も父は居てくれたかもしれないのに。

 父なら……孫悟空なら、きっとこんな未来にはさせなかったはずだ。

 あの未だに超える事の出来ない大きな背中なら……憧れたヒーローならば、きっと。

 その想いはずっと、20年間消える事なく彼の心を縛りつけている。

 

「俺も……一緒に逝きますよ。

父さんや、ピッコロさん達がいる場所へ」

「……ごめんなさい、悟飯君」

「謝らないで下さい。これが俺の望んだ……最期の戦場なんです」

 

 リゼットはそれ以上何も言わなかった。

 覚悟を決めた戦士に何を言っても意味などなく、仮に同行を断れば彼は一人でも突撃しただろう。

 だから一度だけ謝った。

 そして背中から白の翼を展開し、全身を光で覆う。

 

「分かりました、悟飯君…………一緒に、死にましょう。

――敵勢力全員を一箇所に集め、亜空間へと転送。その後ナメック星ごとメタルクウラ本体を亜空間へと封印します!

これが最期の逆転のチャンス……ここを逃せば私達に勝ち目はありません。

死んでも彼等に勝ちます! いいですね!?」

「はいッ!」

 

 この日は……否、この日だけが唯一訪れた彼女達の勝機だった。

 20年間の中でただ一度だけ迎えた千載一遇にして最大最後の隙だった。

 まさに奇跡的な偶然、としか言いようがない。

 メタルクウラの群が一時的に地球を離れ、時を全く同じとしてあの世で動きがあったらしく、今まで狂いっぱなしだったあの世とこの世のバランスが正常に戻った。

 この地球の危機を放置しては宇宙全体の脅威と判断したザーボンが全軍を率いてビッグ・ゲテスターに総力戦を仕掛ける事でクウラは一時的にそちらに全戦力を回さざるを得なくなったのだ。

 また、あの世では悟空とベジータが長年の修行の末に鍛えた力でフュージョンをしてジャネンバを撃破してくれた。

 更にあの世が正常化した影響で怨念が薄れてハッチヒャックが弱体化を起こし、それを好機と見たバビディ一団とブロリーが急襲。更にヒルデガーンまでもがその付近に出現した事で今、各勢力はかつてないほどに接近していた。それもハッチヒャックの弱体化とメタルクウラ不在という特大のオマケ付きでだ。

 だから……そう、もうここしかないのだ。

 この機を逃せば全員を纏めて倒す機会など二度と訪れず、また睨み合いの形に戻ってしまう。

 迂闊に動けばあっという間に他の陣営から叩かれてしまう、それでいて全陣営がリゼットを集中砲火するあの形に再び戻ればもう勝ちはない。

 そしてどうでもいいが合体13号はとっくにブロリーによって破壊されていた。

 リゼットが高速で飛翔し、その後を悟飯が続く。

 髪は逆立ち、その全身にはスパークを纏った黄金の気を纏い、その実力は在りし日の父すらも大きく超えている。

 超サイヤ人2――超サイヤ人の限界を超えた形態だ。

 リゼットの修行によりここまでに至った悟飯だが、逆を言えばここが限界だった。

 精神と時の部屋さえ健在だったならば、あるいは彼を更なる超戦士へと鍛え上げる事が出来たのかもしれないが、あれはクウラによって壊されてしまった。

 迂闊だった、としか言いようがない。

 いかに空間を隔てた場所にある神殿だろうと、同じく空間を隔てて瞬間移動してくるメタルクウラ軍団の前では何ら意味はなく、奇襲によって壊滅させられてしまったのだ。

 その際にカリン塔までもが失われ、仙豆も手持ちを残して全てが燃えた。

 そういう意味でも、もうリゼット達に余力など残ってはいなかった。

 

「見付けた――仕掛けます!」

 

 バーストリミットを100倍に引き上げ、白い流星となってリゼットが仕掛けた。

 まず狙うのは最も厄介なブロリー!

 突然の奇襲に迎撃態勢が取れずにいる彼に全力で突撃し、光速の掌底を当てて吹き飛ばす。

 それと同時に悟飯が上空から急降下し、ハッチヒャックを蹴り飛ばした。

 

「や、やれ、ダーブラ!」

 

 バビディにより潜在能力を解放された魔界の王が剣を創造して振りかぶり、リゼットも同じく剣を生成して迎え撃った。

 そんな彼女達を踏み潰そうと下半身だけのヒルデガーンが出現するも、悟飯が横から体当たりをする事で地面に崩れ落ちる。

 だがボージャックが気弾を放ち、リゼットの背中へと直撃させた。

 

「あ、ぐっ!」

 

 血が溢れ、ドレスの布地が千切れ飛びながらもリゼットは歯を食い縛って即座に反撃に出た。

 振り向きながら光弾を連射し、ボージャックの盾にされたザンギャを四散させる。

 だがその隙を突いてダーブラの剣が背中を切り付け、だがこれも即座に反撃。回転しながら剣を薙ぎ、ダーブラの腕を斬り飛ばした。

 だがそこに容赦なくブロリーが割り込み、リゼットの胸元に手を当てて零距離で気弾を叩き込んだ。

 

「がっ……は、ァ……!」

「ふふ、ははははは! その程度のパワーでこの俺に勝てると思っていたか!?」

 

 ドレスが更に破け、ほとんど襤褸切れ同然となった。

 しかしリゼットはそれにも構わず掌底をブロリーの顎に当て、彼の指を獲ってその巨体を投げ飛ばし、ハッチヒャックへとぶつける。

 更にそこを狙って悟飯がかめはめ波を放ち、二人を気の奔流が飲み込んだ。

 ヒルデガーンの踏みつけを避け、ボージャックの攻撃をいなし、ダーブラの攻撃を捌き、その身を激しく傷つけられながらも己が身を標的として彼等を一箇所へと集中させる。

 そして全員が完全に同じ地点に重なった時、悟飯が飛び込んでリゼットの手を掴み、力任せに放り投げた。

 これにより今度は悟飯が彼等の中央に取り残される形となったが、それは彼も覚悟の上だ。

 

「リゼットさん! 今です!」

「ええ……先に行って待っていて下さい。私もすぐに行きますから」

 

 そのまま――悟飯諸共、ヘブンズゲートに呑み込む!

 この機を逃す事など出来ない。悟飯の命を惜しんで手を緩め、それでこの最後の勝機を逃せば後は全員から袋叩きにされて二人が共に死ぬだけだ。

 だから悟飯すらも亜空間への封印に巻き込み、今生の別れを告げた。

 そして既にナメック星人がいない新ナメック星諸共ビッグ・ゲテスターを同空間へと閉じ込め、メタルクウラ全てを戦場へと強制参加させる。

 これで作戦の第一段階が終了。後は狭い亜空間へと集められた全陣営が最後の一つになるまで勝手に潰し合うだけだ。

 そして後は最後の一人が弱りきった所を叩き、それで終わる。

 封印したまま、などという選択はない。亜空間はある程度以上のパワーがあればその力で強引にこじ開けての脱出も不可能ではないからだ。

 ならばきっと、最後の一人はそれをやるだろう。

 散々空間からの脱出を試み、出る事が出来ないと知って気を滅茶苦茶に解放して暴れるだろう。

 勿論それも計算の上。そうして疲弊させれば更に勝率は増す。

 ……叶うならば最後に勝ち残って出て来るのが悟飯ならば、と思わずにはいられない。

 

 数十分は経過しただろうか。

 唐突にピシリ、と空間に皹が入る。

 

 来る!

 リゼットはすぐに身構え、最後の敵を待った。

 どうか悟飯であってくれと思いながら、しかし違う事を心のどこかで確信し、油断なく空間の亀裂を見据える。

 まず出てきたのは腕。次に黄金の輝きに包まれた全身。

 最後に、背まで伸びた頭髪。

 あろうことか超サイヤ人3と化したブロリーが、悟飯の死体を片手に掴んだままその姿を現した。

 

「な……なっ……!?」

「ハハハハハハ! 雑魚をいくら集めたとて、この俺を倒す事は出来ぬう!」

 

 予想外に予想外を重ねたこの世界だが、またも予想外が起こった。

 亜空間にて多くの敵との戦いを経験したブロリーが爆発的に成長し、超サイヤ人3へと覚醒してしまったのだ。

 これで確かに他の勢力は駆逐出来たが、代わりに全てを集めたよりも厄介な敵が誕生してしまった。

 勿論ここで退く選択はない。ブロリーをそのままにすれば地球があっという間に消されてしまうだろう。

 だがその戦力差は絶望的だ。このままではどうしたって勝てやしない。

 

「……そうでしょうか?」

 

 だから、このままでいる事を止めた。

 どうしたって勝てない。だがそれでも勝たねばならないのだ。

 ここで勝たねば地球は本当に終わってしまう。

 そしてそれを止める事が出来るのは自分だけであり、もう二度と失敗は許されない。

 

「バーストリミット……」

 

 身体中の気をかき集め、今日までに少しずつ集めてきた地球の気を解放し、命すら燃やしてリゼットは最大最期の勝負に出た。

 その倍率は――1000倍。

 今の限界倍率である100倍を完全に無視しての最期の輝きであり、当然こんな事をしてリゼット本人も無事で済むわけがない。

 心臓が生物のものとは思えない速度で鼓動を刻み、全身をバラバラになってしまいそうな激痛がかけ巡る。

 蝋燭が燃え尽きる最期の眩さ。純白の極光を纏ったリゼットは微笑みすら浮べてブロリーと相対し、そしてここを己の死地と決めた。

 これから自分は死ぬだろうという確信がある。しかし不思議と、恐怖はなかった。

 ……やっと皆の所に逝けるという安堵すらあった。

 

(悟空君、悟飯君、先代様、皆……お父さん、お母さん……今、私もそっちに行きます。

そしたら……また、笑って迎えてくれますか……?)

 

 もはや白い輝きそのものとなったリゼットがブロリーに拳を打ち込み、その巨体を揺らがせる。

 だがブロリーも負けじと豪腕を突き出し、少女の華奢な身体へとめり込ませた。

 だがリゼットは止まらない。手刀を喉に突き刺し、剣を胸へと突き立て、槍を腹へと突き刺す。

 生涯最期の演舞。

 それはブロリーと、リゼットの命が尽きる瞬間まで続いた。

 

 

 今まで気絶させられていたトランクスが到着した時、全ては終わっていた。

 おかしいとは思った。

 その日はやけにリゼットが笑顔を見せてくれて、悟飯も優しくて、何か妙だとは思っていたのだ。

 確信したのは突然リゼットに頭を撫でられ、意識が暗転する直前(恐らく超能力を行使されたのだろう)。

 

「トランクス、貴方は生きて下さい」

「君は希望だ。俺達が生きたという証……それがトランクス、君なんだ」

 

 まるで今生の別れ。

 駄目だ、いかないでくれ。

 世界の命運なんてどうでもいい。俺は貴方達に生きていて欲しいんだ。

 そう叫ぼうとするも声は出ず、無力な青年は眠りへと落ちた。

 

 目覚めて気付いたのは、悟飯の気がないという事。

 リゼットは元々気が感じられない特異体質だが悟飯は違う。

 どうか生きていてくれと願いながら、必死に飛んだ。

 そしてそこで見たのは……ブロリーと呼ばれていた巨漢の死体と、その近くに倒れている恩師二人の身体だった。

 雨に打たれ、それでもピクリとも動かない二人の亡骸だった。

 

「嘘だ……悟飯さん……リゼットさん……」

 

 まずリゼットに駆け寄った。

 心臓は……動いている! 大丈夫だ、まだ死んでいない!

 トランクスは大きな安堵を覚え、すぐに悟飯の身体へと触れた。

 この時、もし彼が冷静ならば気付いただろう。

 心臓こそ動いているものの、呼吸をしていないという事実を。

 否、あるいは気付いていて尚わからない振りをしたかったのかもしれない。

 結局この後、彼は悟飯の死を知る事となり一つ目の絶望を味わった。

 だが絶望はまだ終わらない。

 悟飯とリゼットの身体を持ち帰った彼はまずリゼットをベッドに寝かせてから悟飯をパオズ山へと丁寧に埋葬した。

 彼が尊敬していた父、孫悟空の眠る場所であり、そして彼が幼き日から過ごした場所だ。

 ……愛する息子の死を知り、狂ったように泣き叫んだチチの、あの絶望の叫び声が耳にこびりついて離れない。

 勿論悲しいのはトランクスも同じだ。身を引き裂かれるよりも悲しい。

 悲劇の連鎖は止まらない。

 夫に続き、最愛の息子すら失ったチチは心を壊してしまった。

 まるで生きる事を放棄したように何もしなくなり、牛魔王に介護されてかろうじて生き永らえてはいるが……その様はまるで生きる屍だ。

 悟空の死後は年齢以上に老け込んでいるように見えたが、悟飯が死んだ後はまるで生きる事そのものを身体が放棄しているかのように覇気がなくなった。

 髪は真っ白になって抜け落ち、顔には皺が増え、かつての活発さは見る影もない。

 今のチチは初対面の人間に老婆と言っても疑われないだろう。

 この悲劇の中、それでもまだトランクスがギリギリで己を見失わなかったのは、リゼットが生きていると思ったからだ。

 だから彼はかろうじて踏み止まっていた。

 

 しかし……。

 

「どうしてだ! どうして……どうして、目を覚まさないんだ!」

「……トランクスよ。神様はもう……」

「そんなはずはない! だって心臓は動いている! 脈はあるんだ!」

「……本当はお前もわかっておるじゃろう」

 

 亀仙人の言葉を必死に否定するも、本当はトランクスも分かっていた。

 リゼットは身体だけは生きている。

 不変の願いがある故に、元の状態へと戻る事が出来る。

 だが魂がもうここにない。

 不老ではあるだろう。不変でもある。

 だが不死ではない。彼女は死という概念だけは捨てていなかったのだ。

 

「う、う、うぅ……ぁ、ぁあ……!」

「トランクス……」

「あ、あああぁぁああああああ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」

 

 トランクスはこの瞬間、遂に恩師二人を失ってしまった事を強く理解した。してしまった。

 そしてそれが今までギリギリで保たれていた理性の防波堤を壊し、彼の心を怒りと哀しみで埋め尽くした。

 全身が黄金に発光し、髪が逆立つ。

 涙が溢れて止まらず、喉が枯れる程に泣き叫んだ。

 だがもう、その涙を拭ってくれる『兄』はいない。

 大丈夫だと言って抱きしめてくれる『姉』はいない。

 二人は、赤ん坊の頃に父を失くしたトランクスにとってのかけがえのない家族だった。

 心から尊敬し、心を許せる兄と姉であった。

 その二人をトランクスは、永遠に失ったのだ。

 

「……悟空さえ……悟空さえ生きておったら、のう……」

 

 亀仙人もまた、悔しそうに顔を俯かせて涙を流した。

 それでも足りないかのように壁に頭を打ち付け、血が流れるのも構わず何度も頭をぶつける。

 

「何が……何が亀仙人じゃ! 武天老師じゃ!

わしは……わしは結局……何も、出来なんだ……何も……」

 

 この世界には絶望しかない。後悔しかない。

 こんな結末を迎えてしまった事に、生き延びた者達はただ苦悩するしか出来なかった。

 

 

 

 ――そして、それから3年。

 逞しい青年へと成長したトランクスはとある山の頂上にある聖堂を訪れていた。

 その最奥には、かつてこの惑星の神として数々の危機を防ぎ、そしてこの地球最大の危機を己の命と引き換えに退けた彼の姉がいる。

 最奥に安置されたベッドの上には生前と何ら変わらぬ姿の、白いドレスに身を包んだ少女が眠っており、今もその瞼を開く事はない。

 トランクスはそのベッドの脇に立ち、優しい声色で少女へと語りかけた。

 

「リゼットさん……今日、俺は過去に行って貴女に会って来ました。

本当に、20年前から変わらないんですね。少し驚きましたよ」

 

 眠る少女は何も答えない。

 青年もそれを理解していながら、声をかけている。

 

「そういえば以前、貴女は俺に『生まれる前から知っていた』と冗談めかして言ってましたけど、まさかあれが本当だなんて思いませんでしたよ。

俺が未来から来る事まで予知していたなんて……本当に、今でも貴女の底が見える気がしない」

 

 それは壁に話しかけているのと同じであった。

 相手はもうそこにいない。身体だけが元の形を保っているだけで生きていない。

 もうリゼットは『物』なのだ。その瞼が開かれる事はないし、その口がトランクスの名を呼ぶ事もない。

 

「そうそう、父さんの顔も少しだけ見たんです。貴女が言った通り誇り高そうな人で……その……貴女が言った通り、少しだけ生え際が……いえ、何でもありません」

 

 それからもトランクスは返事をしないリゼットへと語った。

 母が随分若かった事。

 悟空が聞いた通りの人物だった事。

 悟飯が幼くてびっくりした事。

 悟空とターレスがそっくりすぎて見分けが付かない事。

 ピッコロが緑色だった事。

 ……皆、今と違って活気に溢れていた事。そして街が平和だった事。

 やがて一通り話したのか、トランクスは話を終えて名残惜しそうに少女の髪を撫でた。

 

「……それじゃ……また、来ます。きっとまた、今度はいい知らせを持って……必ず」

 

 背を向けるも、何度も振り返る。

 もしかしたら今この時にも起き上がってくれるんじゃないか、という期待を捨て切れない。

 そんなはずはないと何度も言い聞かされて、理解もしているのに未練がましく振り返ってしまう。

 しかし彼女が起きる事はなく、その度にトランクスは失意に暮れた。

 

 こんな未来は絶対に変える。変えてみせる。

 その願いだけが今の彼を支えているものであり、そして全てだった。




科学者「おっ、ブロリーの死体転がってるやん!
これでバイオ戦士を造れば地球にまた異星人が来ても安心や!」


【未来世界裏設定】
・ブロリーの戦闘力
このブロリーは数々の戦いを経てパワーアップしており、素の戦闘力が14億から20億に増加している。
更に伝説の超サイヤ人3に覚醒した事で最終的な戦闘力は驚きの1兆6000億となっていた。
(倍率は通常の倍の800倍に設定)
もうだめだ……おしまいだ……。

・未来リゼットの戦闘力
20年の激闘と無茶な修行を経て素の戦闘力が15億にまで上昇し、更に地球の気を日々少しずつ取り込み続ける事で一時的に己の限界を大きく超えた戦闘をも可能としていた。
最終的には命すら燃やしての1000倍バーストリミットにより1兆5000億にまで到達し、足りない力を経験と技術で補って強引にブロリーを倒し切ったが反動で命を落とした。
本編リゼットがこの領域まで行けるかは不明。

・未来悟飯の戦闘力
リゼットの修行により素の戦闘力が3億、超サイヤ人2となる事で300億となっていた。
絶望未来の敵が従来通りの人造人間だったならば、それこそワンパンで倒してしまえる強さ。
アルティメット化さえ出来れば生存ルートもあったのだが……。

・ザーボンの末路
傭兵レジックと共に新ナメック星に全軍を率いて突撃したが、メタルクウラの瞬間移動奇襲によって致命傷を負わされ、最後は「永遠の美に万歳!」とか叫びながら戦艦ごと特攻して死亡した。

・リゼットの死
結論から言うともう死んでいる。身体はただの抜け殻。

・界王神何してんの?
バビディを倒そうと無謀にも地球にやってきて死にました。
巻き添えでビルス様も死にました。
更に巻き添えでウィスさんも停止しました。

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