ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
人造人間達は戸惑っていた。
彼等の共通の目的である孫悟空の抹殺を果すべく盗んだ車で山道を走っていたら突然進路の空間に穴が空いて吸い込まれてしまったのだ。驚くなというのが無理な話である。
しかしそれでも、まだ戸惑いの中に余裕があった。
人造人間達――特に17号は己こそが最強であるという自負があったからだ。
他の人造人間と異なり永久エネルギー炉を搭載した彼と18号のエネルギーは無限であり、尽きる事がない。
そのパワーの大きさたるや、彼等を人造人間へと変えたドクター・ゲロでさえ手に負えず一度は封印したほどだ。
この時ドクター・ゲロは彼等のパワーを落として無理に人格を調整してしまう事も考えた。
彼等がゲロに逆らい、封印せざるを得なくなったのは人間だった時の記憶と人格が残ってるからだ。
だからそれを消して、新たな人格をインストールすれば忠実になるとゲロは考えたのだ。
もしも、実際そうしていれば彼らは今頃、ドクター・ゲロの望むような残虐そのものの悪魔へと成り下がっていただろうし、孫悟空がいなければあるいはそうしたのかもしれない。つまりは妥協だ。
最優先の目的を失う事で、まずパワーよりも調整を取り人格を変えてしまう。そんな未来もきっとあったのだろう。
だがドクター・ゲロはそれを行わなかった。憎むべき敵である孫悟空の抹殺を最優先し、17号と18号のパワーを惜しんだのだ。
結果、人間だった頃の善良な人格をそのままに圧倒的なパワーだけを手に入れた。
当然そんなものが自分達を勝手に改造したゲロの言う事など聞くわけもなく、それがゲロの死因となったのは情けない話だ。
……もっとも、仮に人格の調整に成功しても今度は凶悪すぎてやはり言う事を聞かなかっただろうが。
だから17号はこの不測の事態さえも楽しむべきゲームの一環としか考えていなかった。
好戦的に、それでいて余裕を崩さぬ表情のまま下車し、後に18号と16号も続く。
双子の姉である18号もまた余裕のままだ。負けるなどと考えてはいない。
対照的なのは16号か。いつもは物静かで何を考えているか分からないこの男だが、今は珍しく顔を険しくしていた。
「これはこれは。また凄いのが出て来たな。
こんな奴の話は聞いていないが……18号、こんな奴はゲロの情報にあったか?」
「いや、私も知らないよ。まあ地球には魔族や妖怪とかいうのもいるらしいし、その類なんじゃないのかい?」
車の外にいたのは化物であった。
スマートさは感じられる。顔立ちは秀麗と呼んで過言ではない。
だがそのシルエットはセミなどに近く、どう見ても人間ではない。
彼は腕組みをしたままこちらを見ており、その顔は17号同様に涼しげな余裕に満ちている。
どうやら彼もまた、己の敗北など考えないタイプらしい。
「お前か? 俺達をこんな所へ連れてきたのは」
17号はそう聞き、改めて周囲を見る。
そこは何もない場所だ。
いや、正確に言えば以前は何かあったのだろう。
だが今は文明の残り香を見せるのみであり、様々な建物が倒壊し荒廃し切っている。
もしも17号達がフリーザの知識を持っていたならばその建物がフリーザの宇宙船などと似た意匠である事に気付けただろう。
「惑星リットという。かつてはフリーザの部下であるリット星人が暮らしていたが、4年ほど前にベジータが壊滅させてしまった無人の惑星だ。
この場所ならばいくら戦っても被害を気にする必要はない」
「なるほど。いいチョイスだ。
俺も無駄に自然や街を壊すのは好みじゃない」
17号は勝利の確信を崩さぬままに構え、セルが腕組みをしたまま攻撃を待つ。
だがそこに、今まで沈黙を守り続けてきた16号が割って入った。
「駄目だ17号。そいつと戦ってはならない」
「16号か……そういえばお前はパワーレーダーを搭載していたな。
ならば分かるだろう。私とお前達との間に存在する絶対的なパワーの差が」
セルの言葉に16号は答えない。しかしその沈黙は肯定と同意義であった。
そう、16号には既にセルの強さが見えている。
その上で出た結論は、『勝ち目がない』というものだ。
これは戦ってはならない怪物だと、出会ったその瞬間から既に確信してしまっていた。
「お前は何者だ? 孫悟空の仲間なのか?」
「それは少し違う。私は地球の神の味方だ。
その彼女が孫悟空の生存を望んでいる。だから私は孫悟空を狙うお前達を消しに来たのだ」
セルの嘘か本当かも分からない返答に17号が鼻で笑った。
「はっ、地球の神様か。それならゲロの情報にもあったぜ。
神様がこんな化物を飼うとはお笑いだな……まあ与えられた情報を見る限りじゃあ神様ってよりはただの小娘……」
「ッ、いかん17号! 奴を挑発するな!」
17号が嘲笑混じりに侮蔑の言葉を吐き、その危険性に一早く気付いた16号が制止の声をあげる。だがそれよりも早くセルは17号の前に立ち、彼の腕を掴んでいた。
「え?」
突然の事に17号の思考が一瞬停止し、セルを見上げる。
その顔は先ほどまでの余裕に満ちた笑みから一変して真顔そのものだ。
あまりの豹変ぶりに言葉が止まり、代わりにセルの感情を押し殺したような声だけが耳に入る。
「侮辱は許さんぞ」
ボディブロー一撃。
それがセルの初手の攻撃であり、それだけで17号は察した。
こいつ……やばい! 何てパワーだ!?
たった一撃の攻撃で17号の膝が震え、みっともなく膝を突いてしまう。
立ち上がる事も出来ない。ただ意識を繋ぎ止めるだけで精一杯だ。
「……? おいおい17号、何を遊んでるのさ?」
「遊んでいるのではない。それだけあの者のパワーが桁外れなのだ」
未だ事態の深刻さを飲み込めていない18号が的外れな事を言うも、16号がすぐに訂正した。
這い蹲る17号にセルが掌を翳し、止めを刺そうとする。
そうはさせまいと16号が慌てて飛び出し、セルの横面に拳を叩き込んだ。
だが……無傷! 微動だにしない!
「邪魔だ」
「ッ!」
お返しとばかりにセルの気弾が16号の顔半分を吹き飛ばした。
本人からすれば邪魔な虫を払った程度の攻撃だったのだろうが、それすらも16号にとっては致命傷。
幸い完全なロボットタイプである彼はこの程度で死ぬ事はないが、それでもまともな活動はもう不可能だろう。
「そこで寝ているんだな。お前はこの二人と違い、無用な破壊をせずに人類の側についた人造人間だ。大人しくしていれば見逃してやる」
流石にここにきて事態の深刻さを思い知った18号がセルに飛びかかるも、これも虫を払うかのような手の動きだけで簡単に弾かれてしまう。
直接触れてすらいない。ただの風圧だけで18号を払い除けたのだ。
「あっ、ぐ……!」
「慌てるな。お前は後だ」
いとも容易く16号と18号を無力化したセルは再び17号へと手を翳す。
セルにとって彼等は前座ですらない。
本番はこの後にやって来るはずのメタルクウラやブロリーだ。
だがその時になって敵が残っていては少々面倒な事になる。
だから消す。そう決めて気弾を放ったが、直後二人の間に開いた空間の亀裂がセルの気弾を飲み込んでしまった。
「これは……!」
セルの驚愕に呼応し、空間が開く。
中から光が溢れ、遠く離れたリット星に地球の神が降り立った。
佇まいこそ静かなものだが、その全身は淡く発光しており白い光の粒子が輝いている。
これはバーストリミットの倍率を高めた時に起こる現象で、即ち彼女はいきなり臨戦態勢に入っているという事だ。
更に周囲には光球が二つ、Xの字を描くようにリゼットの周囲を旋回しており咄嗟の迎撃にまで備えている。
一目見て分かる全力モードだ。白翼まで展開しており、どうやらセルをあまり信用はしていないらしい。
少なくとも、いつセルが仕掛けてきてもいいようにしているし、それを隠す気すらないように見える。
つまりはこれがそのまま、今のリゼットのセルに対する信用の低さというわけだ。
セルはそれを悟り、小さく肩をすくめた。
「そこまでです、セル。彼等から手を退きなさい」
金色の瞳が真っ直ぐにセルを見据える。
セルにとっては、培養液から出た時には既に醒めぬ眠りにつき、決して瞼を開かなかった彼女からこうして見られるというのは実の所そう悪い気分ではない。
彼は困ったように笑いながら、それでもあえて疑問を口にする。
「もうこの場所を突き止めたか。流石と言いたいが……何故邪魔をする?
人造人間達は貴女にとっても敵のはずだ。未来の世界でもゲーム感覚で街を破壊した。
後に現われる者達と比べれば警戒に値する相手ではないが、倒しておいて損はあるまい」
「貴方のいた未来世界ではそうだったかもしれませんが、この世界では違います。
彼等は無駄な殺戮や破壊を一切行っていない。……まあ窃盗はしてますけど」
「だがこれからもそうである保証は何処にもない」
セルの正論にリゼットは言葉を詰まらせ、チラリと17号達を見る。
セルはそれを見て即座に、彼女が亜空間を開くタイミングを計っている事を看破した。
なるほど、正面からの戦いでは勝ち目がないから会話で気を引いて、一瞬の隙を突いてヘブンズゲートを開き彼等を逃がそうというわけか。
他の相手ならば通じたのだろうが……しかしここにいるのはセル。リゼットの細胞をベースに造り出された人造人間だ。
ならば彼女の狙いなど分かって当然であり、防ぐ手立てすらも簡単に用意出来る。
だがセルは、あえてここは乗っておく事にした。
今、彼女と敵対するのは決してセルにとってプラスではないからだ。
「しかしそいつ等の為に貴女と敵対する意志はない。
いいだろう、連れて行くといい。それが貴女の望みというならば、私はそれを最大限に尊重しよう。
もしもそいつ等が貴女の信頼を裏切る行為に出れば、その時こそ私が始末すればいいだけの事だ」
「話が早くて助かります。正直……物分かりが良すぎて逆に怖いくらいですよ」
「これはこれは、私も随分と警戒されたものだ。それもやはり、貴女の持つ『知識』に関係があるのかな?」
「――! そんな事まで話したのですか、『私』は」
リゼットの表情が分かり易すぎるくらいに驚愕に満ち、ほとんど答えを口にしてしまったのを見てセルは噛み殺すように笑った。
なるほど、本質は未来と同じか。
基本的には穏やかだし落ち着いている。冷静さを保ち、常に様々な物事へと思案を巡らせている。
『自分は色々知っています』という態度を取り、相手に底を見せないように振舞っている。
だがその本質は好奇心旺盛で、そして素直な少女だ。だからこういう所でボロが出る。
例えるならば論文を完璧に書き上げ、さも当然のように提出して周囲を驚かせるも実は論文そのものを間違えている……そんな所か。
「未来の貴女は大分弱っていたからな。精神的に酷く打ちのめされていた。
地球を背負う立場故に誰にも弱い部分を見せる事が出来なかったが、それでも誰かに弱音を吐きたかったのだろうな。それが私のような化物であろうと」
「…………」
「あまり未来の自分を責めんでやってくれ。
そういう部分も含めて、私にとっては愛しい義母だったのだ」
リゼットは内心で未来の自分に対し、このアホンダラ何やってんですか、と思い付く限りの文句を飛ばしていた。
だがそれすらもセルにはお見通しのようだ。
彼は愉快そうにリゼットを窘め、そして17号を蹴り飛ばしてリゼットの前に転がした。
「では私はもう行く。また会おう」
「これから、どうするつもりですか?」
「しばらくは身を潜めるさ。人間達は私を見るだけで怯えてしまうからな。
だが地球や貴女の危機には必ず駆けつけると約束しよう」
セルはそれだけ言うと亜空間を開き、どこかへと転移してしまった。
場所は分からない。既に気を消してしまっている。
リゼットはリット星の荒れた大地を一望し、ゲートを開く。
とりあえず人造人間達を回収し、悟空とは違う場所に運ばなければならない。
神殿はアウトだ。あそこに人造人間達を連れて行けば最悪の場合戦いになってしまう。
となると、とりあえず何処かに家を建てて彼等を住まわせてしまえばいいだろうか。
後、16号はカプセルコーポレーションに連れて行って修理しなければまずい状態だ。
顔の半分がない状態でまだ機能停止していないのが凄いが、割とグロいのでさっさと直してしまいたい。
とりあえず早々に動くべきだろう。
そう考え、リゼットは人造人間達を連れて地球へと戻った。
・未来世界の16号
実は未来でリゼットが味方を増やすために起動して味方にしていた。
が、結局大した活躍は出来ずにブロリーに破壊されてしまった。
相手が悪すぎたという他ない。