ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
「この辺りでいいでしょう」
木々に囲まれた森の中でリゼットは辺りを見ながら呟いた。
近くには河も流れているし、この森は果物も豊富だ。
リゼットが18号と17号を匿う場所として選んだのは紅海の中央に位置する誰も住んでいない無人島であり、ここならばセルもそう簡単には発見出来ないだろうと踏んだのだ。
以前はガーリックJr.の宮殿があったそこも、今では緑溢れる島へと変わっている。
物質創造の仙術で空気中の元素を固定し、何もない空間に様々な素材を生み出す。
それらを超能力で動かし組み合わせ、時に切断し、二人で暮らすとしては充分に広いログハウスを建設した。
家具なども同じ方法で作成して適当に並べていく。
配置が気に入らなければ、18号と17号が勝手に動かすだろうからこんなのは気分で並べても問題ない。
人造人間に必要かは分からないがトイレと風呂も造り、その他最低限の物を揃える。
後は何か欲しがればその都度足していけばいい。
「すごいね。あっという間に家ができちまった。
神様ってのは何でも出来るんだねえ」
「そうでもないですよ。こういう特殊な力に関しては私は歴代で最も劣っているかもしれません」
18号の惜しみない称賛を受けながら、リゼットは否定を口にした。
この言葉は決して謙遜などの類ではなく、純然たる事実だとリゼットは考えている。
確かに彼女はほとんど無から物質を創造出来るし、莫大なエネルギーに物を言わせての大質量創造も可能だ。今のリゼットがその気になれば街一つ丸ごと創造だって出来るだろう。
気を分け与える事で植物を急成長させる事も出来るし、遠視や亜空間移動、読心なども備えている。
ピッコロが消してしまった月だって先代の教えを受けながらではあるが復元した。
特に植物の成長などの命に関する力は宇宙で修行を始めた頃から急激に伸びてしまった。
だがリゼットは先代のようにドラゴンボールを創れるわけではないし、界王のように自身を介して悟空の声を宇宙全てに届けられるわけでもない。
閻魔のように死者に生前の肉体を与える事だって出来ないし、老界王神のように誰かの潜在能力を解放するなどという事も出来ない。
若い方の界王神よりは多芸かもしれないが、そんなのは自慢にもなるまい。
戦闘力では勝っていても神としての能力では明らかに劣っている。そこが人間上がりの神であるリゼットの限界でもあった。
「17号が起きたら伝えて下さい。悟空君を狙うのは諦めて、ここで静かに暮らすようにと」
「ああ、何とか言い聞かせてみるよ。流石にあの化物と闘り合っちゃ勝ち目はなさそうだし……どうもアンタにも勝てる気がしない」
「パワーレーダーもないのに分かるんですか?」
「女の勘さ」
意外にも18号はリゼットからの提案をすんなり受け入れた。
悟空を狙うのをやめてしばらく静かにしているのが現状では最善だと判断したのかもしれない。
元々悟空を狙っていたのも、とりあえず目的が欲しいというだけのものであったらしく18号は全く拘っていなかったようだ。
ただ、何の意味もなく改造されたのでは癪だから、せめて改造された目的くらいは果たしておきたい、という心境だったとか。
要するに別に果さなくても問題はないらしい。
それを聞いて安堵し、リゼットはその場から転移した。
★
16号をカプセルコーポレーションへ預けたリゼットは、神殿へと帰った所でそれに気が付いた。
新ナメック星から感じられる気。その波長がおかしいのだ。
まさかと思い遠視を試みてみれば……いた!
新ナメック星の上に寄生するようにへばりつく巨大な機械惑星、ビッグ・ゲテスターが。
どうやら遂にメタルクウラのお出ましらしい。
最悪なのは、今は悟空が病気でダウンしているという事か。
つまりこの戦い、悟空抜きでやらなければならない。
加えて今地球にはセルがいるから、自分が離れた時の為に戦力をこちらにも残しておく必要があるだろう。
万が一の時、地球に誰もいませんでは話にならないのだ。
「皆、聞いて下さい」
人造人間との戦いのダメージから回復し、意識を取り戻した仲間達へとリゼットは語る。
新たな敵の出現を。
「以前私が戦ったフリーザの兄、クウラの事は覚えているでしょうか?
彼が復活し、新ナメック星に出現しました」
「っ! あ、現われましたか! 奴が!」
リゼットの言葉に真っ先に反応したのは意外にもトランクスであった。
そこでリゼットが思い出したのは、彼の未来は原作と違ってメタルクウラと遭遇済みだという事実だ。
それどころか未来が詰んでしまったのはメタルクウラのせいと言っても過言ではない。
彼等が神殿を破壊してしまったから精神と時の部屋は使用不可能となったし、カリン塔を壊されたせいで仙豆も使えなくなった。
トランクスにしてみれば人造人間などよりも余程憎むべき敵なのだろう。
「ええ。このまま放置すればナメック星は彼等に滅ぼされ、ナメック星人は皆殺しにされてしまうでしょう。
それにいずれは地球へもやって来るはず。ですから、そうなる前にこちらから攻め込んで彼等を駆逐します。これは絶望の未来を避ける為の重要な一戦となるでしょう」
リゼットの言葉にトランクスが頷き、他の戦士達も無言で頷く。
ベジータだけが興味なさそうに腕組みをして壁によりかかり、だがチラチラとこちらを窺っていた。
興味あるなら気取ってないで素直にそう言えばいいのに。
「しかし地球にもいつ敵が現われるかが分かりませんし、セルに警戒しておく必要もあります。
ですから全員を連れて行く事はしません。
ナメック星へと赴く面子は私が選びますが、よろしいですね?」
「俺をその中に入れるならば何も言わん」
「心配せずともピッコロは入っています」
戦力バランスの分配は重要だ。
現在悟空を抜いた戦力ならばリゼット、ターレス、ベジータ、ピッコロ、トランクスが5強になるが、その全員を連れて行くという愚行は出来ない。
そしてこの戦いにはリゼットとピッコロを入れてしまっているのでこの時点で入れる事が出来るのは後一人くらいだ。
後は残りの面子をどう振り分けるかである。
「後は……悟飯君はこのまま神殿に残って悟空君の看病を。
クリリン君も側で支えてあげて下さい。
ナメック星には人参化、ナッパ、トランクス君……それから天津飯と餃子に来て頂きます」
地球にはターレス、ベジータ、悟飯、ヤムチャ、クリリン、ポポ、カリンを残し。
ナメック星にはリゼット、トランクス、ピッコロ、ナッパ、人参化、天津飯、餃子で殴り込みをかける。
これがリゼットの決めた突撃メンバーだった。
メタルクウラは何とかリゼットとトランクス、ピッコロで相手をし、ナッパ達には量産型のロボットの相手に回ってナメック星人達を救出してもらう。
特にムーリ最長老とデンデの救出は最優先だ。
最悪の場合でも、彼等のうちのどちらかさえ生存させればドラゴンボールでのやり直しが利くのだ。
「行きますよ」
「ええ、行きましょう」
「ああ。クウラの野郎、ナメック星に手を出した事を後悔させてやるぜ」
リゼットがゲートを開き、トランクスとピッコロが後に続く。
本来は自らが創り出した亜空間内に敵を封じ込めるだけの技だったデッドゾーンがリゼットの改良により今や便利な空間移動技になっているのを見ればガーリックJr.は果たして何と思うだろう。
一応本来の使い方も出来なくはないが、創り出した亜空間は術者との間に一定以上の力の差があれば自力で脱出出来てしまうのであまり実用的ではない。
ゲートを出ればそこはもうナメック星であり、多くのナメック星人達がロボット兵士に連行されている姿が見えた。
「ナメック星人達が!」
「どうやら生け捕りにしてエネルギーを奪い取るつもりのようですね」
剣を抜いて斬りかかろうとするトランクスを手で制し、リゼットが超能力で視界内に存在する全てのロボット兵士を対象として超能力を発動した。
瞬間、次々とロボット兵が爆散していきナメック星人達の自由が戻る。
ロボット兵士の装甲は相当に固そうだが、いくら外が硬かろうが超能力には関係ない。
直接内部の回路を滅茶苦茶にして爆発させるまでの事だ。
「トランクス君とピッコロはクウラと戦うときの為に気を温存しておいて下さい。
この程度の敵ならば私だけで片が付きます」
(や、やっぱり凄い……リゼットさんの超能力は。
過去の世界であっても彼女の強さは健在のままか)
構えも動作も取らずに敵を蹴散らすリゼットを見て、トランクスはその頼もしさに顔を綻ばせる。
実際のところ、彼の世界のリゼットはこの時代にはここまでの力を得ていない。
戦闘力数値にしても最大で10億と少しといったところだっただろう。
だがこの世界のリゼットは来るべき戦いに備えて超神水を使用しており、それが大きな差を生み出していた。
とはいえ、彼女の測り難い気質のせいでトランクスはその事に気付けないでいる。
リゼットはトランクス達を連れてビッグ・ゲテスターへと向かいながら、視界にロボット兵が映り次第それを砕いていく。
傍から見れば少女が歩いているだけでロボット兵が勝手に自爆しているようにしか見えず、ナメック星人達は不思議そうな顔をしていた。
「道すがら簡単に今回の作戦を説明します。
まず私達はビッグ・ゲテスターへと乗り込み、ナッパ達はそこで別行動を取って捕まえられているナメック星人達を救出して下さい」
「おう」
「お任せあれ」
「分かりました」
「はい!」
ビッグ・ゲテスター内部にはもう捕縛されてしまったナメック星人が何人かいるだろう。
これを放置しておくとナメック星人がエネルギー搾取の為に処刑されてしまうので、ナッパと人参化にはこの救出を担当してもらう。
リゼットのその要請に四人は快く返事を返した。
「私とピッコロ、トランクス君は最深部を目指します」
「最深部だと?」
「はい。そこからクウラの気を感じるのです。
恐らく本体はそこにいるのでしょう」
メタルクウラの情報は既に悟空とリゼットが皆に話している。
いや、メタルクウラだけではない。絶望の未来を生み出した敵の情報は余す所なく味方全員へと伝達されている。
したがってメタルクウラが量産型である事や、いくら倒してもパワーアップするだけだという事も皆が知る事であった。
「だがその途中には必ずメタルクウラの群が妨害に現われるだろう。何か策はあるのか?」
「策、と呼べる程上等なものではありませんが……。
現時点においてでの話ですが、私とメタルクウラとの間にはかなりの戦力差があるはずです。
無論これはメタルクウラを撃破し続ける事で埋まってしまう差なのですが、それでも暫くは私一人で食い止める事が出来るでしょう」
ピッコロの疑問に対して出した答えは、策などと呼べるものではなく、ど真ん中ストレートを打ち抜くような単純なものであった。
メタルクウラは攻撃を受ける事や撃破される事でそのデータを本体へ転送し、更に強力なメタルクウラになるというふざけた性質がある。
つまり本体を倒さない限りどんどん量産型が強くなり続け、しかもそれがどんどん生産されるという悪夢のような状況が完成してしまうのだ。
恐らく未来においても地球に来たメタルクウラを、都市や人類を守る為に止むを得ず何度も倒してしまい、それで最終的に手に負えなくなったのではないかとリゼットは考えていた。
だからこそ思う。戦場がこのナメック星であるうちに勝負を付けてしまうべきなのだと。
今ならビッグ・ゲテスターが目の前にある。本体を狙えるのだ。
「そんな! リゼットさんを一人で囮にしろと言うんですか!?」
「そうです。私が何とかメタルクウラを引き付けておきますから、その間に二人はクウラ本体を叩いて下さい」
慌てたようなトランクスの声にリゼットは決意を固めた表情で答える。
ピッコロとトランクスを囮にリゼット自らが行くという方法もなくはない。
実際その方が勝率は高いのだ。
しかしそれを行うと高確率でトランクスかピッコロのいずれかが死ぬだろう。
それよりはリゼットがメタルクウラ軍団を相手にしてトランクス達に行って貰った方が皆が生きて帰る可能性が高いと踏んだのだ。
「あのよお女神様。思ったんだが、そんな面倒な事しねえでもゲートってので本体の前に全員で殴り込みかけてぶっ殺しゃあいいじゃねえか」
「出来るならもうやっています」
ナッパの尤もな言葉に、しかしリゼットは首を振った。
クウラ本体付近への転移は実は先程から試しているのだが、一向に出来る気がしないのだ。
ゲートも、瞬間移動も、どちらも行えない。
恐らくこれはメタルクウラ自身が瞬間移動を使えるが為に、『本体への転移』という発想を得てしまったせいだろう。
思うに彼は最大の急所である本体を守る為に瞬間移動などの空間移動能力を阻害するフィールドか何かを本体付近にも展開している。
それがリゼットの転移をも防いでしまっているのだ。
実の所、これは半分予想出来ていた事だ。
何故なら未来の自分はわざわざビッグ・ゲテスターごと亜空間に放り込んでいるが、これがもうおかしい。
本体の前にゲートで転移してしまえばいいではないか。
そうして本体を倒してしまえば、それでメタルクウラは終わりのはずだ。
だが未来の自分はそれをやらなかった……出来なかったのだ。
原作においてそんな、転移を防ぐフィールドなんて能力は明かされていない。
だが明かされていないイコール、持っていない、ではないのだ。
あるいはリゼットが存在している事で、それに対抗するためにクウラが新能力を獲得したのか……どちらにせよ、転移からの奇襲は行えない。
ならば危険を承知の上で乗り込むしかないのだ。
【激突!!100億パワーの戦士たち】
ドラゴンボールシリーズの劇場公開作第9弾。
初の劇場版ボス連投を成し遂げた一作。
前の映画で死んだはずのクウラがメタルクウラと化して逆襲してくるというストーリー。
上映時期や悟空達の戦力、悟飯の外見からして人造人間に備えて修行している3年間の間の出来事と考えるのが自然。
……の、はずなのだがデンデがまさかの原作フライングで地球の神様になっており、全く辻褄が合わなくなってしまっている。
ピッコロさんも強さ的に神様と融合したとは思えず、何故代替わりしているか全くの謎。
神様が夜逃げでもしてしまった世界線なのだろうか。
パンフレットでは一応神様と融合した事になってるが……。
ベジータの映画初出演作。
【量産型メタルクウラ】
まさかの再登場を果たした前作ボス。
太陽に突っ込んでも死なず、脳だけになって漂っていたところをビッグゲテスターと融合して復活した。
脳だけでも宇宙空間で生存出来るとか、こいつどうなってるんだ……。
瞬間移動に遠隔爆破、再生に自己強化と恐るべきスペックを誇るが、真に恐ろしいのはその生産数。
何とこのメタルクウラは量産型であり、この超スペックでありながら百体以上生産されていて全国のチビッ子にトラウマを植え付けた。
崖の上から大量のメタルクウラがモリモリ湧いて来るシーンは圧巻。
【メタルクウラ・コア】
量産型ではないクウラ本体。
頭部だけしかなく、ちょっとキモい。
悟空とベジータのエネルギーを吸収しようとしたが、吸収しきれず自滅した。
最後には悟空の気弾で消し飛ばされた
こいつ量産型より弱くないか……?
【デンデ】
上映時期にはまだ原作でも神様になっていなかったくせにサラッと当たり前のように神様になっていて盛大なネタバレをかました、とんでもない奴。
お前出番まだ先のはずやろ……。