ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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皆様こんばんわ。
前話辺りからじわじわと評価が入っているようで、感謝しております。
これを励みとし、完結までのんびりとやっていこうと思います。
話数的に大体、全120話くらいを予定しておりますので気長にお付き合い下さい。



第五話 この世で一番強いヤツ(後)

 ツルマイツブリ山。

 遙か北方に位置するこの巨大な氷山は太陽の熱でも決して溶けない為、永久氷壁の名を欲しいままにしていた。

 その山の奥へ進むと、場に不釣合いな機械仕掛けの研究所が見えてくる。

 コーチンを捕らえたリゼットは白い光の軌跡を残しながら大空を飛翔し、研究所に一撃の気弾を見舞う。

 すると爆煙が上がり、研究所の屋根に大穴が開いた。

 正面から入るという選択はない。どんな罠が仕掛けられているか解ったものではないからだ。

 敵の拠点に乗り込むのに、わざわざ敵の用意した入り口を通る必要がどこにある。

 リゼットは自らが開けた穴より飛び込むと研究所へと音もなく着地する。

 

『よくぞ来た……この世で最も強い肉体を持つ者よ』

「貴方がDr.ウィローですね」

 

 研究所の奥に鎮座するそれは、まさに科学の異形。

 バイザーで覆われた入れ物の中には透明な液体が満たされ、脳だけが浮いている。

 そしてその脳を支えるのは機械仕掛けの身体だ。

 その身体は何とも形容し難く、昆虫のようでもあり魚のようでもあった。

 

「ロクでもない事だろうとは思いますが一応問いましょう。

何の用があって私を招いたのですか?」

『この世で最も優れた頭脳の持ち主である私が、この世で最も強い肉体を得る。

お前の身体を私に寄越せ』

「ご冗談を。身体が欲しければご自慢の科学力で自作してはどうです?

他人の身体を奪うより余程迷惑でないと思いますが」

 

 他人に、ましてや異性に身体を明け渡すなど冗談ではない。

 これはいよいよ話し合いの解決など望むべくもない、とリゼットは早々に見切りを付けた。

 元より、コーチンなどを寄越してあんな凶暴戦士をけしかけてくる時点で望みなど1割もなかったが、今完全にゼロとなってしまった。

 

『お前に拒否権はない。その老いず朽ちず、如何なる環境でも生存出来、そして強く美しき肉体。私が貰い受けてこそ意味がある』

「生憎と私の身体は私の物です。諦めて下さい」

 

 リゼットは話しながら相手の潜在パワーを探る。

 その戦闘力は――かなり大きい。正直驚いた。

 サイヤ人編の時期の劇場版の敵なのだから精々ベジータクラスだろうと思っていたが、多分それ以上だ。

 神様を1として数えても130はある。戦闘力にして大体39000か。

 つまり素の状態ならばリゼットよりも上だ。

 まさかこれ程の相手が既に地球にいようとは。

 リゼットは知らず笑みを浮かべ、そして戦意を昂揚させていく。

 

『そうはいかん! その身体、渡してもらうぞ!』

「来ますか……」

 

 ウィローが起動し、巨大な腕を振り下ろす。

 リゼットの近くにコーチンがいるというのにまるで配慮がない。

 哀れなコーチンは敬愛するはずのウィローに叩き潰され、鉄屑と化した。

 リゼットはその場から高速で離脱し、指先に気を一点集中する。

 そして連射!

 機関銃のように威力を指先一点にまで収束させた気弾を連続でウィローへ叩き付ける。

 だがダメージは左程ない。やはり戦闘力の差によりほぼ防がれてしまっている。

 それどころか即座に反撃に移ったウィローの豪腕に殴られ、派手に吹き飛んでその華奢な身体を壁にめり込ませた。

 

「くっう……! やはり素の状態では歯が立ちませんか……!」

 

 解ってはいたが、やはり戦闘力の差というものは絶対的だ。

 大きく差が開いていれば技術など限りなく無意味に近付く。

 悔しいが、今の自分ではまだ普通にやっても勝てない。

 だが、ならば普通でない方法を使えばいい。

 

「いきます――バーストリミット・トレース!」

 

 バーストリミットは界王拳をモデルにリゼットが編み出した戦闘力底上げの術だ。

 そしてトレースとはラテン語で『3』。つまりこれは名前こそ違うものの界王拳3倍に相当している。

 もしここに劉鳳さんがいたら『バーストリミットは英語でトレースはラテン語だ!』と文句を言われるかもしれないが、いいじゃないか。そういうオサレな名前の技って結構あるし。

 どこぞのスーパーロボットなマジンカイザーなんて日本語とドイツ語の合体だけど恰好いいし、要は響きさえよければいいのだ。

 というかそもそもこの世界に英語はあってもラテン語はない。

 

 リゼットの身体が白く輝き、光の粒子が溢れる。

 これで計算上、戦闘力は(多分)45000前後。

 ウィローを上回り、こちらが優位となった。

 リゼットの身体が消え、捉え切れない速度で以てウィローを蹴り飛ばす。

 

『ぬうっ、小癪な』

 

 ウィローが反撃で拳を振るう。

 だがリゼットは左手でその一撃を容易く受け止め、そのまま滑るように腕の下を潜って右手で突き上げるように掌底を叩きこんだ。

 ウィローの腕の関節駆動部位を見切っての、関節破壊だ。

 鉄がへし折れる音と共にウィローの片腕がもがれ、火花を散らした。

 サイズ差など知った事ではない。

 リゼットの身長150に対しウィローの全長は4m以上。だからどうした。

 戦闘力の差があれば、こうした無茶苦茶な事だって不可能ではない。

 

「“ランス”」

 

 リゼットが続けて行うのは気の固定化。

 本来拡散するはずの気をその場に止め、一つの武器として使用する。

 現在も背から生やしている翼は言うに及ばず、槍や剣すら不可能ではない。

 リゼットが戦う上で問題となるのがその体格の小ささによるリーチの短さだった。

 それを補う意味でも、この技術は有用だ。

 というか武器を持つのと持たないのでは持ってる方が強いに決まっている。

 ドラゴンボールでは邪道だろうが、そんな事をいちいち気にする気などない。

 生成した光の槍を突き出し、膝の関節を貫く。

 生まれてより二百年近くを武に費やしてきたのは伊達ではない。世界を巡りあらゆる武技を修めたのはハッタリではない。

 素手に始まり剣、槍、棒、暗器、手裏剣、鞭、刀、ブーメランにハルバード、果ては弓矢に鎌。

 薙刀にナイフ、ボウガン、ハンマーやモーニングスターの扱いまで心得ている。

 武芸百般――拳銃以外ならば使えぬ武器などない。

 

 え? 拳銃?

 あれは駄目だ。誰が使っても威力が一律だからこの世界では泣けるほどに弱い。

 マシンガン乱射しても亀仙人レベルで手をパパパパパ、と動かすだけで全弾キャッチされ、当たっても最初期悟空すら倒せない。

 戦闘力が100を超えるならば、そこらのパチンコ玉でも指で弾いてた方がまだマシだろう。

 残念ながらこの世界の拳銃は刃牙世界のムエタイ(ロシア人)にも等しい。

 

「“デスサイズ”」

 

 続けて生成したのは気の大鎌。

 リゼットの思うがままに伸縮し、刃のサイズすらも変化する自在変化の死神だ。

 その魔器を振るい、残っていた片腕を斬り飛ばす。

 だがまだ片足が残っている。

 未来の話ではあるがピッコロ大魔王も片腕を残して悟空に負ける。

 ならば油断は出来ない。

 

「“クレイモア”」

 

 最後の武器は巨大な光の剣。

 それを手から離し、指先を動かして遠隔で操作する。

 繰気弾みたいで弱そうとか言ってはいけない。

 リゼットのお気に入りの技の一つなのだ。

 果たしてそのお気に入りの剣は見事最後の片足を切断し、これでウィローは達磨となった。

 

『お、おおおおお……! おのれ! おのれえええーーーーッ!!』

 

 ウィローが激昂し、ジェット噴射で空へと発つ。

 四肢を潰されてからの飛行。実に賢い手だ。

 孫悟空も未来でそれをやってマジュニアに勝つのだし、選択としては正しい。

 しかし正しいからといって勝てるとは限らない。

 それがこの世界だ。

 

(上空で気が高まっている……地球ごと私を消す気ですか。支配しようとしている地球まで消して、その後どうする気なのか……)

 

 ウィロー最後の攻撃を察知しながら、リゼットもまた迎え撃つべく気を集中させる。

 全身の気を全て右手の中へ。

 限りなく凝縮した白い極光を掴み、上空の気の高ぶりに合わせて投げつけた。

 

「往きなさい――sparking(スパーキング)!」

 

 spark(炸裂)という何の捻りもない名前そのままに、凝縮させた気を投げつけて炸裂させる。

 言ってしまえばただそれだけの技だ。

 だがそれだけが単純無比。シンプルな技ほどこの世界では強い。

 解き放たれた白の光球は上空から迫るウィローの破壊光線すらも押しのけ、押しやり、押し返し、その先にいた哀れな科学者へと炸裂する。

 白の輝きが爆ぜ、それを見計らってからリゼットは翼をはためかせて宇宙へと飛翔した。

 

 高く、高く、高く、遥か高く――!

 空を越え、大気圏を越え、母なる星を越え、リゼットは既に死に体のウィローと対面した。

 四肢を失い、あちこちが砕けてショートし、脳を保護するフィルタすら砕けて溶液が零れている。

 そんな姿になって尚ウィローは幽鬼のように、おぞましく、既に肘から先のない機械の腕を伸ばした。

 

『カラ、ダ……カrダ……ワタ、シno……カラ、da……』

「“ソード”」

 

 リゼットは目を閉じ、腕を静かに振る。

 すると彼女の背後に数百、数千の気の剣が顕現し、一斉にその矛先をウィローへと向けた。

 

「……さようなら。哀れな天才」

 

 千の刃が一斉にウィローへ殺到し、突き刺さり――そして爆発。

 哀れな男を跡形もなく消し飛ばした。

 

 

 狂った天才、Dr.ウィローは倒した。

 そして後は彼の研究成果を闇へ葬るだけだ。

 リゼットは氷の瞳を研究所へ向け、そして彼という天才を惜しむ。

 

 掛け値なしの天才だった。

 あのバイオ戦士も、ウィロー自身も、力の使い方さえ誤らなければこの惑星の守護者にだってなれたはずだ。

 後に現れるサイヤ人すら返り討ちに出来る程に彼は天才だったのだ。

 だから惜しい。

 彼という存在が心底、勿体ないと思う。

 

 欲に忠実な事を責める気はない。リゼットだって同じ穴の狢だ。

 要は欲の向き先がどこに向かうかという、それだけの話。

 正義の味方の代名詞みたいな悟空だって、己の戦闘欲には忠実なのだから、これだけを以て悪だなどと断じる事など出来ない。

 しかしその欲と才能を悪しき方向へ傾けてしまうならば、それは討たなくてはならない。

 この素晴らしき世界。一人の為に塗り替えられ、滅びていい道理などどこにもないのだ。

 

 故にリゼットは神の代行人として判決を下す。

 顕現する武器は巨大な鉄槌。

 それがリゼットの手を離れ、研究所へと堕ちていく。

 

 衝撃。

 雪崩が起き、永久氷壁が研究所を覆い潰していく。

 太陽の熱でも溶けないこの氷に封じられては、研究所が日の目を見る事はもうないだろう。

 本当に惜しい。

 技術自体は責めるべきものではなかった。むしろ何百年も先を行く素晴らしいバイオテクノロジーだった。

 使い方さえ変えるならば、多くの人の命を救える技術。

 だが、今の世界にこれを撒くのはあまりに早い。

 この先、レッドリボン軍や多くの悪人たちが世を跋扈する。

 そこにこんな技術を残していては、どんな悪影響を及ぼすか分からないのだ。

 だから――。

 

「いつか、この技術を得るに相応しい人が現れるまで」

 

 そう誰にともなく告げ、リゼットは白翼をはためかせる。

 そして光の残滓だけを残し、大空へと飛び去って行った。




というわけで、今回は『主人公はこんな戦闘スタイルです』と説明する為のチュートリアルバトルでした。
ウィローは犠牲になったのだ……リゼットの戦闘スタイルの説明……その犠牲にな……。
ウィロー「リゼットェ! お前は俺にとっての新たな(ボディ)だ!」

【スパーキング(Sparking)】
リゼットの技の一つ。
片手に気を集中し、白い気弾を投げつける。
敵に命中すると同時に炸裂し、破壊する。
ぶっちゃけただのクラッシャーボー(ry
名前はゲームから。

【バーストリミット(Burstlimit)】
リゼット版界王拳。効果は本家とほぼ同じ。
情報だけを頼りに真似したのが悪かったのか、見た目は完全に別物。
全身が白く発光し、白く輝く気が粒子のように全身から放出される。
この手の戦闘力倍化技がないと地球人はインフレに付いて行けない。
名前はゲームから。

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