ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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✪ 皆様こんばんわ。
作者のマジカル☆さくやちゃんスターでございます。
投稿当初は存在感空気で感想もほぼなかった本作ですが、皆様のおかげでじわじわと日刊ランキングを登っております。
これほど嬉しかったのはかつて、東方妖々夢で咲夜さんのサポートアイテムとしてお呼びがかかった時以来でしょうか。
これからもよろしくお願いします。


第六話 物語の開始

 エイジ737。

 リゼットの研ぎ澄まされた感覚は何者かが地球に来た事を感じ取っていた。

 気配は決して強いものではない。

 か細く、頼り無い気の小ささだ。

 しかし念のためと外に出て、気の大元を確認する。

 そして見た。地球へ今まさに降下しようとしている球状のポッドを。

 明らかなまでの宇宙船を。

 

「――遂に、来たのですね……」

 

 リゼットは普段は呆けている表情を珍しく引き締め、一人呟く。

 この世に生まれてより250年。

 不思議と色褪せる事なく覚えている前世の知識、そこに刻まれた運命の子がとうとう地球にやって来た。

 遥か遠い宇宙の彼方で数多の気が消えたから、まさかとは思った。

 自分では逆立ちしても敵いっこない強大極まる気(多分こいつがフリーザだ)の存在も感知した。

 だからもう、その時はすぐそこだと分かってはいたのだが、こうして本当に来ると否応なしに緊張が高まる。

 

「知っているのか?」

「……神様。いつからそこに?」

「何、わしも今来た所だ。宇宙から来たアレが気になっての」

 

 普段はお茶目でも、流石に地球の神か。

 その表情は険しく、そして問い詰めるようにリゼットの横顔を見ている。

 

「……遠い場所で数多の命が消えるのを感じました。今までに感じた事もないような、強大過ぎる悪のエネルギー……その者により、一つの星が消されました」

「儂はそこまで感知は出来ぬ……が、お前が言うならば事実なのだろうな」

「その悪に最期まで立ち向かった勇敢な戦士……その血を継ぐ者が、今地球に来た運命の子です。これより先、地球は彼を中心として運命が巡る事でしょう」

「占いババのような事を言う……それは予言か?」

「いいえ、予感です」

 

 予感というか知識です。

 という事は流石に口に出さず、黙っておく。

 神様はふむ、と呟くと遠くを見るように視線を上げる。

 

「その悪に、お前では勝てぬか?」

「今はまだ勝てません。その者は文字通り次元が異なります」

「……にわかには信じられんな。お前が太刀打ち出来ぬ者が存在するなど」

「事実です。宇宙は私達が思うよりもずっと広い」

 

 フリーザの気は感じた。その強大さに身震いすらした。

 駄目だ……今はまだ勝てない。戦いすら成立しない。

 250年研磨して届かなかった。

 ならばやはり、方法は一つ。孫悟空達と共に強くなるしかない。

 

「しかし猶予はあります。巨悪もしばらくはこの星に目を向けないでしょう。

彼が成長し、一人前の戦士となるに充分な時間はあるはず」

「もしも、なければ?」

「その時は私が時間を稼ぎます。巨悪さえ来なければ私でも何とか出来ますから」

 

 孫悟空はこの惑星の希望となる男だ。

 彼が来た事により地球は危機に晒されるが、だからといって悟空がいなかったならば誰もフリーザを止めず、ましてや魔人ブウなど対処の仕様もない。

 孫悟空による英雄譚。それがこの宇宙には必要だ。

 いずれ己が果てまで旅するこの宇宙。誰かに壊されるなどあってはならない。

 だからリゼットは悟空を必要とする。守ろうと考える。

 彼という英雄をこの世界は求めている。

 

 運命は動き出した。主人公が遂に地球に降り立った。

 ならば後は乗るかそるか。

 もう止まらない。物語は今、開始されたのだ。

 

 

 そして更に、十二年の月日が流れた。

 

 

「次のドラゴンボールは……うん、間違いない。ここだわ」

 

 エイジ749。

 カプセルコーポレーション社長令嬢であるブルマは自作のドラゴンレーダーを片手に確信したように言う。

 七つ集めればどんな願いも叶う不思議な球、ドラゴンボール。

 彼女達は現在そのうちの五つを確保しており、六つ目の球の反応を追ってここまでやってきていたのだ。

 しかし問題がないわけではない。

 天女が住むとの伝説があるこの山、とにかく高いのだ。

 標高五千m。そんな所に住むなと言いたい。移動とか不便すぎるだろうこれ。

 

 ブルマはすっかり途中でへばってしまい、同行者の野生児――孫悟空に背負ってもらっている。

 この悟空がなかなか便利で、人間離れした凄まじい強さと体力を誇る。

 彼がいなければあるいは、この旅は頓挫していたかもしれない。

 もう一人……否、もう一匹の同行者は豚のウーロン。

 どんな物にも変身出来る変身術の使い手だが、あまり役に立った試しがない。

 加えてとんでもないスケベで、隙あらばブルマの痴態を見ようとしてくる。

 そんな、何とも言えないおかしな仲間二人と共にブルマはせっせと山を登っていた。

 

「ぐへへへ……天女様かあ。さぞやお美しいんだろうなあ」

「あんた馬鹿じゃない? そんなのが本当にいるわけないでしょ」

 

 ようやく山を登り切り、その頂きにて存在感を主張する聖堂を三人は目にした。

 白一色の、まるで他の色が使用されていない、雪で作ったかのような聖堂。

 その周囲には亡霊のように淡く光る女性が数人徘徊し、畑を耕したり果物を集めたりしている。

 これはリゼットがSGカミカゼアタックの真似で作り出した自律思考気弾だが、無論そんなのをブルマ達が知る由もない。

 

「……本当に、いるわけ……」

「な、なんか本当に居そうだぞこれ」

 

 存在感が違う。

 本当に何か神聖なものが住んでそうな雰囲気がある。

 というか周囲の亡霊がまず有り得ない。

 物怖じするブルマとウーロンだったが、悟空が特に何の警戒もなく亡霊に話しかけた。

 

「おいオメェ、ここにドラゴンボールっちゅうんはねえんか?」

『ドラゴンボール……ああはいはい、ありますよ。それでしたら主様がお持ちです』

 

 悟空に話しかけられた亡霊はにこやかに対応し、悟空達を聖堂へと招き入れる。

 どうやら天女とやらは来る者拒まずの性格らしい。

 見るだけで圧倒されそうな聖堂内部を進み、至聖所へと入る。

 その中央、宝座の上に彼女はいた。

 

 年齢は十四前後といったところだろう。

 白……と言うよりは白金とでも言うべき輝く頭髪。

 新雪のような穢れのない肌。

 黄金の瞳はブルマ達の心の奥底まで見通すような不思議な輝きを湛え、身に纏う装束も白一色。

 ロイヤルケープを肩から掛け、ヒラヒラとしたドレスを着こなす。

 スカートはフワリと広がり、まるで妖精を思わせた。

 そして何より、神々しく輝いている。

 淡く、白く発光し光の粒子が溢れている。

 一目で解る……やばい、これ本物だ。

 本物の、神とかそういうのに連なる何かだ。

 さしものウーロンもこれには何も言えず、スケベ心すら発揮出来ない。

 造形が整いすぎていて、何より位階の違いを思い知らされ、性欲すら抱けないのだ。

 そんな初めて見る存在にただ圧倒されるブルマ達に、彼女は静かに微笑んだ。

 

「ようこそ、願いを求める旅人よ。よくぞここまでおいでくださいました」

 

 正直な所ブルマは楽観していた。

 何か凄い人と言われる亀仙人もパッと見ではただのスケベ爺だったし、どうせ今回もそんなオチだろうとタカをくくっていた。

 まさかここまでガチの天女が出て来るとは予想もしていなかったのだ。

 

「あ、あはは……そ、そそその、本日はご機嫌うるわしく……?」

 

 呂律が回らない。

 緊張で舌が麻痺する。

 見ればウーロンもガチガチに固まっており、平然としているのは悟空くらいのものだ。

 そして彼は何の気負いもなく天女へと近付くと、いつものようにその股間を叩こうと手を伸ばした。

 生まれてからブルマと出会うまで女性というものを知らなかった彼は見た目で男女の区別が出来ない。

 だから股に付いているかどうかを確認して男女を確認しようとしているのであり、そこに下心の類は一切ない。

 しかし悟空の手は虚しく宙を空振り、いつの間にか背後へ回っていた少女に逆に頭を撫でられた。

 

「ヤンチャな子ですね。でも駄目ですよ、そんな事しちゃ。本気で嫌がる方だっているんですから」

「えっ!?」

 

 動きがまるで見えなかった。

 その事に驚き、悟空は後ろを振り返る。

 だが居ない。少女は再び宝座の上へと戻っていた。

 

「お、おっでれえた。おめえ妖術使いか?」

「仙術なら使えますが、今のはただゆっくりと動いただけです。鍛えれば貴方でも出来るようになりますよ」

 

 クスクスと楽しそうに笑う少女に驚きが止まらない。

 だがそこで驚いてばかりいないのも孫悟空という少年だ。

 彼はワクワクしたような声で少女へ遠慮なく話しかける。

 

「すっげえ! おめえ強えんだな!」

「ふふ、それほどでもありませんよ」

 

 宝座から浮き、少女は全員を見渡す。

 その表情は変わらぬ微笑だが、機嫌を損ねればどうなるか分からない。

 とりあえず悟空が勝てないのは今ので証明された。

 つまり今までの『いざとなれば悟空が倒してくれる』はここでは通じない。

 

「さて、貴方たちが求める願望の球は確かに私が持っております。しかしこれは使い方次第では世を混沌に導く事も出来る万能の願望器。悪しき者に委ねるわけには参りません。故に問いましょう――汝等、何を求めて龍球を望む?」

 

 氷の瞳が全員を射抜く。

 嘘偽りは認めぬと言わんばかりの視線。

 やばい、とブルマは思った。

 この雰囲気で『素敵な恋人が欲しい』とか凄い言い難い。

 

「オラは特にねえよ。ブルマが付いて来いって言うから来ただけだ」

「無欲なのですね。大変よろしい」

 

 どうやら少女は悟空の事を御気に召したようだ。

 心なしか彼と話す時は楽しそうにしているように見える。

 これ、最初から悟空だけ行かせておけばよかったんじゃないだろうかと思うも、既に後の祭りだ。

 どうしよう、言葉が出ない。

 そうして黙っているブルマとウーロンを見て、少女は不意に表情を緩めた。

 

「――なんて、ね。そう畏まらないで下さい。願いを抱く事は必ずしも悪しき事ではないのです。貴方達に大きな邪心は感じません。ならば、この球を委ねる事も出来るでしょう」

 

 微笑ましいものでも見るように少女はブルマ達を見る。

 言っている事は回りくどいがつまり、ブルマ達に球を預ける事に不服はない、という事らしい。

 白い少女は「しかし」と付け加える。

 

「何の条件も付けないのも味気ありません。そこでどうでしょう。今夜一晩、貴方達の旅の話を私に聞かせて下さいませんか?」

 

 パン、と手を叩きさも名案であるかのように少女が条件を出す。

 圧倒されそうな神聖さに反し、意外と軽い性格をしているようだ。

 無論これを断る理由などない。ちょっと冒険の話を聞かせれば球を譲ってくれるのだから、破格の条件と考えていいだろう。

 ブルマはこの条件に快く頷き、自身が経験したこれまでの旅を語って聞かせた。

 

 

 どうしよう、凄い楽しいし嬉しい。

 リゼットは己が今、ドラゴンボールというかつて見た物語の世界にいる事をかつてなく実感していた。

 孫悟空がいて、ブルマがいて、ウーロンがいる。

 聖堂の外には彼等を尾行してきたらしいヤムチャとプーアルの気も感じ取れる。

 彼等のここまでの旅の話も、既に知っているはずの話だというのに心を昂揚させてくれた。

 どうやら今は牛魔王と出会った後に当たるらしい。

 自分がボールを一つ抱えていた事でブルマが本来所持しているはずだった球が二つから一つに減り、そしてここに来たようだ。

 その願いも何とも欲が無い事で、『素敵な彼氏が欲しい』と来た。

 その程度なら、わざわざドラゴンボールなどに頼らずともブルマなら容易く叶いそうな気がしないでもない。

 美人だしスタイルいいし、資産もあって才能と頭脳もある。

 うん、超優良物件じゃないか。黙ってても男が放っておかないぞこれ。

 

 ウーロンは『ギャルのパンティ』……うむ、何も言うまい。

 まあ『世界中の女をハーレムに入れる』とか言い出さない辺り、根はそこまで腐っていないのだろう。

 ちょっと性に興味が出た小悪党、くらいが限度のようだ。

 放置してもさして問題はあるまい。

 

 悟空に至っては願いなし。

 あえて言うならば『腹一杯飯食いてえ』くらいだった。

 しかしそれはこの場で叶えてやったので実質願いはないに等しい。

 (ただしこれのせいでリゼットが溜めていた食料50人分が消し飛んだ)

 

 原作主人公組だからこそ贔屓した、というのは否定しない。

 実際彼等が主人公でも何でもない見知らぬ誰かだったら、ここまで親切にはしなかっただろう。

 よくも悪くもリゼットは己の欲と好みには正直で、公明正大とはかけ離れた人物なのだ。

 

 

 

 そして翌日、悟空達は再びボール集めの旅へと出発した。

 この先の運命は勿論知っているが、大きく変えようというつもりはない。

 今はただ、黙って傍観者に徹するのみだ。

 

(でもちょっとくらいなら近くで視てもいいですよね?)

 

 

 ――などと謙虚に徹する事など出来るわけもなく、リゼットはこっそりと悟空達の後を尾ける事にした。


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