ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第五十九話 燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦⑤

「もう駄目だ、おしまいだぁ……殺される、みんな殺される……。

逃げるんだあ……勝てるわけがない……」

 

 悟空達の必死の戦い、そして敗北を見届けたベジータは地面に手を突いて絶望の声を漏らし続けていた。

 闘志など湧きあがるはずもなく、それどころか自分よりも強いと認めざるを得ない今の悟空やリゼットすらが容易く倒された事実が一層彼の戦意を奪い取る。

 だがそんな彼の髪をピッコロが鷲掴みにし、強引に起き上がらせた。

 

「何を寝言を言っている! 不貞腐れてる暇があったら戦え!」

「だ……駄目だぁ……貴様には分からないのか。

やはりあいつは伝説の超サイヤ人……俺達が勝てる相手ではなかった……」

「チッ、何がサイヤ人の王子だ!」

 

 ピッコロはベジータへ軽くない失望を感じていた。

 身勝手で気に食わない奴ではあったが、それでも戦闘におけるその天才性は認めていたのだ。

 だというのに今のこいつは何だ?

 少し敵が強ければそれで諦めるのか。戦いすらしないのか。

 戦闘を好む全宇宙最強の一族は一体どこに消えたのだ。

 結局のところ、ベジータが望んでいたのは『闘い』ではなかったのだろうか。

 求めていたのは『気持ちのいい勝利』だったのか?

 勝敗の分からない闘争に身を委ねる気など最初からなく、恐怖が鎌首をもたげればそこで戦闘を放棄してしまう……その程度のプライドでしかなかったのか、と失望した。

 だからピッコロはわざと聞こえるように舌打ちをし、ベジータの髪を掴んだまま空を飛んだ。

 本人の意思など関係ない。折角納まりかけていたものを無理矢理ここまで引っ掻き回したのはこの男だ。

 ならば戦いぐらいはして貰わなければこちらの気が済まないのだ。

 

「はっ、放せぇ……!」

 

 口では抵抗するものの、身体は相変わらず動かない。

 とことん恐怖で力が抜け切っている王子を運び、ピッコロは再び戦場へと向かって行った。

 

 

 ブロリーに敗れたリゼットへと止めの気弾が迫る。

 今のリゼットにはもう、それを防ぐ力すら残っていない。

 だが、このまま彼女の命を奪うかと思われた気弾は横から割り込んで来た別の気弾によって弾き飛ばされて、遠くで爆発してしまった。

 一体どこの誰が邪魔をしたのか……忌々しく思いながらブロリーが気弾の飛んできた方向へと目を向け、視線を少しずつ上へ移動させながら邪魔者を探す。

 それがいたのは廃墟の中でも一際高い塔の上、針のように尖った最頂部の上だ。そこで緑色の異形が腕を組んで佇んでいた。

 

 リゼットが止めを刺される直前に割り込んだのはセルであった。

 彼は腕を組んだまま地面に着地し、余裕の笑みを浮かべたままリゼットを護るように立ち塞がる。

 その姿を前にブロリーもまた余裕を崩さない。彼からしてみれば雑魚がいくら増えようが同じ事でしかなく、一番面倒臭かった女が倒れた今、気にする程ではないのだ。

 

「また一匹虫ケラが死ににきたか」

「なるほど……これはまた、話に聞く以上の化物のようだ」

「俺が化け物? 違う、俺は悪魔だ」

「ふふ。では君が私のウォーミングアップを手伝ってくれるのかな?」

 

 セルが腕組みを解き、ブロリーが笑みを崩さぬままそれを見る。

 それは余裕であり、油断だった。

 一瞬にして姿を消したセルがその油断を突いてブロリーの前へと現われ、肘打ちを顔面へと叩き込む。

 

「はあああああッ!!」

 

 蹴る、蹴る、殴る、蹴る、突く!

 目にも止まらぬ速度でセルの連撃がブロリーへ入り、その身体を後方へと押しやった。

 ダメージは浅く、だがゼロではない。

 それは幾万分の一のダメージに過ぎぬものでしかないが、それでも確実にダメージが通っているのだ。

 ブロリーはその事に気付き、初めて『敵』が現れた事を理解した。

 

「フフフフ、そうこなくちゃ面白くない!」

 

 ブロリーが表情を好戦的に歪め、お返しとばかりに殴りかかった。

 だがセルは、まるで先ほどまでのリゼットのようにブロリーの豪腕を流して避ける。

 そればかりか絶妙のタイミングでカウンターを入れ、そこから更に流れるように拳を連撃で叩き込んできた。

 

「ヌウ!?」

「確かにパワーは大したものだ。だがテクニックが伴っておらん」

 

 セルの蹴りがブロリーの顎を跳ね上げ、今度は足を振り下ろしての踵落とし! ブロリーの頭部へ踵をめり込ませ、着地と同時に右脚を軸に回転。

 加速を乗せた左の回し蹴りを横面へ放ち、ブロリーのラリアットを残像で避けた。

 今度は背後! 後ろから気弾を放ち、背中で連鎖爆発させる。

 ブロリーが振り向いた時にはもうおらず、またも背後へ回りこんでいる。

 

「“剣よ在れ”!」

 

 セルの掛け声と同時に空に顕現するのは百を超える気の刃だ。

 リゼットが得意とする気の固定化を用いて生み出した剣の雨を降らし、ブロリーを埋め尽くす。

 

「かめはめ波!!」

 

 そこに追撃。

 両手に集約した気の奔流でブロリーを呑み込む。

 現時点においては悟空のそれすらも上回る超出力の一撃だ。

 その威力は星の表面をも削り、地形すらも変化させる。

 だがかめはめ波が終わると同時にブロリーが煙の中から姿を現し、セルの頭を掴んだ。

 

「ぬおっ!」

「何なんだあ? 今のはあ?」

 

 避けようのない姿勢に持ち込んでからのアッパーカット!

 セルは回避不能と判断するや頭の核を素早く下半身へと移動させ、直後に頭部が破砕された。

 飛び散る破片。紫色の血液。

 だが吹き飛んで行った頭なしのセルは空中で一回転して着地すると、何事もなかったかのように頭を再生させた。

 

「ふふふ、残念だったな。生憎私にはピッコロの細胞も入っていてな……この程度では死なんのだよ」

「屑が……」

「とはいえ、流石の強さというべきか。このままでは私が不利だな」

 

 セルは両手をクロスし、気を高める。

 全身を青白いスパークが包み、惑星全体がセルのパワーに呼応して震える。

 ――解放。

 今までよりも更に強烈な輝きがセルを包み、スパークが迸る。

 サイヤ人で言うならば超サイヤ人2、とでも言うべき壁を完全に越えた先の位階。

 今、セルは強さのギアをそこまで上げたのだ。

 この状態のセルにあえて名を付けるならば、パーフェクト・セルとでも呼ぶべきだろうか。

 

「さあ始めようか! 素晴らしい戦いを!」

「ウゥオオオオオオ!」

 

 セルとブロリーが同時に飛び出す。

 パワーと気の強大さは依然ブロリーが勝る。

 だがセルには速度と、リゼットの細胞から得た技術がある。

 それはまさしく暴力と武の闘い。力と技の闘い。

 一つ上の位階の戦いが、倒れているリゼットの前で展開され、両者の拳と蹴りが残像を残して幾度も交わされる。

 打撃音が後から響き、そして両者の姿が消えた。

 

「ウオオオオオオオ!!」

 

 ブロリーの雄叫びが響き、空が揺れる。

 

「ぶるうわあああああ!!」

 

 セルの咆哮が木霊し、空が爆ぜる。

 

「「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」

 

 二人が叫び、姿を現すや空の上で雷すら発生させながらの攻防を繰り広げた。

 戦いの余波だけで建物が崩れ、ブロリーの空振りだけで大地が割れ、セルの空振りで雲が吹き飛ぶ。

 セルの攻撃は技と手数。熟練の技能と常軌を逸した速度で攻撃に攻撃を重ね、ブロリーの耐久の上から強引に削り続ける。

 ブロリーの攻撃は純粋な暴力。技など知らぬし要らぬ。どれだけの過程を経ても一撃が当たればそこで勝負を引っくり返す。

 たとえ再生をしてもダメージを消せるわけではなく、セルの再生力の上から強引に命を削る。

 

「はあああッ!」

 

 セルが更に加速し、緑の閃光と化してブロリーを滅多打ちにした。

 上下左右前後! あらゆる箇所からセルが飛来し、攻撃を加えて離れていく。

 ブロリーが反撃した時にはもうセルはおらず、また閃光が奔ってブロリーを打つ。

 更にセルは一度空中で止まると、己の身を4つに分裂させた。

 天津飯の技である『四身の拳』だ。

 その技は本来、己を4つに分ける代わりに戦闘力も4分割されてしまうという重大な欠陥を持つ。

 だがセルはその欠陥のみを解消し、術者本人よりも完璧に技を使いこなしていた。

 つまりデメリット無し。力を落とす事なく万全の力を持ったセルが4人現れたのだ。

 四条に増えた閃光が縦横無尽に翔け巡り、ブロリーを四方八方から攻撃する。

 これぞまさに数多の細胞を結集したセルだからこその戦いだ。

 孫悟空のパワーとスタミナ、俊敏性。孫悟飯のセンス。ピッコロの再生力。天津飯の技。

 そしてリゼットの武と超能力。

 その全てを高次元で兼ね備え、欠点は解消済み。あらゆる点において穴はなく、まさに完璧と呼べる戦闘バランスを誇っていた。

 

「太陽拳!」

 

 セルのうちの一体が眩い光を放ち、ブロリーの視界を塞ぐ。

 その隙を狙い三体のセルが同時に指先を立てて気を集中させた。

 

「魔貫光殺砲!」

 

 螺旋を描きながら直進する魔の輝きが三つ、全く狙いを違わずにブロリーの胸へと着弾した。

 だが貫けない。余りに強固過ぎる筋肉の壁が閃光を阻み、心臓へとダメージを伝えない。

 セルは小さく舌打ちをすると再び閃光と化し、ブロリーを強襲した。

 四体のセルの連携はまさに完璧だった。

 全てが自分だからこその阿吽の呼吸。息のあったコンビネーション。

 ブロリーが攻撃すれば、攻撃対象から外れているセルが妨害して攻撃を逸らし、攻撃対象のセルは平然とカウンターを決める。

 ブロリーが何もしなければ4体で怒涛の連撃を叩き込み、更にブロリーを追い詰める。

 その見事な戦いぶりにベジータを運んできたピッコロは呆然とし、ベジータの髪を掴んだまま戦いに魅入っていた。

 だがブロリーを恐れるベジータは恐れているからこそ、一つの事実に気付く。

 

「だ、駄目だ……やはり勝てない……逃げるんだ……」

「どこへ逃げても同じだ。奴を倒さん限りこの宇宙に未来はない!」

「分からないのか? や、奴の気は落ちていない……それどころか上がり続けている……。

やはり伝説の超サイヤ人……勝てっこない」

「そこまで性根が腐っていたとはな! 消え失せろ! 二度とその面見せるな!」

 

 ベジータはもう駄目だ。

 ピッコロはそう悟り、ベジータから手を離して捨てた。

 そして悟空達を救うべく、仙豆を握り締めて飛翔する。

 勝てる勝てないではない。例え勝てないと分かっていても挑まねばならない時があるのだ。

 そのピッコロの背を見ながらベジータは考える。

 

(何故なんだ……何故あいつらは奴に立ち向かうんだ……。

勝てるわけないのになぜ戦うんだ……何故……)

 

 ベジータの消えかけていたプライドの炎。

 それが今、ゆっくりと点火されようとしていた。

 

 

 

「ぐ、う……いつつ……っ。

お、おい、神さんよ、生きてるかい?」

 

 セルがブロリーと戦っている時、リゼットの元にはようやく歩ける程度まで回復したターレスが現われていた。

 彼もまたサイヤ人。打たれ強さは並ではない。

 だが決して打たれ強いわけではないリゼットは返事をする事も出来ず、その瞼は固く閉じている。

 ターレスは彼女を抱えると、その腕に指を当てて脈を測った。

 

「気は感じられる……傷も大分治っている……しばらくすりゃあ復帰できそうだな」

 

 空ではまだセルとブロリーの戦いが続いているが、ターレスは既に勝敗が見えてしまっていた。

 このまま続けばやはり勝つのはブロリーだ。

 セルは確かに再生能力は凄まじいが、別に失った気や体力を急速に回復出来るわけではない。

 『不変』の細胞のおかげで自然回復力は桁外れなはずだが、それでも体力や気の消耗は存在する。

 一方のブロリーは……まるで減っていない。

 それどころか戦闘が続けば続くほどに気が溢れている。

 

「このままじゃあ折角出てきた希望の芽が全部パァだ。

かといって俺じゃああいつに勝てそうもない。

……頼むぜ神さんよ。あんただけが頼りだ」

 

 未来においてリゼットはあの化物と刺し違えたという話を聞いた。

 それはつまり、リゼットには僅かながら勝利の可能性があるという事だ。

 恐らくはダメージが通るまでに互いの戦力差が接近すれば、手段はあるはず。

 ターレスはその可能性に賭ける事にした。

 故に、今まで持っていた最後の『それ』をここで使う決意を固める。

 

「なあ新惑星とやらよ。お前だって嫌だろう?

あんな髭の親父に利用されて星のエネルギーを吸い上げられて、そんで戦場にされた挙句最期はグモリー彗星の衝突でお終いってなあ。

その前に一花咲かせてみろや」

 

 ターレスはそう言い、指で種を弾いて地面へと植えた。

 名を神精樹の実。本来は“神様だけが食べる事が出来る実”だ。

 ターレスは過去にそれを使う事で力を高めてきたが、今回使うのは彼自身ではない。

 神精樹の実の本来の使用用途に使う気なのだ。

 こんな痩せた星のエネルギーなどたかが知れているかもしれないが、それでも生物が住める惑星というだけでも充分な宝だ。

 そして自分が使うよりはまだリゼットに使った方が可能性がある。

 

 ターレスが撒いた最後の種。

 それはリゼットの近くに植えられる事で彼女の気に触れ、そして爆発的な成長を始めていた。




ピッコロ(…………。
気のせいか? 手を離した一瞬、ベジータの顔が大きくなったような気が……)

【戦闘力】
・パーフェクトセル×4
最大パワー:400億

ブロリー:14億→14億5千万
伝説の超サイヤ人:1450億
「気が溢れる……高まる……」

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