ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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この時代には、悟空がいる


第六十一話 燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦~BROLY~

 もっしゃもっしゃと咀嚼し、ゆっくりと飲み込む。

 味は悪くない。やや酸味が強いが充分に食べれる味だ。

 しかし今までに食べた覚えのない果物であり、リゼットは地面に倒れているターレスを見る。

 正直なところ状況はまだ把握出来ていない。

 目が覚めたら何故かターレスに果物を押し込まれていた。意味がわからない。

 とりあえず喉に詰まりそうだったので反射的に食べてしまったが、とりあえず毒などの類ではないようだ。

 

「で、ターレス。これは一体何の真似ですか?」

「へへ、そう怒るなよ。別に毒じゃねえさ」

「それは解りますが、もっと食べさせ方というものがですね……というか何故戦闘中に人の口に果物を放り込んでるんですか、貴方は」

「何だ? 口移しでもして欲しかったのか?」

「……どうやらクリリン君と同じヘアスタイルにされたいようですね」

「やめろ!?」

 

 リゼットは指先に気の刃を生み出してターレスを脅した。

 まあ実際のところ口で言っているだけで本当にやる気など全くないが、相手からは解るまい。

 ターレスはガシガシと頭を掻きながら、リゼットに食べさせた物の正体を言う。

 

「神精樹の実だよ」

「え?」

「だから神精樹の実を食わせた。ついでに仙豆もな。

あんたがその実を好まないのは知ってるが、どうせグモリー彗星の衝突で消えちまう星だ。

ならせめて、その力だけでも使った方がまだこの星も浮かばれるだろう」

「……だからって」

「そう言うな。せっかくこの星が力を振り絞ってくれたんだぜ。

俺も初めて見たよ。神精樹が僅か数分で育ち、たった一つの実に全ての力を凝縮させるなんて光景はよ」

 

 ターレスはリゼットの肩に手を置き、視線を合わせて語る。

 

「この星も叫んでるのさ。このままじゃ終われねえってな」

「…………」

「見せてやれよ。パラガスの奴が最低の星と呼んだものの底力を、アンタがよ」

 

 ターレスに言われ、リゼットは目を瞑る。

 リゼットは正直に言って神精樹という物が大嫌いだった。反吐が出るとすら思う。

 神しか口に出来ないというが、神なら星を食べてもいいのか?

 そこに多くの命が住み、必死に生きているのに神というだけで喰い物にして許されると?

 その傲慢さが大嫌いだった。

 星は神の物などではない。そこに住む生き物達のものだ。

 だからこそ、それを自らが口にしてしまった現状は決して気分のいいものではない。

 どうしても勝ちたいというターレスの気持ちは解る。勝たなければ未来はないのだから手段も選んでられない。それも解る。

 彼を責める事など出来ない。彼はただ、今出来る最善を尽くしただけだ。

 ならばどうすればいい? どうすれば自分が喰らってしまったこの星に報いる事が出来る?

 

「……そう、ですね。せめてこの星に代わり、私が戦いましょう」

 

 パラガスはこの星を最低の惑星と呼んだ。

 だが違う。そうではないのだ。

 何故ならこの星は生物が生活出来る環境がちゃんとある。

 空気があって、確かに文明が存在していた名残がある。

 ならばそれだけで宝だ。宇宙の奇跡なのだ。

 生き物を育む事が出来るこの星が最低だなんて事は断じてない。

 破壊するだけのブロリーには決して解らない。命を産み、育む力の偉大さなど。

 ならば……この星に代わりそれを教えてやろう、とリゼットは思った。

 そうする事できっと、命の全てを神精樹の実に委ねてくれたというこの星に報いる事が出来るから。

 そうする事でしか報いる事が出来ないから。

 

「行きましょうターレス。絶望の未来をここで食い止めます」

「ああ! そうこなくっちゃあな!」

 

 リゼットの身体から光が溢れ、翼を羽ばたかせて飛翔する。

 この戦い、何としても勝つ。

 その決意を胸に、二人は絶望を超えるべく飛んだ。

 

 

「遂に来た。この星も後数時間の命だ」

 

 新惑星ベジータがまさに終焉を迎えようとしていたその時、パラガスは一人高台の上で迫り来るグモリー彗星を見ていた。

 当初の予定では今頃ブロリーと共に脱出しているはずだったが、もうそれは叶わない。

 コントロールから離れたブロリーはただの破壊者であり、パラガスの思想とは相容れないのだ。

 支配するべき惑星すら壊してしまうのではどうしようもない。

 つまりは足手纏い。生きてても邪魔になるだけの存在だ。

 グモリー彗星だけではない。この星は神精樹に力の全てを託したことで急速に『死』へと向かっていた。

 惑星は凍え、まるで氷河期でも訪れたかのように世界が氷で覆われ始めている。

 

「コントロールの利かなくなったお前は、もはや俺の足手まといになるだけだ。

可哀想だがブロリー、お前もこの星と共に死ぬのだ」

 

 パラガスは万一の時でも自分だけは逃げられるように、あらかじめ用意していた小型ポッドへ乗り込む。

 それは一人乗り用のものであり、誰かと逃げる事を想定したものではない。

 もしも不測の事態が起きて宇宙船が壊れるなりしても自分だけが逃げ切れるようにと配置しておいたものだ。

 実際、大きい方の宇宙船は地球人達が乗って逃げてしまったので、この対策はまさに正解だったのだろう。

 だが正解が必ずしも命を救うとは限らない。

 宇宙船に乗りこんだパラガスが見たのは、こちらに向かって歩いてくる息子の姿だった。

 

「どこへ行くんだあ?」

「お、お前と一緒にぃ……避難する準備だぁ!」

「一人乗り用のポッドでかぁ?」

 

 慌てて吐いた言い訳は余りに苦しく、どう見ても一人乗り用のポッドに乗り込みながら『一緒に避難する準備』などと言って誰が信じるものか。

 いくらブロリーの賢さが足りずとも、流石にこれでは騙せない。

 ブロリーはポッドを掴んで持ち上げると、その人外の膂力任せにポッドを潰していく。

 中にいるのは仮にも彼の実父だがブロリーは気にする素振りも見せない。

 それも仕方のない事だろう。この信頼関係の無さこそが今までパラガスが築いてきたものなのだから。

 

「どおお、おぉぉぉ……!? 自分の、子供に殺されるとは……。

これもサイヤ人のさだめか……」

 

 その言葉を最期にパラガスは圧死した。

 ブロリーが吼え、圧壊したポッドをグモリー彗星へと投げ捨てる。

 消えていく父の棺桶を見ながらブロリーは蔑むように吐き捨てた。

 

「この俺が星の爆発くらいで死ぬと思っていたのか?」

 

 これでこの星で動く者は自分以外にいない。

 そう確信したブロリーだが、直後に誰かの気配を感じて振り返る。

 そこには先ほど確かに倒したはずの白い少女が佇んでおり、隣にはカカロットそっくりの紛らわしいのも立っていた。

 

「仮にも自分の父だったものをああも躊躇なく殺しますか」

「子が親を殺す、それがサイヤ人だ」

 

 ブロリーの非道をリゼットが咎め、ターレスはごく自然なものとして受け入れる。

 捉え方は全く異なる二人だが、しかしここに立つ目的は共通していた。

 即ち、ブロリーの撃破。

 彼をこのままにはしておけない。

 そしてその想いは二人だけではない。

 孫悟空もまた、譲れぬ想いを抱いて満身創痍ながらこの最後の戦場へと馳せ参じる。

 何というか、本当にどこまでも打たれ強い男であった。

 

「奴だけは、このまま生かしちゃおけねえ」

 

 悟空がオーラを纏い、ブロリーへと歩みを進める。

 神精樹の実によって力を増したリゼットがバーストリミットを100倍まで解放し、ターレスが構えを取る。

 

「フッ、大人しくしていれば痛い目に遭わず済んだものを!」

 

 ブロリーが地面を砕いて突進。

 それと同時にリゼットが飛び出し、彼の豪腕を掴んで引き寄せた。

 体勢を崩されたブロリーは無防備な姿を晒し、そこに星の力でブーストのかかったリゼットが猛攻を仕掛ける。

 指突! 掌打! 手刀! 拳打! 裏拳!

 聖門! 天倒! 烏兎! 霞! 上晴! 人中!

 

「……っ!!」

「はあっ!」

 

 顔面の急所を狙い打ちにされた事で怯んだブロリーの指を掴む。

 そして合気。指という身体の末端を支点として彼の身体を投げ飛ばした。

 すぐにブロリーも反撃に転じるが拳を掻い潜ってリゼットの指突が喉にめり込む。

 

「おいカカロット。俺達のどっちが行っても勝負にゃならねえ。

俺に残されたパワーをお前にくれてやる」

「ああ。パワーをくれ。奴を倒せるパワーを!」

 

 ターレスが自分に残された最後の気を悟空へと委ねる。

 それと同じくして悟飯、ピッコロ、トランクス、ナッパが悟空へと気を送り込み、悟空が力強さを増した。

 最後に意地を張っていたベジータも流石に今回ばかりは責任を少しは感じているのか、渋々悟空へと気を受け渡す。

 すると五人のサイヤ人から流れてきた気が悟空の周囲で円を描くように取り巻き、悟空の中へと取り込まれた。

 そして悟空は、まるで界王拳でも発動しているかのような赤いオーラを発し始める。

 今まで見た事のない……そしてリゼットも知らない超サイヤ人だ。それどころか今の悟空は僅かではあるがリゼットと同じ神の気を発している。

 もしも――もしもこの時、五人のサイヤ人が全員善の心を持っていたならば。悟空の近くで手を繋ぎ、よりダイレクトに気を送り込んだならば。ナメック星人であるピッコロの気が紛れていなければ。

 あるいは悟空は、『神の領域』へと踏み込めていたのかもしれない。

 セルの気も流れてきているが、こちらはどうやらリゼットへ譲渡しているようだ。

 

「カカロット……それは……」

「分かんねえ。だが、これならいけそうだ!」

 

 皆からパワーを受け取り、手応えを感じて悟空が走った。

 そしてブロリーと掌を握り合って力比べの体勢へと入る。

 

「雑魚のパワーをいくら吸収したとて、この俺を超える事は出来ぬう!」

「そうかな? やってみなきゃわかんねえ!」

 

 悟空がその状態から膝蹴りを放つ。

 すると顎を蹴られたブロリーがよろめき、歯を食い縛った。

 効いている――先ほどまでのまるで鉄を叩いているような感触ではない。

 戦闘力が近付いた事で、ようやくブロリーへ攻撃が届くようになったのだ。

 

「だありゃああ!」

 

 悟空の蹴りが炸裂し、ブロリーの巨体を吹き飛ばす。

 神精樹に力を吸われた事で急速に凍え、氷河期のような有様となってしまった新惑星ベジータの地表をブロリーが飛び、その後を悟空とリゼットが追った。

 

「行きますよ、悟空君!」

「ああ!」

 

 多くを語る必要はない。目的は一つ、あの悪魔を倒す事のみ。

 二人は同時に気を爆発させて加速し、ブロリーへと肉薄した。

 ブロリーは咄嗟に、そして恐らくは生涯初だろう防御の姿勢を取った。

 無意識下の行動だったのだろう。意識して行ったものではあるまい。

 だがその行動こそ、ブロリーが二人を『強敵』と認めている何よりの証であった。

 

「だありゃりゃりゃりゃ!」

「はああッ!」

 

 悟空の拳が、蹴りが。リゼットの掌打が、脚が。

 ガードの上から強引にブロリーを追いつめ、傷付けていく。

 ブロリーもやられてばかりではない。ガードしたまま気を解放して、その圧力で二人を弾き飛ばした。

 だが悟空とリゼットは空中で回転して着地し、同時に地面を蹴って加速。ブロリーへ拳と掌打を叩き込む。

 大地を砕きながらブロリーが後ろへ飛ばされ、その後を二人が追う。

 悟空とリゼットの同時攻撃が幾度も入るが、ブロリーもダメージを負いながら反撃していた。

 二対一でも尚互角。尚退かぬ。

 その圧倒的な怪物性と膂力で悟空の頭を掴んで投げ、続けてリゼットを拳の風圧だけで飛ばす。

 だが悟空が素早く地面に着地し、飛ばされて来たリゼットの腕を掴んで回転。

 遠心力を乗せてブロリーへ投げ返した。

 投げられたリゼットも悟空の意図を読んで、加速を上乗せした蹴りをブロリーの顔へめり込ませる。

 続けて悟空が距離を詰めてブロリーの足元を蹴り払い、体勢を崩したブロリーの頬をリゼットが抓るように掴んで地面へ叩き付けた。

 

「っおおォ!」

 

 それでも歯を食いしばってブロリーが立ち上がり、拳を繰り出す。

 その一撃を悟空がクロスした腕で受け止め、その隙を狙うようにリゼットが横からブロリーを蹴り飛ばした。

 間髪を入れずに悟空が気弾の嵐を打ち込み、リゼットの飛ばした気円斬がブロリーの左胸を裂いて血飛沫を上げた。

 更にもう一撃――近付いてきた悟空の拳が胸を抉り、ブロリーの左胸に十字の傷が刻み込まれた。

 続けてリゼットが光の剣を手に接近して斬撃の嵐を放ち、ブロリーの全身に斬痕を刻む。

 だがこれでもまだ浅い。彼の命にまでは届かない。

 ブロリーは全身を血で染めながらも『最強』の誇りで二人を睨む。

 

「オオオオオオオオオッ!!」

 

 吠える。

 戦えば戦うほどに強くなり、成長するのがサイヤ人だ。

 そして伝説の超サイヤ人であるブロリーはその特性を誰よりも強く持っている。

 彼の中にある無限と呼んでも過言ではない可能性が、このまま終わる事をよしとするはずがない。

 前髪が逆立ち、全身からスパークが迸る。

 この期に及んで、まさかの覚醒であった。

 まさに伝説の怪物――その果てのない強さに、悟空とリゼットの背筋が凍える。

 

「おめえ……まだ上があんのか!?」

「グギィィ……カカロットオオ!!」

 

 悟空達にとって幸運だったのは、ブロリーに尻尾がなかった事だろう。

 もしも尻尾が残っていれば、この可能性の怪物は大猿のパワーすらも取り込んで『神の領域』すらも超えてしまっていたかもしれない。

 だが、どのみちブロリーが怪物である事に変わりはない。

 土壇場でパワーアップを遂げたブロリーが悟空へと突撃して彼の頭を掴み、氷壁へと叩きつけた。

 

「ぐああああっ!」

「悟空君!」

 

 悟空を氷壁にぶつけながら走る。

 それはまるで、悟空で氷壁を削るような荒々しい攻撃だ。

 それが終わってもまだブロリーの攻撃は続く。

 今度は悟空の足を素早く掴んで地面へ叩きつけ、次は半円を描くように反対側へとまた叩きつけた。

 それを数度繰り返してから悟空を捨て、リゼットへ振り向き……口から巨大な気功波を発射した。

 

「くっ……!」

 

 それを舞うように避け、飛翔。

 ブロリーの背後へと着地し、まだ気功波を吐き続けている彼の背中へ気の刃を次々と叩き込んだ。

 しかしブロリーの筋肉の壁を突破する事は出来ず、突進してきたブロリーに顔を掴まれて地面に叩き込まれた。

 しかし次の瞬間、ブロリーの手の中のリゼットが爆発して視界を隠す。

 ブロリーが掴んだのは気で生み出した自律行動気弾――つまりは偽物だ。

 本物は残像拳の応用で既に上へ退避しており、指を頭上へ掲げて巨大気弾を生成していた。

 

「はあッ!」

 

 白い流星が急降下し、その途中で弾けて百を超える閃光と化した。

 その光景はまるでレーザーの雨だ。

 貫通に特化させた幾百ものレーザーがブロリーを襲うが、ブロリーはその全てをバリアで遮断している。

 そのまま浮上して、己を中心として気弾を四方八方へとばら撒き始めた。

 高まり、溢れた気を余す事なく発散して新惑星ベジータ全土を爆撃機のように攻撃する。

 氷で覆われていた惑星が瞬く間に焦土と化し、そればかりかマグマに覆われた惑星へと変貌してしまった。

 もはや新惑星ベジータはグモリー彗星の衝突を待つ必要もなく、いずれ自壊してしまうだろう。

 

「ヌオオ!」

 

 ブロリーがリゼットへ急接近し、胸筋で気を爆発させた。

 その予想外の攻撃にリゼットが吹き飛ばされ、追撃しようとした所で横から悟空がブロリーを蹴る。

 怯む事なく悟空を殴り飛ばせば、次はリゼットがブロリーへ気の刃を打ち込み、それを弾いたら次はまた悟空が殴りかかってくる。

 弾かれても弾かれても、それでも二人は諦める事なくブロリーへ挑み続ける。

 左右から悟空とリゼットが猛攻を仕掛け、ブロリーも負けじと応戦して打撃音が幾度となく響き、衝撃波が拡散する。

 

「ヌウウ……死にぞこない共があ!」

 

 ブロリーの額に青筋が浮かび、鬱陶しい二人を纏めて消そうと今まで以上の気を両手に込めて解放した。

 緑色の激流が迫る中、悟空は咄嗟に跳んで回避し、リゼットは逆に前進しながら紙一重で気功波を避けた。

 そのまま掌に気を集めてブロリーの気功波に触れ――気功波の側面を滑った(・・・)

 そうして攻撃中の無防備なブロリーの目の前まで移動してから速度を落とさずに前方へ跳び、ブロリーとすれ違い様に彼の耳孔に気の形状変化で創り出した細い糸を入れた。

 超能力による操作で内耳を絡め取り、そのまま速度と勢いを落とさずに跳ぶ。

 すると、糸でがんじがらめにされた内耳はズタズタに破壊され、耳から血が溢れた。

 ブロリーがすぐに反撃の気弾を撃つが当たらない。

 平衡感覚を失った身体で繰り出す気弾は正常に敵を狙う事も出来ずに明後日の方向へと飛んでしまう。

 その隙を逃さずリゼットが手を翳してブロリーを気合砲で弾き、その先にいた悟空が彼を渾身の力で殴り飛ばした。

 ブロリーは空中で回転して着地するが、ダメージの深さから膝を突いてしまう。

 

「な、なんて奴等だあ……!」

 

 足をガクガクと揺らしながらブロリーは初めて敵を恐れた。目の前に迫っている『敗北』をかつてないほどに近くに感じていた。

 だがそれでも敗北は受け入れない。

 最強でなくてはならないのだ。

 誰がそう決めたわけではない。ただ、最強の存在として生を受けたのだから、敗北だけは許容してはならない。

 それがブロリーの誇りであり、だからこそカカロットが許せなかった。

 生涯最初で最後の、あの『敗北』を払拭しなければいつまで経っても前へ進めない。

 悟空にとっては覚えてすらいない赤子の時の出来事なのだろう。

 だがブロリーは覚えている。忘れられない。だから悟空に執着し続ける。

 

「カカロットォ……カカロットォォォォォ!!」

 

 彼もまた覚悟を決め、最後の決戦に臨むべく全身の気を振り絞った。

 内耳を破壊されて満足に立てぬはずの身体でありながら、しかし構わずに飛翔して突撃を敢行する。

 それに対し応戦するのは悟空だ。

 彼もまたブロリーに劣らぬ気を纏って突進し、正面から迎え撃つ。

 その後ろではリゼットの放出する気が光の柱となり、空へ飛びあがった彼女が翼を広げた。

 白い翼が舞い散り、頭上で組み合わせた両手に光が集約する。

 

「ウオオオオオオオオオッ!!」

「許さねえええええええッ!!」

 

 ブロリーと悟空の拳が交差する。

 瞬間、ブロリーの脳裏を過ぎったのは忌まわしき赤子の頃の記憶。

 生涯全てが勝利で彩られるはずだった彼に与えられた人生最初の屈辱と敗北。

 最強のはずの己に刻まれた、消えない傷跡。

 その日の記憶が今再び牙を剥き、赤ん坊の頃の決着が今果される。

 ブロリーの気が更に強まり、眉毛が薄くなる。

 頭髪が少しずつ伸び、更なる覚醒の兆しを見せ――。

 

「オラの全てをこの拳に賭ける――貫けーーーーッ!!」

 

 それより先に悟空が叫び、己の中に眠る力を解放した。

 この時、ナッパから与えられた気が悟空に一つの変化を齎していた。

 かつて超神水を飲む事によってナッパは大猿のパワーを自在に引き出せるようになったが、大猿と超サイヤ人の併用は一瞬しか彼には出来なかった。そこが彼の戦闘センスの限界だったのだ。

 だがそのパワーに意味はあった。悟空へと気を渡す事により、ナッパのバトンが悟空へと受け渡されたのだ。

 瞬間、ブロリーは確かに見た。

 悟空の背後で吠える、黄金の大猿の幻影を。

 その幻影は形を変え、黄金の龍と化してブロリーへと迫る。

 果たしてそれは夢か幻か……しかしサイヤパワーを最大にまで高めた拳は夢ではなく、ブロリーの腹を貫いた。

 

「カカロッ……トォ……!!」

 

 己のまさかの敗北にブロリーが叫ぶ。

 だがそれでも、彼ならばまだ生き残る目はあった。

 致命傷を受けた身体でも尚、この常識外れの化物ならば生き延びて力を増し、再び地球に来たかもしれない。そんな未来もきっとあったのだろう。

 だがそんな事は彼女が許さない。

 地球の神たる少女が、復活など認めはしない。

 

「Raging blast!!」

 

 白の極光が空から一直線に降り注ぎ、ブロリーへ直撃する。

 ここで終わらせる。復活などさせない。

 そう告げるかのような神の裁きがブロリーを焼き尽くし、雷光を迸らせる。

 

「波アァーーーーッ!!」

 

 畳みかけるように悟空もかめはめ波を発射。

 二発の気の激流が手を焼き、足を消し、身体の細胞一つすら残す事なく消し去っていく。

 そして最後に大爆発。ドーム状の爆発が広がり、最後の止めを刺した。

 

「ばぁぁぁかぁぁぁなあああぁぁぁ!!」

 

 最強のサイヤ人の断末魔が響き渡る。

 未来の世界はこの男によって破壊し尽された。

 彼こそが悪夢の象徴だった。

 だが今ここに未来は変わり、絶望は消えていく。

 未来とこの時代は違う。

 この世界は決して絶望などに負けたりはしない。

 

 何故なら――そう、何故なら。この世界には孫悟空がいるのだから。

 

「オラ達のパワーが勝ったああああ!」

 

 その勝利の雄叫びは、確かに仲間達全員の耳へと響き渡った。 




『どんなにとんでもない事が起きても必ず何とかしてくれそうな……そんな不思議な気持ちにさせてくれる人なの』
・未来ブルマ

『地球には悟空がいる』
・ドラゴンボール超ブロリー ポスター

『よい子のみんな、よぉ~く見ておけ。宇宙の中で最もイイゾォ! なバーダックの倅のカカロットでございます』
・パラガス

・ブロリーの尻尾
設定画によるとあってもなくてもいいですと書いてあり、旧ブロリーはどこにも尻尾が見えないので、このSSでは無いという方向で書いてます。
バイオには生えていますが、ブロリーはまあ、パラガスが抜いたとかで。


【戦闘力】

・リゼット:3億5000万→5億5000万
バーストリミット:275億
バーストリミット(100倍):550億
セルからの気の譲渡:950億
※神精樹の実により器が拡大。バーストリミットの100倍にも30秒くらいなら耐えられるようになった。
※気の譲渡による強化は一時的なもので、次回からは計算に含まれない。

・孫悟空:3億2000万
超サイヤ人:160億
不完全ゴッド:1000億
龍拳:2440億
※ナッパからの気の譲渡を切っ掛けに悟空が龍拳を習得しました。
効果:攻撃の瞬間のみ戦闘力10倍
(不完全ゴッドは悟空自身の力ではないので倍加の計算に含まれない。160億×10+仲間の気(840億))
※不完全ゴッドは一時的なもので、次回からは計算に含まれない。

・ブロリー:15億
伝説の超サイヤ人:1500億
伝説の超サイヤ人2:3000億
ダメージによる戦力低下:1800億


Q、何か最後ブロリー、3になりかけてなかった?
A、なりかけてましたが、悟空の龍拳のダメージで変身失敗しました。

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