ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第六十七話 青い風のHOPE

 トランクスに伝えられた敵のうち、人造人間、メタルクウラ、ブロリー、ハッチヒャックとの戦いは終わった。

 ボージャックもついでに倒してしまったので、これでしばらく地球の脅威となる敵は出ないだろう。

 まだバビディ一党やヒルデガーンなどは七年後に出て来るはずなのでとりあえずは落ち着いたと見ていい。

 ブロリーも完全に消し去ってしまったので再登場やバイオブロリーの登場もないだろう。

 つまり魔人ブウさえ復活させなければ後はヒルデガーンくらいしか主要な敵はいないわけだ。

 ……いや、未来であの世とこの世のバランスが崩れたという事はジャネンバもいるはずだ。

 とりあえずこれは後であの世に一度立ち寄って、そこの職員の怠慢を閻魔に報告しておくべきかもしれない。

 上手くすれば事前に防げるはずだ。

 

「と、いうわけで今後地球に訪れるだろう敵は7年後の魔導師バビディの一派と魔神ヒルデガーンだけとなります。皆、本当にお疲れさまでした」

 

 ガツガツと食事を平らげて行く悟空達にリゼットが労いの言葉をかける。

 まだ完全に地球の危機が去ったわけではないが、それでも一つの嵐は乗り越えた。

 それを祝して彼等に神殿の食事を振舞っているのだが、この分だと全てが彼等の胃の中に消えてしまう気がする。

 まあ、この神殿の中には植物や野菜を育てる場所もあるしリゼットの気を注ぎ込めば果物などはすぐに実るので食料に困る事はない。

 そもそもリゼット自身も元気玉モドキで太陽や地球から少しずつ生命エネルギーを分けてもらって生活しているので食事の必要すらないのだ。

 欠陥技という事が判明した元気玉モドキ――ゼノバースだが、全開出力で使用さえしなければ全く問題は起こらない。

 逆に言えばフルパワーで発動してしまえばまた神域化しての暴走モードに突入してしまう可能性もあり、今後は全力使用だけは封印するべきだろうというのがリゼットの決定であった。

 

「いえ、リゼットさん。まだ肝心な奴が残っています」

 

 サイヤ人にしては小食なトランクスがジロリと床を見る。

 そこには気のリングで拘束されたセルが目を閉じて座っており、ヤムチャやナッパに取り囲まれていた。

 

「さあ話してもらうぞ、セル。お前が言っていた真の歴史の改変とは何なのかを。

そしてお前が叫んだ『ドミグラ』とは一体誰の事なのか、洗いざらい全てな」

「……よかろう。どのみち私の計画は失敗に終わった。

今となっては全て吐いてしまっても何も変わらん。

といっても、語る事はそう多くないのだがな」

 

 セルは諦めたように笑い、目を開く。

 その瞳にはもう何も映っていない。

 希望も、野心も、未来さえも。

 全てを懸けた計画が頓挫し、そもそも最初から成功しようがない稚拙極まりないものだったと思い知らされた。

 結局のところ己は失敗以外有り得ない計画の為に動いていただけであり、ただの道化でしかない。

 それを理解した今、セルは何もする気力がないのだ。

 

「以前も語ったが、私の本来の目的である孫悟空抹殺は未来の貴女が取り除いた。

故に私は私自身で目的を作り、貴女を護り貴女の敵を討つ事を己に課した。

だが、それを果す事は出来ず、果す機会すらも得られなかった」

「……ええ、それは知っています。しかし問題はそこからです。

ずっと疑問だったのですが、今ここにいる私を護ったところでそれは未来の私を救う事には繋がらない。

貴方が守りたい『リゼット』は今ここにいる私ではありません。だというのに過去に来て、一体何の意味があるのか……私はずっとそれが腑に落ちませんでした」

「…………」

「貴方が護りたかったのは私ではない。そうですね?」

「……その通りだ、過去の義母よ。私は貴方を護りにこの時代まで来たのではない」

 

 セルの返答に対し、リゼットは特にこれといった失望などを感じる事はなかった。

 正直な話、薄々予感はしていたからだ。

 最初に聞いた時からずっと違和感があった。

 たとえ同一人物だろうと、未来が分岐してしまうこの世界において未来の自分と今ここにいる自分は決して同じではない。

 ならば、いくらこの時代で敵を倒してもセルの目的は絶対に果せないのだ。

 そうである以上、必ず他の目的がある。自分を護るというのはそれを隠すためのフェイクでしかない。

 薄々、それは分かってしまっていた。

 

「男が、私の前に現れたのだ」

「男?」

「そうだ。三又に分かれて逆立った赤い髪に、青い法衣。血の気のない肌、髑髏のような杖。

奴は自らを時を統べる魔神、ドミグラと名乗った」

「……魔神、ドミグラ」

 

 知らない名前だ、とリゼットは困惑した。

 全くもって全然聞き覚えがない。

 全劇場版、ゲーム、GTまでも含めて知っているはずだが一切全く記憶に引っかからない。

 もしかして海外で描かれていたという同人誌のキャラだろうか?

 

「奴は私に語った。『終わりと始まりの書』を改変すれば真なる歴史の改変も可能だと。

パラレルワールドなどでなく、本当の意味で私やトランクスのいた未来が変化すると、な」

「終わりと始まりの……書……」

「だがそれには大きな障害が立ち塞がるとも奴は言った。

時の界王神に目を付けられ、タイムパトローラーを送り込まれるとな」

 

 タイムパトローラーとか、どこのドラえ○んだと思わず突っ込みそうになった。

 何だかどんどん自分の知るこの世界の根本的な部分が崩れていく気がするが、とりあえず続きを聞く事にした。

 

「それに対抗する為の絶対的な力として、貴女を神域へと導く事が奴と私の計画だった。

そうして無敵となった貴女を連れて私の世界の過去へ戻り、改変を引き起こす。そうする事で未来の世界を完全に救済する……それが私の願いだったのだ」

「…………」

「だが、それは阻まれてしまった。私にはもう何も残っていない。

……殺すがいい。君達にはその権利がある」

 

 全てを語ったセルは項垂れて目を閉じる。

 もう話す事は全て話した。煮るなり焼くなり好きにしろという事だろう。

 だがリゼットは彼を殺す気がなかった。というよりも殺す気が起きなかった。

 確かに彼に利用されてしまったし、彼のせいで悟空達に攻撃してしまった。

 だが動機を聞けば、やはりその根元には未来の自分がいて、彼は彼なりの方法で救おうとしてくれていたのだ。

 「望み通りぶっ殺してやるぜ!」と叫ぶベジータを手で制し、リゼットはセルの前へと一歩踏み出す。

 

「セル。過去は変えられなくとも、未来を変える方法はあります」

「どこかで聞いたような言葉だ。過去を振り返らずに未来を生きろとでも言うつもりか。

……無理だな。私は今のままでは前へと進めん」

「別にそんな精神論を語るつもりはありません。物理的に絶望の未来を救う術があると言っているのです」

「何?」

 

 セルの目に僅かに光が戻る。

 どうやら興味を示してくれたようだ。

 これから話す事は実の所、可能であれば最後まで伏せておきたかった情報ではある。

 無闇にそれを頼るのは危険だと分かっているからだ。

 だがここまで頑張り、禁忌にまで手を伸ばしてしまった彼を見ると、少しくらいは助け舟を出してやりたくなってしまう。

 

「大昔、それこそ何百年も前の事になりますが、ナメック星を異常気象が襲った事は貴方も御存知かと思います」

「……ああ、知っている。それが原因で先代が地球に来た事もな」

「以前、ナメック星の最長老さんから聞いたのですが、その時に宇宙船に乗って逃れた者は先代様だけではありません。

スラッグという者や、他にも何人かの龍族が宇宙へと散ったといいます」

「!?」

 

 リゼットが語った内容に、セルの表情が目に見えて変わった。

 ナメック星人がまだ未来の世界でも生きている可能性。それを知ったが故に希望を見出してしまったのだ。

 

「どこにいるかはあえて聞いていませんし、必ずそれらの者がドラゴンボールを生み出せるという保証もありません。ですが探す価値くらいはあるのではないでしょうか?」

「……私を殺さないのか?」

「今回の件は私の未熟が招いた事。貴方を恨む気持ちがないと言えば嘘になりますが、それが筋違いである事は分かっているつもりです」

 

 セルは唇を真一文字に引き締め、目を伏せる。

 それから数十秒は無言を貫いただろうか。

 やがて考えが纏まった彼は小さな声で、拘束の解除を願い出た。

 リゼットもまた今の彼からはもう何の敵意を感じる事も出来ず、その願いをあえて受ける。

 

「感謝する」

 

 自由を得たセルはゆっくりと立ち上がり、そしてすぐに地面に膝を突いた。

 座ったのではない。

 リゼットの前に片膝をつき、頭を下げたのだ。

 何のつもりか意図が読めないリゼットは瞬きをし、セルの言葉を待った。

 

「これは誓いだ。

この時代にいる間、私は今度こそ貴女の味方であり続けよう。

もう二度と、決して裏切りはせぬ」

「この時代に残るつもりですか?」

「貴女に償う機会が欲しい……と言えば聞こえはいいだろうが、あえて本心で語ろう。

荒廃し切った未来世界は情報が手に入り難い。ましてや宇宙の事となればな。

だから私は考えた。すぐに戻るよりも、まずはこの世界で情報を集めて位置を特定してから未来へ戻るべきだとな」

 

 ニヤリ、とセルが笑いリゼットを見上げる。

 実に彼らしく、そしてふてぶてしい笑みであった。

 要するにこの男、味方であり続けるとは言っているがその一方でこの時代を利用させてもらうと断言しているのだ。

 これにはリゼットも呆れ、思わず肩をすくめてしまう。

 このあつかましさは絶対、悟空の細胞だ。

 しかし、今までよりもずっと“らしい”とは思った。

 イマイチ理由もわからず味方になっているよりも、こうして打算的に動いている方が何だかセルらしいし、彼の細胞の大半を占めるという自分らしさを感じるのだ。

 

「いいでしょう。この時代に残る事を認めます」

 

 だから、リゼットは彼がこの時代に残る事を認めた。

 向こうが打算ならばこちらも打算だ。

 次に訪れるだろう7年後の敵達。

 その戦いで存分に力を発揮してもらう。

 否とは言わせない。味方になると言った以上、これは強制だ。

 利用し、利用される。

 何だか、今までの全面的に無条件で助けられるよりも妙にしっくりくる関係だった。

 

 

 残る者もいれば去る者もまたいる。

 セルとは逆に、トランクスはこの時代を去る事を後日、悟空達へと伝えた。

 彼にはまだ護るべき物がある。

 未来で待つ母や復興中の街。そこで暮らす人々。

 それらはこれから、トランクスが護っていかなければならないものだ。

 そして、それらを全て滅ぼしてしまいかねない、今も巨大化を続けているだろうバイオブロリー……これは何としても倒さなくてはならない。

 既に護るべきものがないセルとは違う。だから彼はここで、別れの道を選択したのだ。

 そして出発の日。

 カプセルコーポレーションの前に皆が集まり、トランクス出発を見送りに来ていた。

 

「トランクスさん、7年後にはまた来てくれるんですよね?」

 

 悟飯が縋るようにトランクスへと尋ねる。

 彼は元々絶望の未来を避けるべくやってきた存在だ。

 ならばまだ敵が残っている以上、来てくれるのではないかと期待しているのだ。

 しかしトランクスはその問いに首を振って否定を返した。

 

「いえ、そのつもりはありません。もうこの世界は俺がいなくても大丈夫だと信じているんです。

それに、7年後じゃ流石に小さい方の俺も成長しているでしょうしね。

トランクスが二人いてはややこしいでしょう」

「で、でも……」

「ただ、多分これでお別れじゃないと思います」

 

 トランクスは朗らかに笑い、仲間達を見る。

 

「あの時、リゼットさんを救いに現れた俺は間違いなく俺自身だった、と確信しているんです。

別の未来の俺とかじゃなくて、同じ時間軸の俺自身なんだと……そう思っています。

だから、多分俺はまた皆の前に現われると思います。今度は、もっと強くなって」

 

 緑のセーターのトランクスは、きっと自分だった。

 そう断言するトランクスの顔に悲壮さはない。

 きっとまた出会えると確信しているから、別れの言葉もまだ必要ない。

 そう力強く語るトランクスへ、ターレスが声をかける。

 

「トランクス。一瞬しか見えなかったが、あの時現われたお前と一緒にいた奴は俺の師でありカカロットの父であるバーダック……だったように思える。

希望的観測に過ぎんかもしれんし、俺の見間違いだった可能性もゼロではない。

だが、もしお前が奴と会ったら伝えてくれ。馬鹿弟子がテメエをブン殴りたがってるってな」

「はははっ。必ずお伝えします」

 

 トランクスは可笑しそうに笑い、それから仲間達一人一人と固い握手を交わす。

 悟飯と名残惜しそうに手を握り、ピッコロと固く握手を交わし、悟空、ターレス、天津飯、ヤムチャ、ナッパ……餃子、クリリン、リゼットと続く。

 人参化だけは能力の都合上、握手をしてもらえずに寂しそうだった。

 そして最後にベジータと少しだけ長く手を握り合い、言葉を発さずに笑い合った。

 

「皆さん、俺は信じています。皆は絶対に運命などに負けはしないと」

「ああ。オラ達はもう大丈夫だ。何が来ても絶対に負けねえ。

だからトランクス、お前も未来で頑張れよ! バイオブロリーなんかぶっとばしちまえ!」

「はい! リゼットさんが話してくれたナメック星人の生き残りの可能性を聞いて、俺も希望が持てました。

必ず、未来の世界をこの時代と同じ平和な世界へと戻してみせます」

 

 もうトランクスに憂いはない。絶望から目を逸らして過去ばかりを見るのはもう終わりだ。

 この時代にもまだ問題は残っているが、きっと悟空達ならば乗り越えられると信じている。

 だから今度は自分の番だ。

 未来の世界を、必ず元に戻してみせると固く誓う。

 

「そっちの世界の私にもよろしくな。ナメック星人が生き残っている可能性さえ教えれば過去に戻ろうとも思わんはずだ。上手く煽って扱き使ってやれ。

それと、バイオブロリーは恐ろしいパワーの持ち主だが、大量の海水を浴びせてしまえば今のお前のパワーならば十分に倒せるだろう」

「ああ。セル、お前もあまりリゼットさん達に迷惑をかけるなよ」

「精々努力しよう」

 

 トランクスとセル。二人の未来人は互いに皮肉と笑みを飛ばし合い、挨拶を済ました。

 最初に来た時よりも幾分逞しくなった青年はタイムマシンへと乗り込み、手を振りながら名残惜しそうにマシンを起動させる。

 そして最後にもう一度、この時代で知り合った、本来は決して交わるはずのなかった仲間達を見る。

 この出会いを決して忘れはしない。

 彼等と共に戦った日々を絶対に忘れない。

 青年は振り切るように発進ボタンを押し、そしてこの時代から飛び立った。

 彼が消えた空を仲間達はしばらく見上げ、やがて一人ずつその場を立ち去って行く。

 そして1時間後……最後にベジータとブルマがその場を去り、未来から来た青年との別れは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

「ちょっとアンタ! アンタでしょ、過去に戻って歴史を変えた馬鹿は!」

「え? あ、あの……貴女は?」

「私は時の界王神! この宇宙の時間を管理してる神様よ!

アンタ、ちょっとトキトキ都まで来なさい!」

「ええええぇぇ!?」

 

 しかしベジータ達も流石に予想していなかった。

 トランクスの新たな戦いはまさにすぐ後、未来のバイオブロリーを倒した瞬間から始まるという事を。

 ――再会の時は、案外そう遠くないのかもしれない。




というわけで、貴重な善人の未来トランクスが離脱して代わりにセルがZ戦士入りしました。
これからは未来トランクスの分までセルが頑張ってくれる事でしょう。
Z戦士がますます悪人だらけに……。


バイオブロリー「戦闘シーンすらなく出番オワリーですかぁ?」
ブロリー「所詮ドロリーはドロリーなのだ」

・バイオブロリーの強さ
戦闘力的には今の悟空以上だが、海水を浴びると超絶弱体化。
それでも過去に来た頃のトランクスでは手に負えない怪物だったが、今ならば海水コンボで撃破可能。
ちなみに現代の方では地球に来ていないのでバイオブロリーそのものが誕生しない。

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