ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第六十九話 暗躍する者達

 界王神から語られた魔人ブウの情報は大体リゼットの知る通りであった。

 地球人類がやっと二足歩行で歩き始めた頃……大雑把に考えて大体500万年前くらいだろうか。

 魔導師ビビディにより創り出された邪悪な魔人であり、当時は5人いた界王神のうちの4人までもを殺してしまった存在が魔人ブウだ。

 そしてビビディの息子であるバビディがその魔人ブウ復活を目論み、この地球へ来ようとしているという。

 その事を突き止めた界王神は先手を打ち、こうして地球へと自ら出向いたのだ。

 

「地球の神よ。貴女が確保している魔人ブウを私達に預けて頂けませんか。

私ならばこの神殿よりも遥かに安全に封印を守り続ける事が出来ます」

 

 界王神の言葉に嘘はない。

 この神殿は確かに普段は別次元に潜行しているが、それでもやはり完璧ではない。

 そしてバビディの魔術ならば神殿を覆うバリアすらも何ら問題なくすり抜けてしまうだろう。

 勿論バビディ達が攻め入って来た所で負ける気は全くしないが、何せ相手は魔術師バビディ。

 もしかしたら思いもよらぬ術で、亜空間に閉じ込めた封印の壷を盗まれてしまうかもしれない。

 勿論そんな事は出来ないかもしれないが、万一は常に想定しておく必要がある。

 だが界王神界ならばさしものバビディも攻め込む事はまず出来ないだろうし、このままリゼットが抱えておくよりは遥かによくなるはずだ。

 問題は……界王神とキビトの戦闘力の低さだ。

 リゼットとセルのコンビならば例えバビディが部下を総動員して乗り込んで来ても返り討ちにする事が出来る。

 だが界王神達にそれは出来ない。

 場所という面においては間違いなく界王神界の方がいい。

 だがそこにいる人材をも計算に含めると、あるいはこのまま地球に残した方がいいかもしれないのだ。

 とはいえ、相手は最高神たる界王神だ。

 流石に『貴方が弱いので渡せません』などと言えるはずもない。

 結局のところ彼が出て来てしまった時点でリゼットの拒否権などあるはずもなく、辺境の惑星の神である彼女は頷く事しか出来なかったのだ。

 

「……解りました。魔人の封印を界王神様へ委ねます」

 

 リゼットが手を振るう。

 すると空間に亀裂が走り、その中から一つの壷が現れた。

 これこそ魔人ブウを玉ごと魔封波で閉じ込めた封印の壷である。

 その光景を見て界王神はあからさまに驚いた顔をしているが、もしかして空間操作系の能力は珍しいのだろうか?

 

「どうぞ。これが魔人を玉ごと封印した壷です」

「こ、この中に魔人ブウが……」

 

 せっかくミステリアスな空気を出していたのに、早くも素が出かけている。

 最高神として頑張って威厳を出そうと振舞ってはいるのだが、どうも演技そのものがあまり得意ではないらしい。

 やはり根が素直すぎますね、と思いながらリゼットは彼に壷を手渡した。

 

「ありがとうございます。この封印は必ず、私達が守り通してみせます。

バビディ達も地球に魔人ブウの封印がないと知れば、いずれ引き上げていくでしょう」

(……まあ引き上げるでしょうね。八つ当たりで暴れた後に)

 

 この最高神様、やはり少し見通しが甘いのかもしれない。

 魔人ブウを回収した後にバビディ達は当然それを探すだろうが、その時に地球に全く被害を及ぼさないというのはありえない。

 まず間違いなく地球中を探し回るだろうし、テレパシーなどで全人類に脅しをかけるだろう。

 まあ、バビディに関してはこちらで対処してしまえばいい。

 とりあえず宇宙船が地球に転移してきたのを確認したら、神殿からスパーキングメテオを叩き落として宇宙船ごと塵にしてしまえばいいだろう。

 奇襲上等。外道を相手に手段など選びはしない。

 

「それでは、私はこれで。

貴女とはこれからも有意義な関係を築いていきたいですね」

「光栄です」

 

 界王神は挨拶を済ませると、キビトの瞬間移動で姿を消した。

 戦闘力は低いが実に有能な側近である。

 二人の姿が消えてから、セルは確認するようにリゼットへと問う。

 

「しかしよかったのか? あの二人、まるで大した事がなかったぞ。

バビディとやらがどれほどの者かは知らんが、貴女が封印を守っていた方が安全面では遥かに上だろう」

「そうでもないですよ。置き場所として考えるならば界王神界以上の場所など、そうはありません」

 

 界王神界は聖域だ。普通ならばそうそう入り込む事など出来はしない。

 いかにバビディでもここに魔人ブウの封印を置かれてしまってはお手上げのはずだ。

 当然彼はそれを知らないわけだから、あるいはこの神殿に来るかもしれないが、それはそれで好都合だ。

 もし攻め込んできたならば、その時がバビディ達の最期だ。返り討ちにして地獄に叩きこんでやればいい。

 

 

「お馬鹿さん」

 

 界王神界。そこは全宇宙の神たる界王神とその付き人、あるいは対極に位置する破壊神とその従者しか立ち入る事を許されない聖域中の聖域だ。

 だが今、そこに在り得ざる女の声が響いていた。

 この聖域に女は一人も存在しない。かつては西の界王神がここに暮らしていたが、それはもう500万年も昔の話だ。

 

「どうやって奪ってやろうかと考えていたけど、まさか自分から手放してくれるなんてね」

 

 女――トワは魔人ブウを封印した壷を手の上で弄びながらクスクスと笑う。

 その足元には界王神とキビトが倒れ伏しており、ミラが腕組みをしてつまらなそうに彼等を見下ろしていた。

 以前リゼットにやられた傷は完全に治っており、その顔は不機嫌に歪んでいた。

 

「弱過ぎる……これが宇宙の神と呼ばれる者の力なのか?」

 

 その感情は一言で言えば不満。

 仮にも全宇宙の神を名乗るからには自分を満足させ得るだけの実力はあると期待していたが、これではまさに期待外れだ。

 あの忌々しい女と同じ神の名を冠していながら、この差はどうした事だ。

 そんな苛立つミラへ、トワがしなだれかかる。

 

「ふふっ、違うわミラ。貴方が強過ぎるのよ。界王神も決して弱くはないわ」

「だが地球の神が見せた、あの時の力とは比べ物にならん」

 

 ミラの脳裏に浮かぶのは、あの屈辱の敗戦だ。

 光輪を背負った白く輝く女神に、まるでゴミでも処理するかのように一蹴された事は忘れようにも忘れられない。

 まるで相手にならなかった。戦いすら成立しなかった。

 放つ攻撃は全て通用せず、軽く腕で触れられただけで半身が消し飛ぶという圧倒的過ぎる力の差。

 あれこそが力だ。あれこそが強さだ。

 『最強』を求めるミラが羨望して止まない到達点なのだ。

 

「駄目よミラ。あの女にはもう直接関わらないって決めたでしょ。

下手にちょっかいを出して、また“あの状態”になったら手に負えないわ。

私達の敵はあくまでタイムパトローラー……戦わなくてもいい相手にわざわざ挑む必要はないのよ」 

「俺は最強の存在だ。その俺がたった一人の女を恐れて逃げ回るというのか」

「逃げるんじゃないわ。戦略よ」

 

 トワとミラの視線が交差し、やがてミラが目を伏せた。

 彼はトワには基本的に従順だ。これからもトワを裏切る事は決してないだろう。

 だが最近、彼がどうも言う事を聞かなくなってきている。

 いや、普段は従順なのだ。今まで通りに従ってくれる。

 だがある一点……白の女神が関わる件だけは、トワの意志と反する行動に出る事がある。

 先日も、まだ村娘だった頃の女神を殺そうと過去に戻ったのだが、ミラはあまり積極的ではなかったし、タイムパトローラーが出てきただけですぐに撤退を選んでしまった。

 間違いない。ミラはあの女を求めている。あいつを超えたいと渇望し、己自身の手による決着を望んでいる。

 避けて目的を果すのではなく、戦士として正面から挑んで殺したいと思っているのだ。

 だが、それはトワから見れば極めて危険な道に思えた。

 

 現状、リゼットはトワにとって余りに厄介過ぎる相手だった。

 魔人ブウを復活させて混乱を引き起こしたいのに、あの女が二重封印して手元に保管していたせいでまるで行動に出る事が出来なかった。

 下手に攻め入って、また『アレ』になられたら手に負えないし、そうでなくてもこの時代のリゼットとセルのタッグは普通に手強い相手だ。

 あのままでは、いずれバビディ達すらも発見次第蹴散らしてしまい地球には何一つ問題が発生しなかっただろう。

 そんな彼女にとって今回はまさに棚から牡丹餅。

 厄介な女が魔人ブウを手放し、手に負える相手へ渡してくれた。

 まさに千載一遇であり、この機を逃すまいと早速仕掛けたのだ。

 

「まあ、いい。それでこいつ等は殺すのか?」

「そうね。こんなのでもキリの足しにはなるでしょう」

 

 ミラの問いに対し、トワがどうでもよさそうに答える。

 魔人ブウを回収した以上、後はこれをそれとなくバビディへ回すだけだ。

 ついでにある人物をバビディの洗脳から解き放ってやるのも忘れてはならない。

 既にトワの思考はそうした先の事へとシフトしており、界王神への興味は消え失せていた。

 ミラもまた倒した相手の事などどうでもいいのか、無表情で手を翳す。

 しかし気弾を放とうとした直前、何者かがミラの後頭部を蹴り飛ばす事で界王神を救出した。

 

「ぬっ!?」

「へっ、生憎とそう簡単にゃあいかねえんだよ。俺達がいる限りな」

 

 倒れかけたミラは地面に手を突いて腕力だけで跳躍し、空中で回転して着地する。

 彼の前に立つのは赤いバンダナを揺らめかせる悟空似のサイヤ人だ。

 トワ達の宿敵であり、そしてトワ達同様に時間を越えて現われるタイムパトローラー。その一人であるバーダックだ。

 彼は地を強く蹴ってミラへと接近し、ミラもすぐに構えを取って迎え討つ。

 

「そらあああああ!」

「ぜああああああっ!」

 

 バーダックとミラが互いの掌を握り合い、まずは正面からの力比べの体勢へと入った。

 だがバーダックはすぐに力を抜き、掴んだミラの掌にぶら下がるようにして足を上へと突き出し、ミラの顎を蹴り飛ばした。

 空中へ吹き飛ぶミラを追い、バーダックも飛翔。

 消えたかと錯覚するほどの速度を以て飛んで行くミラの先へと回り込み、もう一度蹴り飛ばす。

 更にまた高速移動。再び飛んで行く先へと先回りし、ミラを蹴り落とした。

 流星と化して地面へ激突し、地割れすら起こしてミラが地面へと埋没する。

 

「はあッ!」

 

 片手を向けて気功波――彼の技の一つであるリベリオントリガーを放つ。

 地面に着弾すると同時にドーム状の爆発が広がり、界王神界を揺らした。

 だが煙の中からミラが飛び出し、今度は彼の拳がバーダックの鳩尾へとめり込む。

 よろめいた所で右フック。バーダックを殴り飛ばし、更に追いかけて追撃の拳打。

 バーダックがいくつもの岩山を貫通しながら吹き飛び、だが空中で回転すると豪快に着地を決めた。

 すぐに彼を追ってきたミラが瞬間移動と見紛う速度で現われて拳を放つが、バーダックはこれを見切ってしゃがんで避け、地面に手を突いての水面蹴りでミラの足を払う。

 体勢が崩れた所を狙ってすかさずアッパーを放つが、ミラは転びながらも空中で回転してアッパーを回避。

 今度はミラが地面に手を付いた逆立ちの姿勢となり、バーダックへ蹴りを叩き込む。

 しかし間一髪。バーダックはこれをガードし、僅かに地面を削りながら後ろへ弾かれるだけで済んだ。

 

「やるじゃねえか」

 

 バーダックが獰猛に笑い、髪が逆立ち金色へと変色する。

 それに合わせてミラの全身を禍々しいオーラが包み、両者の戦闘のギアが一気に上昇した。

 様子見はここまで。これより先は遊び無しの戦いだ。

 バーダックとミラが同時に踏み込み、それだけで大地が砕け散る。

 そして、同時に放った二人の拳が互いの頬へと直撃した。

 

「だありゃあああ!」

「かああああああっ!」

 

 殴る、殴る、殴る。

 生物離れした速度で互いの拳打が交差し、コンマ1秒にも満たぬ時間に回避と防御を強いられる。

 しばしの攻防の後に二人の渾身の拳同士が衝突し、火花を散らす。

 そしてバックステップ。一度距離を取り、バーダックがクラウチングスタートの姿勢へと入った。

 

「そらっ!」

 

 前傾姿勢からの猛ダッシュ。

 その速度に目を見開くミラの顔面に肘打ちを放ち、吹き飛ばす。

 吹き飛んで行く先へ瞬時に移動し、今度は蹴りあげて自らも飛翔。

 空中で体勢を立て直したミラが迎撃の拳を放つもそれを身軽に避け、ミラの肩の上に逆立ちのように乗る。

 そのまま1回転して背後を取り、羽交い絞めにして避けようもない蹴りを脊髄へと叩きこんだ。

 更に飛んで行くミラの先へまたも移動。両手を組み合わせてハンマーのように振り下ろす。

 頭部を強打されたミラは地面へと墜落し、轟音を立てて地面へとめり込んでしまった。

 

「……やってくれるな」

 

 だがダメージは浅い。

 ミラはすぐに地面から起き上がり、僅かな怒りを込めた瞳でバーダックを睨む。

 なるほど、やはり生半可な攻撃は通じぬようだ。

 ならば生半可ではない攻撃を行えばいい道理。

 バーダックが更にギアを上げて前髪が逆立ち、雷光の如きスパークが迸る。

 右手には全力を注ぎこんだ渾身の気弾を生み出し、発射の構えへと入る。

 対し、ミラも更に力を高めて両手を広げた。

 互いに最も頼りとする最大技にて勝負を決するつもりのようだ。

 

「待ってミラ。ここは退くわよ」

 

 だがそこに、トワが制止の声をかける。

 既に勝負に入るつもりだったミラはそれに不満そうな表情を浮かべ、無言でトワを見た。

 別に睨んでいるわけではない。純粋に疑問を感じているだけだ。

 

「見て。いつの間にか界王神達がいなくなってるわ。

どうやら時間稼ぎをされてしまったようね。

これ以上ここで、あんな奴と遊んでいても何のメリットもないわ。

それにまだ私達にはやるべき事があるでしょう?」

「…………わかった」

 

 隠しきれない不満は出ているが、やはりミラは基本的にはトワに従う。

 トワはその事に「いい子ね」と満足気に笑い、杖を振った。

 するとミラとトワの姿が、まるで最初からいなかったかのように消え去ってしまい、後にはバーダックだけが残される。

 

「ちっ、逃げやがったか」

 

 バーダックは吐き捨てるように言い、右手の気弾を消し去る。

 今回の任務は界王神が逃げるまでの時間稼ぎだったが、可能ならば奴等はここで倒してしまいたかった。

 しかし奴等にあの時間移動がある以上、あの時のリゼットとかいう女のように一方的に屠る程の力の差がなければ逃亡を阻止するのは困難だろう。

 そして残念ながらバーダックにその力はない。

 

『バーダックさん、戻ってきて下さい。奴等が次にどこへ行くのかをこれから調査します』

「はいはい、わーったよ」

 

 通信で聞こえるトランクスの声におざなりに返事をし、バーダックもまたそこから消えた。

 そして界王神界からは誰もいなくなり、後には戦闘の跡だけが虚しく残っていた。




【ポタラとキビト神に関して】
まず先に言うと、このSSでのポタラ効果はよく言われている「戦闘力×戦闘力」にしません。
それをやるとキビト神の元になる界王神とキビトがどう計算してもフリーザ以下の雑魚になってしまうのです。
界王神の戦闘力10億を維持したままだとキビトの戦闘力は精々200が限界です。これは酷い。

よくポタラは「公式設定で互いの戦闘力の掛け算」と言われていますが、実際にその掛け算説の元になっている超エキサイティングストーリーガイドに書かれている説明は「合体によるパワーアップは二人の戦闘力の合計ではなく掛け算になるほどの凄まじさ!」であり、それだけ凄いんだという比喩表現だと思われます。
つまり仮に「二人の戦闘力を足してから掛け算で増やす」でも上記の説明と矛盾しないわけです。
ゲームでも基本的に同格扱いですので、このSSではフュージョンとポタラにそこまで差は付けません。

老界王神の「効果はフュージョン以上」発言は……まあ、合体時間も全然違いましたし、何か勘違いしていたのでしょう。歳ですし。
あるいは「フュージョン以上」は合体時間を含めての評価だったのかもしれません。

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