ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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・前回のあらすじ
ウーブ「僕がー! 僕の存在そのものがー!」


第七十六話 復活のフュージョン!!悟空とベジータ①

 魔人ブウの脅威が去り、数週間が過ぎた。

 リゼットはあれから魔人ブウを教育し、殺しは悪い事だと徹底的に教え込んだ。

 魔人ブウは少し我儘だが、意外と素直な性格をしていてリゼットの言う事をよく聞きよく学ぶ。

 また、それと並行して新しい遊びもいくつか教えておいた。

 彼が人を殺していたのは、それが楽しい事だとビビディに教えられたからだ。

 それは子供が蟻を潰して遊ぶのと同じで、しっかりと教えて学ばせれば止める事が出来るものである。

 最近彼はテレビゲームに嵌っており、画面の中でプレイヤーキャラが操縦するトラックが次々と通行人をひき殺していた。

 ……あれ? 悪の心取り除いたよね?

 

 ともかくこれで、魔人ブウを恐れる必要はなくなった。

 原作と違って地球が滅ぶ事もなく、地球人が大量に死ぬ事もなく終われたのだから快挙と言っていいのではないだろうか。

 それどころか理想以上の結末を迎え、魔人ブウを味方に加える事まで出来たのだから言う事なしだ。

 それも全て悟空達の……特に悟空のおかげである。

 

 まだジャネンバの出現やヒルデガーンは残っているが前者はスピリッツロンダリング装置の監視員を変えてもらったし、後者は魔導師ホイに騙されずに彼を消してしまえば戦うのはヒルデガーンの下半身だけで済む。

 今までは万全を期したはずでもそれを掻き回すミラとトワがいたが、その二人も倒したのだからイレギュラーを意図的に起こす者はもういない。

 だからうまくすればこの二つの事件は起こらずに済む。

 ……そう思っていたのだが、どうやらかなり甘い考えだったらしい。とリゼットは思い知らされた。

 

 

 

「リゼットさん、大変です! あの世が結界で閉じ込められてしまい、あの世とこの世のバランスが崩れてしまいました。このままでは死んだはずの者が生き返るなどの大混乱が起こってしまいます!」

 

 数週間ぶりにアポ無しで神殿に出現した界王神の第一声がこれである。

 どうやらこの世界はとことん全イベントを網羅したいようだ。

 というか何故この最高神様はこっちにそれを言いに来たのだろう。

 あの世の事は出来ればあの世だけで解決してくれると苦労がなくて凄く嬉しいのだが。

 大界王の所にいるあの世の精鋭達はどうした、精鋭達は。

 色々いたはずだろう。あの……パイクーハンとかいうパーフェクトセルを一撃で倒せるくせにそれより弱い同時期の悟空に負けたピッコロのコンパチキャラみたいな奴とか、オリブーとかいう強いのか弱いのかよく分からない奴とか。

 あ、駄目だ。よく考えたらあの世の戦士にロクなのいない。

 そんな事を考えながらリゼットは額を指で押さえた。

 

「……ちょっと待って下さい。今、地球全体にバリアを張ってあの世と遮断しますから」

「そ、そのような事が出来るのですか!? 凄い!」

「まあ、空間移動の応用で何とか……要は空間を繋げるのと逆で空間を閉じればいけるはずです。

今までやったことがないので正直少し不安ですが」

 

 リゼットは空間移動が出来る。それはつまり異なる空間と接続を行えるという事だ。

 接続が出来るならば遮断だって出来るだろう。そんな適当極まりない考えでリゼットは一度として行った事のない空間遮断をぶっつけ本番で試みた。

 無理とか不可能とかは実際にやってみてから言えばいい。とりあえずは実行あるのみだ。

 大丈夫、今の自分は信仰パワーで色々と不思議な事が出来るし大体の事は実際にやってみれば結構出来たりする。

 要は空間接続と封印の合わせ技だ。地球をあらゆる空間から遮断し、封印状態にしてしまえばいい。

 地球全体をヘブンズゲートの封印空間に閉じ込めるイメージだ。

 とはいえ、とりあえずその旨を悟空達にだけは伝えておくべきだろう。

 既に地球に侵入している死人もいるかもしれないので、その対処と合わせて悟空達に何とかしてもらおう。

 試しに気配を探知してみると……やはり何人か侵入した後だ。

 毎度お馴染み復活のフリーザにボージャック一味、Dr.ウィローやその配下、レッドリボン軍の悪人達やクラッシャー軍団やギニュー特戦隊もいる。

 だが中でも一番危険なのはブロリーだ。よりにもよって、ドラゴンボール探しの旅行に出ていたらしい悟天とトランクス、ビーデルの所に出現していた。

 というかこれ、『危険なふたり! 超戦士はねむれない』じゃないか。

 本当に、色々頑張って手を打ってるのにイベントが回収されるのはどうにかならないだろうか。

 まあ、ブロリーは今の悟空ならば充分に戦える相手というのが救いだ。

 

『悟空君。悟空君、聞こえますか?』

『お? 神様か。どうしたんだ?』

『大変な事が起こってしまいました。簡潔に言いますと、あの世に異常が起こってあの世とこの世が繋がり、地獄の悪人達が蘇ってしまうという状況に地球は置かれています。

私はこれから原因を調査しにあの世まで行って来ますが、その間の地球を悟空君達に守って頂きたいのです』

『地獄の悪人達が? そりゃてえへんだ! ブロリーとかも戻ってきちまうって事か!?』

『はい。私はこれ以上の死者の流入を防ぐ為に今から地球全体を封印します。

しかし既にフリーザやブロリーといった厄介な者達が入り込んでいるので悟空君は何とか、皆と協力して対処に当たっていただけないでしょうか?』

『わかった! こりゃ飯喰ってる場合じゃねえ!』

 

 どうやら悟空は食事中だったようだ。悪い事をしてしまった。

 悟空にそれぞれの悪人の居場所を伝え、ついでに悟空だけだと忘れそうで怖いので同様の念話を地球の戦士全員へと伝達する。

 これで後は、それぞれ手分けして対処出来る相手と戦ってくれるだろう。

 誰が誰に当たるように、という細かい指示まではしない。そこは彼等に任せてしまう。

 そうしてもいいと思えるくらいには彼等を信頼しているのだ。

 念話を終えたリゼットは気の固定化で光の戦乙女を100体ほど生み出し、悟空達の援護に出撃させた。とりあえず居ないよりはマシだろう。

 

「ポポと人参化、それからブウは襲撃に備えて神殿の守りを。

カリン塔にはゴッドガードンを2機防衛に向かわせて下さい。

それから残りのゴッドガードン13機は全て地上の鎮圧の為に出撃させるように。

セルはここから各地の戦況を観察し、援護が必要な箇所に亜空間を用いた遠距離攻撃を」

「はい、神様」

「いいだろう。パーフェクトに戦場を支配してみせようではないか」

「任せましたよ。では……ヘブンズゲート!」

 

 亜空間への入り口を閉じる要領であらゆる異空間からの接続を遮断し、普段は亜空間への入り口としている空間の亀裂を地球全土を覆うように球状に展開する。

 これにより太陽の光までも遮断して地球全土が真夜中のように暗くなってしまうので地球人達には少しばかり怖い思いをさせてしまう事になるが、あの世から悪人が流入して地球を滅茶苦茶にされるよりはマシだとしばし我慢して欲しい。

 更にバリアを展開して地球を覆い、ここに二重の封印が完成した。

 これで空間移動でも、物理的にも地球へ侵入する事は出来ない。

 とりあえず気を全開で込めたので、リゼットがいなくても数時間は維持出来るだろう。

 キビトに体力を全回復してもらい、それからキビトの瞬間移動であの世へと移動した。

 ――と、思ったらリゼット自身が展開した空間の壁に衝突し、神殿に墜落してしまった。どうやらキビトの瞬間移動すらも通れないらしい。

 

「リ、リゼットさん。済みませんが結界を一部解除して下さい。

これでは私達まで通れません」

 

 リゼットの下敷きになってしまった界王神が苦しげに呟き、リゼットも慌てて彼の上から退く。

 

「そ、そのようですね」

 

 封印の強度と完成度を自分で実演するとは思わなかった。

 しかしキビトの瞬間移動でも通れないというのは嬉しい誤算である。

 リゼットは自分達だけが通れる程度に結界に穴を空け、改めてキビトの瞬間移動であの世へと移動した。

 この穴は後でセルに埋めてくれるよう伝えたので問題はない。 

 

 

 あの世に転移したリゼットが見たのは、何とも不思議で幻想的な光景であった。

 色鮮やかな大小様々な水晶が空間に浮かび、中央の閻魔宮は黄色い水晶に丸ごと閉じ込められている。

 確かにこれでは閻魔宮が正常に働かないのも当然だ。

 駄目元で亜空間移動を試みるも、やはり中に侵入する事は出来ない。

 周囲を見渡せばパイクーハンやオリブーと思われる男達があちこちの水晶にもたれかかるように倒れており、ジャネンバにやられたのだと推測出来た。

 まあ、悟空がいなければこんなものだろう。

 

「閻魔様。聞こえますか? 私です、リゼットです」

「おお、地球の神か! よく来てくれた!」

 

 リゼットが呼びかけると水晶に閻魔の顔が映り、嬉しそうに破顔する。

 

「今、この閻魔宮が封印されてしまっているせいで儂が与えられた生と死を司る力が正常に発揮出来ん! このままでは死者が蘇るなどの異常事態が起こり、この世とあの世のバランスが滅茶苦茶になってしまう!」

「あ、それもう起こってます」

「た、頼む地球の神よ! 助けてくれい!」

 

 閻魔に助けを乞われるまでもなく助けるつもりだ。

 流石にずっと地球を封印しっぱなしというわけにもいかないし、第一この状態が続けば地球はよくても宇宙が滅茶苦茶になってしまう。

 だがその前に、リゼットはどうしても聞いておきたい事があった。

 

「その前に閻魔様。確かスピリッツロンダリング装置の監視員は変えるように進言したはずですが、それでも事件が起こってしまったのですか? 装置が暴走すると不味い事になるとあれ程申しましたのに」

「……そ、それは、その……す、すまなかった! 儂がお前の言う事を信じ切れなかったばかりに!」

「もしかして、監視員を変えなかったんですか?」

「い、いや! 変えたぞ! 一度は変えたんだ!

だが、その、なあ……あの赤鬼の奴、クビにされてから毎日のように泣きながら儂に縋ってきおって、あまりに鬱陶しいから最後のチャンスのつもりで、そのう……」

「……復職させてしまった、と」

「……うむ。さ、最初のうちは真面目にやっていたんだが……気付いたら元に戻っていて、タンクの交換もサボっておってな……」

「…………」

 

 リゼットは溜息をつきたいのを必死に堪えた。

 きっとこれが漫画なら、彼女の頭には特大の怒りマークが浮かんでいたに違いあるまい。

 リゼットは呆れたような視線で閻魔を一瞥し、わざとらしく背を向けた。

 

「さて、地球に帰って結界を強化しましょうか。

何とか太陽や月も一緒に封印に巻き込めないか方法を模索する必要もありますし」

「ま、待て、待て待て待て! 儂が悪かった! だから見捨てんでくれい!

あの世の精鋭や界王神様でもどうにもならん以上、お前と地球の抱える戦力だけが頼りなんじゃ!

お前に見捨てられてしまってはあの世がこのまま滅茶苦茶になってしまう!」

 

 勿論見捨てるつもりなどない。閻魔はともかく、このままでは他の善良な死者が可哀想だ。

 だがここで気安く助けてしまっては閻魔も「困ったら地球の神に丸投げでいいや」などと思うかもしれない。

 だから表面上は『私は怒っています』と演じる必要があるのだ。

 というか怒っているのは演技でも何でもない。正直なところ閻魔の事は一度本気で鞭打(ビンタ)してやろうかと真剣に考えている。

 

「貸し一つですからね」

「う、うむ、わかった」

 

 閻魔に貸しを一つ作り、それから閻魔宮の上へと浮上する。

 そこには全長10mはありそうな黄色い肥満の魔人がおり、子供のように「ジャネンバ、ジャネンバ」と無邪気にはしゃいでいた。

 リゼットは「ふむ」と呟くと、とりあえず知識にある弱点を試してみる事にした。

 

「この間抜け面」

「ジャネッ!?」

 

 微笑んだままのいきなりの罵倒だ。

 これには界王神やキビトもぎょっとし、だがそれ以上に衝撃を受けたのはジャネンバであった。

 彼は目に見えてダメージを負い、身体の表面がガラスのように砕け散る。

 だがリゼットは容赦しない。笑みを浮かべたまま更に彼の弱点を抉る。

 

「汚物」

「ジャネンバ!?」

「燃えないゴミ」

「ジャッ!?」

「デザインに失敗したマスコット」

「ンバ!?」

「贅肉の塊」

「ジャネンバ!?」

「洗ってない犬の臭いがします」

「ジャネンバァァァ!!?」

 

 とりあえず軽く悪口を言ってみたがなかなか効果はあるらしい。

 とはいえ、やはり表面を軽く傷付けるだけだ。

 このまま悪口を言い続けていればジャネンバの動きを封じる事は出来るだろうが倒すには至らない。

 それにいずれは悪口のネタも尽きるだろうし、耐性も付くだろう。

 さてどうしたものか、と悩んでいると界王神がおずおずと声をかけてきた。

 

「あ、あの、リゼットさん。彼には悪口が効くと分かっていたのですか?」

「ええ。以前ここに立ち寄った際に、この魔人の元になった監視員の鬼の心を読んでいましたので。

その際に彼が悪口に弱い豆腐メンタルである事は把握していました。

しかし残念ながら、効果があるだけで決め手には至らないようですね」

 

 やはり結局のところ、ジャネンバをどうにかして倒すしか方法はない。

 だが問題となるのは、彼が変身するという事だ。

 先に言ってしまうとこの状態のジャネンバならばリゼットでも勝てる。

 だが超サイヤ人3すらも上回る第二形態が曲者だ。

 悪口と組み合わせれば結構善戦は出来ると思うのだが、本来の世界ではゴジータでなければ倒せないほどの強敵だ。

 正直なところ、今の自分が下手にちょっかいをかけて第二形態にしてしまうと、その後がどうしようもなくなる。

 

「勝てますか?」

「今の彼にならば、何とか」

「え? 今の彼とは一体どういうことですか?」

「恐らくですが、まだ本気を出せる姿にはなっていないと考えられます。

確かに強い事は強いのですが、装置に溜まっていた邪気を全て吸収したにしては余りに弱過ぎるんです」

 

 スピリッツロンダリング装置に最近入った悪人を振り返ると、これがなかなか酷い面子揃いだ。

 プイプイやヤコンなどのバビディ配下を始めとし、魔界の王ダーブラも天国での人の変わりようから見るにこの装置にかけられている。

 他には、トワも放置すると何を仕出かすか分からないので到着早々装置に放り込んで浄化してしまったと閻魔が教えてくれた。

 ブロリーやボージャック、フリーザ、ミラはまだ順番待ちでこの装置に入っていないようだが、それでも十分に過ぎる。

 これらの悪の気を集めてしまえば、とてもリゼット一人の手に負える程度で収まるはずがない。

 そう説明すると、界王神はそこまで考えていなかったのか顔を蒼白にし、「確かに」と呟いていた。

 

「で、では勝つのは難しいと?」

「正直なところ、かなり……。

しかし、戦わないわけにはいきませんので何とかしてみますが」

「お、お待ち下さい!」

 

 勝つのはかなり難しい。

 だが、だからといって逃げるわけにもいかない。

 リゼットが背水の心構えで挑もうとするが、そこに界王神が慌てて待ったをかけた。

 

「貴方はこの状況を打開し得る数少ない存在です。ここで無謀な戦いをさせるわけにはいきません!」

「いや、しかしですね……」

「私に考えがあります。うまくすれば貴女のその力を遥かに高める事が出来るかもしれません」

 

 界王神はどうやら、ここからリゼットの力を高める方法を知っているらしい。

 強くなれる、というのならそれはリゼットにとっても有り難い話だ。

 だがサイヤ人でもない自分がそう簡単に力を上げる事が出来るとは思えない。

 リゼットは怪訝な視線で界王神を見るが、彼の顔は自信に溢れていた。

 

「か、界王神様! まさか!」

「そのまさかです、キビト。リゼットさんを界王神界へお連れしましょう」

「そ、そんな! あそこは界王神か、その付き人しか立ち入る事が許されぬ聖域ですぞ!」

「彼女は辺境の惑星の、とはいえ神です。それに魔人ブウを倒して他の界王神の仇も討ってくれた。

資格は充分にあると私は考えます」

 

 リゼット本人を放置して界王神とキビトが言い争うが、キビトが界王神に強く出れるはずもなく話はあっさりと纏まった。

 そしてその会話を聞き、リゼットも界王神の狙いを理解する。

 間違いない……Zソードの所へ連れて行く気だ。

 あれは本来ならば魔人ブウに対抗するべく悟飯に抜かせるはずだが、その魔人ブウはもういない。

 結果、Zソードを抜く役目がこっちに回ってきたらしい。

 よく考えれば、確かに界王神は本来の流れでも悟飯に『貴方達が人間でありながらこうまで私の力を大きく超えている事が分かっていたならあの方法もあったのに』と言っていた。

 つまり敵が強いならば、Zソードを使わせるという選択肢を取れるわけだ。

 そしてリゼットとしてもこれはまさに願ったり叶ったりの流れだ。

 彼女にはバーストリミットという界王拳モドキがあるが、あれは負担が大きいので最大出力は長続きしない。

 だが老界王神の潜在能力解放ならばその心配もないのだ。

 問題があるとすれば、恐らく悟飯ほどの大幅なパワーアップは見込めないという点か。

 

「リゼットさん、界王神界へお越し下さい。そこに伝わる伝説の剣を使えばきっと、貴女は更に強くなれます」

「…………」

 

 界王神の誘いと共に差し出されたキビトの手を見る。

 確実な勝利を求めるならば迷う事はない。この手を取って力を得ればいい。

 潜在能力解放にかかる時間は精神と時の部屋に老界王神を連れて行って彼をバリアで保護すればかなり短縮できるだろう。

 時間にして、25時間……精神と時の部屋ならばほんの5分で終わる。

 界王神界でZソードを折って、老界王神を説得して地球に連れて行く時間を含めても10分以内には終わるだろう。

 ……長い、と思った。

 25時間を耐えるくらいはリゼットならば苦ではない。精神修行としてもっと長い時間座禅を組んだ事もあるのだ。

 だが10分あればジャネンバはどれだけ被害を広げる? どれだけ死ぬ?

 あの世の戦士も当然止めに入るだろうが、ジャネンバを止める事は出来ないだろう。

 きっと何人かが死ぬ……パイクーハンやオリブーも、その例外ではないだろう。

 仮にパイクーハンの強さを7年前の悟飯に少し劣る程度と仮定しても、ジャネンバ相手に10分戦うのは不可能だ。

 そして既に死んでいるあの世の戦士はもう一度死ねば無に帰り、消滅してしまう。

 

「……リゼットさん?」

「すみません、界王神様。ここを離れる事は私には出来ません」

 

 やるしかない。

 それがリゼットの出した結論だった。

 ここで止めねば駄目なのだ。ここで自分が倒さねば、誰かが消滅してしまう。

 だから、やる。勝てる勝てないではなく、誰かが消える事を承知の上でここで退く事は自分で自分が許せないから。

 その決意の元、気を高めようとして――。

 

「――愚かな判断だ。貴様もまだまだ……甘い」

 

 聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、動きを止めた。

 振り返った先にいたのは、紫色の身体を鎧のように硬質化した白い体表で覆った異星人であった。

 瞳は真紅に染まり、その巨体はブロリーを彷彿とさせる。

 かつて二度戦った、リゼットにとっても忘れられない強敵……。

 フリーザの兄であるクウラがそこにいた。

 

「……クウラ。地球で気が感じられなかったからまさかとは思いましたが、あの世に残っていたのですね」

「貴様ならばこちらに来ると踏んでな。思った通りだった」

 

 クウラが腕組みをしたまま得意そうに言い、リゼットの顔が険しく歪む。

 今のリゼットならば、クウラ一人が増えたくらいでは何の問題もない。

 ただしそれは、以前のクウラならば……の話だ。

 再会したクウラから感じられる気は以前よりも力強さを増している。

 彼も彼なりに、地獄で何か掴んだという事なのだろう。

 まさかの敵増援に構えるリゼットへ、クウラは思いがけぬ言葉を発した。

 

「さっさと行け。いつまでも留まられては邪魔だ」

「……はい?」

「そこの醜い風船野郎の相手は俺がしてやる、と言ってるんだ」

 

 クウラはリゼットの前を過ぎ、ジャネンバと相対した。

 彼の意図が読めずに困惑するリゼットへ、クウラは不機嫌に話す。

 

「どうした? さっさと行け」

「……どういうつもりですか? 貴方が私に協力するような真似をするなんて」

「……協力だと? ……クックック、おめでたいな。だから貴様は……甘いと言うんだ!」

 

 嘲るようにクウラが言うと、その瞳が赤く輝く。

 そして次の瞬間、彼はリゼット目掛けて拳を繰り出していた。

 咄嗟にリゼットはこれを回避して彼から距離を開ける。

 

「いいか、よく聞け! 俺は貴様だけは絶対に許さん!

俺のプライドを粉々に打ち砕いた貴様だけは……!

く、屈辱だった……このクウラ様が二度も、二度も同じ相手に負けたんだぞ……。

ゆ、許さん……絶対に許せるものか……貴様だけは……!

貴様は俺に……俺に殺されるべきなんだァッ!

俺に勝利しておいて、こんな風船野郎に殺されるなど俺が認めん!」

 

 クウラの混じり気なしの憎悪と叫びを聞き、リゼットは不覚にも苦笑してしまった。

 なるほど、甘いと言われるわけだ。

 一瞬、心のどこかで期待してしまったのだ。これはもしや、ベジータなどと同じくツンデレからの後で味方になるパターンでは……などと。

 とんでもない話だ。クウラが自分に抱く感情はそんな生温いものでは断じてない。

 彼がリゼットに向けるのはどこまでも純化された憎悪のみ。そこに仲間意識などというものは欠片も存在していない。

 その余りの憎悪の濃さに、基本的に悪意というものを向けられることのない界王神は震え上がってしまっている。

 

「分かったらさっさと消えろ……俺が貴様を殺したくなる前にな」

 

 恐らくクウラは本当は今すぐにでもリゼットに攻撃したいのだろう。

 だがそれにはジャネンバが邪魔で、リゼットも自分よりジャネンバの相手を優先してしまう事が分かっている。

 だから耐えているのだ。

 心の中で荒れ狂うドス黒い炎を必死に抑え、血管が浮き出るほどに腕に力を込めて拳を震わせながら、それでもギリギリの一線で踏み留まっている。

 復讐の時は今ではない……まだ、その時ではないのだ。

 

「……大丈夫なのですか? 貴方の戦闘力ではアレの相手は……」

「フン、貴様に心配されるとは俺も落ちぶれたものだ。ならば見よ」

 

 クウラはリゼットの不安を一笑に付し、力を込める。

 すると彼の全身から黄金のオーラが立ち昇り、今のリゼットにも脅威を感じさせるほどの力強さを発揮した。

 その気の圧力たるや、あの魔人ブウにも見劣りしていない。

 

「クウラ、それは……」

まだ上がある(・・・・・・)という事だ……進化を続けているのは貴様等だけではない。

……だが今の俺ではまだ、新たな進化には届かん。貴様にも勝てんだろう。

だから今はまだ、時ではない。

だが覚えておけ。俺がいつの日か、更に上の変身を手にした時が貴様の最後だという事を。

俺は必ず……どんな手を使ってでも蘇り、そしてこの手で貴様を殺す。

絶対に……絶対に――だ」

 

 クウラの言葉にリゼットは知らず流れていた冷や汗を指で拭った。

 今の彼の言葉には重みがある。やると言ったら本当にやる凄みがある。

 文字通り、死んでもリゼットを殺す……その激しい憎悪だけが今の彼を高みへ押し上げていた。

 前のハッチヒャックの一件でクウラが蘇らなかったのも、これのせいだろう。

 サイヤ人など彼にとってはどうでもいい存在なのだ。

 何故なら彼の中の負の感情は全て、リゼット一人だけに注がれているのだから。

 

「……行きましょう、界王神様」

「え? は、はい。しかし大丈夫なのですか……アレを放っておいて」

「大丈夫です。むしろここに残っていては後数分もしないうちにクウラの理性が焼き切れてこっちに襲い掛かってきます」

 

 これを嬉しい誤算とは言いたくないが、しかし好都合であるのは確かだ。

 今のクウラならばジャネンバ相手でも十分に時間を稼げるだろう。

 これで新たな力を得るための時間は獲得できた。

 リゼットは今度こそキビトの手を取り、界王神界へ転移した。

 やけに早く瞬間移動したが、キビトもこんな場所に長居したくなかったのだろう。

 そうしてリゼットがいなくなり、クウラは再びジャネンバへと向き直る。

 

「さて……俺もこの力を完全なものにする為には戦いを積まねばならん。

貴様にはその相手となってもらうぞ」

 

 クウラは口の端を釣り上げ、好戦的にジャネンバを見る。

 力を伸ばすのに必要なのは、やはり戦いだ。

 それもこれほどの強敵となれば言う事なし。

 必ずや自分を高みに引き上げる為の足掛かりとなってくれる事だろう。

 

「さあ――始めようか」

 

 そう宣言し、クウラの口元をマスクが覆った。




【戦闘力】
・復活の『C』:940億
・ジャネンバ(第一形態):1000億

クウラ「勘違いするな。俺は貴様を助けに来たわけではない」
リゼット(あっ! これってベジータのツンデレ仲間入りパターン!?
クウラ仲間になるんですかヤッター!)
クウラ「俺は貴様を殺す! 絶対に……絶対に、絶対にだあああああ!」(集中線)
リゼット(これ完全に私への好感度がマイナスでカンストしてるじゃないですかヤダー!)


【危険なふたり!超戦士はねむれない】
ドラゴンボールシリーズ劇場公開作第13弾。
以前の劇場版のボスであったブロリーがまさかの再登場を果たした衝撃の一作。
前の戦いでは生きていたはずの悟空が何故か死んでいる。
心臓病が再発症でもしたのだろうか。
この映画では悟飯は「修行を続けていた」と言っており、正史の悟飯よりもかなり強いと思われる。
ブロリーが伝説ではない普通の超サイヤ人の姿を披露しており、その時の姿が白眼マッチョからは想像出来ないほどにスマートでハンサムなので『これが噂のイケメンブロリー』と呼ばれる。
しかしイケメンな割に、トランクスに小便をかけられるなど扱いは悪い。
天下一武道会の前の物語と思われる。


【復活のフュージョン!!悟空とベジータ】
ドラゴンボールシリーズ劇場公開作第15弾。
悟空とベジータが死亡しており、悟空の台詞からブウと戦った後であると分かる。
ゴテンクスがスーパーゴーストカミカゼアタックを習得しているので悪ブウによる地球人皆殺し後である事は間違いない。
ゴテンクスか悟飯のどちらかが悪ブウを倒し、神龍で地球人を全員蘇らせた世界と思われる。
ベジータが生き返っていないのはフリーザ編で一度地球のドラゴンボールで蘇っているからと考えれば矛盾はしない。

【ジャネンバ】
「スピリッツロンダリング装置」から溢れ出た邪気が、近くで踊っていた赤鬼の肉体を依り代にして誕生した怪物。
最初はデブブウのようなゆるキャラだが、変身するとスタイリッシュになる。
亜空間を通しての遠距離打撃や気功波の反転、分身などの多彩な能力を操り、第二形態では身体を分解しての奇襲や落ちている棍棒を剣に変えるなど歴代のボスの中でもトップクラスに技が豊富。
超サイヤ人3の悟空に勝利した事から、ヒルデガーンと並んで劇場版Zの最強ボス候補と言われる。
相手の技を見切るのが得意。

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