ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第八十三話 相性

 幻魔人ヒルデガーン。その名の通り幻のように姿を晦ませる魔神だ。

 だがそんなヒルデガーンにも弱点はあり、いかに彼でも攻撃の瞬間だけは実体化せざるを得ない。

 これは当然の事で、幻のまま攻撃をしてもそもそも敵に命中しないからだ。

 また、この無敵の回避能力を持つが故か防御力そのものは然程高くないのも救いであった。

 攻撃力、速度、特殊能力。そのいずれも恐ろしい。それこそ潜在能力を解放した悟飯や超サイヤ人3になったゴテンクスすらも凌駕するだろう。

 だが防御の脆さと攻撃の一瞬の隙さえ突けば力で劣る超サイヤ人3悟空でも勝つ事が出来る。

 これこそが本来の流れにおいて悟飯やゴテンクスすら敗れたヒルデガーンを悟空が倒せた理由である。

 つまりは単純なパワーではなく戦闘経験と技術。これがあったから悟空は勝てた。

 そしていかにパワーがあろうと、肝心の武術の下地がほとんどない故にゴテンクスと悟飯は負けたのだ。

 同じ強者への道程であっても、その過程が違えば錬度も違う。

 悟空は幾度の戦いと敗北、何人もの師との出会いや修行を経て今の領域にいる。

 だが悟飯は修行もしたにはしたが悟空ほどの濃密な時間を過ごしたわけではなく、何より7年間の修行をサボったブランクが大きすぎた。

 ゴテンクスは言わずもがな。完全に才能頼りであり、フュージョンも結局のところは合体により強さ『だけ』を無理矢理増やしたに過ぎない。

 ならばその錬度に差が生じてしまうのも仕方の無い事だろう。

 究極悟飯とゴテンクスは強い。だがそれは戦闘力任せのゴリ押しの強さであり、だから彼等は格下には勝てても格上には勝てない。

 孫悟空の強さは地道な下地に支えられた武道家の強さだ。だからこそ彼は格上にだって勝つ事が出来る。

 そしてリゼットも後者に属する。絶大な力と確かな経験、錬度を合わせ持つ彼女ならばヒルデガーン相手でも尚優位を保つ事が可能だ。

 ならば決して勝てない戦いではない。否、負けるのは恥と心するべきだ。

 故に決意する。地上には行かせない、孫悟空の手を煩わせるまでもない。

 この幻魔人はここで、人知れずに葬ってみせると。

 

「Kinect!」

 

 リゼットの手から発射された気弾が数十に拡散して人の形となり、武装した戦乙女達へと変わる。

 彼女達に与えた命令は単純明快。休まずに攻め続ける事のみ。

 セルとブウもその攻撃に参加し、ヒルデガーンを回避に集中させた。

 まずは単純に攻撃回数と手数を増す事でヒルデガーンが攻撃に専念出来る時間とタイミングを減らし、ひたすら煙化しての防御を強制する。

 幻魔人が実体化するのは攻撃の一瞬のみ。それ以外のタイミングで攻撃を仕掛けても全て煙に巻かれるだけだ。

 リゼットは静かに空中に佇んだまま、精神を集中してヒルデガーンが攻撃する瞬間を待つ。

 何度も出現しては、すぐにセルや戦乙女が飛びかかって来るせいで煙化せざるを得ないヒルデガーンだが、安全地帯がないわけではない。

 さあ、よく見ろ。不用意に戦乙女を前に出しているせいで肝心の本体の近くに何の守りもないぞ。

 この位置ならば戦乙女に攻撃されるよりも早く本体を殴って、そして煙化できるぞ。

 さあ、来い。余裕こいて高みの見物をしているこの本体を攻撃しに来い。

 そう考えながらリゼットは、自分へと攻撃が飛んでくる一瞬を待ち続ける。

 

(……――今!)

 

 リゼットが目を開き、俊敏に身を翻した。

 直後に彼女がいた場所を拳が通過し、攻撃直後の無防備な姿勢となったヒルデガーンと目が合う。

 無論ここで手を休める理由などない。すぐに手を翳して気功波を発射する。

 だが惜しい。当たったと思った瞬間に煙化されてしまった。

 どうやら少しタイミングが遅かったようだ。

 ここですぐに次撃が来ると警戒したのだが、何故か来ない。

 絶好の狙い目だろうに……もしかして今のカウンターで警戒させてしまったのだろうか?

 しばらく待っているとヒルデガーンはリゼットから離れた位置に出現し、口を開く。 

 やはりカウンターを警戒し、距離を取ったらしい。

 だが火を吐いてくれるならばかえって好都合。その瞬間を狙い撃つ!

 吐き出された火炎に合わせて空間を跳躍して突撃し、バリアを纏って一瞬でヒルデガーンの前へと飛び出した。

 攻撃の瞬間こそが最大の好機。敵の火炎発射のタイミングに合わせて距離を詰めて不可避のカウンターを放った。

 

「波!」

「ゴォォワアアア!?」

 

 リゼットの気功波がヒルデガーンの顔を焼き、盛大に尻餅を突かせた。

 手応えあり。倒すには至らないものの、確かなダメージを刻み込む事は出来た。

 そして既にリゼットはヒルデガーンの攻撃のタイミングをほぼ見切っており、後数回もこなせば完璧なカウンターを合わせる事が可能という確信を抱いていた。

 再びヒルデガーンが煙化するが、もうリゼットの虚を突く事は出来ない。

 背後からの攻撃には気功波を返され、上から殴りかかれば更にその上に一瞬で移動したリゼットに蹴り落とされる。

 尻尾で捕まえようとすれば逆に掴まれて投げ飛ばされた。

 ヒルデガーンは確かに厄介な敵であり、紛れもなく強い。そこに疑いを挟む余地はなく、巨大さ故の攻撃力は何より恐ろしいものだ。

 だが巨大であるが故にでかい的であり、攻撃はどう細かく行おうとサイズ差の問題でリゼットから見れば大振りになってしまう。

 だが大振りな攻撃などリゼットにとってはカウンターチャンス以外の何者でもなく、完全に顕著なまでに相性差が出てしまっていた。

 セルが背後から奇襲を仕掛け、ヒルデガーンが煙へと変わる。

 そして姿を現してセルへ殴りかかった瞬間を狙い、リゼットが横からバリアを纏っての突撃を敢行した。

 ヒルデガーンの巨体が地面に倒れ、再び煙化してリゼットの上を取り火炎を吐き出す。

 だがまたしても空間跳躍で目の前へ転移したリゼットに気功波で撃墜されてしまった。

 一度見切られた飛び道具はもうリゼットには通用しない。

 

「ヒルデガーンか……ふん、恐ろしい敵だったが、相手と時期が悪すぎたな。

正直同情するぞ」

 

 既に勝敗は決した。

 セルが腕を組んで気の早い勝利宣告をし、リゼットが「変なフラグを立てないで下さいよ」とぼやく。

 とはいえ、その言葉の意味などヒルデガーンは解してすらいないだろう。

 羽根を広げてリゼットへと飛びかかり、巨腕を力の限りに叩き込んだ。

 その、直撃するまでの僅か一瞬。刹那にも満たない絶好のカウンターチャンス。

 リゼットはこの瞬間に超能力を発動して刹那の時間を一秒にまで引き延ばした。

 

Infinite World(時よ止まれ)!」

 

 この世の時間を僅か1秒だけ停止させるリゼットの奥義の一つ。

 それを使った今、ヒルデガーンはもう煙化出来ない。

 実体化した攻撃体勢のまま止まってしまい、その間リゼットが攻撃し放題となる。

 無論この機会を逃すわけもない。

 彼女は手を虚空へ掲げると白い気弾を生み出し、ヒルデガーンへ叩き込んだ。

 

Sparking・Neo(スパーキング・ネオ)!」

 

 放たれた気弾はヒルデガーンの胸の中へと吸い込まれ、姿を消した。

 不発? 否。

 リゼットはもう勝敗は決したとばかりに背を向け、そして指を鳴らす。

 

「そして時は動き出す」

 

 時間が動き出すと同時にヒルデガーンが苦しみ出し、その胸から白い浄化の輝きが溢れ出す。

 煙化をする余裕もないし意味もない。もう技は決まってしまった後だ。

 太古より集め続けてきたコナッツ星の悪の気。それがリゼットの神の気によって浄化され、消滅していく。

 相性がよすぎた――この戦いはまさにその一言に終始するだろう。

 悪の気の集合体であるヒルデガーンにとって集約させたリゼットの気は致死毒だ。炸裂してしまえば消滅を逃れる方法などない。

 ポッカリと胸に穴が開き、そこから侵食するように光が満ちていく。

 首が、胴が、腕が。

 次々と光に呑まれて浄化、消滅し、最後の残った頭が無念の咆哮をあげながら消滅したところで完全にヒルデガーンはこの世からいなくなってしまった。

 リゼットは風になびく髪を指先で払い、神殿の上で呆けているタピオンを見る。

 ……とりあえず、何があったのかを彼に説明しなくてはならないようだ。

 流石に彼はそれを知る権利があるし、このまま放置は可哀想すぎる。

 

 

「な、なるほど……つまりそのドミグラという男が封印を解いてしまい、ヒルデガーンを貴女達が倒してくれたと、そういう事ですね」

 

 一通りの説明を受けたタピオンはどこか戸惑ったように、だが安心したように言う。

 彼にしてみれば1000年ぶりに叩き起こされたと思えばいきなりヒルデガーンが外に出ていて、しかも見知らぬ星の見知らぬ神が勝手に倒していたという状況だ。混乱しても仕方がないだろう。

 しかしそれでも何とか現状を把握し、ヒルデガーンが倒された事を喜んでいるのも確かなようだ。

 彼にしてみれば降って沸いた牡丹餅所の騒ぎではないが、1000年間己を束縛し続けてきたものが突然消えたのだ。

 混乱していいやら、喜んでいいやら、色々複雑なはずだ。

 だがそれより、目下問題となるのはタピオンの今後だ。

 本来の流れならばブルマにタイムマシンを造ってもらって過去へ飛ぶわけだが、リゼットはあれはむしろタピオンには酷な事だと考えている。

 仮に彼が過去でヒルデガーンになる前の石像を破壊、もしくは魔導師一派を殲滅して危機を未然に防いだと仮定しよう。

 その場合、過去の世界にタピオンが二人いる事になってしまい彼の居場所はない。

 かといってヒルデガーン封印後に戻っては本末転倒だ。戻る意味そのものがない。

 つまりどちらにせよ、彼は弟と暮らす事が出来ない事に変わりはなく、全く救いがないのだ。

 それよりは、この時代で彼の弟であるミノシアと再会させてやった方がまだ救いになるだろう。

 そして幸いにして、この星にはそれを可能とする奇跡の球があった。

 あまり乱用したくはないのだが……しかしタピオンにも救いがあっていいだろう。

 それにヒルデガーンという怪物を封じ続けていた彼は考えによっては宇宙の英雄だ。

 リゼットが強くなった今だからこそ何とかなったものの、あれがもし数年前に現れていたら宇宙全体が破壊し尽されていてもおかしくなかったのだ。

 

「あ、あの、地球の神様。俺は、これからどうすれば……」

「そうですね……では、しばらくはこの神殿で暮らしてみませんか?」

 

 とりあえず、まずはタピオンの暮らす場所を提供する必要があるだろう。

 ここにきて放り出すのは流石に寝覚めが悪いし、リゼットはそこまで人でなしでもない。

 

「よ、よろしいのですか?」

「ええ。貴方の封印が解けてしまったのはドミグラを止める事が出来なかった私にも問題があります。遠慮はいりませんよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 これでとりあえずタピオンの仮の住居は決まった。

 そのうち出て行くとしても、その準備をするだけの時間は得られただろう。

 地球に永住したいと言い出したなら、その時に改めて彼の家を建ててやればいい。

 リゼットはゴッドガードンのうちの一体を呼び、タピオンの案内を任せる。

 

「確かまだ部屋は空いていたはずですね? タピオンを適当な空いている部屋へ案内してあげて下さい」

「ハイ、ワカリマシタ」

 

 ガション、ガションとゴッドガードンが歩き、タピオンもその後に続く。

 それを見届けてからリゼットはドラゴンボールを使い、一人の少年を蘇生させた。

 ドラゴンボールは絶望の未来の反省から常に使える状態で待機させておきたいので、即回収して精神と時の部屋へ入れるのも忘れない。

 そして蘇生されたミノシア少年は地球から遠く離れた星で復活したので、ヘブンズゲートで迎えに行って回収しておく。

 

 そして、千年生き別れていた兄弟は地球の神殿で涙の再会を果たす事となった。




【スパーキング・ネオ】
リゼットの技の一つ。スパーキングより大きい直径2mほどの巨大気弾を発射するスパーキングの改良技。
スパーキング・メテオよりは弱い。
スパーキング=イオ
スパーキング・ネオ=イオラ
スパーキング・メテオ=イオナズン みたいなもの。
運がよかったな。今日はMPが足りないみたいだ。

【ドラゴンボールで生き返れる期間】
Wikipediaで『複数の死者を生き返らせる場合は死後1年以内でなければ復活できないが』とあるので、このSSではそれを採用。
一人ずつなら1年以上経っていても有効とする。
なので自分の考えがあっても「このSSではそういう設定」で納得して頂けると助かります。


【神殿の住民】
Mr.ポポ
セル
魔人ブウ
ゴッドガードン×15
兎人参化&兎団
タピオン【NEW!】
ミノシア【NEW!】

ちなみにミノシアはどんなキャラかよく分からないので、生き返ったはいいものの兎団みたいな背景になると思われます。

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