ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第九十二話 神になれたはずの男

 ドミグラが黒い気弾を乱射し、その弾幕を掻い潜りながらリゼットが白い気弾を放つ。

 リゼットが速度と技術で勝り、ドミグラはパワーと耐久に秀でている。

 戦いの天秤は極めて危ういバランスで均衡を保っており、どちらに傾いてもおかしくない状況だ。

 だがその天秤を傾ける事の出来る存在――孫悟空が場に参上した事で勝敗は決した。

 洗脳されていたトランクスとバーダックを無事解放した悟空が加わった事で一気に天秤が傾いたのだ。

 

「神様、遅くなってすまねえ!」

「いえ、いいタイミングです。一気に押し切りますよ」

「おう!」

 

 悟空が超サイヤ人3へと変身し、両手に気を凝縮させる。

 その体勢から放たれるのは彼が少年の頃から使い続けてきた、今や彼の代名詞ともなっている技だ。

 戦いの次元が神の域へ入ろうとも、この技の使い勝手は変わらない。

 

「かめはめ波!」

 

 青白い光の洪水がドミグラを呑み込み、彼の肌を焼く。

 いかに防御に優れていようと、ノーダメージではない。

 それでも構わず攻撃しようとしたドミグラだが、かめはめ波が終わると同時に今度は純白の極光が彼の視界を覆い尽くした。

 

「Raging blast!」

 

 攻撃が終わったと思い無意識に緩めてしまった僅かな気の緩み。

 そこを的確に突いての追撃は思いの外堪える。

 だがまだだ。まだ耐え切れる。

 そう思うドミグラだが、彼は次の瞬間見た。

 既に次撃を行うべく気を溜めている孫悟空の姿を!

 

「波ァァァァ!!」

 

 白の輝きが終わると同時に再び青白い気功波がドミグラを急襲した。

 必死に防御を固めて耐え凌ぐも、やはりドミグラに休息の時は訪れない。

 かめはめ波が終わるか終わらないかのタイミングで再び純白の極光が押し寄せ、ドミグラを打ちのめした。

 このままでは不味い!

 そう判断したドミグラはダメージを気にせず強引に白の輝きの中を突っ切り、リゼットへと飛びかかった。

 しかし――鈍い!

 ドミグラの堅牢さは確かに長所ではあるが、動作の遅さは反撃に転じるのに向いていない。

 薙いだ爪は虚しく宙を裂き、僅かにリゼットのドレスの端を捉えただけだ。

 そればかりか、気の形状変化にて創造された光の鎖が彼の四肢に巻き付き、その動きを制限してしまう。

 

「Sparking・Neo!」

 

 ドミグラの身体すらも飲み込むほどの巨大気弾が炸裂し、それが終わると同時に龍と化した悟空が突撃してドミグラを貫いた。

 龍拳――悟空が持つ、彼唯一のオリジナル技だ。

 気を龍の形へと変じて突撃するこの技を以てすればドミグラといえどひとたまりもない。

 腹に大穴を開けられた彼は激しく吐血し、それでも尚負けを認めずに叫ぶ。

 

「くそおおおおおお!!」

 

 彼の最後の抵抗は、駆け引きも何もあったものではない全霊での突進であった。

 持てる気の全てを振り絞って流星と化し、悟空とリゼットへ最後の勝負を挑んだのだ。

 これに対し悟空は超化を解除して通常状態へと戻り、虚空へと両手を掲げた。

 

「全ての時間軸の皆! オラに元気をわけてくれ!」

 

 本来ならば完成に膨大な時間がかかるはずの元気玉が一瞬で完成する。

 何故ならここは時の狭間。元より時間の流れなど存在しない時間軸を超えた空間だ。

 そしてこの元気玉こそは皆の怒り。

 ドミグラによって狂わされてきたあらゆる歴史から下される裁きの一撃だ。

 

「これで終わりです……ドミグラ!」

 

 リゼットの光輪が輝き、重力が役目を放棄したように彼女の身体が垂直に浮き上がった。

 両手をゆっくりと、何かを持つように構える。

 すると手の中に白い輝きが溢れ、それはやがて触れた物全てを塵へと還す光球へと変化した。

 神の気を凝縮する事によってのみ成立する、破壊神の模倣。

 本家には遠く及ばないまでも、それでも銀河系一つくらいならば無に還して余りあるだろう。

 

「元気玉ぁぁ!」

浄化(はかい)!」

 

 あらゆる時間軸から集めた元気玉と、触れた物を塵へ還す破壊の一撃が放たれた。

 二つの巨大な光の塊が同時にドミグラへと激突し、彼の突撃を止める。

 二つの力は負けるものかと互いに押し合うが、それも長くは続かない。

 ドミグラは最後の意地で少しは持ち堪えたようだが、やはり耐え切れるものではなかったのだ。

 彼は次第に押され、そして最後には光の激流の中へと飲まれて行く。

 

「な、なんて、奴等だ……。

私は、神になった……神になった……はず……なのに……」

 

 身体は灰となり、その野望ごと消滅していく。

 これでは仮に魔人ブウ並の再生能力があったとしても絶命は免れなかっただろう。

 やがて光が終わった時、そこにドミグラだった男はもういなかった。

 存在の痕跡すら残さず消滅してしまったのだ。

 そして時を超越したこの空間で死んだ彼は、どの時代においてもその死すら認識されない。

 彼は今後、永遠に生死不明のままなのだ。

 

 ここに魔神ドミグラとの戦いは終わった。

 哀れな敵だった……リゼットはドミグラという男を心底残念に思う。

 彼に勝ち目などというものは最初からなかった。

 身の丈を計り違えてビルスに手を出した瞬間、既に彼は詰んでいたのだ。

 仮にここで自分達に勝利しても後に待つのは破壊神による粛清であり、どのみち彼に未来はなかった。

 そうとも気付かずに踊り続ける様は……滑稽を通り越して、ただ哀れでしかない。

 

(やり方を間違えねば本当に神にもなれたでしょうに……つくづく、惜しい男でしたね)

 

 素質は十分にあった。才能もあった。

 界王神を遥かに上回る戦闘能力にバビディを凌駕する魔術の腕。トワ以上に時間を操り、トキトキを吸収して数千万年溜めたエネルギーを使ったとはいえ、神の領域にも手が届いた。

 彼は間違いなく傑物だった。ただ、やり方を致命的に間違えてしまっただけだ。

 ドミグラから解放されたフクロウのような鳥――トキトキがリゼットの肩へ止まる。

 そして二人と一羽はその場から瞬間移動をした。

 後には壊れた歯車だけが残り、それもやがて修復されてドミグラがいた痕跡は一つもなくなるだろう。

 その事を少しだけ、リゼットは残念に思った。

 

 

 

「よくやってくれたわ二人共。これで時の改変はもう大丈夫よ」

 

 時の界王神と合流した二人は、彼女から労いの言葉をかけられていた。

 トキトキ都は随分酷く破壊されてしまったが、それもしばらくすれば復興出来るらしい。

 それよりも彼女はドミグラとの数千万年に渡る因縁に決着が付いた事がよほど嬉しいのだろう。

 ニコニコと笑顔で二人へ惜しみない称賛を送っている。

 

「ちっ、最後の最後でとんだ役回りだ。足引っ張っちまって悪かったな」

「なあに、そう気にする事はねえさ。……ええと、父ちゃん?」

「……」

 

 悟空が戸惑いながらもバーダックを父と呼ぶが、彼は答えない。

 ただ無言で腕を組み、背を向けてしまった。

 

「あり? 何かオラやっちまったんか?」

「違いますよ悟空さん。あれは照れてるんです」

「トランクス! 余計な事言うんじゃねえ!」

 

 バーダックの行動の意味をトランクスが語るが、どうやら図星だったようだ。

 背を向けたまま素直ではない男の怒声が響き、トランクスは苦笑した。

 

「悟空さん、リゼットさん。本当にありがとうございました。後は、俺達だけで大丈夫です」

「へへ。昔はトランクスに助けられちまったし、これでようやくおあいこだな」

「ええ、そうですね」

 

 悟空とトランクスは笑いながら語り合い、手を固く握る。

 本来は異なる時間軸に生きる者がこうして再会出来るというのは酷く貴重な事だ。

 二人はしばらく視線を交わし、やがて手を離した。

 次にトランクスはリゼットとも固い握手を交わし、名残惜しそうに離す。

 

「二人共……また会えて嬉しかったです」

「ああ、オラもだ」

「ベジータは、ここに来れなかった事を悔しがるでしょうね。

……あ、そうだ。これ、もしかして貴方のですか?」

 

 リゼットはふと、思い出したように亜空間からコートを取り出した。

 それは以前、クウラとの戦いで力尽きた彼女の下に敷かれていた物だ。

 彼女の仲間にこんなコートを着ていた者はいないし、ナメック星人の衣服とも明らかに違う。

 一体誰が自分を助けてくれたのかとずっと疑問だったのだが、もしかしたらそれはトランクスだったのではないか……そう思ったのだ。

 

「あ、確かにそれは俺のです。捨てずに持っていてくれたんですね」

「やはり貴方でしたか。どうやら私は、知らない所で随分と助けられていたようですね」

 

 トランクスにコートを返しながら、思う。

 きっと自分達が気付いていないだけで、彼等はずっとリゼット達を守ってくれていたのだろう。

 次にまた会える機会があるかは分からない。

 だが生きる時間軸は違えど絆は繋がっている。

 その事を確信した今、別離は恐れるべきものではない。

 悟空達は笑顔のまま別れの挨拶を告げ、まさに帰るその直前になってバーダックが「カカロット!」と声をあげた。

 相変わらず背を向けたままだが、彼はたった一言だけを息子へと贈る。

 

「…………達者でな」

「……ああ、父ちゃんもな」

 

 バーダックも最後まで素直になれない男だ。

 そんな姿を少しだけベジータみたいだな、などと思いながら悟空とリゼットは時の巣を立ち去った。

 彼が消えた後をトランクスはいつまでも見詰め、クロノアは手を振る。

 そしてバーダックは一度だけ振り返り、そして未練を断ち切るように一足先に建物の中へと入って行った。

 

 

 ドミグラを倒し、半年が経過した。

 その日、神殿の中に造りあげた修練所の中でリゼットは目を瞑り、ひたすらに意識を研ぎ澄ませていた。

 ゼノバースはもう、安定して制御できるようになった。

 ならば目指すのはその先で、理性を保ったままゼノバースの真の力を引き出すのが到達点だ。

 かつて暴走してしまった時の力を完全に使いこなせるようになれば、ビルスとも互角に渡り合えるはずだ。

 しかし今のリゼットではまだ、出力を限界まで落とした神域でなければ使いこなせない。

 本気で使えばあっという間に自分を見失ってしまうだろう。

 故に、まずはひたすらに精神鍛錬である。膨大な信仰の念に押し流されぬ精神を身に付けなくてはならないのだ。

 そうして瞑想を続けていたリゼットだが、ふと部屋の中にセルが入ってきている事に気が付いた。

 

「セルですか……どうしたのです?」

「修行中すまないな。宇宙からお客さんだ」

「……また破壊神様ですか? それとも、界王神様?」

「いいや、ごく普通の……というとおかしな言い方だな。ともかく、神ではない宇宙人のようだ」

 

 神でも魔神でも魔人でも宇宙の帝王(復活の『F』)でもない来客とは逆に珍しい事もあったものだ。

 リゼットは瞑想を中断し、神殿の外へと出る。

 そこには何もないが、神殿の外でウロウロしている宇宙船の姿が確かに見て取れた。

 恐らく神殿が次元潜行してしまっている為、こちらに来たくても来れず困っているのだろう。

 リゼットは軽く宇宙船の中を遠視で探り、害意を持っていない事を確認してから神殿の姿を表へと出してバリアを解除した。

 すると宇宙船はこちらへと移動し、神殿の端へ着陸する。

 そして中から出てきたのは獣型の宇宙人だ。

 ……もっとも、地球にも獣タイプの地球人がいるため、正直区別がつかない。

 動物でいうとライオンが一番近いだろうか。

 強面ではあるが頭身が妙に低く、あまり強い気も感じない。

 隣には更に背の低い眼鏡をかけた老人がおり、奥には筋肉質で一回り巨大な獣人もいる。

 一番奥の獣人はそこそこの手練のようだ。戦闘力にして……大体1000前後はあるだろう。

 さて、一体何の用でここまでやってきたのか。

 

「お初にお目にかかります、地球の神よ。

我々はスナク星の使者。そしてこちらの方はスナク星の大使閣下。

貴女様が破壊神ビルス様を撃退したと聞き、ご挨拶に伺ったのです」

「はあ……」

「その証拠にスナク星人最高の敬意を払うご挨拶を……」

 

 そう言うと二人の獣人はその場で妙なダンスを踊りその場の全員を呆れさせた。

 まあ、宇宙人なのだから当然文化だって違う。

 一体どういう経緯であれが最高の敬意を払う挨拶になったのかは分からないが、まあ嘘を吐いている気配はない。

 リゼットは若干引きつった微笑で挨拶に対し礼の言葉を述べておいた。

 

「ユ、ユニークな挨拶を有難うございます。

しかし、破壊神様を撃退したというのは語弊がありますよ」

「な、何ですと? それは一体……」

「確かに私はビルス様と戦いましたが、倒したわけではありません。

正確には戦っている最中に第三者の割り込みを受けてビルス様と共闘し、そのまま有耶無耶に流れてしまったのです。

それに、ビルス様と戦ったのは私だけでもありませんしね」

 

 宇宙から見て、ビルスが来訪して一度は激怒したにもかかわらず破壊されなかったというのは史上例を見ない快挙だ。

 そしてリゼット本人はイマイチ分かっていないが彼女の知名度は宇宙規模であり、様々な星に彼女を崇拝する信仰宗教やファンクラブなどが存在している。

 故に彼等がビルスの撃退とリゼットを結び付けてしまうのは至極当然の流れであり、ここへ来てしまったのだ。

 余談だが、それでも地球に宇宙人が押し寄せないのは超銀河王ザーボンがしっかりと管理し、無断で地球に立ち入る事を禁じているからだ。

 彼等も地球へ向かう許可を得るのには随分苦労したのだが、それはどうでもいい話だろう。

 

「いえ、それでもあの破壊神がやって来たのに地球がこうして無事でいるというのは素晴らしい事です。宇宙でも大評判ですよ。

ですから貴女にこの勇者のメダルをお贈りしたい」

 

 ――いや、正直要らないんですけど。

 リゼットはそう口に出そうになるのをぐっと堪えた。

 この勇者のメダルとやらに宇宙でどれだけの価値があるかは知らないが、少なくともリゼットにとって価値のあるものでないのは確かだ。

 どこの星の誰が造ったかも分からない勇者のメダルとやらをいきなり『贈りたい』などと言われても扱いに困る。

 まあ、幸い勇者ならばこの神殿にいるし彼のアクセサリーとしてなら丁度いいだろうか?

 それとも、真に勇者と呼ぶに相応しい男……つまりは悟空に渡すべきか?

 ……いや、駄目だ。彼も多分こんなのは欲しがらない。

 

「待たれよ! 貴女が真の勇者であれば我に力を示すのは簡単な事!

どうかこのガルビと手合わせを願いたい!」

「……こちらの方は?」

「し、失礼しました。この者は我がスナク星の勇者、ガルビといいます。

神よ、どうか彼の我侭に応えてやっては頂けぬでしょうか?」

 

 リゼットはガルビという男を一瞥して、小さく溜息を吐いた。

 どう考えても他の星の神に対する態度ではないのだが、まあ地球という田舎惑星の神なんて他の星から見れば大して偉くもないのだろう。

 

「構いませんよ。どこからでもどうぞ?」

 

 リゼットは腕を後ろで組み、ガルビの攻撃を待つ。

 それを舐めている、と取ったのだろう。

 ガルビが獣そのものの雄叫びをあげて拳を繰り出すがリゼットは目を閉じたままそれを回避してしまった。

 続く連撃も完全に避け切り、ガルビが満足するまで待つ。

 別に弱くはないのだが、残念ながら地球に来た時期が悪すぎた。

 ようやく実力の差を悟ったガルビへ、軽く手を振るう事で風圧を与えて跳ね飛ばした。

 亀仙流『さわやかな風をプレゼント』だ。

 

 かくしてスナク星の面々はリゼットの実力に疑問を抱く事なく、その実力に感服して頭を垂れた。

 どうやら、本当に何の悪巧みもしていないただの宇宙人だったようだ。

 少しばかり拍子抜けですね、と思い、そこでリゼットはトラブルや宇宙規模の魔人などに慣れすぎている自分に気付き、少し憂鬱な気持ちとなった。




・ドミグラ戦において超化からの気功波連射は基本。
というかアーマーが硬すぎて接近戦なんかやってられない+遅くていい的なのでどうしても気功波乱舞になってしまう。
というかゼノバースは後半の敵がどいつもこいつもアーマーばっかで気付いたら王子戦法ばかりに……。
やっぱりベジータは間違ってなかったんや!

【戦闘力】
ガルビ:1000くらい
※サタンに初撃を避けられているので正直大した事なさそうだが、気を計る力はあるらしいのでとりあえず1000くらいとしておく。
この後、ブログにリゼットと戦った事を書いたが『メダル渡しに行って喧嘩売るとかアホなの?』と全方位からバッシングを受けて大炎上した。

浄化(はかい)
リゼット版破壊玉。外見はトッポが放つ破壊玉を白くしたようなもの。
破壊の力など既に経験済み……どうってことありませんよ!
オーッホッホ、このゴールデンフリーザの前では無意味ですよ!
……んっ?……無意味だと言っているでしょう!
こんなもの……無意味……!
こんなもの……こ、こんな…………うわあああああああ!!

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