ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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・ベジータとキャベの強さに関して。
誤差のようなものなので千以下の数値は弾いてますが、実は完全に互角というわけではなくラディッツ5人分くらいベジータが勝ってます。


第九十八話 破壊神選抜格闘試合③

 ターレスの提案により、この試合限定で全ての反則が取り払われた。

 それはつまり武器も殺しも有りという事だ。

 無論これにフロストが異議を唱えるはずもなく、変更を了承。

 かくしてここにルール無用のデスマッチが両者合意の元で成立してしまった。

 

「ホホホホホ……卑怯な手こそ私にとって最大の武器。

ただそれってこうも言えるんじゃないでしょうかね。

私は今まで最大の武器を隠しながら戦い続けてきたと」

 

 本性を隠す必要もなくなったフロストが悪びれもせずに言う。

 何ともふてぶてしい態度だが、ターレスの表情に変化はない。

 卑怯卑劣大いに結構。元より無法の闘いなど慣れたものだ。

 ベジータなどは完全に地球に染まり、ルール有りの甘っちょろい試合に納得してしまっているがターレスは違う。

 彼は過去から現在まで常にこちら側の住人だ。

 

「ルールがなくなったからにはこの毒針、貴方との試合でも遠慮なく、躊躇なく、えげつなく使わせて頂きますよ」

「ま、またやるつもりですか! あなたは神聖なルールを何だと思っているんです!?

こ、今度こそ失格にしますよ!」

「と、外野が言っていますがどうします?」

「勝手に言わせておけよ。外野なんざどうだっていい」

「ホホホホ、貴方、気に入りましたよ。私と同じ無法の匂いがします」

「ああ……同類さ俺達は。仲良く()ろうや」

 

 審判の言葉など耳に入れる必要もない。

 フロストもターレスも残忍な素顔を隠す事なく殺意を漲らせている。

 

「でも、殺すのは反則というルールまで取ってしまってよろしいのですか?」

「ククク、構やしねえよ。どうせそんなルールがあろうが『不慮の事故』で相手を死なせちまうのがテメエのやり口だろう? なら最初から反則なんぞ無しの方が分かりやすくていいぜ」

「なるほど、よくわかってらっしゃる」

 

 片や第6宇宙における宇宙の地上げ屋。

 片や第7宇宙の元クラッシャー軍団首領。

 二人の無法者がデスマッチに合意し、審判は地団駄を踏む。

 破壊神二人も止める素振りを見せないし、早くも彼は審判としての存在意義を喪失しかけていた。

 

「ああもう、どうなっても知りませんよ! 試合、再開!」

 

 審判の声が響き、フロストの全身が発光して一気に最終形態へと移行した。

 そうして急上昇した身体能力をもって加速し、ターレスへと駆ける。

 

「ルール破りと殺し! 私の領域へようこそ!

それではじっくりと御覧に入れましょう! 血まみれのショータイムの始ま――」

 

 台詞の途中に、フロストの捕捉出来ない速度でターレスが飛び込み、フロストの腹を膝で蹴り上げた。

 よろめいた所で頭を掴み、目を合わせて囁くように彼の台詞を引き継ぐ。

 

「血まみれのショータイムの始まりだ!」

 

 顔を掴んだままフロストの顔面へ膝蹴り!

 二度、三度と繰り返してフロストの歯を全て砕き、鼻をへし折る。

 更にフロストの右腕を狙い、肘打ちと膝蹴りで挟み潰す!

 早々にフロスト最大の武器を無力化し、だがターレスは止まらない。

 顔を痛烈に殴り、吹き飛んだ先へ回り込んで蹴り上げ、ダブルスレッジハンマーで叩き落す。

 リングに衝突する寸前に地面へ先回りし、膝蹴りでフロストの腹を蹴って浮かせ、改めて頭を強打してリングへと沈めた。

 

「そらそらァ! さっきまでの威勢はどうしたァ!?」

 

 倒れているフロストの頭をサッカーボールのように蹴り、即座に追いかけて肘打ち。

 フロストには最早抵抗する力もないのか、されるがままに吹き飛んでリング端へと飛んで行った。

 このまま放置すればフロストは場外へ落ちてしまうだろう。

 勝負あり……誰もがそう思った。だが次の瞬間にフロストの首をターレスが掴んで場外アウトから助け出す。

 まだ終わりではない。返り血に濡れたターレスの凄惨な笑みがそう語っていた。

 

「危ねえ危ねえ……危うく場外だなんてつまらねえ終わり方させちまうところだった。

もっと楽しまねえと……なあ!?」

 

 フロストの足ごとリングを踏み砕き、埋没させる事でフロストに直立する事を強要する。

 同時にターレスが踏んでいる事でフロストが吹き飛ぶ事を防止し、そこから容赦のない拳のラッシュを叩き込んだ、

 右へ左へとフロストの頭が血飛沫をあげながら揺れるが、ターレスに踏まれているせいでその場に固定されてしまっている。

 倒れそうになっても、そこを狙ってターレスの拳がめり込み、無理矢理に立ち上がらせる。

 それはもはや試合ではなく、ただの処刑でしかなかった。

 

「ふはははは……ハァーッハハハハハハ!」

 

 ターレスが返り血を浴びながら高笑いし、尚もフロストを痛めつける。

 それは傍から見れば血に飢えた狂戦士にしか見えないだろう。

 実際、七割ほどは本当に血に飢えている。演技でも何でもなくこの闘争を楽しみ、敵を叩きのめす事に快感を感じている、酔いしれている。

 どれだけ普段大人しくしていようと、本質的な部分では闘争と破壊を楽しむ『悪』……それがサイヤ人だ。

 少なくとも第7宇宙ではそれがサイヤ人の常識である。

 普段は周囲に合わせ、あえて輪を乱す事もあるまいと自重しているターレスであるが、それでも彼の中の残虐性や闘争心が消えたわけではない。

 本当はいつだって、こうして存分に爆発させる事の出来る機会を待ちわびていたのだ。

 だからこそ、そんな彼にとっていくらぶちのめしても問題ない(・・・・・・・・・・・・・・)フロストという相手は、この上なくありがたい餌であった。

 

 しかし決して凶暴なだけではないのがターレスという男だ。

 七割の部分は本能に忠実な狂戦士と化している。

 しかし残る三割の部分で彼は冷静に計算を働かせていた。

 ターレスはフロストを決して過小評価していない。むしろ敵の中で一番厄介になり得ると考えている。

 この手の無法者は試合が終わったからはいさようなら、とはいかないのだ。

 もしかしたら闇討ちを仕掛けて来るかもしれない。恨みを抱いて虎視眈々と第7宇宙の戦士達をつけ狙うかもしれない。

 勿論そんな事はやらないかもしれないが、やるかもしれない。

 手段を択ばない奴というのは何をしてもおかしくないのだ。

 

「ま、参……」

「ふはははははははは! 声が小せェんだよォ!」

 

 参った、と言いかけたフロストの口に膝蹴りを叩き込んで、大声で彼の台詞を遮る。

 降参などさせない。逃げ場など用意しない。

 フロストには、自分達へ恨みを抱くだけの余地すら与えない。

 今ここで、逆らう気力すら起きないほどに……後になって復讐など考えないように。

 徹底的に、執拗に、心をへし折る。二度と関わりたくないと思うほどに!

 この第7宇宙にはターレスという、フロストすら上回る無法者がいると骨の髄にまで教えてやる。

 やがて何も言えなくなったフロストを掴んで、乱暴にリングへと叩き落した。

 それからダウンした背中を踏み躙り、容赦なく背中に手を翳す。

 

「お前とぶつかったのが俺でよかったぜ。

ま、お前にとっちゃ災難だろうがな……あばよ!」

 

 気が掌に集約され、だがフロストは逃げる事も出来ない。

 次に自分に襲い掛かる惨劇を予想し、恐怖するだけだ。

 

「死ねえーッ!!」

 

 遠慮なく、躊躇なく、えげつなく。

 気弾を乱射し、フロストの背中へ炸裂させた。

 フロストが悲鳴をあげようが手を緩めはしない。断末魔すらターレスを止めるには至らない。

 そのあまりに容赦のない残虐ファイトにキャベが引き攣った顔をし、「同じサイヤ人でもこうまで違うのか」と戦慄していた。

 ようやく攻撃が終わった時、もうフロストは指一本動いてはいなかった。

 そのフロストの首を掴み、止めの蹴りを首筋へ叩き込む。

 するとフロストは壊れた人形のようにリング外へ墜落し、勝敗が決した。

 

「しょ、勝者、ターレス選手!」

 

 勝者宣言にターレスが腕を組んでさも当然であるかのように笑い、シャンパが顔を険しくする。

 これで第7宇宙は二連勝だ。

 そろそろ勢いを止めなければ不味いと思ったのだろう。

 何やらヴァドスと話し、会場に手を加えさせている。

 一方第7宇宙側のビルスは上機嫌だ。

 

「なかなかやるじゃないか、あのターレスっていう悟空の2Pカラー。

敵の反則を受け入れた上で叩きのめすとは痛快だ」

「っひゃー、相変わらず容赦ねえよなターレスの奴。あそこまでやらなくてもよかっただろ」

「彼にラフファイトを挑んだ時点でフロストという選手の負けは見えていましたね」

 

 悟空が呆れたように言い、リゼットも肩をすくめる。

 そうしている間にシャンパは勝手にリングの上にバリアを追加してしまい、今まではなかった『バリアに触れたら場外』のルールを何の相談もなく加えてしまった。

 勿論こんなのはマナー違反もいいところである。ビルスは憤慨し、シャンパに文句を付けようと飛翔するが、そこにリゼットが声をかけた。

 

「ビルス様」

「何だ? 僕は今からあいつに苦情を言ってくるんだ。用件は後にしろ」

「いえ、彼の要求ですが、あえて受けてしまいましょう」

「何!?」

 

 どういうつもりだ、とビルスが怒りを込めた視線でリゼットを見るが彼女ももうビルスとの付き合いには慣れたものだ。

 落ち着いた様子で淡々と己の意見を語る。

 

「こうして無理にルールを変えてきた以上、こちらが何を言っても突っぱねるだけでしょう。

ならばいっそ、ここは受け入れる事でこちらから交換条件を出してしまえばいいのです。

『受け入れてあげるから、こっちの条件も呑め』と」

「……なるほど、そりゃ面白い。で、何を提示するんだ?」

「勿論、向こうがルールを変更したのですからこちらも同じものを。

『好きなタイミングでルールを追加する権利』を主張し、その上でこれを呑めないならば相手の条件も呑めないと要求してきて下さい」

 

 リゼットの提案にビルスはふむ、と呟く。

 ここで下手にシャンパに文句を言ってもゴネ得でゴネられるだけだ。

 ゴネ得……ゴネ得……っ!

 それよりはこちらが寛大さを示し、その上で条件を突き付ける事であたかもそれが対等の条件であり、権利であると思わせてしまう。

 つまりは心理的に、これを飲めなければルールの追加も出来ないと錯覚させるのである。

 あのシャンパという破壊神は見たところ、相当頭の回転も鈍そうなのでまずかかるだろうとリゼットは思っていた。

 

「だが、あいつの追加ルールでこっちが不利になるのをみすみす受け入れるのもな……」

「問題ありません」

 

 リゼットはビルスを手招きし、耳元で告げる。

 

「いいですか? この追加ルールは『バリアに触れれば場外負け』であって『指定した空域外に出たら場外負け』でないのがポイントです」

「どういうことだ?」

「試合が始まると同時に壊してしまえばいいんですよ、バリアを。

幸いそれほどの強度でもないようですし」

「ほう! その手があったか!」

「はい。つまりこの追加ルールは何一つとしてこちらの不利には働きません。

それどころか無駄に相手の次の手を予測し易くさせ、弱点を暴露し、更にこちらが付け入る隙にすらなります。

……せっかくシャンパ様が焦って隙を晒してくれたのです。ならばこの機を逃す手はありません」

「くくく、なるほど。よしわかった、お前の言う通りにしてやる」

 

 リゼットの説明にビルスが笑い、意気揚々とシャンパの所へと飛んで行った。

 そしてしばしの口論が始まるが、その結果は既に見えている。

 リゼットはしばしそれを眺めていたが、ふと小さな気がコソコソと移動している事を感知した。

 彼女の桁外れた感知能力は戦闘力を0に落としても尚、相手の動きを察知する。

 それは生き物である以上、どうしても生命エネルギーは0に出来ないからであり、スカウターや悟空達では拾えない些細な気すらも彼女ならば感じ取れる。

 そうして感じたのは、死んだと思われていたフロストがしぶとく動いて試合会場から離れている様であった。

 あれだけやられてまだ動けるとは驚くべきしぶとさである。

 何をしたいのかは知らないが、どうせロクな事ではないだろう。

 もっとも、こちらへの悪意は一切感じないので完全に心は折れているようだ。

 リゼットはその場から転移し、フロストの気を追った。

 だが結論から言えばそれは無駄な事であり、リゼットが到着した時には既にフロストは何故かその場にいたヒットに倒され、連れ戻される所であった。

 リゼットとヒットがすれ違い、互いの視線が一瞬交差するも会話はない。

 ヒットの背を見送り……だがそこでリゼットはもう一つの気配を感じ取った。

 妙な気配だ。小さいのか大きいのかも判別がつかず、ビルスなどの気とも明らかに異なる。

 振り返ればそこにいたのは、異星人の小さな子供であった。

 楕円型の顔は三色に分かれ、中央は水色。両側は濃い青色だ。

 丁度色の境目となる部分にはつぶらな瞳があり、こちらを興味深そうに見上げている。

 身長は1mより少し大きい程度。幼児と呼んでいいサイズで、紫色の法被のような服を羽織っている。

 中に着ているのは黒い服で、『王』、『∨』、『∧』、『王』という字を上から一列に並べたようなデザインをしている。

 少なくともリゼット達と一緒に来た第7宇宙側には居ない人物であり、リゼットは恐らく第6宇宙側の応援だろうと目星を付けた。

 

「こんな所でどうしたんですか?」

 

 リゼットは異星人の子供の前に屈み、目線を合わせて尋ねた。

 もしかしたら親からはぐれたのだろうか?

 第7宇宙側にはこんな子供を襲う輩などいないが、あのフロストのような何をしでかすか分からない者がいる以上、子供の一人歩きは余りいい事ではない。

 なので迷子ならば保護者の所まで連れて行った方がいいと判断して声をかけたのだが、異星人の子供は不思議そうにリゼットを見上げるばかりだ。

 

「ええとね。ちょっと退屈だったから散歩してたのね」

「散歩ですか。誰か一緒ではないのですか?」

「つまらないのが二人いるのね。いつも僕の後ろに付いてきてるけど、たまには一人で歩きたいのね」

 

 つまらないのが二人……リゼットはこれを、多分父親と母親の事だろうと考えた。

 いや、もしかしたら知り合いや友人だろうか。

 どちらにせよ、一緒にいる相手をつまらないの呼ばわりは頂けない。

 子供にありがちな身勝手な物言いではあるが、こういうのはちゃんと幼い時に教えてあげないと駄目になってしまう。

 

「駄目ですよ、つまらないのなんて言っては。いつも一緒にいてくれるという事は、貴方の事を大事に思って心配してくれているという事だと私は思います」

「そうなの? ……わかった。つまらないのって言わない」

「ええ、いい子ですね」

 

 リゼットは微笑み、子供の頭を撫でた。

 異星人の子供はその行為に元々丸い目を丸くしたが、少なくとも嫌がってはいない。

 むしろ口元が緩み、喜んでいるようにさえ見えた。

 

「初めて褒められたのね」

「初めて……?」

「おべっかは飽きたけど、こうして褒められて撫でられるのは初めてなのね」

 

 異星人の子供の言葉から、もしかしなくても相当いい所の子供なのだろうとリゼットは考えた。

 なるほど、もしかしたら彼の言う『つまらないの』とは護衛やお付きなのかもしれない。

 ならばつまり、この子供は今まで誰にも本心から褒められたこともなければ甘えた経験もないという事になる。

 少年(?)はリゼットの手を掴み、期待するように見る。

 

「他には何かない?」

「他ですか? うーん……では、不愉快でないならば抱っことか?」

「それいいね、やってみて。僕それ、やってもらった事ない」

 

 あれ? 何だかもしかしてこの子、凄い不憫な子?

 あるいはそういう文化のない宇宙人なのだろうか。

 リゼットはそう思い、少年の言う通りに彼を抱き上げた。

 すると彼は嬉しそうに歓声をあげ、リゼットにしがみついた。

 

「こういうの、誰も僕にやれないの。凄い新鮮なの」

 

 それはきっと、彼がいい所の子供で皆が委縮してしまっているからだろう。

 そうリゼットは考え、ならば今だけは自分に甘えさせてあげてもいいだろうと考えた。

 抱き上げながら少年(?)の頭を優しく撫で、あやす。

 しばらくそうしていると、やがてドタドタと足音が響いて同じような顔をした見分けのつかない長身の男が二人駆け込んで来た。

 二人の男はリゼットと、彼女が抱き上げている子供を見て、「アイエエエエ!?」と目が飛び出さんばかりに驚愕をする。

 どうやらこの二人が保護者のようだ。

 

「ぜ、全王様ァァァ!?」

「そ、そこの女、何をしとるか! 無礼だぞ!」

「……うるさい。消しちゃうよ?」

 

 同じ顔の二人が何やら喚くも、それを少年の静かな声が黙らせた。

 何はともあれ保護者登場となれば、この時間も終わりだ。

 リゼットは彼等の所へ歩み、少年を渡そうとするが何故か受け取ってくれない。

 仕方がないので地面にそっと降ろすと、子供は名残惜しそうにリゼットを見た。

 

「ねえ君、名前教えて?」

「私ですか? リゼット、と言います」

「僕は全王。また会おうね」

「ゼンオー君、ですね。ええ、また会いましょう」

 

 リゼットがゼンオー君の名を呼んだ所で二人の男が「アバーッ!」と何故か卒倒しそうになったが、当の本人はまんざらでもなさそうだ。

 何度も口の中で『ゼンオー君……』と反芻し、やがて「いいね」と言って顔をあげた。

 

「絶対また会おうね。約束だよ」

 

 そう言い、ゼンオー君と二人の男はそこから姿を消した。

 どうやら瞬間移動系の能力を持っていたようだ。

 なるほど、確かにあんな力があれば子供でも一人歩きしてしまえる。

 リゼットは呑気に髪をかきあげ、どこの宇宙でも子供は似たようなものなんですね、と微笑む。

 そして、彼女もまた試合会場へと戻った。

 

 

 リゼットが戻った時、丁度話は終わっていた。

 ビルスの申し出に渋々シャンパが同意を示し、これにて両陣営共に一度だけルールの変更という札を手にする事に成功したのだ。

 とはいえ勿論、根源から揺るがしてしまうような追加はなしだ。

 例えば『第7宇宙の選手だから無条件に負け』とか『サイヤ人禁止』とか、そういうルールを加える事は出来ない。

 出来るのは精々、シャンパがやったような一度きりのバリアの追加やちょっとした変則試合程度のものだ。

 シャンパは気付いていない。目先の優位の為にどれだけ自分が不利な取引をしてしまったのかを。

 隣のヴァドスという女性は気付いているのかリゼットを面白そうに見ているがシャンパに伝える気はなさそうだ。何ともいい性格をした従者である。

 かくして次の試合はリングの周囲にバリアが張られ、ターレスの行動が大幅に制限される事となった。

 

「それでは第三試合! ターレス選手VSマゲッタ選手開始!」

 

 リングの上で相対するターレスとマゲッタを見ながらリゼットは考える。

 感じられる気の総量を言えば今のところはターレスが圧倒的に上だ。

 彼は前の試合から引き続き超サイヤ人2を維持しており、その気は平常時の100倍に達している。

 対するマゲッタは平常時のターレスよりはマシ程度であり、気だけで勝敗を考えればターレスの負ける要素はない。

 だが実際に戦闘が始まればマゲッタの気が急上昇し、超サイヤ人にも迫るパワー上昇を果たした。

 

「ポーッ!」

 

 マゲッタが頭から煙を発しながら愚鈍な動作で拳を振りかぶり、ターレスが余裕をもって避ける。

 見た目通りにパワーは凄まじい。だが速度が伴っていないのでは宝の持ち腐れだ。

 しかし頑丈さだけは大したものだ。

 ターレスが反撃してもまるで動じず、怯みすらしない。

 近接戦はやや不利。そう判断したターレスが上空へ上がる。

 だがマゲッタはそれを見ているだけで追跡の気配を見せない。

 なるほど、シャンパがバリアを加えたがるわけだ。マゲッタは空中戦が苦手らしい。

 いくら強くて固かろうと飛ぶことが出来ないのではただの的でしかない。

 だからこそのバリアの追加なのだろうが……シャンパは判断を誤った。

 

『ターレス。気の解放でバリアを壊してしまいなさい。

そうすればこの不利な状況はなくなります』

「はっ、そういう事か。随分と穴だらけのルール追加だったな。

……っはああああああああ!!」

 

 リゼットからの念話にターレスがほくそ笑み、一気に気を高めた。

 全身を覆う輝きが更に強くなり、頭髪が一気に伸びる。

 超サイヤ人3へと変身して、その変身時の気の発散でバリアを破ってしまう気のようだ。

 その目論見通りにシャンパが張ったバリアが脆く崩れ去り、ターレスは通常の超サイヤ人へと戻る。

 バリアがなくなったから本気の必要がなくなった?

 否。本気はこれから出すのだ。

 彼は勝利を確信したような笑みを浮かべ、手の中にパワーボールを生成した。

 それを見てリゼットも理解する。

 ターレスはここで決めてしまう気だ、と。

 

「くくく、おい、でかいの。これが何だか分かるかい?」

「ポー?」

「お月様さ」

 

 ターレスは丁寧に説明するとパワーボールを宇宙へと発し、腕を掲げた。

 

「弾けて、混ざれ!」

 

 名前のない星の上空で人工の月が輝き、それを見たターレスに変化が生じる。

 月が真円を描くとき。それこそサイヤ人が本領を発揮する時だ。

 だがこの場において尾を残したサイヤ人はターレス以外におらず、故に月の恩恵も彼のみが受けることが出来る。

 

「パワーボール!? ターレスの奴何をする気だ!

今更大猿になってどうするというのだ!」

 

 パワーボールの事をよく知るベジータが驚愕する前でターレスが大猿へと変わった。

 だがその大猿は通常のそれと異なり、黄金に輝いている。

 即ち、超サイヤ人の力をもった大猿の誕生だ。

 

「お、おい! サイヤ人って何回変身するんだよ!?」

「ぼ、僕だってわかりませんよ!」

 

 第6宇宙側ではシャンパとキャベが慌てふためいており、ターレスの変身に度肝を抜かれている。

 だが彼の変身はここからが本番だ。

 巨大化した身体は一度限界まで達した後に収縮を開始し、大猿のパワーを残したまま人間の大きさへと戻る。

 腰まで伸びた頭髪はサイヤ人本来の黒に染まり、全身は紅蓮の如き赤い体毛に覆われる。

 顔つきはより凶悪なものへと変わり、理性の減少と引き換えにサイヤ人が元々備えている凶暴性が増す。

 その未知の変身に悟空とベジータが目を見開いて驚きを露わにし、ビルスも「ほう」と呟いていた。

 

「す、すげえ気だ! ありゃあ一体何だ!」

「な、なんだ、あの変身は!? ターレスの奴は一体何をしたんだ!」

 

 従来の超サイヤ人ともゴッドとも異なる、大猿と超サイヤ人の合体とも言うべき新形態。

 神の域とはまるで異なる、純粋なパワーの具現に観戦していた全員がざわめき、改めてサイヤ人の可能性を思い知らされた。

 

「超サイヤ人4……私はターレスのあの新たな変身をそう呼んでいます」

「超サイヤ人……4?」

「はい。悟空君の超サイヤ人ゴッドとは善の進化。しかし本来の超サイヤ人は伝説にもある通り、残忍性と攻撃性を増していく悪しき進化です。それは超サイヤ人になった時に悪の心が備わってしまう事から貴方たちも存じているでしょう」

 

 リゼットの言葉に悟空とベジータは反論しない。実際それが事実なのだから反論は出来ない。

 通常時ならば何ら問題なく使用出来る元気玉も超サイヤ人になれば制御が困難になり、3まで位階を上げてしまえばほとんど使えなくなる。

 また、伝説に謳われる1000年に一人現れる超サイヤ人――『本来の超サイヤ人』ブロリーを見てもそれは否定のしようがない。

 かつてパラガスは彼を指して『ブロリーこそサイヤ人そのものだった』と語った。

 そう、サイヤ人の本質とは血と暴力を好む悪であり、超サイヤ人はその性質を増してしまう。

 少なくともこれまでの超サイヤ人から続く変身の系譜はそうであった。

 

 今にして思えば、ブロリーに尾がなかったのは本当に幸運以外の何物でもなかった。

 恐らくはブロリーが何かの間違いで大猿と化す事を恐れたパラガスが切断したのだろうが、そのおかげで悟空達はあの悪魔に勝利する事が出来た。

 もしも彼に尾が残っていたならば……それを思うたびに、神の域に達した今でさえ背筋が冷える。

 

「悟空君が変身するゴッドとは、その今までの系譜……即ち通常の超サイヤ人から超サイヤ人3へと続いてきた進化とは対極の方向に位置します。つまり従来の進化を捨てて逆方向へと走り、全く異なる形態を獲得したのが今の貴方です」

「つまり、ターレスが今変身した姿こそが3の次の進化ってわけか?」

「はい。少なくともナンバリングをするならば、あれこそ4と呼ぶに相応しい姿でしょう。

まあ私としては悪の気を増してしまうあの変身よりもゴッドの方が好ましいのですが、これまでの変身を正当とするならば、あれが正当な超サイヤ人3の進化形である事は疑う余地もありません」

 

 リゼットが語るように超サイヤ人ゴッドと超サイヤ人4は全く別種の進化だ。

 そしてゴッドは従来の超サイヤ人とは全く異なる変身であり、今までのようにナンバリングをする事が出来ない。

 故にリゼットは語る。あれこそが超サイヤ人、超サイヤ人2、そして超サイヤ人3から続く新たなるステージであると。

 

「超サイヤ人……4……!

すげえ……すげえぞターレス!」

 

 そんなターレスの姿を――もしかしたら有り得たかもしれないIFで、自らも変身したかもしれない姿を見ながら、悟空は興奮に打ち震えた。




・リゼットが発動してはいけない相手にナデポを発動しました。
ついでに抱っこまでしました。
ゼンオー君(笑)の正体に気付いていないからとはいえ、何やってるんだこいつ……。

パラガス「ブロリーこそサイヤ人そのものだった……」
キャベ「第7宇宙のサイヤ人って一体……」

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