MOMO TAROU 作:源治
おじいさんはバーに着くと、まずピーチカクテルを注文。
そして先日までどこで何をしていたかを、ジュニアにかいつまんで説明しました。
「え? じゃあなんですか? キージの旦那と一緒に天国と地獄に行って。えっと、その、お盆まで待てないからって、おばあさんに会うために。向こうで三千年くらい闘いの日々を送ってて、先日こっちに帰ってきたと? え、ホントに天国と地獄に行ってたんすか?」
おじいさんはジュニアの言葉を肯定するように、頷きます。
ちなみに天界と現世では時間の流れが違う設定です。
なのでシーズン2のラストからは、三ヶ月くらいしかたっていません。
「えっと、ちょっと待ってくださいね。オレって自分がゴリラなのに人間社会に交じって生活してるとか、医者目指して勉強してるとか、死んじまったオヤジの跡を継いで猿の王になるか悩んでることとか、すごい色んなもんを背負ってる人生歩んでたつもりだったんすけど……。なんか、天国と地獄で闘ってたって言葉だけで、メッチャ濃いはずだった、オレのキャラとしてのアイデンティティーが時空の彼方にすっ飛んでっちゃったっつーか……」
あー、そいういうことってあるある。
ワシもばーさんと初めて出会ったときそんな感じだったわい。
おじいさんはそう言って、遠い目をして昔を懐かしみます。
「あの、それでなんの話をどこまでしてたんでしたっけ?」
キージのやつが、契約不履行だっつってミカエルの鼻を右ストレートでへし折ったとこまでだな。
おじいさんがゲラゲラと笑いながら、再現するように鋭い右ストレートの素振りをします。
「キージの旦那も大概ロックっすね……」
息子の魂を天国に送るって約束で仕事してたのに、息子が地獄の河原で石積んでりゃ、そりゃ鼻の一つも折りたくなるだろ。と、おじいさんはその気持ちがわかるわかると言ったふうに頷きます。
余談ですが、キージは現世に戻ってからぎっくり腰になって療養中でした。
「いや、まあ、そりゃそうなんでしょうけど……」
だがな、いくら悪魔や天使どもをボコっても、ばあさんの魂はここには無いと言いやがる。
おじいさんはとても不機嫌そうに顔を歪め、そう吐き捨てます。
が、バーテンが差し出したピーチカクテルを受け取って口にすると、満足そうな表情をうかべてウマイと呟き、機嫌が直りました。
「……え? あの、冗談とかじゃなくて、あの激強のおばあさんがマジでお亡くなりになってたんすか!?」
話の最初の方で聞いた“おばあさんに会うために”というところがジョークだと思ってた猿は、その言葉に衝撃を受けます。
ぶっちゃけ自分のオヤジや、目の前のおじいさんも大概ですが、おばあさんはその二人よりも強いんじゃね? って心の中で思っていたからです。
猿は、そんなおばあさんが死んだのが信じられませんでした。
「でも天国にも地獄にもおばあさんの魂がないって、えっと、え、それどういう事なんですか!?」
おじいさんは混乱する猿の頭を軽く小突き、おちつけ、と一言口にします。
ヘビー級ボクサーの全力のストレートをモロに受けてもダメージを受けない猿ですが、おじいさんに小突かれてはさすがにたまらず、脳がシェイクされてふらつきました。
そこなんだ、つまり“救いようのない”どこかの阿呆が。
よりにもよってばあさんの魂を、どっかに閉じ込めてやがる可能性があるんだよ。
悪魔だろうと天使だろうと、それこそ鬼だろうとぶっ飛ばしちゃうおじいさんが怒っています。
そのあまりの圧力に、猿以外の店にいた客と従業員全員が気絶しました。
「……そ、それで、なんでそんな状況だってのに、
猿がようやくふらつく意識を正常に戻して、一番気になっていた疑問を口にします。
それはちょうど、バーテンが気絶してるのをいいことに、奥の冷蔵庫にあるピーチパイを漁っていたおじいさんが戻ってきたタイミングでした。
ああ、手伝ってほしいことがあるんだ。
ちょっと庭の草刈り手伝ってくれ、というノリでおじいさんがそう口にします。
でもぶっちゃけ猿には、あ、おれもしかして死ぬかも……。
みたいな感想しか出ないようなことを頼まれる予感しかしません。
そしてそれは、実際その通りでした。