MOMO TAROU   作:源治

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第十九話 愛は終わりぬ

 

ばあさん……なぜだ……。

 

アレとかソレを取ってくれじゃ、わかりませんよといつも言ってるでしょ。

まあ……わかりますけど。

 

そう言っておばあさんは微笑みます。

あの日、あの河原で最後に見たおばあさんの微笑みと同じように。

 

私たちには子供がいません、おじいさん、どうしてかわかっていますよね?

 

おじいさんは少し押し黙った後、無言で頷きます。

それは、おじいさんが生涯おばあさんに勝つことができなかったからです。

 

おじいさんからの猛烈なアプローチに根負けしてしまったおばあさんは、渋々、といってもどこか嬉しそうに、おじいさんのプロポーズを受け入れました。

 

ですが、その時おばあさんは

 

私は、私より弱い男の子供を産む気はありません。

だから、子供が欲しいなら私を一度でも負かしてからですよ。

 

こう言いました。

 

結婚当初、おじいさんは毎週のようにおばあさんに挑みましたが。

 

ですが、いつしかそれが段々少なくなり。

ついにはおじいさんは、おばあさんに挑むことをやめてしまったのです。

 

聡いおばあさんは、それがどうしてなのかわかってしまいました。

おじいさんは諦めたんじゃない、と。

 

おばあさんの強さの変化は一般的なもので、若い頃が一番強く、そしてピークを過ぎると緩やかに下がっていくものでした。

 

ですが、おじいさんは違ったのです。

 

おじいさんの強さは、いくら年齢を重ねてもピークに達することなく。

ひたすら、ただひたすらに伸び続けるものでした。

 

生涯ずっと右肩上がりです。

しかも曲線グラフ的な増加なので、昨日と今日で相当強さが違います。

 

おばあさんはそれに気がついてしまったのです。

自分が一番強い時を過ぎて弱くなってしまったから、だからおじいさんは挑むことをやめたと。

 

自分のふがいなさで、おじいさんにいらぬ気を遣わせてしまった事。

おばあさんはそれが許せませんでした。

 

自分より強い男が。

なにより自分の愛した男が。

 

そんなつまらない理由で、悔いと敗北を抱えたまま人生を終えることが。

 

だから私はね、村の婦人会の集まりを隠れ蓑に、このオーガ機関をつくりました。

いつかおじいさんが一番強くなった時に、私が一番強かった頃の状態で戦えるようにと。

 

驚くべき部分が多すぎますが、恐らく一番驚くべきは婦人会の片手間に、世界征服も可能な世界最強の研究機関を作っちゃったおばあさんの組織マネジメント力な気がします。

 

 

今日が、そして、今がその時ですよ……おじいさん。

 

 

おばあさんはうっとりとした様子で、嬉しそうにおじいさんにそう告げます。

ですが、それとは正反対におじいさんはずっと浮かない顔でした。

 

おばあさんを倒さないと、なにもかも世界もろとも終わる状況。

理由も、舞台も、お膳立ても何もかも完璧な状態です。

 

後はおばあさんを負かすだけ。

 

おじいさんはわかっているつもりでしたが、わかっていませんでした。

おばあさんがとてもとても尽くすタイプだということを。

 

動かないおじいさん。

おばあさんは、動かないならこちらから行きますよ、と告げて攻撃を仕掛けました。

 

瞬時にしておじいさんとの距離をつめた、おばあさんの掌底打ちがおじいさんの腹部に打ち込まれます。

それをくらったおじいさんはすごい勢いで吹っ飛ばされ、部屋の端にある壁にめり込みました。

 

息つく間もなく、おばあさんの追撃が炸裂します。

 

一秒間に二千発近い攻撃を打ち込まれ、おじいさんの身体がズタズタになってゆきます。

ですが、どれだけくらおうともおじいさんは、おばあさんに反撃しません。

 

どうして反撃しないのですかおじいさん?

早くしないと、早く、早くしないと、おじいさん……死んでしまいますよ?

 

そうです、おばあさんに攻撃されたからではありません。

バベルの光が世界を焼き尽くすからでもありません。

 

おじいさんは、おじいさんの寿命はもう消え尽きる寸前だったのです。

 

おばあさんの数少ない計画の狂いは、おじいさんが猿の力を降ろすために魂を使ってしまったことでした。

そのせいで、おじいさんの寿命が尽きるのが急激に早まった事を知ったおばあさんは、計画の実行を早めました。

 

おじいさんの命が消えるその瞬間こそが、おじいさんが一番強いはず。

 

地平線に沈む太陽が一瞬強く輝くように。

おじいさんは、いまこの瞬間が一番強い。

 

だから、その一瞬に間に合うように、と。

だというのに、おじいさんは動きません。

 

そして、あまりに強すぎるが故なのか、おじいさんの身体には傷一つありませんでした。

ズタズタになったのは、全ておじいさんがきていた服だけです。

 

おばあさんは焦ります。

 

早く、早くしないと、おじいさんが、おじいさんが。

しかし、どれだけ攻撃しようとおばあさんの攻撃はおじいさんに届かず。

 

おじいさんは悲しそうにじっとそれを見つめるだけです。

 

おばあさんはついに攻撃の手を止め、泣き出してしまいました。

どうして、どうしてと、泣きながらおじいさんにすがりつきます。

 

なにが、自分の何がいけなかったのかと、必死に問い続けます。

 

おじいさんはそんなおばあさんを抱きしめて、おばあさんは何も悪くないよ、と。

優しく口にしました。

 

そしておじいさんは、おばあさんに挑むのをやめた理由をゆっくりと告白し始めたのです。

 

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