MOMO TAROU 作:源治
強さとはなんだろうな。
おじいさんはそう呟きました。
どんなに強靱な種族が相手だろうと。
どんなに特殊な能力が相手だろうと。
どんなに巨大な身体が相手だろうと。
おじいさんは、負けませんでした。
その全てに勝利してきました。
勝てなかったのは、おばあさんただ一人。
おじいさんはある日、おばあさんに挑むのをやめました。
ですが、それはおばあさんが想像した理由ではありませんでした。
おばあさんには勝てない、そう気がついたからです。
そして、勝てなくてもいいんだと気がついてしまったからです。
恐らく戦えばおじいさんは、おばあさんに勝てたかもしれません。
ですがやはり、おじいさん自身は勝てるとは思えませんでした。
どれだけ歳を重ねようと。
どれだけ戦闘力が上がろうと。
おばあさんを見ると、おじいさんは心は燃え上がってしまうのです。
そうしていつしか、おじいさんはおばあさんに手を上げることができなくなってしまいました。
心が、魂が、おばあさんを愛しすぎてしまった故に、そうしようとしても身体が動かなくなってしまったのです。
なぁばあさん、ワシはとんだ軟弱モンじゃ。
強くなんかない、強くなんかないんじゃ。
ばあさんがいないと、なにもできん。
もしあの日のようにではなく、普通にばあさんがワシより先に死んじまったら。
ワシは飲んだくれて死を待つだけの肉の塊になったじゃろう。
もしくは、ばあさんのいない世界が憎くて滅ぼしてしまっとったかもしれん。
ワシはなばあさん、あの日ばあさんが死んじまったと思った日からずっと。
直ぐに死んでしまいたかったんじゃ。
でもな、この枯れ木に火がついちまった。
ばあさんを傷つけたやつらをぶっ殺さなきゃ、あの世でばあさんに顔向けできんと思って。
頑張ったんじゃ。
死んじまいたかったが、頑張ったんじゃよ。
そして、頑張って良かった。
こうしてばあさんとまた会えた。
ばあさん、ああ、ばあさん。
またあえて嬉しい、こうして声を聞けて嬉しい。
抱きしめられて嬉しい、ワシは、ワシは今嬉しい。
ばあさんに勝てなかったことも。
子供がおらんことも、些細なことなんじゃ。
ばあさんさえいてくれればいい。
もうそれだけで……ワシは幸せなんじゃよ。
もう他にはなんにもいらんくらい、幸せなんじゃよ。
そう言って、おじいさんはおばあさんに笑いかけました。
おばあさんは、おどろいた表情のまま、凍り付いたように動けませんでした。
ですが、息継ぎをしながら、必死に言葉を紡ぎます。
伝えないと、これだけは伝えないとと。
あ、愛しています、おじいさん。
ああ、ワシもじゃ、ばあさん。
そしておじいさんの身体から力が抜けます。
おばあさんは重くのしかかってきたおじいさんを支え、強く、強く抱きしめました。
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並べて作られた、おじいさんとおばあさんのお墓。
あの日、犬が鬼ヶ島の動力炉を破壊し、雉と共に脱出して一年が過ぎていました。
浮かぶことができなくなって、海に墜ちてゆく島からは、犬と雉以外脱出できた者はいませんでした。
おじいさんも、そしておばあさんも。
島と共に、海の底に沈んでゆきました。
一周忌ということで、おじいさんのお墓の前には犬と雉と猿。
そしてゴジラが黙祷を捧げています。
本当に色々ありましたが、世界は今日も喜怒哀楽で大騒ぎ。
オーガ機関のことなんて、もう殆ど誰も覚えていません。
いや、覚えていますが、最後まで世界中に投影されていたおじいさんとおばあさんの姿が強烈すぎて、マジでオーガ皇帝とか空気な感じになってました。
確かに、おじいさんやおばあさんを恨んでいる人は、いまでも大勢います。
が、それでも二人のお墓は大切にされていました。
黙祷を終えた犬が顔をあげます。
そして聖職者の服を着た雉が、聖書を閉じました。
猿とゴジラも顔をあげます。
見るとゴジラの胸には、キングコング三世が抱かれていました。
スピード婚&スピード出産。
ニューヨークはこれからも安泰でしょう。
「んじゃ、お二人ともまた今度、次は三回忌っすかね」
猿の言葉に犬が答えます、そうだな、と。
雉がそれに突っ込みます、は?お前なにいってんだ?と。
猿と犬は、その雉の言葉に首をかしげます。
雉の背中から羽が飛び出しました。
さらに突然その背後から、大きくてかなり禍々しい見た目の門が顕現します。
雉は言いました、一周忌まで待たせてしまったからな、今すぐ行くぞ。と。
犬と猿の頭には、無限に?が浮かんでいます。
雉は続けます。
ああ、猿はこなくていい、お前のオヤジが先に合流してるはずだからな。
だが犬、お前じいさんに「次は地獄で鬼退治だ」って言ったらしいじゃないか。
犬の身体から無限に冷や汗が流れます。
雉の後ろの門が開きます。
門の向こうには、荒涼とした大地、赤い空、地面から噴き上がる炎。
それはどう見ても地獄でした。
察した犬は直ぐに逃げようとしますが、一瞬で雉に身柄を拘束されます。
さすがに犬も、多種多様な特殊能力を持つ雉を正攻法で振りほどくことはできません。
犬は叫びます。
おいっ!!よせやめろ!!
俺はまだあっちに行くわけにはいかないんだ!!
娘の、娘の結婚式を見るまでは!!
孫を抱くまではあっちに行くわけにはいかないんだよぉおおお!!
雉は犬を引きずりながらこう言います。
大丈夫だ、お盆には帰ってこられる。
西洋と東洋の風習がごっちゃになってる気がしますが、気にしてはいけません。
嫌だッ!!嫌だああああ!!と叫ぶ犬を引きずり、雉は門をくぐりました。
その様子を猿とゴジラとキングコング三世はポカンと眺めていることしかできませんでした。
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マジか……マジか……。
犬が悲痛な声で呟きます。
猿(先代)が、そんな犬に声をかけます。
「ばっかお前、俺なんか天国でくつろいでたのに拉致されたんだぞ?」
そうです、猿もまた雉に天国から拉致されて、地獄に連れてこられていました。
そんな二人に、おじいさんはこう言います。
よっし全員揃ったな!!
じゃあ地獄(東洋)の鬼退治としゃれ込むか、桃缶もあるぞ!!
おじいさんは地獄にもかかわらず、元気いっぱいの様子です。
そんなおじいさんの後ろには、寄り添うように立つおばあさんの姿。
おばさんは一見無表情ですが、どこか幸せそうな様子でおじいさんを見つめていました。
そう、桃太郎の鬼退治は、まだまだこれからだったのです。
MOMO TAROU 桃編(シーズン4) 完
■あとがき■
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました、本気で。
というのも、本作は相当無茶苦茶なものを書いたという自覚があります。
ですが、なんだかんだでちゃんと終わったし、ちゃんと面白いものが書けたと思います。
……ちゃんとってなんだろう?
いや、そもそもそう思ってるのは私だけの可能性が非常に高いんですけど。
ただ、書いてる人はものすごく楽しんで書いていたことは間違いなくてですね。
なので、読んでくださった方も楽しんでいただけたのなら、それはとても素晴しいことだなと思ったりもします。
そんなわけで、あとがき含め最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからもなにかしら書いてみると思いますので、よかったら覗いていってください。
源治