MOMO TAROU   作:源治

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第四話 リアルライフ

 

人型生物兵器と、犬(ワーウルフ形態)は、じっと向かい合っていました。

お互い二メートル半を超える巨体、体重も二百キロを超えます。

 

片やありとあらゆる禁忌の技術をつめこまれ、人類の業全てを集め作られた究極の生物兵器。

片や天然由来の成分、多分遺伝子組み換え一切無しの、無農薬ナチュラル凝縮ワーウルフ。

 

犬はゆっくりと壁際まで移動し、壁に体を擦りつけます。

 

マーキングです、ここは自分の縄張りだと宣言したのです。

つまりその場所に侵入してしまった、人型生物兵器への攻撃の正当性を証明したのです。

 

人型生物兵器は、ゆっくりと壁に掛けてある看板を指さします。

 

そこには『オーガ機関 生物兵器試験場』と書かれていました。

どっちかというと、正当性は人型生物兵器側にある気がします。

 

犬は吠えました、譲り合いや手を取り合うことを、共存を忘れた人類に、未来はないと。

人型生物兵器も吠えました、飽くなき征服心、それこそが唯一、人類を前に進ませると。

 

所詮お互い相容れない身です、それが引き金になり、彼らは激突しました。

 

共存、進歩、彼らがその背に背負うのは何なのか。

雄叫びをあげぶつかり合った二人、地響きが起きるほどの衝撃があたりをつらぬきます。

 

試験場の壁に、人型生物兵器が大の字になってめり込んでいました。

 

皮肉なことに、人としての技を使える犬が、習得した近接戦闘技術を使って、人型生物兵器を投げ飛ばしたからです。

 

自らの勢いの方向を変えられ、壁に激突してめり込んだ人型生物兵器。

さらに犬の技による加速も加わって、その勢いは相当なモノとなります。

 

しかし人型生物兵器は全く応えた様子が無く、埋まった体を壁から引き抜きます。

 

そしてもう一度、犬に向かって突撃しました。

犬は、手を取り合い調和するその心を以て、再び人型生物兵器の力を利用し、ぶん投げました。

 

力の方向を上へと変えられ、今度は天井に突き刺さる人型生物兵器。

 

しかし、やはり効果がありません。

人型生物兵器は全く応えた様子が無く、あっさり天井から抜け出して首をコキコキします。

 

そして人型生物兵器は爪の根元から、何かの液体を垂れ流し始めました。

 

地面に落ちると、ジュッという音を立てて煙が昇ります。

液体の正体は、コンクリート製の床の一部が溶けるほどの酸です。

 

そして襲い来る人型生物兵器の、爪による猛攻を避け続ける犬。

しかし、飛び散る酸性の液体が犬の体にかかり、傷みが走ります。

 

銃弾すら弾く銀の毛皮をもってしても、その酸性液体は脅威です。

 

犬はいったん距離をとる為に、後ろに大きく飛びます。

人型生物兵器はそれを追わず、挑発するように指をクイクイとします。

 

ちなみにクイクイした拍子に、酸性の液体が自分の体にかかってちょっと痛そうでした。

 

犬はクラウチングスタートの体勢をとり、そして弾けるように突撃しました。

人型生物兵器は、受けて立つかのように手を大きく広げます。

 

先ほどとは逆の構図です。

 

しかし、人の戦闘技術を持たない人型生物兵器は、この突撃をかわすか受けるしか出来ません。

そのはずでした。

 

地面に叩き付けられる犬。

 

なんということでしょう、人型生物兵器の急速な戦闘学習能力。

それにより、調和の技を身につけた人型生物兵器は、それを以て犬を地面に叩き付けたのです。

 

地面にめり込むほどの勢いで、背中から叩き付けられた犬。

人型生物兵器は、犬の胴ををまたいで見下ろします。

 

そしてその両腕の爪を刺すように、仰向けに倒れ込む犬の頭に向けて突き出しました。

 

絶体絶命、そう思われた瞬間。

ワーウルフ究極の必殺技、声による無形の音響攻撃、バウンドボイス(咆吼衝撃波)が放たれました。

 

犬に迫る人型生物兵器の両手の爪の攻撃、それの勢いが僅かに緩みます。

その隙を逃さず、犬は受け流しの要領でその攻撃の方向を僅かにそらします。

 

反らされたことにより、人型生物兵器の両手が深々と地面に埋まります。

 

すぐには抜け出せず、動きの封じられた人型生物兵器の背中の上に回り込む犬。

その首筋の裏に向けて、弓を引き絞るかのように全身全霊の力を込めた、犬の抜き手による攻撃が放たれました。

 

時間が止まったかのような、そんな静けさがあたり満ちます。

 

そしてゆっくり、人型生物兵器の顎から上の頭の部分が、地面に落ちました。

死の間際、犬は和の心を理解した人型生物兵器が、お見事、とつぶやいたのが聞こえた気がしました。

 

強敵との戦いが終わり、静かにその場で残心を行う犬。

 

ですが、ぴくりとその耳が動き、何かが接近してくる音をとらえました。

犬は尻尾を巻いて、キャンキャンといいながらおじいさんの後を追いました。

 

数分後、人型生物兵器の遺体が残る部屋に、複数の人影がなだれ込んできました。

その姿は、先ほどまで犬が戦っていた人型生物兵器と、全く同じものです。

 

そう、人型生物兵器は既に量産されていたのです。

 

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