MOMO TAROU 作:源治
第六話 やまない雪
某年 十二月 三十一日 23:57
ノースカロライナ州某所
「やぁパパ、僕がサンタクロースだよ?」
「ば、馬鹿な……そんな事が……あるはずが!?」
男は自分の目の前の光景が信じられなかった。
だが確かに目の前にいるのは、自分の『息子だった』存在である。
思わず男は、立てかけられていた門松を手に取る。
「ん?どうしたのパパ、そんなもの持って」
「く!?くるな!!どうしておまえがここにいるんだ!!」
恐ろしさのあまり振り回した門松が息子を名乗る何かに当たる。
勢いの乗った門松の直撃、肉がつぶれ、骨が折れる音が響く。
ゴトリ、音を立てて息子を名乗る何かの首が転がった。
「お、おまえ、おまえは……もう、いないはずなんだ、もう……」
男がブツブツとつぶやく。
ここにいないはずの存在がいるという恐ろしさ、それが男を襲う。
男はふと視線を感じて、転がった首に視線を移す。
転がった首の、その瞳は、いまだ男を捉えていた。
そして、まるで壊れたおもちゃのようにその顔の口がパクパクと開く。
「ふふふ、駄目だよパパ。クリスマスからそう簡単に逃げられるわけないじゃないか」
「うるさい!黙れ!ハッピーニューイヤァアアー!!!!!」
男は最後の力を振り絞り、門松を高々と振りかぶった。
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おじいさんが立ち寄ったバーで、男が悪夢にうなされていました。
おじいさんは体についた雪を払います。
そして、カウンターに突っ伏してうなされる男を見て、ため息をつきました。
おじいさんはバーテンダーに、ピーチカクテルと日本酒の熱燗を注文します。
外は大雪で、止む気配が一向にありません。
今夜はここで過ごすほかないような勢いです。
おじいさんはイングランドの北部にある、とある島の寂れた港町に来ていました。
理由はオーガ機関に関する手がかりがあると聞いたからです。
寂れた港町の、寂れた深夜の酒場。
大雪ということもあって、客はほとんどいません。
バーテンダーと、カウンターで悪夢にうなされている酔っ払いの中年。
ピアノの前で黄昏れる赤い服の美女、テーブルで賭け事に興じる三人の漁師。
親が来るのでも待っているのか、窓の外を退屈そうに眺めている場違いな少年。
そしておじいさんを含めた八人、それが店にいる全ての人間です。
吹雪の勢いはますます強くなり、既に気温も零下を下回っています。
これではもう店から出ることも、入ることも出来ません。
まず出された熱燗を飲み、おじいさんは一息つきます。
いいバーテンだ、そう思いました。
まず冷えた体を熱燗で温めてから、本命のピーチカクテルを出す。
その気遣いが出来るバーテンだとわかったからです。
しかし待てども待てども、本命のピーチカクテルが出てきません。
おじさんはバーテンに聞きました、カクテルはまだかと。
バーテンは答えました、もうお出ししましたと。
そして目で、ピアノの前に座る美女を示します。
美女はかるくカクテルを掲げて、お礼を示しました。
意味が分りません。
なぜ、おじいさんが、あちらのお客様からです、を頼んだことになっているのか。
微妙に腹が立ったのですが、おじいさんは大人なので我慢しました。
ピーチカクテルを飲み終え、美女がピアノの演奏を始めます。
どこかで聴いたことがあるような曲を、ジャズ風にアレンジされた演奏。
おじいさんは何か腹が立ってきました、なぜならおじいさんはジャズが嫌いです。
嫌いになったというべきでしょうか。
なぜなら、おばあさんのことを思い出してしまうからです。
おばあさんはおじいさんを連れて、ジャズ喫茶にいくのが好きでした。
おじいさんはピーチカクテルをもう一度頼みます。
今度は、俺が飲むんだよ、と、いうのも忘れません。
バーテンは少し気まずそうに、謝りました。
何でもこの店では、最初のカクテルはあの美女に演奏して貰う為の合図。
そういう暗黙の決まりがあったからです。
おじいさんは、かまわないさ、と、いいました。
場所には場所のマナーがある。
それについてとやかくいうには、おじいさんは年を取り過ぎました。
気がつくと、テーブルで賭け事をしていた漁師が、二人になっていました。
恐らくトイレにでも行ったのでしょう。
そして演奏が丁度終わった頃、あまりに長いことトイレから出てこない漁師。
寝てるのではと困り顔になったバーテンが、トイレに様子を見に行きます。
そして、バーテンの情けない悲鳴が上がりました。
狭い店なので全ての客席から、開いたトイレの扉の先にあるものが見えます。
そこにあったのは、便座にもたれかかって死んでいる、漁師の男の死体でした。
0時を知らせる時計の音が鳴ります。
外は大雪で、この店にいるのは今では七人。
クローズド・サークルの中で起きた、不可解な突然死。
そう、もしこれが故意に引き起こされた殺人であったならば。
犯人はこの中にいる可能性があったのです。