MOMO TAROU 作:源治
その遺体に触れてはいけない!
凍り付いたバーで最初に口を開いたのは、窓の外を見ていた子供でした。
大きな眼鏡を掛けて、蝶ネクタイをした子供が、ゆっくりと死体に近づきます。
死体を前にして物怖じしないその様子は、子供とは思えないものです。
まるで一日に二件は殺人事件に出くわしてそうなレベルの肝の据わりっぷり。
子供は慎重に遺体の観察を行い、首と手首に軽く触れ、脈を確認します。
そしてゆっくりと首を振って、死んでる、と、言いました。
店内に不穏な空気が流れます。
不穏じゃないのは、酔っ払ってうなされているカウンターの男。
それと、ピーチカクテルが思ったより美味しくなくて不満そうにしている、別の意味で不穏な空気を発しているおじいさんだけです。
馬鹿なヤツだ、飲み過ぎておっちんじまうなんてよ。
漁師仲間の一人が言いました、急性アルコール中毒だと思ったのです。
これは殺人事件だ、犯人はこの中にいる。
そう、子供は言いました、眼鏡が光を反射します。
どういうことだ、なぜそんなことがわかる?
そんな空気が漂うなか、子供は説明を続けます。
これはなにかの毒物による死に方で、遺体にはその証拠があると。
遺体の口元からアーモンドの臭いがする、つまりこれは青酸カリによる毒殺だと。
青酸カリが本当にアーモンドの臭いがするかどうかは諸説ありますが、取りあえずこの話ではアーモンドの臭いがします。
そして蝶ネクタイから麻酔針を撃ちそうなこの子供の言っていることが本当だった場合、犯人はこの中の誰かということになります。
バーテンダー
漁師A
漁師B
漁師C(死亡)
美女
カウンターの酔いつぶれ
おじいさん
そして、この妙に怪しい子供です。
そもそも、この子供は誰なんだよ。
そう思って、おじいさんはバーテンに聞いてみました。
てっきり誰か客の子供かと思っていたのですが、どうにも違うようです。
どうにも子供は、保護者とはぐれてここで待ち合わせの最中だったようなのです。
お、俺じゃねえ! お、お前だろ!
俺じゃねえ! いや、お前にきまってる!
漁師AとBが立ち上がって、互いをののしり始めます。
どうにも、漁師Aは漁師Cに借金があったようで、期限までに返済できなければ、船を取られるらしく。そして漁師Bは、漁師Cに船をぶつけられて壊された恨みがあるといいます。
どっちも怪しいといえば怪しい気がします。
おじいさんは人死にになれすぎて、いまいち重大さにピンときていないようなのですが、この小さな島の小さな漁村では、大事件です。
バーテンは、ハッとなって電話で警察を呼ぼうとしますが、繋がりません。
おじいさんは気になって子供に聞きました、例え誰かが殺したとしても、なぜこの中の誰かだとわかるのかと。
子供は答えました、毒殺ならこの店、そしてこのトイレのどこかにある毒物を体内に入れてしまった、だけどこのトイレはこの男の人が入る前にも色んな人が使ってるし、グラスや飲み物だって、漁師AとBは、Cと同じビンのもの共有して飲んでいた。
なら、事前に毒を仕込むのは難しい、誰かが何かしらのタイミングで毒を被害者に飲ませたに違いない。
そしてこの数時間のうちに、この場所にいたのはこの中にいる人間だけ。
つまりは、この中の誰かが犯人だと。
なんとなくあってるような気もしますし、なんかうまいことやればこの中にいなくてもできなくもなさそうな気もします。
例えば漁師Cが決まった時間に飲むような薬なんかがあったら、それをすり替えたりしたり。
でもおじいさんは空気を読んで、なるほど、と言っておきました。
もう一度整理すると、この小さな酒場で起きた殺人事件(仮)
その犯人はこの酒場の中にいる誰か。
バーテンダー
漁師A
漁師B
漁師C(死亡)
美女
カウンターの酔いつぶれ
おじいさん
そして、この妙に怪しい子供。
この中にいるかもしれなかったのです。
くそッ!! 俺は犯人じゃねえ、お前だろ!!
違う!! お前だ!!
漁師Aと漁師Bは、お互い同時に懐から拳銃を取りだし、互いに向けます。
そして、お互い脅し程度のつもりだった可能性が高かったのですが、酔っ払って手元が怪しかったせいで、お互いうっかり同時に引き金を引いてしまいました。
酒場に銃声が二発鳴り響き、二人の男が同時に頭を撃ち抜かれ、同時に倒れました。
相打ちです。
もう一度整理すると、この小さな酒場で起きた殺人事件(認定)
その犯人はこの酒場の中にいる誰か。
バーテンダー
漁師A(死亡)
漁師B(死亡)
漁師C(死亡)
美女
カウンターの酔いつぶれ
おじいさん
そして、この妙に怪しい子供。
そう、この中にいるかもしれなかったのです。