MOMO TAROU 作:源治
これで事件は解決した。
そう考えられるほどおじいさんは単純ではありません。
単純ではありませんが、正直なところ、そう考えても特に不都合はありません。
おじいさんはピーチリキュールを頼みました、今夜は飲みたい気分だったのです。
バーテンダーは呆然としながらも、ビンごとおじいさんに提供します。
おじいさんはバーテンダーに代金を多めに払い、カウンターに並べられてるお酒とピーチリキュールを混ぜ合わせて、独自のカクテルの開発を開始しました。
さて、おじいさんとカウンターで酔いつぶれている男。
それ以外の人たちは、この展開に関して不都合ありまくりです。
突然の展開に、蝶ネクタイと大きな眼鏡とやたら尖った髪の毛の子供は呆然とし。
そんな馬鹿な……と、いや、そんな馬鹿なではすまないだろって言葉を漏らし。
美女はあまりの出来事に驚き、脅えています。
火薬と血の臭いが店内に満ちて、倍ドンです。
バーテンダーに至っては気の毒を通り越して、募金したくなるレベルです。
やっともてた自分の店で殺人事件、店のローンはあと三十年くらい残っています。
最悪です。
バーテンダーは悲痛に満ちた声で、そんな、妻になんて言えば……と、零します。
ですが、その言葉を聞いて美女が先ほどまで脅えていたとは思えない表情に変わります。
あなた、どういうこと? なぜそこであの女が出てくるの? 別れるって言ったわよね?
なんということでしょう。
バーテンダーは美女と浮気をしていたのです。
ちがう、君のことは当然愛してる、本当だ! バーテンが言訳します。
なら、最初に心配するのは私のことでしょ! 美女が詰め寄ります。
修羅場です。
この展開に、さすがの名探偵っぽい子供も、ついていけません。
殺人事件よりも、奥さんと別れるかどうかの方が美女には大事なことだからです。
おじいさんは、カクテルにベルモットを加えるかどうか悩んでいます。
こんな土地からは一緒に出ていこうって言ってくれたわよね! 美女が叫びます。
そ、それは嘘じゃない! でもすぐには無理だって! バーテンが言訳します。
じっちゃんの名にかけて事件を解決しそうな子供はひらめきました。
もしかして、これはこの美女が仕組んだトリックなのではないかと。
動機はこうです。
男を縛るのは、奥さんとこの店。だから自分とは一緒になってくれない。
なら、それから解放してやれば、バーテンダーは自分と一緒になるしかない。
一見無茶苦茶な推理ですが、地味にありえそうなのが生々しいところです。
あくまで漁師AとBが相打ちになったのは、想定外の事故。
そして真犯人は美女……そう考えるとつじつまが合います。
さらに子供はひらめきます。
この店で注文する最初の一杯は、美女への演奏代。
あの漁師の中で、一番羽振りが良かったのは漁師Cです。
そして、三人がこの店に来たとき、カクテルを美女にごちそうしたのも漁師Cです。
バラバラだったパズルのピースが繋がってゆきます。
おじいさんはいっそもう生卵とか加えてみようかなってなってます。
子供の推理とは逆に、ピーチカクテルの開発は迷走を始めています。
しかし、問題は証拠です。
現状美女が犯人だという証拠はなにもありません。
ですが最初の一杯のトリックを考えたなら、証拠はまだ店内にあるはず。
君のことは愛してる。でも、妻と別れることもできない! バーテンが叫びます。
そうやって誤魔化す、あなたもこの町も、もう、うんざりよ! 美女が叫びます。
美女の次の行動が読めません、ことは急を要します。
子供は、カクテル作りの才能の無さに絶望しているおじいさんに近づき、ズボンを引っ張ります。
おじいさんに麻酔針を撃ち込んで推理を……というのも考えましたが、なんだかとてつもなく嫌な予感がしたので、協力を要請する方向にしたのです。
おじいさんが力なく子供の方をみると、子供の眼鏡がきらりと光ります。
これからなにが始まるのか、もうおわかりでしょう。
そう、お待ちかねの―――
もういいわ! あなたを殺して私も死ぬ!
美女はそう叫ぶと、近くにあったアイスピックを手に取ります。
そしてそのままバーテンダーの心臓を刺しました。
バーテンダーは呆然とした表情を浮かべ、ゆっくりと倒れます。
即死です。
美女はぺたんと座り込み、あなたのこと、好きだったのに……。
と消えそうな声でつぶやき、一筋の涙を流しました。
バーテンダー(死亡)
漁師A(死亡)
漁師B(死亡)
漁師C(死亡)
美女
カウンターの酔いつぶれ
おじいさん
妙に怪しい子供
そう、お待ちかねの……犯人追い詰めタイムの予定だったのです。