赤座真理恵は《魔法使い》   作:パンツァーぐりぐりー

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綾辻一刀流

《七星剣武祭》Cブロック一回戦第三試合、《天眼》城ケ崎白夜 対 《黒の荊》有栖院凪の試合が終了した。

 勝者は暁学園の有栖院凪。

 続く第四試合は、武曲学園の《深海の魔女》黒鉄珠雫の出番だ。中学生(シニア)リーグで猛威を振るい、多くの学生騎士たちにトラウマを植え付けて来た彼女もまた、今大会の優勝候補の一人。

 否が応でも観客たちの期待は高まる。

 

『第四試合は、黒鉄選手 対 雨寺選手。両者《水使い》のこの一戦。果たしてどのような内容となるのでしょうか!』

 

 その試合の開始を目前に、有栖院は暁学園の面々がいる客席へと戻ってきた。

 帰ってきた有栖院の姿を見つけた風祭凛奈は席から立ち上がると、彼/彼女へと歩み寄り片手をあげる。

 パンッと打ち鳴らされるハイタッチの音。

 

「アリスよ、よくやった。あとはこの我の勝利をもって、暁学園全員の一回戦突破というわけだ」

「ありがとう。……もう行くの?」

「ああ、我が眷属どもも待ちくたびれているだろうからな。そろそろ行って試合に備えさせておく」

 

 凛奈は《魔獣使い》。《隷属の首輪》を取り付けた生き物を魔力と伐刀絶技に目覚めさせ、己が霊装と化して従える異能の持ち主。

 いつでもどこでも手元に霊装を呼び出せる他の伐刀者とは異なり、首輪によって従えた生き物がいなければ力を発揮できない。

 だから、動物たちのケアは彼女にとってとても重要なことなのだ。

 これから始まる《深海の魔女》の試合が大方の予想通りに運ぶとすれば、二試合後のDブロック第二試合の開始時間はそう遠くはない。早めに向かっておく必要があった。

 

「凛奈ー! 負けたら晩御飯ないからねぇー」

「《千の魔術の使い手》よ、その心配は無用だ。この邪神呪縛法の使い手たる我が、あのような餓狼ごときに遅れをとるものかよ。貴様はそこで我が勇士を眺めておればいい」

「お嬢様は『あんなガラ悪いのケチョンケチョンにしてやるんだから、ちゃんと用心棒の活躍を見てなさいよね!』とおっしゃっています」

 

 クラスメートの声を背に、メイドのシャルロットを従えて、凛奈は己が眷属たちを待機させている場所へと足を運ぶ。

 

『決着! 《水使い》対決、早々の決着です! 雨寺選手の出血がひどいですが、大丈夫なのでしょうか?』 

『対戦相手の血液を操り、体外に強制的に排出させる伐刀絶技《血華水泉》……。幻想形態のシニアリーグでは《血光》でしたが、実像形態で本当の血液になるとなかなか強烈なことになりますね……』

『黒鉄選手は対戦相手が自身と同じ《水使い》や、《風使い》の場合にはこの伐刀絶技をよく使用していますが、これはどういうことなのでしょう?』

『黒鉄選手と言えば、その二つ名の由来となった相手を窒息させる《水牢弾》が有名ですが、水による窒息は《水使い》や《風使い》であればある程度対応可能なんですよ。それで代わりに出血を強いているのかと』

『なるほどー……。ところで、これで二回戦に進出した選手の中に黒鉄姓の選手が三名ということで、少しばかりややこしいのですが』

『そうですね。ここからは姓ではなく名前で呼ばせてもらった方がいいかもしれませんね』

 

 今大会は、これまでの《七星剣武祭》の歴史になかった数のAランク伐刀者が出場している。《深海の魔女》もまたそんなAランクの一人。

 やはり試合の進行が早かった。まだ凛奈は真理恵から見える位置にいるというのに、すでに大会の進行は次のDブロック第一試合に移ろうとしている。

 ここで凛奈はちょっと小走りになった。眷属の動物たちを連れてくるのに手間取って遅刻しました、などということになるわけにはいかないのだ。

 

 

 ◆

 

 

 会場の控室は決して狭くはない。だが、軽自動車よりも大きなライオンに、成人男性を軽く丸のみにできる大蛇、ゴリラの中でも特に巨体を誇るゴリラオブゴリラ。そして、地域によっては肉食獣よりも多くの人間をかみ殺す凶暴さで恐れられる川の悪魔たる大カバ。あとは人間が三人。

 これだけ部屋に入ればさすがに狭くも感じる。凛奈の家の部屋ならば楽勝なだけに、余計に狭く感じてしまう。

 

「さて、我が《用心棒》よ。汝の切なる要望を受け、我は汝に《剣士殺し》の始末を任せることにしたわけだが」

 

 そんな獣の臭いに満ちた室内に、本物の獣よりもなお強い獣気を放つ男がいた。

 恩義と金と、何より己の自己(エゴ)を満たすため凛奈の軍門に下った男、《最後の侍(ラストサムライ)》綾辻海斗だ。

 

「当然ですが、お嬢様は勝利以外の結果を望んではおられません。貴方もお嬢様から《首輪》を頂いた身なのですから、その御期待を裏切ることのないようにお願いします。──もっとも、もし貴方が敗れるようなことがあったとしても、私が控えておりますので問題はありませんが」

 

 破軍学園との戦いで凛奈が矢を受けてしまったことは、凛奈の盾たらんとするシャルロットにとっては痛恨の極みであった。

 その悔恨からか、これから同じ《魔獣使い》の眷属として試合に臨む海斗へと向ける彼女の言葉はやや厳しく緊張に満ちている。

 

「全力を尽くす。それだけしか俺にできることはない」

「結構、貴様の弟子はこの我を愚弄した。その罪は万死に値する。弟子の暴言は師の責任。貴様自身の手で餓狼の命脈を止めてみせよ」

「お嬢様は『アイツはわたしのことチンチクリンだのちんくしゃだの、幼児体型だのバカにして! 許さないんだからね! ちゃんとオシオキしてやってよね!』とおっしゃっています」

「え……そこまで言われてない」

 

《最後の侍》は笑いをこらえた。この主従のやりとりは気が抜けてしまう。メイドの方はこれで大真面目というのだから余計に困る。

 だが、これから望む戦いを前に無駄に気負うよりは良い。

 

「我が邪心呪縛法によって汝に目覚めし暗黒の力、《終わりなき剣生(エンドレスブレイドワークス)》。見事使いこなしてみせよ」

 

 風祭凛奈はこの病を患って長い。当然、その手の作品は大好物だ。それっぽいゲームやアニメに影響されてしまうのも致し方のないところ。

 

「お嬢様……あまりにも分かりやすいパクリはさすがにどうかと……」

「パクリじゃないし! リスペクトなんだから!」

 

 海斗の雇い主である凛奈の言う《終わりなき剣生(エンドレスブレイドワークス)》とは、小柄な女学生に首輪をつけてもらったオジサンが目覚めた能力だ。

 その能力は魔術の師匠である真理恵に『伐刀者としては最低、たぶん最弱。むしろ他の伐刀者が異能のオマケで持ってるようなもの』と言われてしまうような代物だった。

 だが、海斗はその能力を気に入っていた。そして、そんな能力を凛奈も『くくく、最弱の能力を最強の剣術で振るう。……え、カッコよくない?』と高評価してくれたので、弱いからいらないとクビにされることなくこの《七星剣武祭》に参加できたのだ。

 幼いころに剣をこの手に握った日から、ずっと振り続けてきた。毎日毎日飽きることなく、己が力の全てを剣に活かすことだけを考えてきた。

 剣と共に生きる人生、そこに終わりはない。命が尽きるその時まで、剣と共にありたい。

 そんな海斗の想いを貫く道は、病の前に一度は閉ざされた。

 それが今はどうだ。この身にたぎる新たな力。ずっと本気で死合いたいと望んでいた、この世界の本当の強者たちと戦える力。

 力とは資格だ。本当に強い伐刀者が、これでようやく本気で戦ってくれる。

 その資格が得られたのだから、異能の性質などどうでもいい。むしろこの年で特異な力など手にしても今更扱うことも難しく、また剣の純度が落ちるというもの。

 

「命尽き果てるまで剣に生きる。そんな意味が込められているのだろう? 良い名だと思うが」

「ほら見ろ、シャル! こやつもこう言っているぞ!」

「まあ、綾辻様は元ネタをご存じではないでしょうからね……」

 

 死ぬときは、剣を握って死にたい。

 一人娘にはきっと怒られてしまうだろうな。

 

 肩の力を抜く、しかし腕の力は緩めない。手首を締め、だが決して力まない。自然体を心がけ攻めの姿勢を崩さぬままに、『後の先』を──。

 

 海斗はそう考えつつも止められぬ想いのままに、綾辻一刀流の基本の構えを取った。

 

 

 

 ◆

 

 

 ようやくだ。ようやくこの日が来た。

剣士殺し(ソードイーター)》倉敷蔵人は、控室で滾る心を手にした剣の柄に込めていた。

《大蛇丸》──蔵人の固有霊装は、伸縮自在にして使い手の意志に応じて変幻自在に動く白骨めいた剣。その刀身は、戦いを前に昂る主の気を受けてうねうねと蠢くその姿は獲物を探す蛇の様。

 二つ年下の彼女が、やっと《七星剣武祭》に出てきた。そのことが蔵人にはたまらなく嬉しい。

 

(二年間、待ったぞ。《深海の魔女》!)

 

 蔵人は人よりはるかに優れた反射神経を持って生まれた。誰が名付けたか《神速反射(マージナルカウンター)》。蔵人の反射速度は、鍛え上げた常人の二倍から三倍。『知覚し、理解し、対応する』これを一工程として、他人が一度の工程を繰り出す間に蔵人は三度この行動工程を繰り返すことが出来る。この圧倒的なアドバンテージ。

 そして蔵人は肉体にも恵まれた。いくら《神速反射》を持っていようとも、身体が弱ければ脳が出す指令についていけずむしろ足を引っ張ってしまう。ところが蔵人の肉体は三倍速の指示に対応可能なスペックを持っていた。体格に優れ、筋力はその体格以上に強い。

 さらに蔵人は独自の嗅覚も持っていた。その嗅覚がかぎ取るのは普通の臭いではない。暴力の匂いだ。闘争の中で最適な行動を選び取る直感のようなもの。そんなものまで蔵人は備えている。

 暴力の天才。そう呼ばれて恥ずかしくない程度には、倉敷蔵人は強い伐刀者だ。

 生まれ持った力だけで、鍛錬に励んできた剣術家たちを這いつくばらせてきた。

 自分の強さに酔う、自分の力をひけらかしそれに恐怖する連中をあざ笑った幼き日々。

 だけどそんな日々は中学生までのことだった。やはり伐刀者は魔術こそ本領と強く言われ始めたあの頃、蔵人は魔術師に惨敗を喫した。

 

 そう、あの日、シニアリーグで《深海の魔女》黒鉄珠雫に負けて倉敷蔵人は変わった。

 手も足もだせず、一瞬で倒され、路傍の石のごとく見向きもされず、名前すら記憶されない。

 あの屈辱が蔵人の魂に刻みついている。冷めることのない熱が熾火のように心の奥にあって、いつもチリチリと焼き焦がしてくる。

 寝ても覚めても彼女のことばかり考えてしまう。あの日からもう三年近いが、黒鉄珠雫のことを想わなかった日は一日たりともないだろう。

 絶対に振り向かせてやる、その目に焼き付けてやる、その魂に倉敷蔵人の名を刻みつけてやる。蹂躙して、叩き潰して、暴力をもって二度と自分を忘れられないようにしてやる。

 

 そんな想いが蔵人を変えた。

 傍若無人で粗暴で礼儀など知らない。そんな蔵人に頭を下げさせた。

《最後の侍》綾辻海斗。非伐刀者でありながら、伐刀者の犯罪者を何人もとらえた稀代の剣士に弟子入りすることを決意させた。

 傍から見れば礼儀がなっていないといわれるような態度に見えたかもしれないが、蔵人はこの二年間たしかに海斗に頭を下げ続けてきた。首を垂れて教えを乞うてきた。 

 すべてはあの日の屈辱を晴らすため。もう一度、己の誇りを取り戻すために。

 

 肩の力を抜く、しかし腕の力は緩めない。手首を締め、だが決して力まない。自然体を心がけ攻めの姿勢を崩さぬままに、『後の先』を──。

 

(《魔獣使い》をぶっ潰し、二回戦で《鬼火》を踏み消し、ブロックの天辺で竜を殺し、準決勝でようやくアイツをぶっ殺せる!)

 

 ある意味一途で純粋な黒鉄珠雫への想いが、蔵人を滾らせる。その情熱のままに暴れだそうとする《大蛇丸》を静めるため、蔵人は剣を正眼に構えた。

 心も頭も体も焼くこの狂おしい熱量は、こんな控室で発散するようなものではない。死合いまでとっておくべきものだ。

 

『Cブロック第二試合を開始します。赤ゲート、倉敷選手入場してください』

 

 控室に流れたアナウンスに、蔵人はハッと息を吐いた。暴発しそうなこの獣性、明々後日の本命の前にまずは《魔獣使い》に叩きつけてやろう。

 暴力的な内心を秘めてリングに向かう蔵人の足取りには、たしかな武術の研鑽が息づいていた。

 

 

 ◆

 

 

『お待たせしました! 只今よりDブロック一回戦第二試合、選手の入場です!』

 

 会場に沸き上がる歓声の中、綾辻綾瀬は道場の門下生たちと一緒に観客席にいた。

 塾頭の菅原、頭の涼しい新田他、綾瀬が小さいころからお世話になっている道場の人たち。

 

「クラウドー!」

「ぶっ潰せー!」

 

 それから、倉敷蔵人が道場に通うようになってから不本意ながらも付き合いの出来てしまった貪狼学園の素行不良な生徒たちも一緒にいる。

 彼らの中の一部は月謝を払って道場に来てくれているので、あまり無下にするわけにもいかないのが困りもの。

 ついでに言えば、綾瀬や門下生の座っているこの席のチケットは、《七星剣武祭》出場選手──つまり蔵人の──関係者として優先的に入手させてもらったもの。

 近くに蔵人の通う貪狼の生徒たちがいるのは、当たり前と言えば当たり前。

 収入は増えたけど、ご近所からの道場の評判は落ちた。綾瀬の中で蔵人や彼らに対する感情は複雑だ。

 

「父さんも来れたら良かったのに」

「師範は仕事なんですよね。どんな仕事なんですかね」

 

 綾瀬の父・海斗は重大な病気を患い死を待つ身だった。それが快復したのはツテで紹介してもらった医者のお陰。ただ、そのときの手術が保険の対象にならないものだったために費用が莫大なものになり、海斗は今も道場の経営以外の仕事に平日の昼間は出ている状態だ。

 

「公務員みたいなものだって言ってたけど、詳しいことは教えてくれないんだ」

「昔みたいに警察に剣術を教えているとかでしょうか?」

 

 門下生の一人の質問に、綾瀬は首をひねった。娘から見ても、海斗は剣を振るうことしか出来ない男だ。となればそんな男が稼ぎを得る方法も、剣しかない。

 でも、綾瀬が預かっている通帳に『国』から振り込まれてくる金額は以前の警察官への教習のものよりずっと多いのだ。

 

「なんなんだろう。教えてくれたっていいのに──っと」

 

 ゲートから蔵人が姿を現した。相変わらずふてぶてしく、それでいて綾瀬が悔しくなるような剣士の足運び。

 海斗の剣を物心ついたころから教えてもらっている綾瀬を二年で抜き去っていった蔵人に嫉妬を覚える。同時に、それだけの剣士を育てた父の手腕が誇らしくもなる。

 

『赤ゲートから姿を見せましたのは、貪狼学園三年・倉敷蔵人選手です! ──』

 

 実況が《神速反射》の鉄壁の防御力や、《大蛇丸》による空間制圧能力など蔵人の力を説明している間に綾瀬は貪狼の連中をせかす。

 

「ほら、あれ広げて!」

「あっ、そうだった!」

「すいません! 姐さん」

 

「姐さんって呼ぶな!」と怒る綾瀬の横で貪狼生徒たちが横断幕を広げる。

 

『──血に飢えた狼の牙は今日も敵を食い千切ることができるのでしょうか! あっと、貪狼学園の応援席で横断幕が広がっていますね。えーと、なになに? がんばれ、蔵人! 綾辻一刀流道場門下生募集中、電話番号は……』

『おほん! それ以上はコマーシャルになってしまうので控えたほうがよいかと』

『あっと失礼いたしました! 倉敷選手は綾辻一刀流剣術道場の門下生なのですかね?』

『はい、綾辻一刀流と言うのはかの《最後の侍(ラストサムライ)》綾辻海斗氏の──なっ!』

 

 解説が《剣士殺し》の流派について解説しようとしたタイミングで、青のゲートからも選手が入場してきた。

 

『青ゲートから現れましたるは、暁学園一年・風祭凛奈選手……? あれー? あの男性は誰でしょうか? あ、いや続いて風祭選手も姿を現しました。風祭選手の《隷属の首輪》は取り付けた生物を自身の霊装とし、魔力と伐刀絶技に目覚めさせるという大変希少な能力です。風祭選手と並んで歩く女性も後ろに付き従う動物たちも、皆彼女の霊装として扱われます。獣を従え魔獣と化して操るが故に、ついた呼び名は《魔獣使い》! 《魔獣使い》を相手にするものは複数の伐刀者、それも人間をはるかに上回る身体能力を持った魔獣の群れを相手にすることになります!』

『あの男性……綾辻海斗氏ですよ!』

『えっ? 綾辻海斗さんと言いますと……さきほどの倉敷選手の通っている道場の……?』

『はい! 間違いありません! 非伐刀者でありながら、犯罪を犯した幾人もの伐刀者の逮捕に貢献してきた人物が──あの首輪……、あの《最後の侍》が、魔力と伐刀絶技を備えて《七星剣武祭》に現れました!』

 

 興奮した解説の言葉。それに《最後の侍》を知らない者は困惑し、知る者は共感した。日本で最も伐刀者ではなかったことを悔やまれた男が、魔力を携えて現れたのだと。

 そして、海斗の娘の綾瀬はそれらを放心したまま聞き流していた。

 

「え? 何やってるの、父さん……」

 

 

 ◆

 

 

「ハハッ! おいおいおいオッサン、こんな学生の大会に、いい年して何しに来てんだ? あれじゃねーのか、こういうのを年寄りの冷や水とか言うんじゃなかったか?」

 

 小馬鹿にするような蔵人の問いかけに、海斗は無言で答えた。

 

「ふん、こやつは我が《用心棒》よ。貴様程度はこの我が手を下すまでもないとこやつが言うのでな、特別に貴様を斬って捨てることを許してやったのだ」

 

 開始位置に立った海斗の主・風祭凛奈は、小さい背でがんばって蔵人を見下ろそうとしている。

 

「ああ?」

「お嬢様は『貴方が受け入れるのなら、《最後の侍》と一騎打ちをさせてやってもいいよ』とおっしゃっています。ああ、念のためにお伝えしておきますが、仮に綾辻様が敗れたとしてもその後には私や彼らが控えておりますので、悪しからずご了承ください」

 

 凛奈を挟んで海斗の反対側に立つシャルロットが、自分と動物たちをそういって指し示す。

 

「オッサンよぉ。つまりどういうこった?」

「分からんのか?」

「あん?」

「いちいち口にせねば分からんのか? 道場に初めて来たころのお前なら、そんなことを尋ねたりはしなかったはずだぞ」

 

 言われた蔵人は一瞬キョトンとした妙に幼い表情を浮かべ──すぐに、それを凶悪な笑みに変えた。

 

「ハハッ! ハハッハハハハッ! ハッ、ハハハッ! いいぜ《魔獣使い》! その条件でやってやる。ようは、俺がオッサンをぶっ倒して、それからお前とその畜生どもをぶった切るだけってこったよな? なんの問題もねぇじゃねーか!」

「《用心棒》との決闘の間、我と眷属たちは離れておるが、くれぐれもこちらには手を出さぬことだ。その瞬間から、一対一で戦わせてやろうなどという温情は消え去り、我による蹂躙が始まってしまうのだからな」

「ハハッ、オッケー、オッケー! よーく分かった! おい、審判! オッサン以外は下がらせて構わねえな?」

 

 蔵人からの申し出を審判はしばし考え、やがて頷きを返した。

 

『なるほどー、つまりこの試合は師弟対決というわけですね! 風祭選手によって魔力に目覚めた稀代の剣士である師匠はいかなる剣を見せてくれるのか、そして《剣士殺し》の異名をとる弟子は生ける伝説とも言える師匠を超えることができるのか!』

 

 開始位置。本来ならばこれから戦う()()()()同士が向かい合うその場所で、倉敷蔵人と少女に首輪をつけてもらった中年男性・綾辻海斗が相対する。

 

 蔵人の両手は()()を握り、海斗の両手もまた()()を握る。

 その姿勢はどちらも同じ、綾辻一刀流の基本の構え。

 

『それでは、やや変則的ではありますが運営委員会からの許可が出ておりますのでこのまま試合開始と致します。――それではこれより、第六十二回七星剣武祭一回戦、Dブロック第二試合!

 倉敷蔵人選手 対 風祭凛奈選手の試合を開始します!

 それではみなさんご一緒にーーーー LET's GO AHEAD----!!!!』

 

 




原作二巻の一輝 対 綾瀬の師弟対決的な
なお師匠側には後詰あり

クラウドくんは想い込んだら一途な男。原作だと一輝に勝ちたくて霊装(魂の形)が変わっちゃうくらい。
ここでは剣士の一輝に剣で負けていなくて、魔術師の珠雫に負けて、一刀流の綾辻道場に入門しているので

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