それでは本編をどうぞ!
授業とは退屈なものだ。理解できているものを何故繰り返すのか。不思議で仕方がない。そんなことを思っていると、こちらに笑顔を向けている瀬田と目が合った。普段の言動とは程遠い光景だった。そして授業が終わる。これの繰り返しだった。祐樹もそれに気づいていたようで、俺に話しかけてきた。
「お前さ、瀬田さんとなんかあったの?」
「なにもねえよ。にしても授業中何度か目が合ったけど、笑顔だったな。」
「こういうこと言うのもなんだけどよ、お前と瀬田さんのちょっとした噂が立ってるぜ。」
「はあ?別になんもねえよ。」
「聞く話によると、瀬田さんってあの容姿にもかかわらず一度も彼氏がいたことないらしいぜ。そんな噂が立つのも仕方がないってことよ。」
「はあ、マジかよ。」
これからどう過ごしていけばいいんだよ。まあいつかは誤解も解けるだろう。…このあとは演劇部の見学か。早めに行こう。すると、案の定瀬田に呼び止められた。
「さあ、黛君、行こうか。」
やべー、周りの視線が痛すぎる。祐樹にしては笑ってるじゃねえか。あとでジュース奢ってもらうか。そして、本日の活動場所と思われる大きめの教室へと案内された。
「実は今日ちょっとだけ通してみようと思うんだ。正直でいいから感想とか改善点とかを聞かせてもらえるかい?」
俺に評価?劇が嫌いなのに?彼女から何度も聞かされる演劇。それに段々と嫌気がさしてきた。
「…本当に正直に言っていいんだな?」
「ああ、よろしく頼むよ。」
そして劇が始まった。まだ完成していないので、本番さながらのようにするのは無理だろうが、それ以前に、自分と瀬田の決定的な違いがわかった。それは、彼女は楽しんでいるということだ。そして、ある一つのことを思い出した。瀬田薫。そう、彼女は昔、俺と同じオーデションを受けたやつだった。当時と全然変わらない。演技だった。結果、オーデションは落ちたが、それでもなおこうして続けていると思うと、いらいらしてきた。それに比べて俺は表面上は楽しんでいるように装っていたものの、内心まるで興味がなかった。それが、彼女との決定的な差だ。そんなことを思っていると、一通り通した劇が終わった。今の俺は、どうかしていたんだろう。演劇部は、今日はもう練習が終わったらしく、各々に帰っていった。もちろん、瀬田以外は。
「一通り通してみたがどうだったかい?感想を聞かせてほしいよ。」
俺は正直に言った。思っていることをすべて。吐き出すように。
「当時と全く変わっていないな。」
「フフッ、ようやく思い出したかい?あの時私と君は…」
笑顔だった瀬田の顔が俺の言葉によって豹変した。
「まるで演技になってないな。いいか。演技にはな、自分の感情はいらないんだよ。どうやって相手に演技者の思いを伝えるかが大事なんだよ。俺にははっきり伝わったよ。瀬田は演じることが楽しいんじゃない。演じている自分を評価されていることに生きがいを感じているんじゃないか?」
つい本音を言ってしまった。でもここまで言えば落胆して俺に関わらなくなるだろう。そう思い瀬田の表情を伺うと、怒りと悲しみに覆われた顔で俺を睨んでいた。そして次の瞬間、俺は壁までものすごい勢いで飛ばされた。そう、彼女に強烈なビンタを食らったのだ。
「…君になにが分かるっていうんだ!私の努力がここまで侮辱されたのは初めてだ!君は才能があったから受かったんだ!私は受からなかったショックで努力を積み重ねてきたのに、もういい。帰ってくれ!二度と話しかけないでくれ!」
そう言って瀬田は出て行った。今思えば俺はとても最低なことを言ってしまったのかもしれない。気づけば、顔が段々と濡れてくるのが分かった。泣いていたのだ。何故だ?酷いことを言ったから?違う。もっと大事なことなんじゃないか。今の俺には到底分かるはずもなかった。
教室に帰ると、誰もいなかった。瀬田のバッグもなかった。すぐ帰ったんだな。そう思うと、胸が締め付けられるのが分かった。こんな俺を、ほかの誰にも見せたくない。早く帰ろうと教室を出たら、リサとばったり会ってしまった。当然、俺の顔を見た彼女は、不安そうに聞いてきた。
「純也、何があったの?」
「い、いや、何でもないよ。」
「…ちょっとどこかに寄ろうか。」
「…」
何故俺は断らなかったのだろう。きっと誰かに救いを求めていたんだと思う。程なくして、リサの支度も済み、近くのコーヒー店に寄ることにした。
「で?何があったの?」
俺は先ほどあったことを全て話した。俺が元子役だったことも。
「へ~、まさか純也がね~。」
にやけながら言ってきた彼女の目は、真っすぐで親身になって聞いてくれていたとわかった。
「まあそれは純也が悪いけどさ、それを通してなんか得られたものがあるんじゃない?」
「…なんだよそれ。」
「それは自分で気づいてほしいな。それがわかったとき、純也の中で何かが変わると思うよ。」
「…そうか。なんかスッキリした。ありがとな。」
「うんうん。あ、薫には明日ちゃんと謝っときなよ?」
「わかってるよ。」
そう言い、ケーキを食べ終えたら、しばらく雑談をした。恋愛とか恋愛とか恋愛とか…。気づけば辺りも暗くなり、帰ることにした。
「じゃあ純也、バイバイ。」
「おう。じゃあな。」
帰り道に目にした夕日は、どこか儚げなかった。
いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたら幸いです。進展はいつかな~。