それでは本編をどうぞ!
人には誰にも知られたくない過去というものがあるだろう。その中でも幼い頃の出来事は根強く残りやすい。俺もその一人だ。幼い頃から子役を強いられた。それが今、嫌悪感として残っている。それが原因で一人の女性を傷つけてしまった。彼女は許してくれるとは言ったが、その傷は深いはずだ。俺に協力できることは何でもしようと思った。
ここはとある公園。瀬田は先生に呼び出され、先に行っとくようにと言われた。にしても平日にしては人が少ない。てか誰もいない。いつもは子供や老人でいっぱいだが、今日は誰もいない。まあこっちとしてはありがたい。人がたくさんいれば、瀬田も話しにくい部分があるだろう。そんなことを思っていると、向こう側から彼女がやってきた。
「遅れてすまないね。」
「いや、いいんだよ。元はと言えば俺が悪いんだし。」
口調は何故か明るかった。相変わらず顔は寂しげだが。瀬田は俺の隣に座り、その全て語り始めた。親に演技を強いられたこと。幼い頃中々人に馴染めなかったこと。それが原因で今の「瀬田薫」になったこと。そして、
「本当の自分というものを忘れてしまったんだ。」
本当の自分というものを忘れてしまったこと。それはすなわち、今のこいつは仮面をかぶっているということだ。
「いつ頃だったかな。自分を見失ったときどれだけ絶望しただろうか。小学校に入りたての時だったかな。それから今のような口調や態度になってしまったんだろうね。」
そう。自分を見失うということは、それだけ自分に変化を与えてくれるものなのだ。だが、残念ながら俺にはどうすることもできない。本当の「瀬田薫」がわからないのだから仕方がない。
「そういえば、君は私に演じることが好きじゃないと言ったね?その通りだよ。それも偽りの私なのさ。でもね、演じること全てが嫌いというわけじゃないのさ。それを見てくれる人は、各々に思いを抱くだろうが、最後に私は評価される。それがどんなものでもいい。ただ、次もたくさんの人に今の私を見てほしいといつも思うんだ。だから私は演劇部に入ったんだ。」
そういう思いもあるのか。俺は納得した。そして俺は分かった。彼女にできることはそれをサポートすることなんじゃないかと。すると、俺は彼女の異変を感じた。瀬田薫は泣いていたのだ。
「うぅ、私はこれからどうしていけばいいんだ…こんな状態で演技をしても誰にも感動を与えることができないじゃないか…くっ…。」
こんな彼女を初めて見た。知り合ってすぐだから当たり前だと思うが、そこにはまさにどん底と思われる彼女がそこにはいた。…俺も鬼じゃない。慰めることぐらいはできるだろう。俺は彼女を抱きしめた。
「…ふえっ…?」
俺だって恥ずかしい。慰めるとはいえ抱きしめるまではしなくてもいいんじゃないか。しかしこうでもしないと慰めることはできないと思った。彼女も強く抱きしめてきた。
「純也くんっ…」
次第に俺の肩は濡れてきた。彼女の涙で。俺はいつまでも抱きしめた。通行人の目など気にせず、ただただ彼女を支えていきたいという思いで。
どれくらいの時間が経っただろうか。辺りは薄暗くなっていた。彼女も泣き止み、自我を取り戻していった。
「今日はすまないね。私の身勝手に付き合わせてもらって。」
「構わないよ。これからも相談があるときはいつでも言ってくれ。」
「ありがとう。それと…」
彼女の様子がおかしい。顔が真っ赤だ。熱でもあるのか?
「これからは純也と呼んでもいいかい?黛君だとちょっと他人のような感じがするからね。」
「いや、俺らは他人だろ。」
「いいや違う。同じような過去を持っている同士じゃないか。まさに運命共同体そのものだろう?」
「わかったよ。好きなように呼べ。」
よかった。いつもの瀬田に戻ったようだな。
「じゃあ純也。今日はありがとう。また明日会おう。」
「待てよ。」
俺は瀬田の手を掴んだ。彼女は小さな声を上げる。
「こんな暗い中じゃ危ないだろ。家まで送ってやるよ。」
「まったく、君という人は。」
そう言いながらも嬉しそうな彼女だった。
家に帰り着いた俺は、これからについて考えた。彼女の過去を知った今日、俺は選択を迫られていた。彼女のサポートをするのか、影ながら応援するのか。俺にも過去のことがあるからできるだけ演劇部には関わりたくない。しかし、このまま瀬田を放っておいてはいけない気がする。…あいつに相談してみるか。
「なあリサ。ちょっといいか?」
「んー?どしたの純也。」
「ちょっと相談したいことがあってな。」
「いいよー。じゃあ放課後また言ってね。」
了承した俺は、疲れからかすぐ寝てしまった。
そして放課後。集合場所であるコーヒー店に到着した。まだリサは来ていないようだった。そこで俺はこの高校の演劇部について調べていた。羽丘高等学校演劇部では、毎年実力のある人材がいるものの、結果はイマイチ。つまり普通なのだ。数分後、リサが到着した。
「ごめーん。待った?」
「数分前に来たな。」
「いやいや、そこは今来たとか言うでしょ。」
笑いながらリサは席に着いた。
「んで?相談とは何でしょうか?恋ならあんまり力にはなれないよ~。」
「…実は瀬田の件についてなんだが。」
そこからの俺はすべて本心で語った。隠し事なしに。するとリサは笑い出した。嘲笑ではなく安心したかのように。
「答え出てるじゃん。あんまり気にしない方がいいよ。純也はほんと優しい少年だな~。」
「からかうなよ。結構考えたんだぞ?」
「ごめんごめん。まあ、これからはその道で頑張りなよ?」
「おう。」
そこからの俺らは雑談をした。恋愛とか恋愛とか恋愛とか…。恋愛ばっかじゃねーか。
時間も時間なので、俺らは帰ることにした。その帰宅途中、瀬田に会った。
「なあ瀬田、」
「純也じゃないか。どうしたんだい?」
俺はこの場で決心した。いや、リサに相談する前にできていたのかもしれない。俺は真っすぐな瞳でこう言った。
「俺を演劇部に入れてくれ。」
空は夕日で橙色に澄みきっていた。
いかがだったでしょうか。今年も皆様に楽しんでいただけるように頑張っていきます。
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