これはナギサとキョウヤがポケモン図鑑を貰って、一人のポケモントレーナーになって数時間後の話。
コアライが資料を整理しながら、休憩しようとした時だった。
「失礼します」
「えぁ!? ああ、ごめんごめん! 別にサボってた訳じゃないの! あははは……」
「別にいいです、ポケモンを貰いに来た【ルキナ】です」
黒を基本とした服装。スカートも黒色。動きやすい恰好である。
整った顔立ちと落ち着いた雰囲気。
そして、コアライはまず注目したのが胸の大きさだった。
(うう、年頃の女の子に負けてる私って一体……)
気付かれないぐらいにため息をつく。
気を取り直して本題を入ろうとした時だった。
「それじゃあ、ポケモンを選んでね! とは言ってもすぐには……え?」
「ゼニガメ……個体値、普通、努力値、初期状態、性格……」
「えぇ、何を言っているの?」
コアライにとってルキナの言っていること。
それは理解出来なかった。
博士にとってまだそんなに日が経っていないコアライ。
それで言い訳は出来るが、致命的までに知識も経験も不足している。
自分の力量の無さをコアライは痛感しながら、目の前の少女をただ見ているだけしか出来なかった。
その後も、次々とモンスターボールからポケモンを出してはこの作業を続けていた。
そして、ルキナはある一匹のポケモンに焦点を定める。
「アチャモ、個体値〇、性格〇、良い感じね」
「あ、あの……それって」
「コアライさん、もういいです、私はこのアチャモにします、正直言って他のポケモンは駄目みたいなので」
「だ、駄目って! 何でそんなこと」
思わずコアライは声をあげてしまう。
きっぱりとそう言ってルキナはコアライと向き合う。
思ってみればここまで、ルキナはポケモンを見ていなかった。
見ていたのは数値化された謎の能力。
ただ、一般の人には分からないだろう。
その証拠にポケモンの強さとは信頼や愛情と信じていたコアライ。
それは博士となった今でもそれが真実だと思っている。
しかし、ルキナの行動はそれを全否定されているようだった。
そんなコアライにルキナは冷たくこう告げた。
「知らないんですか? ポケモンも人間と同じで、ある程度の才能が決まっているんです……もしかして、愛情とか信頼とそんな不覚的要素なパラメーターで決まると思っていたんですか?」
「……っ!? でも、それだけじゃないはずよ、ポケモンにも人間にも心があって」
「でも、それは強さには関係ありませんよね? さてと、こんな無駄な話をしている時間はないので、私はこれで失礼します」
「あ……ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ポケモン図鑑を奪うようにルキナは持って研究所を後にした。
呆然と立ちすくし、コアライは何も的確なことを言えない自分。
そして、ルキナの歪な考え方と言動に気持ち悪さを感じていた。
「分からない、あの子の考えていることが、何なのよ」
知らない単語。自分とはかけ離れた考え方。
どちらにせよ、ルキナにポケモンと図鑑を渡したのは失敗だったのか。
様々な葛藤に悩まされながら、コアライはパソコンの前へと座る。
「調べないと……あの子が何を言っていたのか」
そして、同時にナギサとキョウヤのことを思い出す。
二人の顔を思い浮かべながら、コアライはこう強く願った。
「二人はあの子みたいにならないでね、絶対に」