この小説はフィクションです。実在の人物とは関係ありません。
独自設定タグさん、今回もお願いします!(もはや様式美
──負けましたわ!
ステファニー・ドーラは憤慨した。
帰路を行く足取りは重い。
最初は石畳に恨みでもあるかのように
今では満載の荷車でも引いているかのように
敗北の重さを背負って歩くには、ちょっとした道程さえも長く感じられた。
ステファニー・ドーラは、敗北の経緯を思い返す。
まず、クラミー・ツェルと自分は、王位を賭けたゲームを行っていた。
ゲーム内容はポーカーだ。
劣勢だが、途中で見知らぬ女性が協力を申し出てきた。
しかし協力してくれるのかと思えば、何やら私とは関係の無いゲームを始めてしまう。
腕相撲で、彼女は勝利した。秒殺──いや、瞬殺と言っても良い早さだった。
その後、ポーカーを再開する。
イカサマをやめたせいか、クラミー・ツェルの手札は随分と大人しくなった。
しかしこの時点で既にこちらのチップは残り少なく不利であり、形勢逆転とまではいかずにそのまま押し切られてしまった。
転機となり得たのは協力者の出現だろう。協力者を完全に味方につけることができていれば、勝つことができたはずだった。
――そもそも何ですの、この失礼な人は。
それが協力者に対する率直な感想だった。
彼女は相手のイカサマを見抜いておきながら、その内容を明かさなかった。
協力者などと言っておきながら、実際には大した協力もせずに私利ばかりを優先した。
だいたい、外見からして既に不審だ。
屋内で目深にフードを被っているような人物など、堅気かどうかさえ怪しいものだ。
性別は女性だ。衣服は襤褸。腕力が強い。判ることはそれぐらいか。
フードを被り名前すらも明かさない──それは相手側の協力者も同じだが、彼は巻き込まれただけの他人だから別に構わない。
この程度の情報では、結局のところ謎の人物としか言えなかった。
──考えてみれば、一方的に利用されただけじゃないですの!
ふと思い至る。そうだ、彼女は何も賭けていなかったではないか。
ポーカーと腕相撲。彼女が関わったゲームは二つだが、どちらのゲームがどう転んだところで彼女に損は無いのだ。
彼女にとって重要な点はただ一つ。
相手が逃げられない状況を作り出して必勝のゲームを吹っ掛けたということだ。
自分とクラミー・ツェルの勝負など最初から眼中に無かったのだろう。
負けたとしても何も支払わず、勝利すれば一方的に奪う……なるほど、そんなことができれば最強だ。どんなイカサマよりも強いに違いない。
最強といえば、次期国王選定ギャンブル大会を連想する。
『次期国王は余の血縁からではなく"人類最強のギャンブラー"に戴冠させよ。』
これはステファニー・ドーラの祖父である前王の遺言だ。
ステファニー・ドーラ自身が先程負けたその戦いに、彼女も参加しているのだろうかと気になった。
──あれはあれで強いゲーマーなんでしょうけれど。……でも、納得いきませんわ!
彼女のせいで負けた訳ではない。彼女が居なくても結果は同じだっただろう。
敗因は二つ、自力でイカサマを見抜けなかった事と、イカサマをやめさせた上で尚負けた事。
ステファニー・ドーラ自身のせいだ。あるいはイカサマをしたクラミー・ツェルのせいだ。
だが
自分は
祖父の遺志である
敬愛する祖父の遺業を自身の手で引き継ぎたかったが、力が足りなかったというのであれば仕方無い。
必要なのは血筋や礼節ではなく、他種族に負けない強さだ。
力有る者が王位に就いたならば、それが無礼な人物であろうとも喜ばしい事のはずだ。
しかし実際に彼女が女王になったらと思うと、どうにも喜べる気がしなかった。
どうにも、彼女を恨まずには──自分一人で抱えるには重過ぎる感情を彼女に押し付けずには居られなかった。
朝になって、やっと空と白が目を覚ました。
こいつら昨日は日が出ている内から寝始めて、今はもう日がそこそこ高い。
雲越しの明暗じゃなくて太陽が直接見えるなんて、変な感じがするけど。
起きるのは尤もなことだけど、でも期待が外れたから残念。
こんな長く寝るなんて、もう目覚めないでこのまま死ぬんじゃないかなって思ってたのに。
とりあえず、
こいつらを起こそうとしたときとか、下手な起こし方したら死ぬんじゃないかと思い至った途端に盟約で殺傷判定くらって行動キャンセルされたし。
ちょっと散歩に行こうとしたときも、このまま放置したら死ぬんじゃないかと思い至った途端に盟約で殺傷判定くらって行動キャンセルされたし。
思い起こせば、昨日この町まで運んでくるときもそうだった。
揺らしそうになったら行動キャンセルだし、触ってくる手を振り払おうとしても行動キャンセルだし。
なんか結果的に、死ぬほど丁寧にこいつらを扱うことになったよね。
何この重介護!うちのばーちゃんの晩年ですらここまで手は掛からなかったのに!
強者に弱者の世話させるなんて、
「知らない天j──」
「おい、
「──
最後まで言わせろよ。つい反応して先攻取っちまっただろうが。」
横向きに寝ていた空はわざわざ仰向けになって姿勢を整えてから、何か多分とてもどうでもいい事を呟こうとしたと思う。
私は無視して、カードデッキを構えながら言ってやった。
デッキはスペード、クラブ、ハート、ダイアモンドの四色構成で、各スートのエースからキングまでの13種各1枚ずつに加えて無色のジョーカーが2枚。
つまり普通のプレイングカードなわけだけど。いやほら、トレーディングカードとか無いし。
ちなみにカードデッキを持ちながら言う必要は全く無かった。
「あー……っていうか、なんだっけ、ここって遊戯王の世界だっけ?……な訳ねーか。
まあいい。んで、賭ける物は?」
体を起こした空が訊いてくる。
半醒半睡だった白もつられて一緒に起きた。
「私が勝ったら私を解放しろ。
お前達が勝っても私を解放しろ。」
「ん?」
「……もしかして、対等の、意味……理解して、ない……?」
完全無欠に理解してるよ。こいつ失礼極まりない!
「お前達が勝ったら、加えて私とどっかの魔法使いの戦いの観戦権をくれてやるの。
切った張ったのハートフル大迫力スペクタクル異能バトル冒険活劇だぞ。
視聴者泣き喚くぞ。さしもの全米とて泣かざるを得ない。露も中も全部泣かす。」
魔法使いには二匹ほど目星を付けてる。
片方は既に接触済の
だから本命は詳細不明の方。
体格はあんまり大きくないけど精霊量は大きい種族。多分生物じゃなくて生命。
今の私の知覚力は埋まる前よりだいぶ低いけど、精霊の反応が大きいおかげで離れてても認識できる。
「ほほーぅ、こっちの世界には魔法が実在するわけね。
いいぜ、そんじゃ魔法とやらを見せて貰おうか。
ゲーム内容は──」
──なんか負けた。
ので、空白を引き連れて
表札っぽいのがあるけど知らん言語だから何書いてあるのか知らんの。
まぁ六千年経ったら言語も変わるよね。六千年前の言語も全部知ってたわけじゃないし。
でもよく考えたら、なんでこんな中途半端に大きい精霊反応が
もし
でも
未知の種族だったら、戦ったら危ないかも。危なくてもまぁ最終的にぶっ戦うと思うけど。
とりあえず、その建物の扉を開ける。
その先に待ち構えていたのは、紛れも無く
光輪と白翼を持つ人型。女の姿をとる無性の種族。物質的肉体に依存せず存在する魔法生命。
最強の蛮神アルトシュを奉ずる蛮族中の蛮族。アルトシュに造られ振るわれる自律型の対神兵器。
物理的な影響を及ぼす程に膨大な精霊が眼の前で渦巻いている。
多分
現代では初めてで過去には茶飯事だった、懐かしい感覚が総身を駆ける。
それは暗黒のように覆い、それは真空のように満たされ、
それは灼熱のように乱れて、それは雪山のように震わす。
一言で言うと、それは殺意。
殺意に塗れた視線を垂れ流す、その双眸は差詰め冥府の門とでも例えるべきかな。
というか……んむぅ。
鈍ってる!鈍りまくってるの!全盛期の私なら有り得ない失態!
『十の盟約』による防御が無かったら、この一瞬で四肢の一つでも失ってた!
無意識に反射的に行ってた
とりあえず喋ろうかと思ったけど、
「ウェルカム、
……と、おや?これはこれは、
ベリーオールドな濡れ鼠もトゥギャザーしていらっしゃるではありませんか。
わざわざ駆除されにエントランスからいらっしゃるとは、
ラットにしては殊勝な心掛けでございますね?」
「……間違えました。」
私はそっと扉を閉めたの。
「えーと、今の……何?」
「……ルー、語……?」
「お前達スルースキル足りてないよ!これだから猿は!
帰るの!帰るよ!早く行くの!」
「おいおいどうした?まさかあんだけ大口叩いときながらビビったりなんてしてないよな?ん?」
何この猿共。落ち着きすぎてない?
あ、こいつら初めから盟約で守られてるから相手のやばさがわからないっぽい!
……んぅ?違う、よく見たらただの虚勢!
でも鳥が猿より強いってわかってるだけで具体的にどれぐらい強いか全く理解してない!
つまり猿は無能!確定的に明らか!
「違うの!想定外!想定外なの!
イレギュラーでドミナント!
これはあかんの!完全にあかんやつなの!
私が想定してたのは
これはどう見てもジブリール!
何もかもを黒く焼き尽くす死を告げる鳥!どう考えてもフロムの悪意!無理ゲー極まるよ!」
「ふむ、で?それが何か問題?」
このクソ猿!クソ猿過ぎるの!クソ過ぎるし猿過ぎるよ!
……んぁぅ?あ、何も問題無いの!相手がジブリールでも、ぶっ捻り殺せば完全に解決!
猿のくせに正論言うなんてクソ猿極まる!こいつもそのうちぶっ擂り潰してやるの!絶対!
「……っき゚ゃぁぁあああう!
やってやる!やってやるの!ぶっ消滅させるんだよ!
「……死亡フラグ、乙。」
「フラグちゃうの!」
ということで、もっかい扉開ける!
「ウェルカム、
……と、おや?これはこれは、
ベリーオールドな濡れ鼠もトゥギャザーしt──」
なんか気付いたら無意識に閉めてた。
「えーと、今の……何?」
「……ルー、語……?」
「それさっきも聞いたの!無限ループ禁止!」
次はこっちから先にぶっ話し始めてやるの!
もっかい開けるよ!
「――お前達はいつも誤りを犯す。そうは思わない?
よし、先に言ってやったよ。
「おいなんかこいつ語り始めたぞ。」
「……二次元では、稀によくある、こと……スルー推奨?」
おい外野、イベントシーンでは口チャック。
私がぶっ喋ってるのに邪魔するなんて失礼極まりない!
「――お前達には管理する者が必要だよ。お前達はお前達だけで生きるべきではないの。」
「なんか聞き覚えある気がするな。」
「……AC2……レオス・クラインの、台詞。」
「あー、あのラスボスか。流石白。」
AC2わかるなんて、空白は火星人に違い無い。
「――
「どうせかっこよさげな台詞言おうとしてもなんか締まらないんだろうなーと思ってたけど。
案の定、駄目だったな。」
「……可愛い、から、問題無し。」
可愛いから問題無し!それな!
「――理想のため復活のため、ぶっ消えろ
「最終的に脳筋な結論に持っていくこの台詞、こいつにはすげー似合う気がする。」
「……可愛いから、あんまり問題、無し。」
可愛いから完全に問題無しな!な!
「あ、茶番はフィニッシュ致しましたでしょうか?」
そして本読んでた
こいつ話聞いてなかったの!失礼極まりない!
「まぁいいよ、
そんなことより本題な。
お前と遊んでやるの。さっさとゲーム内容決めるが良いよ。」
あ、
こいつ一瞬攻撃しようとしたの、
「──それはつまり、ミーにゲームを挑まれると?溝鼠の分際で?」
「そう、物理的に上から目線な害鳥を、地にぶっ叩き落とすんだよ。私が。」
喋ってる途中にまた攻撃しようとした。
普通に喋ってるだけなのに怒るなんて沸点低過ぎるの。こいつもしかして常温で気体?
……あ、常温で飛行する種族だものな。納得したの。
「なるほど、判断能力はともかく意志は確かなようで。
では我々
「むぇ?何その……えっと……何それ?
お前達ネック取るの飽きてヒップ取り始めたの?」
「……しり、とり……?」
「イエス、具象化しりとりでございます。」
「やっぱりしりとりか。むしろネック取るって何だよ。」
「こいつら首刈り族なの。首を通貨にしてる原始的な蛮人だよ。」
「なにその種族こわい。」
首刈ることしか考えてない種族は野蛮過ぎるけど、首刈る話だけで怯える種族も貧弱過ぎるよね。
やっぱり
「今そこのネックが何かスピークしたようですが、細かいことは気にせずにルールを説明致しましょう。」
「なにこの子こわい。」
私達も付いていくよ。
「基本はノーマルのヒップとりと同様。
『既出のワードを口にする』『サーティ秒アンサーしない』『継続キャナット』のエニシングでルーズです。
ただし、口にしたものが『その場に在ればディスアピアーし』、『無ければアピアーする』。
ザッツオールです。何かクエスチョンはございますか?」
「ルー語が気になりすぎて何も頭に入って来なかったんだが。」
「……
「ルー語?ミーの独自言語にどなたかが勝手に固有名を付けたのでしょうか。
……まぁいいでしょう。それでは改めてご説明を。
『既出の言葉を口にする』『三十秒回答しない』『継続不能』のいずれかで負けです。
そして、口にしたものが『その場に在れば消え』、『無ければ現れる』。
以上です。何かご質問はございますか?」
「無いの。さっさと始めるよ──」
「六千年以上に渡って共に過ごした貴方様の頭と胴体、離別する覚悟は完了したものと見做します。
では始めましょうか──」
――【
建物の中央でゲームを開始する。そこに在るゲーム装置が起動した。
具象化が云々ってのはこの装置で実現するらしい。
「さて、先手はお譲りしましょう。
回答をどうぞ。」
存在しているものの名を言えば、それが消える。よくわからないけどそんな感じのルールなはず。
なら消すものは一択!
「『
さあ、消えるがいいよ
……。……?
「……消えないよ?バグった?」
「プレイヤーに対して直接攻撃はできのうございます。
私以外の
ちなみにここはゲーム用の仮想空間です。ここでの事は現実には反映されません。
では、私の手番ですので……『ルーシア
ルーシア大陸は、この世界に在る二つの大陸の片方だね。
今私が居る場所は他方のアリエラ大陸だから直接の影響は無い。
間接的な影響はわからないけど多分あっても津波程度だし問題無いよね。
いや、
津波の到達まで多分かなり時間かかると思うけど、現代の地形は知らないから確実とは言えない。
……むしろ地形が原型とどめてない気がしてきた。早く終わらせよう。
とりあえず、敵を消せないのなら自分の
「『
得たものは
雑念が消え去る!精神が冴え渡る!億の声も聞き分けられる!宇宙の果ても見通せる!
前世も前々世もその前も、万の生でも遡って思い出せる!
量子の動きさえ計算できて、未来だって観測できる!
あらゆる思考が消失して、ただ一つ残るのは
そして純然たる殺意を基に
私はその場で爪を振るう。
故に、同時に指を一本斬り離し、振るった際の遠心力で
指は迅雷の速度を以て
その指に内包される精霊は圧殺され、その指は霊骸の弾丸と化しているのだ。一種の毒手と言える。
精霊の死骸である霊骸は、触れた精霊を連鎖的に死滅させる。
霊骸を以てあらゆる魔法的防御を貫き、膂力を以てあらゆる物理的防御を貫く、滅殺の霊爪。
私の指から変じた毒爪には、もはや私でさえ触れられない。
触れれば、触れた箇所から体内精霊が死滅していくだろう。
その対極に位置する、致死的に負荷を増大した特攻型の
第三のケッカイを以て放つ防御不能攻撃。命中すれば確実に、敵の体内に霊骸を作り出す。
それは残念ながら予定通りに避けられた。
だが霊爪に含まれる精霊はまだ死滅しきってはいない。
指先から根本へと急速に死が広がっている最中だ。
その精霊が全て霊骸となるまでの一瞬に満たぬ時間の中で、私は霊爪を操り軌道を変え、再度
正確に言えば、もはや霊爪は私の制御下にない。予め入力した通りに動いているだけだ。
再び避けられたが、少々無理のある回避運動により体勢を崩した。そのとき既に、私は
血潰を発動し、二本目の指を至近距離から打ち込む。
「『
クキョウソクとは……私が持つ七百以上の言語知識を以てさえ未知でございますね。
認識力の増強といったところでしょうか。鼠がここまで強くなるとは、興味深うございます。」
並大抵の防護魔法とは違い、これは空間断絶を引き起こしている。
万物を撃ち抜く霊爪も、当たらなければ効果は無い。霊爪は断絶された空間を越えることはできなかった。
「んむ。やっぱり戦ったら分が悪いよね。
じゃあ『
天地を巡る精霊回廊は消え去り、
体内の精霊は残るが、それでも生命維持に影響が無い範囲での減少はあるし、減少した体内精霊を外部から取り込んで回復することもできない。
体が魔法で構成されている
不利と言えば不利だが、精霊量など最初から最後まで負けっぱなしなのだから今更の話であるし、むしろ最強の物理的能力を持つ
精霊を消したということは、体外精霊を用いた魔法を封じたということでもある。
天翼種が用いる
厳密には完全に封じたわけではない。
それでも体内精霊だけではスムーズな魔法行使は難しいのだから、発動にコンマ数秒はタイムラグが発生する。
ほぼノータイムという本来の発動速度に比べれば止まって見える。
「はて?一体どうなさったのでしょう?
ただでさえ大して強くございませんでしたのに、その僅かばかりの強さすら放棄するとは。
その状態で一体何ができると?
加えてその言い方では、まるで頭脳戦ならば勝ち目が僅かにでもあるようですが――
――あぁなるほど、勝ち目があると思い込まねば耐えられないと。
貴方様のような弱小種族の思考を即座に察せないとは私もまだまだ。
己の未熟を恥じるばかりでございます。
さて、力を放棄した今の貴方様に何ができるのか見せていただきましょう。
『
弓嵐。
私を地底に押し込んでくれた奴で、高高度から無差別に射撃を行う災害だ。
屋根を貫いて無数の重金属弾が降り注ぐ。
残念ながら自力では防戦しかできないけど、対抗策は在る。
トートファイントをぶっ解体できる者を巻き込めば良い。
「『シンク』!」
自称賢いだけの普通の
でもニルヴァレンより賢い
優劣はさておき。
ニルヴァレンはトートファイントの配列をぶっ計算して、ぶっ崩して、ぶっ消し飛ばせるはず。
遠距離攻撃がそこそこできる上に私より賢いのであれば、トートファイントを撃墜できて当然。
私は空白を抱き寄せてトートファイントの無差別攻撃から守る。
それと並行して爪を振るい、ニルヴァレンの頭上に三秒分ぐらいの滞留斬撃を置いて傘代わりにする。
残り少ない体内精霊を更に消費する大盤振る舞いだ。
ニルヴァレンなら三秒の猶予があればトートファイントを解析できるはず。できろ。できなかったらぶっ死ね。
今の状態だと精霊回廊が無いから撃墜まではできないだろうけど、解析だけさせて後は私がぶっ消せば良い。
「『クラウドヴォーテックス』。」
しかし間を置かずに
意志を持つ雲。形ある暴風。広域を満たす破壊の渦。荒れ狂う時空間の捻じれ。
だがその力は、遠目にしか認識できない。付近に居る者にとっては無音にして無色。
何時、何処で、何を、どうやって。クラウドヴォーテックスが万物を捻じ壊すその過程を、認識することはできない。
できることは、"破壊されたもの"と"未だ破壊されていないもの"を見分けることだけ。
私も、多分ニルヴァレンも、クラウドヴォーテックスと戦えば何もできずに負ける。
未だトートファイントを始末できていないうちからの追撃であり、つまり二体の
クラウドヴォーテックスによる時空間への影響は、究竟即による未来視を狂わせる。
一秒先の未来ですら信じるに価しない。刹那の未来に応じて瞬発的に回避するしかない。
空白を押し倒し、引き摺り、振り回し、そうすることで辛うじて空白の命を守り通す。
ニルヴァレンは見捨てた。無差別攻撃を防がないと共倒れだから利害が一致しただけで、別に味方ではないし。
「『スコール』」
私の回答は
後に残ったのは、周囲数キロメートルの廃墟。
無傷だが消耗の激しい私と、無傷にしてほぼ無消耗の
空白は血塗れになったり骨が折れたり関節が外れたりしているものの、意識はある。観戦を続行できる状態なので一応問題無い。
ニルヴァレンは斃れた。どうでもいい。
「
ですが
『ルーオオシ
蛾が出現する。
戦闘に割いていた意識に、ノイズが混じる。
なんだっけ?なんか聞き覚えあるけどなんか違うような、と。
あ、多分ルーオオシ
名前までは知らなかったが、この蛾には見覚えがある。
動物の傷口に卵を植え付ける寄生虫だ。泥鰌のような姿をした幼虫は肉食性で、即座に孵化して数分の内に宿主を喰い殺す。
先程の攻防で空白は出血してる。血の匂いに惹かれたのか、蛾は空白へと飛ぶ。
両手を広げた程の大きさを持つ巨大な蛾だ。寄生以前に空白を即死させかねない。
時空間の歪みは治まりきっていない。見通せる未来はせいぜい数秒。
空白が死ぬ可能性は否定できない。蛾を始末する必要がある。
爪撃を飛ばす余力は無い。近づいて直接爪を打ち込む必要がある。だが──
──だが、その動作は
私は罠に飛び込み、空白を守り──片足と尾を斬り落とされた。
追撃に放たれた魔弾を辛うじて避け、しかし体勢を崩して私は倒れる。
これ以上戦ったところで、勝ち目は無い。
だから、もう、戦いは終わりだ。
勝敗は決した。
究竟即を発現した時点で、既に結末は判っていた。
その過程に揺らぎはあれど、この結果に至ることは確信していた。
此方は前世の記憶を持ち特殊な血壊を使える
彼方は
その優劣、勝敗など、最初から判りきっていた。
覆すことなど不可能なのだ。
だから──次の一手で、終わる。
「死ぬが良いよ!ぶっ死に晒すが良いの!
高く煙と並び立つ者に死を!!邪悪な蛮族共に災い在れ!!」
倒れたまま見上げれば、私を見下ろす
もう戦う力は残っていない。その無力感を噛み締めて。しかし戦意を胸に、呪い叫ぶ。
片足だけでは歩くことさえ難しい。
今の私にできることは、口を動かすことぐらいか。
それでも、私が負けるとは信じない。信じたくないし、信じられない。
殺意を失った戦士に価値など無い。私は殺意を持ち続ける。目の前の敵を、必ず殺すのだと。
「全く捻りの無い台詞でございますが──それが辞世の句ということでよろしいので?」
「……お前に、もう一つだけ、言っておくの。」
「どうぞお好きなように。」
全ての殺意をその指先に込めて。
全ての憎悪をその一声に乗せて。
私は
この羽虫(蛾じゃない方)、失礼極まるよね!ぶっ消し殺すしか無いよね!
私が勝つなんて自明!
総員対ショック対閃光防御!嘘!防御なんて意味無いの!
みんな蒸発するけど、お前の方が先にぶっ死ねば全部解決だよ!
「『
「――っ!」
イメージしろ、と自分に言い聞かせる。いや別にカードファイトはしないけど。
回答内容を具象化する際、その詳細事項は基本的にイメージ通りになる。
明示されたルールではないが、究竟即による知覚力はそれすらも明らかにした。
だから私はイメージする。
それは私を内包する位置に恒星の存在を仮定するイメージ。
それは恒星の遙か後方からブラックホールを衝突させるイメージ。
それは超重力による物質崩壊のイメージ。
それは指先の位置から放射される膨大な密度の放射線束のイメージ。
それは星さえも蒸発させる超熱量のイメージ。
そう、星だよ星。
全力全開なんていうリリカルな気分じゃないけど、これは
この
特定の生命を滅ぼすための最も確実な方法は、全生命を滅ぼす大破壊を躊躇無くぶっ放す自爆攻撃なんだから。
一瞬だよ。一瞬で全部終わるの。
零光年の至近で発生する天体災害。星震程度では済まない、世界の終焉。
観測も命名も無意味!至上の破壊は誰も認識できない!
認識する暇もなく全て死に絶える確殺威力!
世界終焉の直前に見た羽虫の表情は驚愕。
発生前の段階で危険度を認識できたみたい。これは
やっぱり精霊を封じてなかったら確実に回避されてた。
直撃を避けても最終的に死ぬのは避けられないけど、私より後に死なれたら困る。
というか発生前に危険性を察知するなんて、やっぱり
でも、それはちょっと無理がある。だって
直撃しようがしまいが、
だから、残念だけど。私が認識できたのはここまで。
ただ、五感も命も消し飛ばされるとしても、それでも結末だけは明らかなの。
直撃した羽虫は直撃してない私よりも、ほんのほんのちょびっとだけ早く死ぬ。
これで詰み、チェックメイトだよ。
「……ふへへ……はっははは!ひゃー!ぅひぁー!
これか!これがちょっとでも制御可能な範疇の最強威力か!
何も感じなかった!何も感じない内に全部終わったの!
これが!これの
涅槃の境地!苦しみも悲しみも全部確実に消し去る絶対幸福威力!
やっぱり
何も……本当に何も感じなかった。
ガンマレイバーストが今発現すると、そうイメージした次の瞬間には、気付いたらゲーム内の仮想世界から現実世界へと帰還してた。
さっきまで機能してた究竟即によれば、確実にガンマレイバーストは発動して、私は死んで、その後に仮想空間から帰還したはず。
つまりそれは、苦しむ暇も無く即死したということ!
素晴らしいよ!とてもとても素晴らしいの!
「……に、にぃ……っ!」
「あ、ああ。大丈夫だ白、落ち着け。
しかしこれを、救済だとか幸福だとか呼ぶのか?正気じゃねーな……。」
「んーむぅー。
弱者を強制的に救済するのは強者の義務なんだよ!
全てを救える者は、究極の力を全方位に撒き散らす者だけ!
阿弥陀仏は失敗したよ!救済を拒むことを許したから!」
泣いて空に抱きつく白。
半泣きで白を抱きしめながら失礼極まりないことを言う空。
空白に世界の真理を説いていたら、
「――こんなモノが。
こんな威力が実在すると知っていたのですか!?
こんな威力が実在すると信じていたのですかっ!?
こんな威力でさえ、貴方様の信じる何かにはまだ及ばないと、そう仰るのですか……っ!?」
「んふーふふはははっ!そう!そうなの!そうなんだよ!
クエイサー、ガンマレイバースター、ブラックホール、ビッグバン!どれもこれも生温い!
半径一三八億光年を一プランク時間で滅し払う極殺威力、それでも足りない!
三千世界の完全消滅!六道輪廻の完全崩壊!新たな誕生すら許されない系統樹の枯死!
どんな観測者も全て消し飛ばす、実在証明不可能現象!つまり非実在現象!
実在が証明されてるどんな
それはきっとどんな闇よりも暗くてどんな夜よりも深いもの!
全ての物質は崩壊して、全ての波動は停滞して、全ての意味は消失するの!
無限
無限
へへ、そんなのどれも間違い!観測はもとより想像ですら生温いの!
きっともっと凄い何かに違いないよ!
全ての世界、全ての生命を救い尽くすのは、想像を絶する未踏の終末!」
「すげぇ……ここまで極まった狂信者とかリアルじゃ初めて見た……。
いや、異世界をリアルと呼んで良いのかは知らんが。
どう考えてもラスボスの思想じゃねーか……。」
「……にぃ、これ、駄目なやつ!早く、なんとかしないと……!
これ、早く病院に連れて……ひっ!びょ、病院逃げてぇ……っ!」
なんかこいつら、私が喋る度にSAN値削れてない?なんで?失礼極まってない?
あ、
猿は放っとこう。
「なぁなぁなぁ
正直お前達のことクソ傍迷惑な害鳥だとしか思ってなかったけど見直したの!
仮想世界でとはいえ、究極の力の末端を具現できる
最高オブ最高な種族なの!具体的には獣人種の次ぐらいに偉い種族!
んむ、近くで見たらその
ひゃははー、
会ってみたい!アルトシュ今何処に居るの!?
まだアヴァント・ヘイムに居る!?アヴァント・ヘイム何処!?」
「……いえ、それは不可能でございます。
……?
「はぇ?……えー、あー……死んだの?
……はーぇ?いや、ちょっと意味が……えー……?あの……マジで?」
「マジでございます。」
……そうかー、マジでございますのかー。
「んぬぅー。まぁ最強は相対的最強であって、絶対的無敵とか不死とかではないものな。
うん、死ぬときは死ぬの。」
はー、
ショギョームジョーでシキソクゼクーなー。
ステフさん、クラミーさん、フィーさんの存在感の薄さ。
この三人は下手したらこのままフェードアウトしそうな勢いですね。
もうちょいどうにかしたかったけど、そしたら文字数が増えすぎる。
文才が足りてないのかなぁ……。
次はエルキア王国を陥としに行くので、そこでこの三人をしっかり描写していく所存。
書きたかった話が書けてスッキリしました。
ちなみに
実在する偉人という感じなので、尊敬はしてるけど信仰はしてない。
あと