やはり俺の青春ラブコメはまちがって。前   作:恋と花火とテニスコート

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第0.1話 雨の日の教室は

「八幡、MAXコーヒー党の集会を始めます」

「……単に昼休みMAXコーヒー飲んでだべるだけですよね……」

「何か不満でもあるのかしら」

「いいえ。滅相もございません」

 

 俺の隣に座る美人の先輩は、総武高校でもかなり有名な変人だ。名前は藤村ヤスミさんという。中学の先輩でもあるのだが、在学中には面識なかったな。俺は影の薄いボッチだし、この人は中学時代は今以上 に有名人だった。

 

 いろんな男と付き合ってはすぐ別れるとか、中学陸上の市の記録を持っているとか、あと、サッカー部でレギュラー。男子のいるサッカー部な。中学までは女子も参加できるんだよ公式戦まで。高校は所属はできるが出場できないので、普通は女子サッカーで別になるんだ。でも、この人は試合に出ないけど、普通に練習とか練習試合に出たりして いた。今年の4月に引退させられて、いまは……俺と同じ奉仕部の部員なんだよ。なので、1年の時より絡まれる時間が増えた気がする。

 

「天気いいわね。今日もこの場所はいい風が吹いてさわやかね」

「はあ、俺のベストプレイスだから当然ですね」

「そう、私たちの……に訂正しないさい」

「……承知しました」

「素直で非常によろしい」

 

 何でもないことなのだがボッチの俺にとっては、こうしたささやかな共有だってすごく久しぶりで、小町以外とはほとんどないことだから、こう、勘違いしてしまいそうになる。

 

 

 

 

 奉仕部に入れられた経緯はそのうち話すことがあるかもしれない。俺が奉仕部に入った途端、藤村さんはその噂を聞きつけ俺に接触してきたんだよ。

 

 1年の最初、ケガをして一人1ヵ月遅れの新入生生活を始めた俺はすでに出来上がっている人間関係に割り込めるはずもなく、中学時代と同じくボッチな生活を繰り返すことになったんだよ。まあ、高校になって新しい学校生活で友達ができたり、部活に入ったりなんて希望に胸を膨らませ、早起きしてしまって登校した挙句、犬をかばって大怪我した俺は、やっぱ大バカ者なのかもしれない。

 

 そんな俺にうっかり興味を持ってしまったこの美人さんは、それから何度も昼休みに俺のところに来るようになり、周囲の視線に耐えられなくなった俺は、テニスコートが見えるとある校舎の一角で昼を食べることになったわけだ。でも、昼休み校内徘徊を趣味とするこの変人にはすぐに見つけられ、たまにコーヒーを飲む仲になっていたんだよ。

 

 教室でクラスメイトと必要最低限の業務的会話しかしない俺にとって、この人が唯一の学校内での話し相手でもあるんだ。だから、部活で一緒になるのは少々うれしくもある。ちなみに、春休みうちにいきなり訪れたこの変人は、小町と初対面にもかかわらず意気投合し、最近は週末家に遊びに来ることもあるので、なんか友達になったのかと勘違いしそうになるのだが、あくまでも俺は観察対象に過ぎない。

 

 この人は、1年の時から俺と、雪ノ下雪乃、葉山隼人を観察対象としてるからな。葉山は部活の後輩としてかなり仲よくしていたようで、一時期は付き合っているのではと噂になったくらいだ。本人は否定しているけどね。

 

 俺が奉仕部に「強制入部」させられたのをこれ幸いと、4月でサッカー部を引退させられた足で、奉仕部に入部しなおしたのだ。変だろこの人。

 

「だって、あんたと雪乃をまぢかでみられるのよ。それに、部活も変だもの。面白そうだわ」

 

――― 全然面白くありません。雪ノ下は怖いだけだよ八幡。

 

 

 

 

 藤村さんの入部した後、クラスメイトの由比ヶ浜が偶然相談に来たんだよ。葉山と知り合いのこの人は、由比ヶ浜も知り合いでさ、なんだかんだで、由比ヶ浜も奉仕部に加わることになるようなんだ。でも、葉山のグループってわりと放課後も一緒だろ。部活入って大丈夫なのかって思っていたんだ。

 

 

 

 

 雨の日の昼休みは教室でじっと息を殺している俺、まじアッサーシン。というわけでもなく、非常に居心地が悪い。朝コンビニで購入しておいたパンを食べつつ、マッカンでもこの後、買いに行こうかどうか考えていたりする。

 とは言うものの、藤村さんが雨の日は教室探索をいつも以上に熱心にするため、この場にいなければならないということもある。あの人は、昼休み面白い奴がいないかとか、面白いことがないか校舎内を巡回することを趣味としており、雨の場合昼休み教室内の密度が高まるため、いつもに増して熱心に観察しているのである。

 

 そのため、自分の席から離れていたりすると、あとからやってきた藤村さんがクラスの奴等に「八幡知らない?」と聞きただしたりするケースが発生する。まず……俺の名前を知っている奴がいない。教室で俺は「ヒキタニ君」と呼ばれており「比企谷」でも「八幡」でもないのだ。

 

 さらに、由比ヶ浜は独自認定の「ヒッキー」なる呼び名を勝手につけており、どこかの国のシマの名前のように勝手に名付けて領有権を主張するつもりのようである。だが、その名前は歴史的に別の人の名前である……宇多田ヒカルさんとかではないでしょうか。あと、全国数十万の引きこもりの皆様のための呼称であると思います。

 

 なので、あの人が「八幡」といっても、鶴岡でも岩清水でも太郎義家でもない俺のことだとクラスの人間はわからず、「あんた八幡知らないなんて死刑よ死刑‼」などと物騒なことを言い始めるので、大変困っている。

 

 さらに、うちのクラスを仕切っているだけではなく、学校全体でも最上位カーストに所属する葉山隼人なるイケメンが2Fには存在するのだが、そいつは藤村ヤスミさんの舎弟なので、立場的に、そいつと俺は舎弟仲間と彼女の中では認識されている。

 

――― 大変困ります。アウトカーストと同列にリア充の王様を認定しないでくだしあ。

 

 葉山は俺のことを「比企谷八幡」と認識している数少ないクラスの人間だが、やはり上位カーストの人間が底辺の俺を友達みたいに呼ぶのはクラス内の秩序のかく乱要因となるので、接触をすることをお互い避けている関係だ。葉山は、藤村さんとは何かあるのかもな。彼女に絡まれている時、時折冷たい視線を感じることがある。俺じゃなくて、相手にその視線を送れよ。

 

 

 

 

 ちなみに、ボッチの俺は「オタク」の方たちとも交流することができない。例えば、クラス前方に存在する小田とか田原とかがモンハンあたりを楽しくプレイしているのに……参加したいのだが、……あいつら俺が学校一の有名な美人さんに絡まれているのを観察しているので、たまに話しかけようとすると、凄い警戒心を発されてしまうのだ。

 

 中学時代もそうだが、自分で言うのもなんではあるが悲しいことに中途半端にイケメン風な俺は……イヤイヤこ、小町と藤村さんはそこそこ良いって言ってくれるし、自称じゃねえし‼ とにかく、いかにもオタの奴等からは相手にされないんだ。

 

 それに、オタ=コミュ障ではないからな。ボッチはかなりの確率でコミュ障なのだ。だから、思考していることを相手に伝えることが大変苦手ゆえ、リア充にもオタにも接することができない、正に、出家したかのごとき尊い存在なんだよ。嘘です、ごめんなさい。

 

 つまりだ、雨の日の昼休み、暮らしの自分の席で一人じっとしているボッチがいたとすると、そいつは心の中で千日回峰行 を行う阿闍梨の如き存在なんだよ。だから、立ち上がる時も独鈷所と声をかけたりするんだ。

 

 

 

 

 そんな、外は篠突く雨の降る中、葉山率いるリア充軍団はテンション高く、教室後方窓際の席辺りにたむろし、楽しげにお話をしているのだよ。そこには、由比ヶ浜も女王様の侍女よろしく侍っているわけだ。

 

「あーし、帰りにアイス食べたい」

 

 みたいなことを金髪美人の女王様がおっしゃっております。こいつは葉山グループ(以下HGと略)の葉山隼人の相方で三浦優美子しゃん、王様と女王様 なんだよ。確かに顔立ちは整っているし、はっきり、いや、かなりきつい言い方をするギャルメイクばっちりの女だ。雨の日は大変だろ。

 

 制服はかなり着崩していて、うっかり見てしまうと、「何見てんだよ」くらいの勢いで睨まれるので要注意だよ。

 

――― 見られるために着崩してんじゃねーのかよ、おい。

 

「今日は部活あるから、無理だよ」

 

 Hahahaって感じで、爽やかに誘いを断る葉山。確かに、こいつは文武両道で性格も……いい性格をしている。悪い奴ではないが、そりゃ、どうかなと俺は考えている。なにやら31でアイスが安い日らしく、チョコとショコラのダブルが食べたいそうです。

 

 「ショコラ」とは、フランス語で “chocolat” と書き、英語の “chocolate” とほぼ同義語なのだが、板チョコやチョコチップなどの加工する前の工業品を「チョコレート」、パティシエにより加工されたトリュフなどの菓子やデザートを指して「ショコラ」と呼び分けることもあるので、加工度の差異なのであろうか。

 とは言うものの、ゆで卵とスクランブルエッグの違いみたいなもんでチョコには違いなんだろ。どうでもいいけどさ。

 

「あんまり食べると後悔するぞ優美子」

 

 女子を名前呼びするなんて、妹以外不可だ。ちなみに、藤村さんは「親父と彼氏以外の男には名前を呼ばせない」という公式見解があり、葉山の相棒の Б・戸部は「ヤスミ先輩」呼びして怒鳴られることがよくある。うん、うるさいから黙らせてやってください。

 

「あーし、いくら食べても太んないし」

 

 なんてあと2年くらいだよ‼ と内心思いながらも、由比ヶ浜の「だよねー」みたいなお追従を聴きながら、「リア充の相手するキョロ充って大変だな」と思うのだ。え、オリヒロ上げの原作ヒロ下げじゃねえよ。1巻にちゃんと「きょろきょろしている」って書いてあるだろ。そのままだよ。

 

 リア充の会話は、何処かTVのバラエティー番組のような構成で、メインのキャストが話題をふって、ひな壇がなんか面白いことを言ってスタジオ大爆笑みたいな淡々とした作業を繰り返しているだけな気がするのだが……それって楽しいのかと思う。楽しいんだよな。TV離れと言われて久しいが、リア充は未だにテレビっ子なのだろうか。スマホ片手にTV見てんだろうな。

 

「あーあるある、優美子スタイルいいし~ でもあたし今日用事あるから~」

 

 由比ヶ浜結衣さん。話合わせてさり気に自己主張するの良くないですよ。

 

「今日も喰いまくるっきゃないでしょ」

 

 男漁るんですかそうですか。てか、やっぱ由比ヶ浜の話なんて聞いてねえな。リア充って、自分より下の人間の話聞かねえよな。俺の唯一の校内の知り合いであるあの人は「ファッション・ボッチ」なので、俺の話をちゃんと聞いて、「馬鹿じゃないの」とか「あんた、何考えてんの」とか指摘して……して……まあ、ほら、意見してくれんだよ。小町と同じ感じだしな。

 

 藤村さんはカースト最上位の上のボッチなので、「ボッチの女王」と俺は心の中で呼んでいる。

 

 

「やー 優美子マジ神スタイルだよね~脚とか超きれー でもあたしきょうは~」

 

 由比ヶ浜結衣さん、あなた、自分から奉仕部に参加するって言いだしたのに、グループの皆さんへの告知をしていないのではないのかしら。だよね。さっきから「きょうはきょうは」ってるけどさ、奉仕部は学校ある日はあそこで待機がデフォだから、放課後別行動しないとだろ。いつ話すんだお前。

 

「えーでも雪ノ下さんとか言う娘のほうがヤバくない」

「あーたしかにゆきのんは……」

「……」

 

 由比ヶ浜、お前が今一番ヤバい。三浦は眉の付け根をひくつかせ、由比ヶ浜はしまったとばかりにフォローをするのだが……こうかありません。見かねた葉山が「部活の後つき合うよ」と助けてくれなければ、多分大変なことになっただろう。

 

 そして、由比ヶ浜は深呼吸をして何かを話し始める。どうやら、雪ノ下と昼めし食う約束しているので、今日は昼休み出かけるって言いたかったみたいで……もういい加減時間たってるだろ。あーまずいわ。これは。

 

「八幡、面白いこと始まってるわね。もしかして、雪乃も来るのではないのかしら」

 

 はい、ご明察です。雪ノ下は放課後もすごい速さで部室に移動しています。恐らく、朝鍵を受け取り、昼休みは自習室代わりに部室を使い、放課後も直行しているんだろうね。ところが、昼休みに一緒にご飯を食べる約束をした由比ヶ浜がうだうだやっているので、しびれを切らして突撃してくるでしょう。

 

「俺は逃げ……『あんたも見届けるのよ』……かしこまりました……」

 

 由比ヶ浜はハッキリと昼休み抜ける理由を言わないので、話が全然進まず、三浦がイラつき始める。小学校で習うだろ、理由をきちんと説明して断れってさ。約束があるからってハッキリ言えばいいし、雪ノ下にも三浦にも迷惑かけてんじゃんお前。空気読まず、いや流されずに気を使えよなと俺は思う。

 

「それじゃわかんないから、言いたいことあんならハッキリ言いなよ。あーしら友達ジャン。そういうさーかくしごと? よくなくない?」

 

 三浦の話し方はきついし、自分が上の立場っていう目線で言うのは確かに感じが悪いかもしれない。だけど、こいつの言っていることはすべて正しい。由比ヶ浜は、奉仕部に入ったことも、雪ノ下と昼めしを食べる約束をしていることも、怒られたくないから黙って誤魔化そうとしている。そのことについて、三浦は友達甲斐がないと言っているわけだ。それも、かなり抑えたトーンでだ。仲良いと思っている友達に、内緒で色々されて誤魔化されるのは、彼女にとって心外だろう。

 

 そりゃ、俺みたいな赤の他人のモブ以下の存在には三浦は怖いだけだが、グループの人間を大事にするところは伊達にトップカーストを張るだけのことはあると俺は観察している。

 

――― グループの秩序を乱す由比ヶ浜を見逃すのはリーダーではない。

 

 そういうことなんだろ。横にいる変人ならそう答えるはずだ。

 

「ごめん」

 

 理由も説明せず、ただ謝罪の言葉を述べる由比ヶ浜。あーまずいぞ、三浦は謝ってほしいんじゃない、説明してほしいんだ。さっきから何度も繰り返し三浦は言っているだろ。何聞いてんだお前。

 

「だーかーら、ゴメンじゃなくて、いいたいことあるんでしょ」

 

 俺は三浦に感心する。由比ヶ浜のとこ本当に友達だと思っていなければここまでしつこく聞けない。由比ヶ浜は余計なことはペラペラしゃべるが、肝心なことはきちんと言えない。藤村さんが口にする『正しい資質』が決定的に欠けているんだと。

 

 ちなみに俺はあるんだってさ。犬助けた話聞かれたときに言われた。

 

『為すべきことを成すべき時に迷わず実行する判断力と実行力』

 

 そんなカッコいいもんないと思うけどな。でも、もし、この人がそう認めてくれるのなら、そうありたいと思う。小町も喜ぶしな。

 

「あんさー ユイのために言うんだけど、そういうはっきりしない態度、結構イラっと来るんだよね」

 

 そう、人は誤魔化そうとしてるなと感じるとさ、親しい人間なら悲しい気持ちになるだろ。話すより話さない方が相手を傷つけるんだよ。由比ヶ浜の優柔不断さは人を傷つける。

 

「……ごめん」

「またそれ?」

 

 三浦が怒りと呆れを交えて高圧的に笑う。ああ、これだけ同じことを繰り返すのであれば、怒鳴り散らされておおかしくない。でも、友達だからこんなもんで済んでるんだよな。

 

 正解は、約束があることを説明し、席を離れる……だよな。由比ヶ浜は追い詰められて一層キョロキョロしている。そして……

 

「謝る相手が違うわよ由比ヶ浜さん」

 

 やはり現れたか雪ノ下雪乃。そして、我が主がすごい笑顔でそれを見ている。はあ、もうMAXタイム自分行っていいでしょうか。

 

 

 

 

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