やはり俺の青春ラブコメはまちがって。前   作:恋と花火とテニスコート

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第0.2話 昼休みの約束

 J組以外で見かけることのない雪ノ下雪乃が教室に現れた時点でかなりの事件なのだが、さらに、由比ヶ浜に話しかけている時点でもかなーりの事件なのだ。

 

 入口に立つ雪ノ下雪乃の姿に、視線が集中する。三浦の威圧的な声とは異なる……冷酷な響きを持つ声音。物音ひとつ立てる者はいない。正に、静寂。あの騒がしい喧噪に満ちた教室がだ。

 

「由比ヶ浜さん。あなた、自分から誘っておきながら待ち合わせ場所に来ないのは人としてどうかと思うのだけれど。遅れるなら電話の一本くらい入れるのが筋ではないかしら。」

 

 うん、頭回らなかったんだよ。由比ヶ浜は雪ノ下の電話番号を知らないらいしい。俺も知らんけど。一概には責められないわねってことだと。

 

「あーしたちまだ話が終わってないんだけど」

 

 そう、大事な話なんだよ。由比ヶ浜は二重契約をしているわけだ。今まで昼休みは一緒にお昼を食べるグループであったわけだろ。それが、自分の約束を反故にして、知らぬ間に雪ノ下と昼飯を食べる約束をしている由比ヶ浜がいる。

 

 この中で、最も不誠実なのは由比ヶ浜であり、雪ノ下は善意の第三者で責任はなく、なんの予告もなしに約束を反故にされた三浦には由比ヶ浜に対して損害賠償を請求できる立場だろ。

 

――― どう考えても全面的に由比ヶ浜結衣が悪い。

 

 三浦も雪ノ下も筋を通している。そして、その場の思い付きで約束を二重にして平然と誤魔化そうとして失敗した不誠実な人間がいる。

 

「八幡。面白いことになったでしょ」

「まあ、攪乱要因ですね。部活動、気を引き締めないと、あいつに足ひっぱられかねませんね」

「正解。でも、そういうことも含めて対応するから面白いのよ」

 

 そんなの嫌だ。

 

 雪ノ下はピシャリと三浦に言い返す。「なにかしら、まだ昼食をとっていないんだけど」だと。そりゃ三浦も一緒だ。由比ヶ浜がはっきり言わないからな。

 

「はあ、何言ってるの? あーしがユイと話してんだけど」

 

 雪ノ下は、三浦を揶揄するような挑発的な言い方をする。ああ、三浦は可哀想だ。由比ヶ浜の不誠実さに何度も理由を問い質していただけなのに、雪ノ下に猿山の大将呼ばわりされてだな。まあ、こいつから見れば、自分以外とるに足らない人間だから、頭の中で思っていることがそのまま口をついてでてくるってこった。めんどくせえ女だ。

 

 これで奉仕部の部長様とは、鼻で笑わせるぜ。

 

「お山の大将気取りで虚勢をはるのは結構だけど、自分の縄張りだけにしなさい。あなたの今のメイク同様、すぐにはがれるわよ」

 

 雪ノ下はこんなこと言ってるけどな。お前も大して変わんねえよ。ああ、なんでこんな女どもと関わらなきゃなんねえんだよ。

 

 教室の空気はいたたまれなさMAXだ。俺の大好きなMAXとえらい違い。苦みとえぐみの集合体だ、甘さが足らねえ。

 

 葉山は空気作れなくなってるし、三浦はあまりの物言いに茫然としている。そして、言いたい放題言った雪ノ下は教室を出ていく。由比ヶ浜はスカートをつかんで、何かを話そうともがいているようだ。

 

「優美子ちゃん可愛いそうね。あの子、持ってる子なの、あんたと同じでね。だから、結衣ちゃんみたいな子でも友達だと思ったらどんな形でも守ろうとしてしまうのよ。だから、こんな日もあるの」

 

 三浦の『正しい資質』は……

 

『自分の仲間を大切にし、守ろうとする強さと優しさ』

 

 だから、理由の如何を問わず、仲間のためには周りを敵に回すことも厭わないのだそうだ。ただし、守る能力に限界があるので、こういうこともよくあるらしい。

 

「隼人辺りがしっかりしていれば、こんなことにならずに済むのだけど、あいつは相変わらずこういう時に逃げるのよ。持ってないからね」

 

 はあ、俺もあの二人の間に入る勇気はありません。無理です、怖いもん。

 

 教室にはすでに、三浦と由比ヶ浜と俺と藤村さんしかいない。俺はいたくているわけじゃねえんだよ。

 

 由比ヶ浜がぽつぽつと話を始める。

 

「人に合わせないと不安で……空気読んで……イライラさせちゃう……あったかも」

 

 カモじゃねえよ。めいっぱいだろ今日も。で、一番大事なことは読めねえ。

 

「むかしからそなんだよね……団地育ちだから……人が周りにいるのが当たり前で……」

 

 いやいや、団地関係ないだろ。ちゃんと自己主張する人の方が多いわ。団地の住民の皆さんに謝れ。てか、環境のせいにすんな。三浦が「何言いたいのか全然わかんないんだけど」という。ごもっともです。

 

 由比ヶ浜は言葉を続ける、俺や雪ノ下が言いたいこと言っているのが楽しそうで、合わせてないのにあっていて……って合ってませんから何一つ。あいつがいちゃもんつけてくるのに、俺がウイットに富んだユーモアで小気味よく言い返しているだけだろ……すんません、嘘つきました。

 

 というか、三浦は相当我慢して頑張ってたぞこの話。約束があるって、優美子とお昼食べなくしちゃってごめんねって謝るべきだろ。

 

「それ見てたら、いままで必死にあわせようとしてきたことがまちがってたみたいで……」

 

 じぇんじぇんまちがっている。確かに雪ノ下はこう言った。

 

『その周囲に合わせようとやめてくれるしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?』

 

 そう、由比ヶ浜は何も考えていない。ただ相手の顔色を窺って反応しているだけで、雪ノ下の気持ちも、三浦の気持ちも考えていない。そして、雪ノ下のこの言葉の意味も理解していない。形だけ合わせるのでなく、心から合わせるべきなんだよ。だから、不快なんだ。人間の形をした別の何かなんだよ。

 

 三浦は、由比ヶ浜とお昼を食べるの楽しみにしていたはずなんだよ。みんなで今日もワイワイご飯を食べて、放課後の予定の話をして、なんなら週末の計画まで立てちゃおうかとか考えてたかもしれねえだろ。

 

 ところが、由比ヶ浜は雪ノ下と勝手に約束して、そのことも黙って誤魔化そうとして。普通はだ、先に約束した三浦に断りをいててから雪ノ下と約束しねえか。どう 考えても、由比ヶ浜が三浦を一方的に斬り捨ててるよなこの話。

 

 そりゃ、言い出せないよな。失礼極まりないもんな。でもさ、こいつがおどおどキョロキョロしているせいで、まるで三浦が悪いかのような印象を与えてるんだよ。

 

 どうおもう?

 

「八幡、あんたの言う通りヨ。だから、あとはあたしに任せなさい」

 

 由比ヶ浜は、「だから、無理しないであたしもてきとーに生きようかなって……」ふざけんな! 雪ノ下の考えも三浦の思いも何一つ理解できてないだろ。

 

「別に優美子のこと嫌いなわけじゃないから、これからも仲よくできるかな」

 

 俺は絶対無理。こんな、人の気持ちの分からない自分勝手なことをする女は無理です。ついでに、馬鹿は大嫌いです。

 

「まあ、いいんじゃない」

 

 三浦滅茶優しい。馬鹿な子ほどかわいいのか。由比ヶ浜は何か達成したくらいの勢いで教室を出ていった。二度と帰ってこないで欲しいくらいだ。

 

 藤村さんが三浦に歩み寄る。

 

「優美子ちゃん、偉かったわ。あなたは何も悪くないのに、結衣ちゃんが足らないことを責めず、何度も理由を聞いていたわね」

 

 そう、友達が約束をたがえる理由をただ聞いただけなんだよ。なんで、悪者扱いされなきゃなんねーんだよ。あと、張りぼてリア王はどうなんだよ。

 

「結衣ちゃんはあんな子だから、仕方がないわ。話して理解できる子ではないのよ。だから、優美子ちゃんが引いてあげて頂戴」

「は、はいぃ……ぅぅぅ……」

 

 三浦は藤村さんの胸に頭を預けて泣き始めてしまった。そりゃそうだ。よく泣かずに頑張ったと思う。

 

 藤村さんは言葉を重ねる。あんたが結衣ちゃんを見捨てなければ、あの子はきっとあんたの気持ちが理解できる日が来ると思う。でも、今は自分の中で何かが変わり始めたばっかりだからわからないだけだって。だから、あんたは自分と仲間を信じて待ってあげなさいって言葉をつづけた。

 

 この学校で三浦にきちんと話をして支えられるのは、この人くらいだろうな。

 

 

 

 

 三浦はひとしきり泣くと「トイレに行ってきます。ヤスミ先輩ありがとうございました‼」と頭を下げると去っていった。メイクも崩れたしな。

 

「で、隼人。あんた相変わらずね」

「……すみません」

「どう考えても結衣ちゃんが約束勝手にたがえたのが悪いし、理由も雪乃が出てきた時点で分かったんじゃないの」

「はい……」

「優美子ちゃん悪者にして、雪乃に言いたい放題言わせて、結衣ちゃんは相変わらずバカのまんまだし、あんたのグループどうなってるのかしら」

 

 はい、その通りです。もっと叱ってやってください。でも、観察優先したあなたも同罪ですよ。

 

 

 

 

「八幡、MAX飲みに行くわよ」

「……時間ないですよね」

「5時間目遅刻していきなさい。おなかが痛くてトイレに行ってたとか言えば大丈夫ヨ」

 

 まあ、そうだな。心に甘さが必要な気なするしな。俺たちはベストプレイスが無理なので、屋上の出る手前の踊り場でブレイクすることにした。由比ヶ浜と雪ノ下の話だよなどうせ。

 

 俺と藤村さんは並んでMAXタイムをしている。

 

「あんた今日のあれ見てどう思った」

「雪ノ下はあの性格だから仕方がないですよね。切り取って見たのだから三浦が一方的に由比ヶ浜を攻めているように見えたでしょう」

「そうね。その前から見ているあたしたちからすれば、責められて当然。結衣ちゃんはね、ああいう子なの」

 

 どうやら、1年の時は2Fの相模南のグループにいたらしい。ギャル化したのも相模のコーチの成果なんだと。でも2年になって三浦にスカウトされたら、あっという間にグループ脱退してHGに加入。こんどは、奉仕部で雪ノ下ともつるみ始めたんだ。

 

「まあ、自分の足らなさを武器にするっていう感じなのよね」

 

 しっかりしたリーダー然としている上位カーストの女子からすると、由比ヶ浜の頼りなさげなところが、可愛らしい外見と伴って魅力的に見えるのだそうだ。

 

「性格的に自分と正反対に見えるのがポイントね。でも、実際は……」

 

 藤村さんいわく『寄生』に近い存在なんじゃないかっていう。宿主を変えて女子グループの中を行き来する存在。そして、単独では役立たず。クッキーづくりの時もひどかったもんな。卵一つまともに割れないしな。

 

「だから、あんたも注意しなさい。八幡の正しい資質をうまく利用されかねないのだから」

 

 はあ、そういうことか。俺なら頼まれたらいやと言えないって思われているってことですよね。確かに、クラスメートで部活仲間で可愛い女の子に頼まれ たら、断れる自信がないな。

 

 今日の三浦を見て思う、あいつは、その瞬間瞬間で自分の都合の良い環境を作ることがすごく上手だ。だから、何かあった時、俺を身代わりにして自分だけ助かろうとする可能性がある。そういう意味だよな。

 

 

 

 

 てな感じで、今日も藤村さんの人間観察に付き合わされたわけだが、リア充グループというものに対する認識を俺は少々改めなければならないと思っている。

 

 確かに、三浦優美子はその容姿、性格、行動、からして大変偉そうだし、その他大勢からすると、煙たい存在である。でも、ただ外見が優れていて押し出しの良い性格だからトップカーストになれるわけではないってことなんだ。雪ノ下や藤村さんのようなトップカースト級のボッチならともかく、葉山のように文武両道のアイドル的存在でなければ、人柄というか、面倒見の良さのようなものがなければ、人の上には立てないってことなんだな。

 

 それに、友達のためには自分が悪者になることや泥を被ることも厭わないってところもあるのだろう。正直俺は、三浦優美子を見直したし、誤解していたのだと思う。

 

 反面、由比ヶ浜結衣は曲者だ。最大の問題点は、自分の問題を認識できていないことだな。トラブルメーカーだろうあいつは。これからも奉仕部で余計なことをしてくれなければ良いのだが、それだけが心配 なんだな。

 

 ああ、こうして奉仕部は由比ヶ浜結衣が加わることで、俺と雪ノ下という藤村さんの観察対象がどう動くのか面白くなってきたと思われているんだろうな。うん、ふざけんなと言いたい。

 

 

 

 

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