やはり俺の青春ラブコメはまちがって。前 作:恋と花火とテニスコート
どんなに可愛らしく、どんなに美しくとも妹は妹。滑らかな白い肌に白いスポブラとその下……かわいく思えても『俺に似ているからかな』なんて思ってしまうのは、リアルな妹だからだろうか。
朝から頭の悪そうな「ヘボンティーン」なる偏差値U25クラスのファッション誌を 読みながら、顔にジャムをつけて読みふける妹。まあ、ここまではいつもの光景 だ。
「やっぱ今年はこれが来ちゃうのね小町ちゃん」
「小町も可愛いと思います。でも、ヤスミさん的にはお姉さんぽい感じの雰囲気の方が似合う気がします」
「ええ、そんなにあたし年取ったのかな」
「そう言う意味じゃなくて、JKとJCだと同じ感じにならないし、ならないのがむしろ普通じゃないですか」
「あーでも、JCとJKは近いけどさ、あたしの行きたい大学でこのカッコは 確実に浮くから。だからさ、今年が着収めって思ってティーンズファッションを堪能しようと思うのよ」
「そう言うことですか。なら、小町もお供させていただきます」
「そう‼ 今年は姉妹風にコーデしましょう。受験生同士だし、士気をあげる必要があるわよね」
何の話してんだ朝っぱらから。えーと、我が主であるところの藤村ヤスミさんです。この人はうちの前が通学経路なので、朝寄り道することがあります。小町とはLINEで連絡とって、受験の相談とかも乗るみたいだな。兄妹揃ってこの人の舎弟みたいなもんだ。
「八幡、あんたも食べるでしょ」
「あー コーヒーだけで。小町、もう時間ないぞ」
下着姿で家の中をさまよう姿は……いいのかこんなんでと思わないわけではない。残念な妹である。
「じゃあね、あんた小町ちゃん送っていくのよね、また昼休みに‼」
そう、しばらく前に小町が大寝坊してチャリで中学まで送って以来、朝、俺は小町を中学まで荷台に乗せて送り届ける業務が付加されているのだ。朝は妹、昼は藤村さん、夜は下手すると二人にわいわい言われる毎日で、俺の平穏な生活がむしばまれつつある。そして、奉仕部がその勢いを加速させているのである。
最近思うのだが、俺の周りの女性ってみんな個性強すぎないか。ほら、奉仕部の二人に、平塚先生、小町に藤村さん。まあ、6人で全力なんだけど。もう少しさ、普通がいいと思うんだよね。
小町は下の子特有の要領の良さもあって、俺の扱いが絶妙なんだよ。八幡マスターって感じだな。カプセルに入れられているまである。おかげで、俺の女性に対する警戒感は加速していてだな、女性を見ると男を利用する存在だと認定しているまである。
まあ、藤村さんは美人だが、利用する気がさらさらないので、そういう意味では小町との中和剤的存在なのかもしれない。だがしかし、俺の知らないところで俺は利用されているのかもしれない、あのボッチの女王様にだ。
「小町、お前があんまり俺を利用するとだな、女性不振になるだろ。結婚出来なかったらどうする気だ」
「……そんなの、ヤスミさんが回収してくれるに決まってるじゃん。わかってないのお兄ちゃんだけだよ」
え、そうなの。てっきり小町が養ってくれるとか、独居老人用の集合住宅みたいなところにぶち込んでくれるのかと思っていたんだが。いやいや、今の高校生活でもあの人との相手がしんどいのに、朝から晩まで家族みたいに一緒にいたらだ、俺の胃どころか、体中に穴が開くんじゃないかと思う。とくに、一部の熱心なファンどもの手によって。
藤村ヤスミは校内一の変人ではあるのだが、美人で性格も良くて後輩や 仲間の面倒見も良いので、熱心なファンも多いのだ。ちなみに、2Fのリア王葉山とその下僕の戸部もその一人だ。運動部系と一部の文科系の部活にはその手の人が多いと聞いている。
そんな人が俺に絡んでくるものだから、気配の薄い俺が目立ってしまうと……大変居心地が悪いんだよ最近。
「お兄ちゃん、そろそろレッツゴーだよ‼」
自転車の荷台にまたがり、明らかに兄に対する道交法違反を強要する妹。これ、やっぱ犯罪教唆になるのかね。平たいところ選んで走らないと、「傷ものにされた」とか大騒ぎする我が妹のせいで、俺は近所においても居心地が悪く、居場所がないまである。
――― 故に、週末は家から一歩も出ない俺まじ聖人。
「事故には注意してね。小町乗ってるんだから」
「……OK。受け身とれよしっかりな」
「この人倒す気満々だ」
お前だけを行かせるわけにはいかない、倒れる時はチャリンコも一緒だ‼ 俺は捨て逃げするがな。
確かに俺は入学初日に、自転車で交通事故にあったが、自転車に乗っていて不注意ではねられたわけじゃねえぞ。車道に飛び出した犬を助けて自分が轢かれたってだけでさ。まあ、命があってよかったって話だよ。
高校の近所でな、散歩させていた女の子の手からリードが外れてって話らしい。助けて轢かれて病院の3週間入院して、学校は1ヵ月休んでGW明けから登校したら、この前の話通りだったってこった。
「そいやさー」
「それそれ」
「そいやさー」
「それそれ」
「……話が進まないんだけど」
「前略道の上からじゃねえの?」
「お兄ちゃん何言ってんのかよくわからないことあるよね。事故の後遺症?」
え、一世風靡セピアじゃねえの。いま柳葉さんは秋田で子育てしながら地元中心に活動してんだよ。
「事故の時の、ワンちゃんの飼い主さん、うちにお礼に来たんだよ」
「……聞いてないけど」
「……い、いってないからね。その時のお菓子がおいしくてさ」
お菓子独り占めにしたので、その話を封印していたらしいが、その封印を忘れて話し始めたらしい。これで、総武高校に進学したいとか……ナメンナ‼
「その人名前なんて言うの」
「お菓子の人?」
「おかしな人はお前だ小町。兄貴のケガの見舞いは独り占めにするわ、お礼を言いに来た人の名前は覚えていないは、内緒にしてたの忘れて話始めるわ。何なんだよお前」
入院した時も、3日に1度家族でチラ見したあと、外食三昧だったらしい。仕事切りあげたりするいい口実だな、息子の入院。その外食代はどの財布から出たのかも大変疑問である。
「……あ、学校ついたね。ありがとうお兄ちゃん‼」
これ幸いと小町はすたこらさっさを決め込んだのだが、かごにカバンを忘れる誠に残念な妹である。
「なんて感じだったんです」
「そう、小町ちゃんらしいわね。ふふ、相変わらずあんた達仲良しね」
昼休みのベストプレイス。今日も我が主である藤村さんと時間を過ごしているわけだ。
「今月体育で選択テニスなんですけど、葉山たちと一緒なんです。あいつら、我が物顔でテニスコート使うんで、失敗しました」
「でも、サッカーは嫌なんでしょ。サッカーなら、あたしが鍛えてあげられたのに残念だわ」
――― 体育のサッカー如きで鍛えられてはたまりません。
「女子の場合、サッカーあるんですか?」
「バレボールとかバスケじゃなかったかな。あたしはテニス以外は得意だから気にしたことないわ」
「へえ、あなたにも苦手なものがあるんですね」
この、完璧美人の変人さんにも苦手があるのかとちょっと嬉しくなる。
「苦手ではないわね。要は、テニスにならなくなるわけ」
その昔、サーブ&ボレーというスタイルがはやったようだが、現代の主流は高速サーブに頼らず、あらゆるショットを駆使する形に変わっているそうだ。
テニスの技術はラケットの進化とともにある。ゴルフや卓球などと同様、道具も日進月歩の改良を遂げてきた。中でもラケットのフレームの技術革新は「面の安定性」を促した。200キロ超の高速サーブに対して、衝撃を吸収することで、狙った通りの正確なリターンが打てるようになった。
――― 盾と矛の盾が優位に立つ時代ということだろう。
車のタイヤの性能が改善されて、耐久性と粘りの両立が可能になったりするのと同じなのかもしれないな。
驚異的なスピードのサーブを売り物にする選手は次々と登場したが、「ビッグサーバー」の時代はラケットとリターン技術の向上によって、少しずつ陰りを迎えた。 流行は弱点のないオールラウンドプレーヤーである。ときにサーブアンドボレーを披露することはあっても、多彩な引き出しでポイントを重ねていく。「勝利の方程式」は決して一つではなく、相手のタイプやゲームの状況に応じてタクティクスを臨機応変に変えていく戦い方にシフトした。あくまで世界の頂点はだ。
「あたしの場合、サーブが男性並みなのね。だから、サーブだけで終わるの」
なんですと。プロの頂点に立つ女性であっても、男性の最低ランクのプロに勝てないレベルだそうなのです。明らかに体力差が反映される世界。この人は、サーブだけで女子なら勝ててしまうので……『テニスは得意でない』ということなのだそうだ。
「試合が長くて体に負担がかかるのもいやね。ストップ&ゴーと体をかなり捻らなきゃでしょ。そこまで体に負荷かけて楽しいスポーツではないのあたしにとってはね」
藤村さんのサーブは打点が高く体重の乗った重たいサーブなのだそうで、この高校の男子テニスも練習相手として依頼されるほどの威力なのだと。
「バレーボールのピンチサーバーみたいなもんね。サーブだけなの」
まあ、それで勝てるならそれに越したことはないな。
俺たちの目の前では、女テニの子がポンポンと一定のリズムで壁打ちをしている。昼休みも自主練とは恐れ入るな。
ほぼほぼ目の前が海の総武高校は、臨海部ゆえに海方向と陸方向で風向きがよく変化するのだ。常に風が流れる心地いい場所でもある。
「あれ、ヒッキー!……とヤスミ先輩こんにちは」
「よお」
「結衣ちゃんどうしたのこんなところに」
こんなところって、俺のベストプレイスなんですけど。
「なんで……二人はこんなところで……何してるの?」
この言い回しは同級生である俺に聞いてるんだよな。藤村さんが答えるととんでもないことに……
「今朝、八幡の家に朝寄ったときに、お昼に逢いましょうって約束していたし、天気のいい日はたいがいここに二人でいるのよ」
朝チュンで学校デートの約束したみたいに聞こえるだろ、由比ヶ浜はどうでもいい事はよう話すから、葉山たちとかに聞かれてもいいのかよ。
「へ、へえぇ、な、なんで一緒に朝からいるの?」
「妹とこの人が仲良しなんだよ。今日も朝から一緒に『ヘボンティーン』とかみて、今年の夏コーデの話してたしな」
「そうそう、JK最後の夏だからね。派手に行くわよ、あんたも楽しみにしていなさいね」
「はあ、できるだけお付き合いします。小町の件もよろしくお願いしますね」
「まかせておきなさい。既に種が芽吹き始めているわ」
そう、お馬鹿な妹の家庭教師をお願いすべく、接触頻度を上げてもらっているわけ。小町は基本要領のいいタイプだから、スイッチ入るの待ちなんだよ。由比ヶ浜は目を白黒まではいかないが、この美人と陰キャボッチの俺が仲よさげに会話しているのが珍しいのか、ここに居座る気らしい。
「てか、お前こそ何でここにいるんだよ」
「えーと、ジャン負けして罰ゲーム?」
「俺に……俺に話しかけるのがかよ」
「ち、違う……『なわけないでしょ、中学時代じゃあるまいし、あんた自意識過剰なんじゃないの』……ですよね」
「はあ、冗談のつもりなんですけど」
「笑えないわね。あんたの価値を認めている、あたしや小町ちゃんに失礼だからそういうつまらない冗談はやめなさい」
「は、すいません」
俺の脳内で再生される自虐的コメントを口にするとだ、この人は必ずたしなめる。そりゃ、うれしくないわけじゃないけど、それが俺だから仕方がないんだよ。どうやら部室で雪ノ下と弁当を食べていて飲み物をじゃんけんで負けた方が買ってくるって賭けをしたらしい。
「最初は渋ってたんだけどね……」
自分の糧ぐらい自分で手に入れてって……親の金だろその金は。でも、まあ、雪ノ下が普通のJKみたいな会話ができるようになったのは由比ヶ浜のおかげなんだろうな。ナイフみたいに尖った女で辟易していたのだが、由比ヶ浜と仲良くしてくれて多少ともこちらへの風当たりが弱くなるならばありがたい。
――― 防『雪』林 由比ヶ浜結衣‼ ありがたい。
それからしばらく、由比ヶ浜は雪ノ下が挑発に乗った話とか、じゃんけんに勝って小さくガッツポーズをして可愛いとか話をし始めた。由比ヶ浜は、少しメイクもナチュラルになり、教室での表情と少し違う雰囲気になってきた気がする。
とは言うものの、あの日のことはこいつの中でどう消化されたのかはわからない。少なくとも、三浦に追従するだけの存在をやめたってところまでは確実なのかなとは思う。
それが、雪ノ下や三浦の気持ちまで考えられるようになればいいけどな。
「内輪受けね。俺には関係ないけどな」
「そうかな? ヒッキーもゆきのんとかヤスミ先輩とは二人だけで通じる話とか良くしているじゃん」
まあ、この人とは1年近い付き合いだし、妹も知り合いだし近所だしな。 家族の次に親しいからな。
「部活でしゃべっている時楽しそうだし、あ、あたしが入れないなーって思うこと多いし」
絶対観察してるよなこの人。由比ヶ浜のアプローチと、俺の反応を。
「あたしももっと話がしたいなーって。それは、ゆきのんと4人でだよ。へ、変な勘違いしないでよね‼」
「ふふ、それはないわ結衣ちゃん。八幡はそういうのは卒業して……いいえ、気にしないようにしているから。ねえ八幡」
「そうですね。由比ヶ浜相手に勘違いすることはないですし、勿論あなたに対しても同じです」
「そう、いつまでそんなこと言っていられるのか楽しみね」
なに言っちゃってるのこの人。なんでこっちにすり寄ってくるのかな。
「でも、雪乃と八幡はいいコンビだと思うわ」
「……あまりうれしくないのですけど」
「雪乃に面と向かっていろいろ言えるのはあんたくらいでしょ。それに、言いかえされても何とかしのいでるじゃない。あの子の言葉の回転について行けるのは2年じゃあんたくらいでしょうね」
そうだな。まあ、刺激を受ける部分はある。何か由比ヶ浜が言いたそうだがそれは気が付かないふりをしておこう。