やはり俺の青春ラブコメはまちがって。前   作:恋と花火とテニスコート

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第0.5話 THE練習

 どんな挑戦でも真っ向から叩き潰す雪ノ下雪乃、無い挑戦でも叩き潰す。そして、ノーモワ広島的平和主義者の俺でさえ叩き潰しに来るのだが、我が主のパーフェクトビジョンの前には歯が立たないのだ。ふむ、流石我が主。俺は庇護されているんだよ。

 

「いいでしょう、戸塚君、あなたの依頼受けるわ。あなたのテニス技術の向上を手助けする……でいいのかしら」

「うん、ぼくがうまくなれば、みんな一緒に頑張ってくれると思うから」

 

 うん? 今の話の前半と後半がつながらなくないか。戸塚の上達が何故、他の人間のモチベーションにつながるんだ?

 

「八幡、答えは常に一人ひとりの心の中にあるの。だから、あんたの物差しで最初から図る必要はないわ。あんたが彩加を知ることで、次につながるの。だから、黙って協力しなさい」

 

 承知いたしました我が主。

 

 やる気スイッチの入った雪ノ下の邪悪なオーラに怯えるとつ可愛い。「心臓の肉1ポンドだよ」とでも言いだしそうな女だ。シェークスピアの話って当時の差別意識みたいなのが描かれていて、ちょっとどうなのッてセリフ回し多いよな。

 

 

「手伝うのはいいが、具体的にどうするんだ」

「先ほどの内容よ」

 

 マジでやるんですか、死ぬまでって。

 

「比企谷君、ぼく死んじゃうのかな」

「戸塚、死ぬときは一緒だ‼」

「あんた、本気で行ってるんでしょうね八幡」

「……嘘です、言ってみたかっただけです」

「彩加の能力査定からでしょうね。基本的な体力の底上げと、その上での基本的な技術の精度改善につながる部分の鍛錬ね。どの道、本格的に改善するならレッスンプロなりコーチに診てもらって練習メニューを考えてもらいなさい。その準備段階の手伝いってことでいいわよね」

「は、はい。ヤスミ先輩ありがとうございます」

 

 アスリートとしては総武でも有名なこの人の言葉には、戸塚も納得したようである。まあ、奉仕部は奉仕部だからな。

 

 雪ノ下は咳払いをすると、改めて話始める。

 

「放課後は部活動の練習があるでしょうから、昼休み、特訓しましょう。コート集合でいいかしら」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 こうして、俺のベストプレイスから眺める場所で、しばらく昼を過ごすことになったわけだ。

 

「八幡、あんたもたまには体を鍛えなさい。背筋弱いから猫背なのよ。猫背改善の特訓も兼ねれば一石二鳥ね。小町ちゃんにも協力してもらいましょう」

 

 俺の腐った目と双璧のアイデンティティー喪失の危機。とはいうものの、この半年くらいで死んだ魚の目とかも改善されちゃってさ、雰囲気イケメンなんだ俺。これで猫背まで改善されたら、パーフェクトイケメンになっちゃうだろ。嘘です、ごめんなさい。ボッチな時点で外見関係ありませんです。

 

 

 

 

 俺は翌日の昼休み、ジャージに着替えるとテニスコートに向かって移動している。どうやら、雪ノ下たちは部室で着替えるらしく、俺は単独行動のはずであった。

 

「八幡‼ テニスコートに行くわよ‼」

 

 3年生のジャージ姿で登場する我が主。小説では2年はブルーなのだが、アニメでは3年ブルー 2年グリーン 1年えんじ色という設定なので、悩むのだ。まあ、我が主はブルーが似あうのでブルーだ。

 

 この人は何を着ても似合うのだが、芋ジャージ着ても可愛いから得だ。並んで、というか大和撫子よろしく主の半歩後ろを歩く俺、まじ侍。

 

「あたしも基礎トレーニング付き合うから、あんたもやりなさい」

「……理由を聞いてもいいでしょうか」

「あんたと、トレーニングしてみたかったのよ。会話で頭の中身は想像できるけれど、体を使うことは今までなかったじゃない。その為に手合わせよ」

 

 なるほど、この人の主目的はそこにあるわけな。まあ、相互理解が進むならそれもありだろうな。

 

 我が主は並の高校生男子を上回る身体能力を有し、反射速度や姿勢制御 能力は圧倒するので、葉山クラスでも苦戦するのだから、並みに毛が生えた程度の俺では手も足も出ないのだけどな。

 

「着替え早いですね」

「体育の授業からそのまま着替えないでいたからね」

「何も言われませんでしたか?」

「なんで何か言われるの? 学校指定のジャージだから問題ないでしょ」

 

 ああ、たしかに。この人なら、ブルマでも「この後掃除当番だから」とかいってそのままの格好で部活まで現れそうで怖い。ちなみに総武はブルマではない。

 

 テニスコートに到着すると、すでに戸塚と雪ノ下と由比ヶ浜が其処にはいた。雪ノ下のみ制服……やる気あんのかよ。

 

「では始めましょう」

 

 雪ノ下は戸塚に足らない筋力アップのために、腕立て伏せを行うことを提案する。というか、命ずる。

 

「八幡も死ぬ直前まで腕立てやるわよ」

「……あなたはどのくらいできるんですか」

「そうね、200回くらい連続でかしら。あまり早くしても負荷がかからないから1秒間に1回くらいのストロークでね」

「えーと、3分間等速で連続するってことですよね」

「そうね、3分半くらいかしら」

 

 おい、10回くらいでプルプルするだろ。多分俺は100回ぐらいで腕が吊る。

 

「正面向いて顔をお互い合わせてするわよ。ペースが揃うでしょ?」

 

 えーとこの美人さんの顔を見ながらするのは……ドキドキするんだけど。

 

「いい、掛け声はあたしがかけてあげる。いち……にい……さん……」

 

 俺の目の前で大きな眼と少し低めではあるが形の整った鼻の顔が上下する。ペースを合わせ、息が漏れる。うう、きついんですけど。でも、この人の顔を合法的にまじかでみられるチャンスを棒に振るほど俺は愚か者ではない。

 

 ということで、俺は15分くらい腕立て伏せをしていたようで、腕の感覚が無くなるまでうっかり無心で腕立て伏せをしてしまった。 ちなみに、その日は腕の力が抜けてしまったのでチャリは置いて藤村さんと一緒に帰ったよ。夜中から筋肉痛に襲われたことは言うまでもない。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、ヤスミさん来てるよ。早く起きて。小町も今日は早く出ないといけないからさ」

 

 疲れきって泥のように眠っていた俺の耳に、小町の声が割れ鐘のように響く。運動したおかげか、あの人の顔をまじかでじっくりしたおかげか、久しぶりに熟睡できた気がする。

 

「八幡、腕の調子はどうかしら」

「まあ、控えめに言って筋肉痛です」

「あのトレーニングはないわね。少しずつローテーションで負荷をかけないと、一気に同じところに負荷をかけると、筋繊維が痛むからよくないわね。むしろ、あの子はストレッチとか関節の可動範囲を拡大する方向で先に体を作った方がいいのではないかしら」

 

 戸塚は筋肉が付いていない以前に、体ができていないようなのだ。中学まではスポーツらしいスポーツの経験もないようだという。

 

「でないと、テニスのような激しいスポーツでは故障の原因になるでしょう。それに、基礎体力作りはテニスコートでする必要はないもの。別メニューでするべきでしょうね」

「……なんで雪ノ下に言わないんですか」

「彼女は部長。彼女の考えは部の考えでしょ。だからよ」

 

 なるほどね。でも、運動選手としてはダメ出ししたわけだ。戸塚とその辺は部活の時間に顔を出して藤村さんが話をするそうだ。その方が、雪ノ下のメンツも立つし戸塚も部員を巻き込みやすいだろうな。

 

 そして、俺と藤村さんは同じ電車に乗り、同じバスに乗って総武高校に向かうわけだ。

 

「帰りはそうでもないですけど、朝はやたら挨拶されますねあなた」

「そうね。部活関係で知り合い多いからかしらね」

 

 サッカー部、野球部、バスケ部に陸上部、軽音楽部や生徒会執行部にも友達多数。運動部は特に、1年生2年生の後輩から挨拶をされる。そして、男子からは睨まれ、女子からはチラ見される。

 

「ヤスミ先輩おはようございます‼」

 

 ショートカットのスラっとした女子数名。バスケか陸上系かな。

 

「おはよう」

「あの、こちらの方は……」

「ああ、いま同じ部活の後輩。八幡ヨ」

「……おはようございます」

「おはようございます……」 てな感じで、チラチラみらてるんだよ。

 

 俺の存在を無視して、最近の試合結果とか、練習方法の相談とか、また相手してくださいみたいな会話に続いていくわけなんだこの先。どうやら、戸塚が相談しているようなことの多くを『サッカー部のマネージャー』としてサッカー部中心に練習計画を立てていたらしく、トレーニングメニューなんかは相当手を加えたらしい。ポジション別・個人別の強化メニューとかね。

 

 それで、下級生中心に他の部活の後輩からも相談を受けて、その関係で 運動部関係の知り合いがとても多いんだそうだ。みんな、藤村さんに助けられた存在で、いうなれば一人アスリート奉仕部なわけだ。だから、並みの人間なら雪ノ下の奉仕部なんてちゃんちゃらおかしいんだろうけど、この人はそんな素振りはちっとも見せないんだよな。すげえ人だよ。

 

「なんでそんなに熱心なんですか」

「あたりまえじゃない、みんな真剣に悩んでいるのよ。そりゃ、公立の進学校で特待生でも何でもない一趣味のアスリートだけどさ、上手くなりたい勝ちたいって気持ちに差はないわけでしょ。その気持ちに答えていくのが、先を歩くものの務めよ。あたしだって、そうやって育ててもらったんだから、下に伝えていくのよ」

 

 なるほどね。この人に人が集まる理由がよく理解できる。誰もが、何かを成し遂げたいと思っているわけで、その気持ちが無駄にならない信頼感をこの人は他人に容易に与えることができる存在なんだな。

 

 それ考えると、この人に告白して彼女にしようなんて考えている奴は、この人が日ごろ見せない姿のどの程度を理解していたのだろう。

 

『最低限の努力をしない人間には才能がある人をうらやむ資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像できないから成功しないのよ』

 

 雪ノ下雪乃はそう言った。それはごもっともなのだが、この人の行動を並みの人間が想像するのは無理だ。所詮、自分の器でしか人は他人を計ることはできない。1Lの容器に10Lは入らないのだ。

 

 だから、俺はこの人の横にいてあまりの隔絶した器に絶望的な気分になるんだよ。何一つ敵わねえってな。

 

「じゃあ、また昼休みね‼」

 

 バスを降り、藤村さんは同級生と3年生用の入口に向かって去っていく。はあ、急に昔に戻ったような穏やかなようで少し寂しい気持ちになる。

 

 

 

 

 あっという間の昼休み。今日も今日とて我が主はジャージ姿で教室に現れる。

 

「八幡、彩加 練習行くわよ‼」

 

 藤村さんはわざわざ地上階の自分の教室から3階までやってくるのだ。その無駄な元気はどこから湧いてくるのだろうか。

 

「今日も体育のまんまですか」

「違うわ、あんたと別れた後、部室でジャージに着替えておいたの。今日は体育ないからね」

「……先生は『何も話しかけてこないわよ。藪蛇になるから』……ですよね」

 

 この文武両道の才女は、教科書も開かず授業も聞いていないのにほぼ確実に設問に正解するんだよ。おかしいだろ。新入生のころは色々言われていたようだが、様々な経験を経てアンタッチャブル認定されたらしい。少なくともこの人は同級生を使嗾して授業の妨害をしたり、徒党を組んでリア充よろしくバカ騒ぎをするような誰かの姉のようなことはしないからだ。

 

「わたし、棲み分けって大事だと思うのよね。先生は先生の領分が、あたしにはあたしの領分があってさ、何から何までしたがうのは違うとおもうわけ。学校指定の服を着ているのだから、それに関して五月蠅く言われる筋合いわはいわよね」

 

 そういや、戸塚はいつもジャージだな。

 

「なんで戸塚は制服着ないんだ」

「……ぼく、似合わないんだ制服」

 

 え、リボンとか超似あうぞお前。あと、チェックのスカートも可愛いと思う。いやいや、あの白い縁取りのブレザーにループタイは校則違反だ。葉山は爺ちゃんの形見なんだろうか、見たことないぞあんなの。

 

 

 

 

 昼練のメニューはテニスコートでできる練習に変更され、基礎的な練習は朝や練習日以外で実施することになったんだよ。壁打ちをしながら、スイングの確認。ある程度体がほぐれたら、コートに出てレシーブの練習をする。

 

 スプリットステップという動作が大事で、フットワークにおいて非常に大事な要素なんだと。テニスはボールに追いつくこと、ボールを打つためには素早く反応する 必要がある。その最も重要な基本動作が「スプリットステップ」。

 

 小さくジャンプし、両足脚に均等に体重をかける。きちんと行なう習慣がついているかどうかで、ボールに対する反応が大きく変わってくるという。どの位置にボールが来ても、1歩目を早くする効果があるってことなのかもね。

 

「だから、その習慣を体にしみこませるためには……あの球出しではだめなのよ」

 

 大昔のバレーボールのレシーブ練習のように、はたまた1000本ノックよろしく次々に拾えない位置ギリギリに由比ヶ浜にボールを投げさせる雪ノ下。

 

 「スプリットステップの意味は、相手がどこに打とうとしているのか、集中して「観る」こと、また同時に身体的に前後左右どの方向にも動けるニュートラルな状態を作るということが目的なの」

 

 なるほどね。この人はきちんと学習した上で提案しているわけだ。雪ノ下はどうなんだろう。テニスの経験はあるのかな。俺は藤村さんと隣のコートで練習相手になる練習をしている。どうやら男子のテニス部は稼働戸塚だけの日もあるらしく、練習相手にも事欠くため、俺を急遽練習相手として育成することにしたようだ。

 

 藤村さんとテニスするのもいいかもしれないと思っていたこの時の俺を、全力で殴ってやりたい。

 

 戸塚が派手に転ぶ。まあ、そうなるよな。

 

「さ、さいちゃん大丈夫」

「だ、大丈夫だから続けて」

「いったんクールダウンしましょう。雪乃は、保健室から救急箱借りてきなさい」

「……はい承知しました」

 

 流石に反省したのか、雪ノ下は大人しく救急箱を取りに立ち去った。藤村さんは「体冷えると嫌だから、ちょっと走ってくるわ」と元気に走り出していった。まあ、ほんの2か月前まではサッカー部でほぼレギュラー並みに体動かしてたんだからな。楽しくなるんだろう。

 

「あー テニスやってんじゃん。戸塚、あーしらもテニスして良い?」

 

 そこにはHGがやってきていたのでした。

 

 

 

 

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