やはり俺の青春ラブコメはまちがって。前   作:恋と花火とテニスコート

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第0.6話 THE試合

「あ……ユイたちだったんだ……」

 

 小柄な赤メガネの女子がつぶやく。風雲急を告げるテニスコート。不味くない? 三浦は戸塚に話しかける。

 

「戸塚、あーしらもここで遊んでいい?」

「えーと、ぼくたちれんしゅうしているんだけど……」

「はあぁ、なに、聞こえないんですけど?」

 

 戸塚は繰り返し、練習だからというのだが、由比ヶ浜がいる時点で部外者だし、男子テニス部だけで使用しているんじゃないんだから使わせろって話になる。

 

「三浦すまん、ここは戸塚が頑張って昼休み練習の使用許可とっていてな。万が一、部外者も使用しているなんてことになると、許可取り消しになるかもしれないんだ。男子テニス部も廃部の危機でな、戸塚一人でも戦績上げないと、ヤバいってとこで俺たち協力しているだ」

 

 ちょっとしんとなるHG。嘘じゃないけど、可能性の話だからね。

 

「それなら、あーしも練習協力するし。経験者だからさ」

 

 三浦経験者なんだ。由比ヶ浜もいるし、三浦の『正しい資質』発動しちゃったかもしれない。やっぱいいやつなんだな。

 

「けんか腰は良くないよ。それならさ、皆なでやった方が楽しいよね」

 

 えーと、葉山隼人君。もうすぐあの人がランニングから帰ってきますよ。君のその持っていない『資質』何とかした方がいいね。三浦は戸塚がテニス部廃部の危機に立ち上がったこと、そして、昼休みこのところ由比ヶ浜が一緒にご飯を食べられない理由を知ってテニス経験者として協力するって申し出をしてくれたわけだ。

 

 葉山の提案は、「俺たちも遊びに混ぜろ」だろ。その理屈で言うとだ、俺たちもサッカー部の練習思い付きで混ぜろよな。

 

「葉山、みんなって誰のことなんだよ」

「それは……ここにいるみんなだよ」

「三浦は経験者で協力してくれるって話だろ。お前たちは何なんだよ。それにだ、俺と由比ヶ浜がいる時点で気が付けよ……だから持ってねえんだよお前」

 

 葉山が動揺する。

 

「ねーちょっと隼人。戸塚の練習時間ドンドン無くなっているからさ、早くテニス始めようよ」

 

 練習再開するか。雪ノ下も戻ってくるだろうしな。

 

「じゃあさ、部外者同士で勝負して、勝った方が今後昼休みテニスコートを使えるってことにしないか? 勿論、戸塚との練習にも付き合う。強い奴と練習した方がよくないか?」

 

 あーあ、多分この騒ぎをコートの見える位置から確認しているよ我が主。それに、その理屈だと、サッカー部のグランド使用権、取り上げられるぞあの人に。

 

 

 

 

 三浦のテニスがしたいという欲望と戸塚を助けたいという人情の秤が、葉山の一言で崩壊。何故か勝負することになる。『部外者同士』でだ。残念ながら、俺のテニスは体育の授業レベル。とても経験者である三浦に太刀打ちできない。そして、由比ヶ浜は見た目通りの能力だ。裏技とか実はすごいとか一切ない。

 

 テニス勝負のうわさを聞き付けた連中が……コートに集まってきた。こんなお祭り行為を行う人はあの人しかいません。どんだけ招集してるんだあんた。葉山たちもビビり気味だ。引くに引けない葉山隼人だ。

 

「じゃあ、もう一度確認する。俺たち奉仕部は、男子テニス部の戸塚君から依頼を受けて、このテニスの特訓を手伝っている。このコートは彼が長い時間熱心に顧問の先生にお願いしてようやく借りることができた場所だ。

 また、彼の動機は、3年生引退後、男子テニス部の大幅な戦力減から廃部の危機を感じたことにある。その為、俺たちは昼休み2週間ほど彼に付き合っている。

 それを踏まえた上で、『部外者』同士で勝負をして、勝った方がテニスコートの使用権を得て戸塚の練習相手を務める……だな」

 

 コート周辺がざわざわし始める。そりゃそうだ、葉山は自分たちが遊びたいから、正式なテニス部員である戸塚の使用権を巻き上げようとしているとしか思われないからな。

 

「そんなつもりじゃ……」

『隼人、じゃあどんなつもりなのか申し開きしなさい。あんたも、あたしとサッカー部のグランド使用権賭けて勝負しなさいね‼』

 

 我が主登場。これがやりたかったのね。その為のギャラリーであり、葉山の問題点を周知させるための演出ね。部長の目潰えたかもね?

 

「優美子ちゃん経験者なのね。助かるわ。でも、中学から引退してもう1年はブランクあるわよね。動けるかどうか試してあげるから、着替えてらっしゃい」

「はい、あ、ありがとうございます」

「じゃあ、隼人、あんたがどの程度の実力あるのか、あたしが試してあげる。戸塚君、審判お願い。八幡、隼人の後ろで球拾いしなさい」

「……承知しました」

 

 はい、葉山隼人君公開処刑始まるよ。

 

 

 

 

「じゃあ、あたしからのサーブでいいわよね」

 

 ジャージに鉢巻きを締めた藤村さんがコートに立つ。由比ヶ浜がボールを渡し、サーブが始まる。

 

 俺は葉山の後方から、あの人のサーブの姿を観察する。美しいトロフィーポジションと言われるトスの姿勢、そして、肩が滑らかに動き、全身の体重を乗せた重たいサーブが葉山のコートに突き刺さる。葉山も体育の授業では動けているものの、真面目に、サーブだけなら相当のレベルであることが見て取れるので、反応できないでいる。

 

「隼人、この程度のサーブが拾えないなら、彩加の相手は無理よ。でも、調子に乗ったイケメンはもう少し恥をかいてもらおうかしらね」

 

 コートに響き渡る大きな声で、葉山を叱責する我が主。ギャラリーもこの公開処刑の成り行きを見守っている。がしかし、ここで部長様が帰って来られたのである。

 

「何事ですか、藤村先輩」

「ああ、雪乃ちょうどいいところに戻ってきたわね。実は、優美子ちゃん、テニス経験者なんですって。で、昼休みのトレーニング付き合ってくれるっていうから、力試ししようと思ってね。

 隼人もやりたがっていたんで、いまあたしが相手をしてみたんだけど、やっぱり経験者ではない分あんまり効果ないみたい。だから、隼人はいいわ」

「……はい、お役に立てず申し訳ありません」

「いいのよ。それに、あんたのせいでグランド使えなくなったらみんな困るしね」

 

 あはは、と軽快に笑う藤村ヤスミ。葉山はさっきまでの明るく爽やかな嘘くさい笑顔がかき消えて、げっそりした表情である。

 

「翔‼ あんたが隼人とめないで誰止めんのよ‼ 一緒になって調子にのってると容赦しないわよ」

「は、はい。スンマセン‼」

 

 戸部は90度に頭を下げ、つられてお供も頭を下げている。運動部の連中にとっても、あの人に目をつけられるのはあまりいい事ないからな。ネットワークからハブられる可能性があるんだよ。

 

 

 

 

 金髪を後ろで束ねた三浦がコートに戻ってくる。流石に芋ジャーはなかったので女テニのユニオームを着ているらしい。

 

「雪乃はテニスできるのかしら」

「ええ、多少は」

「丁度いいじゃない、この前教室でいざこざあったけど、テニスで仲直りっていうのはどうかしら」

 

 雪ノ下の目に仄暗い光が宿る。そして、三浦はリベンジ精神を噴き出している。

 

「ゆみこ~ まじ雪ノ下さんと対決とか、総武2大美女対決っしょ『あたしも入れておきなさい翔‼』もちろんです。はあ、藤村先輩まで参加するなんて、こりゃ有料でもいけるくらいっしょ」

 

 葉山を打擲して盛り下がっていた空気が一気に燃え上がる。流石『祭姫』である藤村ヤスミだ。

 

 雪ノ下が着替える間に、三浦は軽く藤村さんと打ち合いをしている。うん、多分戸塚より数段上手い。経験者というよりは……かなりの戦績だったんだろうな。我が主もご満悦である。

 

「やっぱ、優美子ちゃんはそういう感じの子だと思っていたわ。まあ、辞めた理由は聞かないけど、でもそういう子でよかったわ」

 

 主の中で三浦優美子の評価がさらに高まったようだ。こいつ、葉山が好きじゃなきゃ相当いい女なんだけどな。

 

 

 

 

「由比ヶ浜、どっち応援するんだ」

「……両方?」

 

 なんだよ、そういうところだけ調子いいんだなお前。既に、この試合はテニスのコート獲得合戦から、単なる美女テニス大会へと変貌しているからな。

 

「八幡は、どっちが勝つと思う?」

「順当にいけば経験者の三浦でしょうけど……」

「雪乃が経験者ではないと何故わかるの?」

 

 はい? だって、あの滅茶苦茶なトレーニングメニューとか練習参加しないで自分だけ制服とかじゃん。なんで、経験者なら率先してテニスの練習参加しないんだあいつ。

 

「雪ノ下さんだっけ? あーし手加減とかできないから。オジョウサマなんでしょ? 怪我しないうちにやめといたほうがいいんじゃないの?」

 

 早速の前哨戦ありがとうございます。炎の女王様復活‼ 泣いたカラスが……いえなんでもないですゴメンなさい。縦ロールをいじりながら、三浦が不敵な笑みを浮かべる。まじで、やる気です。

 

「安心しなさい。わたしは手加減してあげるから。その安いプライド、粉々にしてあげるわ」

 

 ああ、こいつ経験者なんだ。まじで。でも、藤村さんよくわかるな。

 

「足運びが経験者なのよ。さっきも言ったでしょ、あの子は普通の人間が無意識にどちらかの足に体重を交互に架ける動きをしないの。古武術でもやっているのか、テニスにも応用しているのかわからないけれど、普通の動き方ではないのよ。スプリットステップ自然にできているわ。」

 

――― そんなの見てて分かるあんたの方が普通じゃねえだろ。

 

 試合、サーブは三浦から。

 

「雪ノ下さん、知ってるかしんないけど、あーしテニス超得意だから」

 

 左手でボールをコートに弾ませながらサーブのタイミングを計っている。

 

「怪我とかさせちゃったらゴメンね‼」

 

 鋭い風切り音とボールを打つ音がコートに響く、打球は雪ノ下の左方向、利き手と逆に突き刺さる。雪ノ下は左足を踏み込み、軸足として回転するとバックハンドでレシーブが決まる。予測できていなかったのか、三浦の足元にボールが帰り、小さく三浦が悲鳴を上げる。恐らく、この1球で三浦の警戒心は数段引き上げられたであろう。

 

「ね、やっぱり経験者だったでしょ」

「なら、なんでテニスに参加しなかったんでしょうか」

「一つは、レベル差がありすぎて教えられなかった可能性。もう一つは、彼女の身体的な弱点の問題かしらね」

 

 確かに、雪ノ下は教えるのはあまりうまくないのだろうことは想像できる。自分でできる奴は、得てして自分の理解の視点で教えるので、できないやつの何ができないのかが理解できない。故に、教えてもできないので嫌になってしまうというのはありがちだ。ボッチの雪ノ下はなおさらだろうな。

 

「あなたも知っているとは思わないのだけれど、わたしもテニスが得意なのよ」

 

 三浦は表情を引き締める。決して追い詰められた表情ではない。雪ノ下は恐らく技術的な面では優秀なんだろう。そういう場合は、泥臭い試合をして相手を削ることになるんだろうなと俺は推測する。藤村さんはニコニコとことの推移を見ている。

 

 雪ノ下優勢でゲームは続く。三浦のサーブは確実に返され、そして、その球が帰ってきた場合は、確実に相手のコートに沈める。問答無用の一方的ゲーム展開に、HGも沈黙し、雪ノ下への声援が確実に増している。

 

 雪ノ下はコートを縦横に走り回り、まるでクラシックバレーのような優雅なポーズで三浦を翻弄する。三浦はいつもの女王様ぶりは鳴りを潜め、一方的ななぶりものにされるかのように思えた。

 

「雪乃の足が止まりそうね」

「……まだ、1セットってところですよね」

「それがあの子の弱点なんでしょうね」

 

 持久力がないってことか。確かに、あの細い脚であれだけの力と速度を出すのであればスプリンターになるしかないか。そういえば、1年冬のマラソン大会で、男子は葉山だったけど、女子は雪ノ下ではなかった……この人じゃん。

 

「ふふふ、雪乃がスプリンターであることは冬のマラソン大会で知っていたわ。彼女、短距離では学年トップクラスだったけど、持久走は完走できなかったの。マラソン大会も途中棄権よ」

 

 三浦は知らなかったけど、試合経験の差でそこに賭けたわけだ。

 

 2セット目、完全に足のとまった雪ノ下は肩で息をしている。先ほどまでと全く逆の展開であり、もしかすると、このセット捨てて体力を回復させているんじゃないかと思うくらい、雪ノ下は全く動かない。

 

 そして、セットカウント1-1で第3セットに突入。これで勝負が決まる……ハズだったんだよ。

 

「あれ~ みんな授業始まってるよ~。あー ヤスミちゃんここにいたんだ」

「どうしたのめぐり。何で予鈴が鳴らないのよ」

「校舎の中だけ鳴ったみたい。でも、小さくしか音が出ないんだって。グランドのスピーカーからは音が出ないから、生徒会役員が声かけて回ってるんだよ。もう授業始まっているから解散してください」

 

 はい‼ ということで、総武2大美女対決は決着を持ち越すことになったわけ。

 

 

 

 

 奉仕部と戸塚だけ残り、由比ヶ浜と雪ノ下は着替えもあるので先に部室に引上げさせた。ネットを緩め、ボールを集め、コートを整備する。やれやれ、これであの二人の関係が悪くならなきゃいいんだけどな。

 

 そういえば、今日の試合に何の意味があったんだろう。

 

「なんで雪ノ下と三浦に試合させたんですか」

「雪乃の世界を人ごと変えるに必要だからよ」

 

 藤村さんは言う。雪ノ下は由比ヶ浜が友達となって変わり始めた。それだけでは足らないんだそうだ。

 

「0から1は大きな変化よ。でも、あの子の考えでは1にしかならないわ」

 

 由比ヶ浜の友達である三浦を理解することこそ、由比ヶ浜を理解することにつながる。そして、三浦優美子もあいつの友達足りえると理解できる。そうして雪ノ下が人とのかかわりを広げていかないと……

 

「永遠に陽乃ちゃんには勝てないし、勝ちたいと考えてしまうのよ。それでは、あの姉妹はちっとも幸せになれないから……かしらね」

 

 完璧超人であっても幸せじゃないって、どんな世界で生きてるんだろうな。

 

 雪ノ下雪乃には、俺の知らない秘密がたくさんあって、それをずっと観察している我が主がいるわけなんだな。そして、奉仕部で俺はその観察に参加しなきゃならないわけだ。

 

 

 

 

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