次回から日菜ちゃんのターンなので信じて耐えていただけると幸いです。
星空を見るたび、思い出すことがある。
あの日のポルックスの彼女と、その目の輝き。
事の発端は二校合同の観測会だった。
羽丘女子には、天文部部員が二人しかいないらしい。
……廃部寸前ではないか。嘆かわしいと僕は思わざるを得なかった。
まあ、うちの高校も三人しかいないのだけど。
ちなみに一人は兼部先が忙しいのでこちらにはめったに来ない。
なぜどこもかしこも天文部は廃部寸前なのだろう?
僕は全国の天文部の行く末を心配せざるを得なかった。
「それにしても合同観測会をやりたいなんて珍しいですね」
「あれ、嫌だったか?」
「いや別に嫌じゃあないですけど」
男女二人ずつだし合コンかよ、とは思っている。やぶさかではないけど。
「…いや、うちは顧問も名ばかりだし、よく唐突にこんな話出てきたなって気になっただけです」
僕の部室での唯一の話し相手であり唯一の二年生――必然的に部長である吉田は苦い顔をした。
「…羽丘の部長とは浅からぬ因縁があってな、この前会ったときに半ば無理やり決められてしまった」
「え、マジで」
女っ気なさそうな人だったので意外だ。
「マジだけど違う!そういうんじゃないからそんな目で見るな!」
「なんでそんな本気で嫌そうな顔するんすか、女嫌いの噂は本当だったんですか?」
「そ、そんな噂が広まってるのか!酷いデマだ」
「天文部に女子が体験入部に来るたびに不機嫌そうな顔してたじゃないすか」
「違う!顔が少し強張るだけだ! 女子が苦手なだけなんだって!」
まあ知ってて言ってるわけだけど。
そんなんでよく共学で過ごせるな、と少し呆れてしまう。
「ふーん。で、そんなに女子が苦手な部長がどうして羽丘の部長と知り合いなんですか?」
苦虫を噛み潰した表情。
「…腐れ縁」
「あの、情報がほとんど増えてないんですけど」
「まあ、会ったら分かる。 …もしかしたら関わりたくない人種かもしれないけど」
そんなに奇特な人なのだろうか?
部長は良く言えば温和、悪く言えば柔弱な人なので、彼にこんな評価をされる人のほうが珍しかったりする。
「俺が女子を苦手になったのはあいつのせいだと思うよ」
…部長の言うことをそのまま信じるならば結構な変人ということになる。
「それなら、アレですね。もう一人の部員ってのもそんな感じの人なんですかね」
「あ、あいつが二人もいる? か、勘弁してくれ!」
「そんな本気で顔を蒼ざめさせなくても…。
いや、でもそんなに心配することないかもしれませんよ」
「……なんで?」
「え?羽丘の二人も部長と僕みたいな関係かもしれないってことで…」
「はっはっはっは、なかなか面白いこと言うね。
自分が常識人だと言いたいのかな?
今まで君が学校でやってきた問題行動を列挙してやろうか?」
「冗談だってば…。
でもシンパシー感じるでしょ、境遇が似てるし」
「………確か、君と同じ1年生だよ、その子は」
部長は顎を撫でると、気のない顔で呟くように続けた。
「まあ、観測会のときは仲良くしてやってよ」
…何か引っかかる言い方だ。
「ちなみにその子、他に何か情報はないんですか?
清楚なインドア女子とか、深窓の令嬢とか」
「あー? ……あいつは確か、面白い子!って言ってたよ」
変人に面白いと評価される子かあ…。
いや、ポジティブに考えよう。
トークが面白い、社交的で活発な同級生なんだきっと。
「ま、まあ楽しみにはしてますよ。 というか、そもそも観測会自体久々ですしね」
冬至が近いからか、もう空は暗くなっている。
いつもなら部室でゲームに勤しむわけだが今日は寒いし明日の準備もあるので、帰宅する。
「俺は君が変なこと言わないか心配だよ…」
部長からの信用のなさが窺える。
「別に変な話はしませんて…初対面だし」
「まあ…いいや。 16時半には例の丘だ。よろしくな」
へいへい、と手を振って教室を出る。
暖房のない廊下はしんしんと冷えていたが、僕は小気味よくリノリウムの音を立てて昇降口へ駆けていった。
普段より賑やかな観測会も悪くない、と思った。
だから、何度も見てきたふたご座流星群が今度も心躍るものになることを、今から祈っておく。
……それはそれとして今日は南東の空で細い月と木星が接近する日なのだ。是が非でも夜を徹して見るべきだろう。
ついでに流星も見られるとなおよい。
星空は素晴らしい。
見る日に、時間によって様々な姿を映し出す。
だから、僕は天体観測が好きなのだろう。
…翌日、起きたら16時前だったので、部長に土下座謝罪電話をした。
いきなり観測会にケチをつけてしまって羽丘の部長にも申し訳ないとは思っている。
電話先でぷんすか怒る部長の声と、その向こうから女性の笑い声が聞こえた。
ともかく、早く行かなければ日が落ちてしまう。
僕はメロスとなりバス停への道を疾走し、丘へ向かうバスに飛び乗った。
バスに乗ったことと30分ほど遅れてしまいそうな旨を連絡すると、僕は必死に呼吸を整えつつ周りを見渡した。
乗客は、僕のほかにただ一人しかいない。
…その一人で座っていたアイスブルーの少女こそ、昨日話題にしていた羽丘女子の天文部員であることに、まだそのときの僕は気付いてはいなかった。
次回から日菜ちゃんが華やかにしてくれると信じています。
今日からはじまるさよひなイベがふたご座流星群のイベントだと聞いて、最近つらつらと書き貯めしていた話と微妙に被ってなんともいえない気分になっています。
一応この話の展開は決めてあったのですが、今回のイベントでの氷川姉妹の新設定次第ではプロットが崩壊してしまうかもしれず…そうなれば書き直すことになると思います。
なのでとりあえず次の更新は私がイベントストーリーを読み終えてからにします。
悪しからず、期待せずにお待ちいただけると幸いです。