マクロスΔ 歌の守り手 作:宇宙の記憶(ソラノキオク)
西暦2067年。マクロス・フロンティア船団を中心におこったバジュラ戦役から8年。人類は新たなる驚異に見舞われていた
その驚異、ヴァールシンドロームは人体の細胞に
これはそんな驚異を沈静化するために造られたユニットとその護衛を務める部隊、そしてそんな時代を生きる人々の物語である
Δ
《惑星アル・シャハル 衛星軌道上》
『アルファリーダーよりアルファイレブン。デルタ小隊より支援要請だ』
「えー、またですかー」
アルファイレブンと呼ばれた女性、ナナーシャ・カシハラは哨戒任務で星屑の中をかけながら自身が所属する小隊長に文句を言う
『俺に文句を言わないでくれよ。ともかくデルタ小隊と合流してくれ。哨戒の方はアルファナインが向かっている』
「りょーかい。アルファイレブンは現空域を離脱します」
文句を言いながらもナナーシャは操縦桿を倒し自身の母艦であるアイテールへと進路をとり無線機の周波数をデルタ小隊が使用している物へと切り替える
「こちらアルファイレブン。デルタリーダー聞こえますか?」
『デルタリーダー、アラドだ。またしてもすまない』
デルタ小隊隊長、アラド・メルダースは悪びれた口調で通信にでる。
「また美雲ですか」
『ああ、今回もうちの真っ直ぐ娘と行動する手筈だったのだがまたしても逃げ切られてしまった。一応こちらの方で位置は確認できてはいるが、真っ直ぐ娘がうるさくてな。すまないがアル・シャハルに降りて合流してくれ』
「了解です。帰ったらクラゲラーメン奢って貰いますからね」
『ああ、わかった』
そう言って再び操縦桿を倒し進路をアイテールから惑星アル・シャハルへと変える。その間、アイテールからは大気圏突入のためのコースや現在のアル・シャハルの天候などの情報が送られてくる。その情報に目を通しナナーシャは大気圏へと突入して行った
Δ
《惑星アル・シャハル》
「ふー。何度やっても大気圏突入はなれないな」
そうぼやきながらパイロットスーツから観光客風の衣服に着替えVF-31Aカイロスのキャノピーを開く。と、同時に空調の効いたコックピット内の空気とアル・シャハルのムッとした空気が入れ替わり肌にじんわりと汗が滲み、直射日光が綺麗な銀髪に降り注ぐ。
そんな空気と日光に顔を顰めながら機体のシステムにロックをかけ宇宙港の中へ入る。
港のロビーは観光客やこれから他の星に向かうであろう人達で溢れかえっていた。ナナーシャは辺りを見回し目的の人物、美雲・ギンヌメールが居ないかを探す。その中で1つ、見知った顔を見つけ苦笑いが込み上げる。真っ直ぐ娘ことミラージュ・ファリーナ・ジーナスである。少々苛立った顔で周囲を見回しながら歩いているあたり美雲を探しているのだろう。
触らぬクラゲに痺れなし。そう思ったナナーシャは気付かぬフリをし足早に宇宙港から街に出る。街は観光客で溢れ宇宙港内以上の賑わいを魅せる。その賑わいを横目にナナーシャは足を進めていると広場へとでる。
広場で立ち止まり辺りを少し見回すと背後によく知る気配を感じる。その気配にナナーシャはニッと笑い、声をかける
「はへ〜。ラグナも観光客で賑わっているけどアル・シャハルはまた違った賑わいね。で、何か情報は掴めたの?美雲」
「そろそろ来ると思ってたわ、ナナーシャ」
そういいながらお互い向き合いワルキューレサインをつくる
「それじゃ、潜入調査と行きますか」
Δ
「ダメだ〜」
つい数時間前までやる気で満ち溢れていたナナーシャは頭を抱えて蹲る。空は茜色に染まり始め夜を迎える準備が始まっていた。
「ここまで何も出ないなんてね」
美雲はつけ爪型マルチデバイスを操作し調査ポイントの結果を記録していく
「まあ何も無いに越したことはないのだけれど」
「けどこの近辺でもヴァールシンドロームが探知されてるんでしょ?だったら何か痕跡でも「ほわあああああああああああああああああああ!!」何、今の」
「近いわね」
「ちょっと様子見て来る」
そう言い、ナナーシャは叫び声が聴こえた方へと走る
「全く。こういう時だけやる気なんだから」
一人、置き去りにされた美雲はポツリと愚痴を零すのだった
Δ
「たぶんこっちの方なんだけど……」
駆け出したナナーシャは路地で先程の叫び声の発生源を探していた
「え、そうですが」
「はわああ!ゴリゴリ〜!」
「この声、ミラージュね。あとから聴こえた方はさっきの叫び声に似てるわね」
会話する声が聴こえたナナーシャはなるべく足音をたてぬようにしながらその場へ近づく。
先ほどよりハッキリと会話がきこえ始めすぐそこにいると感じ路地の角から少しだけ顔を出し辺りを伺う。するとそこには数刻前に苛立った顔をし現在の困惑中といった顔を見せるミラージュと幸せの絶頂の只中にいると思わしき少女、そしてそれを見て少し呆れ顔をしている少年がいた
「あの様子を見るにさっきの叫び声はヴァールシンドロームというわけじゃなさそうね。ん?何、この感じ…。歌?」
3人の様子を伺っていると突然、耳ではなく身体の奥底で響くような歌のような何かを感じとる。反射的につけ爪型マルチデバイスを操作し発生源を探ろうとするがシャハルシティ周辺の生体フォールド波形に異常反応が起こっていることに気づく
「これってまさか……」
アイテールへ通信を繋ごうとしたその時、街全体に警報音が鳴り響く
『デルタリーダーより各員へ。ゼントラーディ駐屯地にて生体フォールド波の異常検知した。ヴァールが来るぞ!』
アイテールでシャハルシティ全体の生体フォールド波を監視していたアラドからの通信を聴きナナーシャは3人がいる路地へと変装をときながら飛び出す
「ミラージュ少尉!そこの2人は私がシェルターに案内します。あなたはすぐに戻って準備を」
「ナナーシャ少尉!?すみません、お願いします」
そう言い残しミラージュは宇宙港の方へと駆けて行く
「あんたは?」
「ケイオス、ラグナ支部アルファ小隊所属、ナナーシャ・カシハラ少尉であります。さ、早くシェルターへ」
「何が始まったんだよ」
「ヴァールです。これからここは戦場になります」
「え」
「戦場…?」
少年の質問に答えているとほんの少し離れた位置から爆発音が響き爆煙が上がる。それを確認したナナーシャは2人の背を押しシェルターへと急がせる。
路地から大通りへと出るとそこは既に至る所から出火しシェルターへと逃げ惑う市民や観光客で溢れかえっていた。そして逃げ惑う人々の背後にはゼントラーディ駐屯地から出現したであろうメカが街を攻撃していた。その様子を確認し2人の背をさらに押しシェルターへと急がせる。
しかし運悪くメカの攻撃がすぐ真後ろに当たり爆発、その衝撃で3人は吹き飛ばされてしまう。
「っ。2人とも、無事ですか」
「ああ、なんとかな」
そんな惨劇の中に聴きなれた鼻歌が聞こえてくる。その方向を見ると水色のロングヘアーの女性がフラフラと爆発する方向へと歩いていく。
その音を聴きナナーシャはニヤリと口角を上げ懐に手を入れいくつかの筒状の物を取り出しそれを上空へと放り投げる。と、同時に水色の髪の女性はトントンっと足踏みをし被っていた帽子を空に放つ
「「イッツ、ショウターイム」」
その言葉に反応したかのようにナナーシャの投げた筒状の物が空を舞いながら炸裂し赤や緑、青といった様々な光が溢れる。
そして帽子を放った女性は光に包まれ水色だった髪は本来の淡い紫へと戻る
「歌は、神秘!」
その言葉に呼応したかのように空から、もといそのさらに上の大気圏外から4つの光が降りてくる。
その光、デルタ小隊所属のVF-31ジークフリートが反転しそこからマルチドローンプレートを射出し4機のうちのオレンジに塗装された機体がガウォークに変形しキャノピーが開く。
「歌は、愛!」
ジークフリートから飛び出た少女は一瞬光に包まれ宇宙服から緑の衣装に変わる
「歌は、希望!」
「歌は、生命!」
さらにどこからともなく2人の女性が現れ4人となりその周りにはさらに光が溢れる
「聞かせてあげる、女神の歌を」
「「「「超時空ビーナス、ワルキューレ!!」」」」
4人がそれぞれワルキューレサインを作ると同時に歌が始まる。
それを見た逃げ惑っていたアル・シャハルの人々は足を止め歓喜の声を上げる。
「すみません、私はこれからワルキューレとデルタ小隊の直掩に着きます。あなた方はシェルターへ避難するかワルキューレのライブが行われている付近にいてください」
ナナーシャはつけ爪型マルチデバイスを操作し空港に待機させてある愛機を呼ぶ。
「あ、ああ」
その様子を見ながら少年、ハヤテ・インメルマンは少し呆気にとられながら返事を返す。
そんな中周りの人々が危機が迫っている声を発する。ナナーシャが目をあげるとそこにはゼントラーディの兵器、リガードが今にもビームを発しようとしていた。
その様を見てナナーシャはハヤテと少女、フレイア・ヴィオンを後方へと突き飛ばす。と、同時にリガードからビームが放たれ辺りが赤い光に包まれる。
しかし、そこにいた人々に被害はなく頭上にはデルタ小隊が射出したマルチドローンプレートが列をなしバリアを張っていた。
「全く、完璧なタイミングなんだから」
そう呟きチラリと近くの建物の上にいる美雲へと視線を向けそのまま上空を見上げる。
そこにはナナーシャのVF-31Aカイロスがガウォーク形態で降下して来ているのが見えた。
Δ
ナナーシャが空に上がりどのくらいたっただろうか。地上ではワルキューレとデルタ小隊の活躍によりヴァールシンドロームは沈静化しつつあった。
「うん、ワルキューレは今日も絶好調ってね」
戦術ライブの効果範囲外にいる敵に対し威嚇射撃しながらナナーシャは満面の笑みを浮かべる。しかしそんな気分を覆すかのようにコックピット内にアラート音が鳴り響く
「上空からアンノウン反応多数接近!?」
『総員、アル・シャハル守備隊がやられた。対象を敵機と認定オールウェポンズフリー。フォーメーションエネモス!』
大気圏外から飛来した黒く塗装された戦闘機郡に対しデルタ小隊は編隊を組んで向かってゆく。デルタ小隊ではないナナーシャはデルタ小隊をフォローするためワルキューレの護衛に回りリガードの足や腕を攻撃し無力化してゆく。しかしデルタ小隊とアンノウンとがぶつかりあった瞬間カイロスとワルキューレの周囲を舞っていたマルチドローンプレートの大半が地上に墜ちる。
デルタ小隊とアンノウン戦闘機郡が乱戦状態になり空には爆煙の花が咲き乱れる。
『すまないリーダー!アルファイレブン!一機通してしまった!』
「了解!それ以上近づかせない!」
デルタ小隊が補足しきれずに地上付近まで降下してきたアンノウン機が放ったミサイルが接近し付近で迎撃にあたっていた新統合軍機が爆発する。ナナーシャもミサイルの迎撃と今以上に近づけないためにトリガーを弾き弾幕をはる。
が、打ち漏らしたミサイルが降り注ぎ辺りが爆煙に包まれる。その爆煙の中にチラリと淡い紫の髪がなびくのが目に入る。
「美雲!っう!」
美雲が爆発により散った瓦礫に埋もれるのを目にし手を止めたナナーシャはアンノウン機の接近を許し攻撃を受けてしまう。その攻撃を躱しながらバトロイドへと変形する。
「これ以上好きにはさせない!」
背面のスラスターを吹かしながらアンノウン機をロックオンしありったけのミサイルを放ちアサルトナイフに持ち替えヴァール化したゼントラーディ兵が操るリガードの手足を破壊する。そのまま地を蹴りガウォークへ変形し空へと舞いあがる。
「この声っ?!ワルキューレ以外にも誰か歌ってる?」
管楽器のリズムにのって聴こえるワルキューレ4人の声に合わせて別の声を感じ取る。その声を感じながら空を舞うナナーシャの機体は僅かながらにも輝きを放っているふうに感じる。
『隊長!12時方向と……いえ、3時方向にアクティブ反応』
『なに!?』
「3時方向…?あの機体、踊ってる?!」
ミラージュが報告した方向に視線を向けると新統合軍機が敵の攻撃を避けているのか目に入る。その動きはまるでダンスを踊るようにリズムにのったものだった。
「そこの機体!飛びなさい!!」
踊る機体から視線を戻す途中、その機体にミサイルが接近するのが目につく。ミサイルを追うように操縦桿を倒しトリガーを弾く。
新統合軍機が空に舞い上がりバトロイドからファイターに変形したのを見届けるとすぐさま機体を反転させアンノウン機の背後をとる。瞬間、美雲の歌声がクリアに聴こえ数瞬、アンノウン機が、否、周りの動きがゆっくりになる感覚に包まれる。
「もらった!!」
ナナーシャはその感覚に気付かずにアンノウン機を攻撃するが機体から分離した無人機を盾にされ逃がしてしまう。
そのまま追撃に移ろうとした視界の端に燃えながら堕ちてゆく機体が映るのだった。