ねてろ!ORTリンデちゃん!   作:すろ

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ねてろ!ORTリンデちゃん!

 

 

───聖杯戦争。

 

其れは、神話の英雄や歴史上の偉人の影法師である英霊(サーヴァント)を使い魔とし、万能の願望器である聖杯を求めて七人七騎で相争う儀式である。

 

それが様々な要因(ハプニング)によって世界的に広まってしまったものが亜種聖杯戦争だ。その規模は本家には遠く及ばずとも、勝者に与えられる聖杯が並みの魔術礼装を著しく凌駕しているという事実に変わりはなかった。

その聖杯に、願ってしまった勝者(ヘンタイ)がいたのだ。

 

最強最悪の存在、異星からの侵略者、どうしようもない絶望の、目覚めを。

 

 

時計塔の魔術師たちは結託した。

神秘の漏洩どころの騒ぎではない。かの存在が繰り出す侵食固有結界とでも表現するべき水晶渓谷は、地球の法則を異星のものに塗り替える。

それは今までこの星で積み上げられてきた魔術を無意味なものに堕としかねない最悪の侵略行為だ。

 

彼らは世界中からかき集めた。一流の魔術師すら歯牙にもかけない存在、人理の守護者たる英霊(サーヴァント)を。世界中で行われている亜種聖杯戦争で召喚されたサーヴァントを、儀式の遂行ではなく脅威への対抗の為に集結させたのだ。

 

その数なんと三十騎。

サーヴァントたちは迷うことなく英雄として人の世を守るために立ち上がった。

 

そうして、人類の命運をかけた決戦が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

ORTリンデちゃんの朝は遅い。

 

水晶と化した布団にくるまりながら、お昼頃まで惰眠を貪る。二度寝こそ至高の娯楽である、そんな風に考えているかは定かではないが。

 

現在居候(せいそく)している家、その所有者の娘である藤丸立香ちゃんにお昼ご飯の時間だと起こされるまで、ORTリンデちゃんは自分から起きることは決してないのだ。

事情を知る誰かが見れば、立香ちゃんの蛮行に目を剥くことだろう。そのまま大人しく寝かせておけと。人類の未来のために、いやマジで。

まあ、そんな事など知る由もない一般人代表な立香ちゃんは、クリスタルな布団をはね除け容赦無くORTリンデちゃんの目覚めを促すわけだが。

 

露になる美しい白銀の御髪。

その下から垣間見える半開きの瞳は、青と緑の炎が絡み合って揺らめいているようにも見える不可思議な色合いをしていた。

その顔からは全く感情を読み取れないが、その欠点の無い整った顔付きにかかればその無表情さえも神秘的な美しさを後押しする要素になりえた。

 

ORTリンデちゃんは客観的に見て超絶美少女と表現しても過言ではない姿形をしている。頭の先から爪先まで、プロのモデラーが端正込めて造り上げたフィギュアの如き完成度である。

その姿は聖杯戦争の参加者(マスター)ならば見覚えがあったかもしれない。彼女…彼女?は英霊(サーヴァント)であるワルキューレ、その内の一人であるオルトリンデの姿そっくりだった。ただし色違いでちょっと幼い。

 

なぜORTリンデちゃんはオルトリンデにそっくりなのか。それを説明するためにはORTリンデちゃんに関する衝撃の真実を打ち明けなければならない。

 

なにを隠そう、ORTリンデちゃんこそ魔術師たちに恐れられた存在、人類を滅亡させうる怪物、そのものだったのだ!

 

かつてORTと呼ばれたその生物は、元々は円盤を背負った巨大な蜘蛛のような姿をしていたのだが、色々あって現状の可愛らしい少女(ワルキューレ)の形へと成り果ててしまったのである。

 

具体的には、そう、あれは英霊(サーヴァント)達がORTリンデちゃんの巣に大挙して押し寄せて来た時のことだった。

濃い味をした何かをORTリンデちゃん、ではなくまだ蜘蛛型だったORTはぺしぺしもしゃもしゃしていたのだが、なんだか自分に似ている感じがするヤツがいたので、それに擬態してみたとかなんかそんな感じ。

 

そういえば、戦いの果てに何かキラキラした光を見たような…、ORTリンデちゃんは立香ちゃんの瞳をじっと見つめた。

 

ぼんやりとした眼差しで立香ちゃんを見つめるORTリンデちゃん。その目からはいかなる感情も読み取れず、普通の人間なら忌避感すら持ちかねない。

だがそこはコミュ力MAXな立香ちゃん、そんなのはお構い無し、未だ水晶(と化した)敷き布団の上から動かないORTリンデちゃんの腕を引っ張って食卓まで連行する。もはや手慣れたものだった。

 

特に抵抗する事もなく食卓についたORTリンデちゃんの前に並べられた食事の数々。

冬休み中な立香ちゃんがいただきますと両手を合わせると、ORTリンデちゃんも彼女を真似(リピート)して両手を合わせた。ORTリンデちゃんは今は人の形をしているのだ。真似っこぐらいわけない。

 

味の薄い食事を堪能しているORTリンデちゃんに立香ちゃんが言うには、この後自分は予定があって出掛けなければならない、ちょうど両親も不在にしているのでORTリンデちゃんに留守番を頼みたいとのことだった。

ORTリンデちゃんは立香ちゃんをじっと見つめた。立香ちゃんはありがとーと喜んで少女の頭を撫でた。相互理解できているのかは神のみぞ、いや神さえも知らない。

ただまあORTリンデちゃんはお留守番は得意な方だ。なにせ彼女に近付く存在は皆クリスタルの彫像へと変わる。防犯対策要らずである。配達のお兄さんお姉さんは頑張れ超頑張れ。

 

身支度をして出掛けていった立香ちゃんを尻目に、ORTリンデちゃんは居間のソファーにぼんやりと座っていた。

つけっぱなしにしてあるテレビからは日本の地方都市でガス爆発だの、アメリカ西部でガス爆発だの、南米のどこかでガス爆発だのといったニュースが流れていたが彼女には関係の無い話だった。

 

ソファーを水晶で侵食しながらうつらうつらしているORTリンデちゃんを叩き起こすように大きな音が鳴り響く。玄関のチャイムだ。

そういえば立香ちゃんが出掛ける前に何か言っていた気がする。お留守番のお手伝いがどうとか。ORTリンデちゃんが水晶の上で丸まりながらぐだぐだしていると、誰かが玄関のドアを開けた。

 

ORTリンデちゃんのここでの名前──名付け親は立香ちゃんだ、当たり前の事だが彼女をORTリンデなどと呼ぶ者はこの世界に一人もいない──を呼ぶ声がする。声の主が居間へと近付いてきているが無反応なORTリンデちゃん、半分くらい眠っていた。

 

居間へと到着した人間はソファーで横になったORTリンデちゃんを見付ける。

あら、おねむの時間でしたか。

そんな言葉と共にORTリンデちゃんに静かに近寄る艶やかな女性。

 

近所のキアラお姉さんだ。

 

濡羽色の髪をかきあげて無垢な少女の寝顔を覗き込むキアラお姉さん。

妙な気配を感じてぱちりと目を開けたORTリンデちゃん。

 

 

目と目が合った。

 

 

 

────その日、最強は天敵に出会う

 

 

 

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