ねてろ!ORTリンデちゃん!   作:すろ

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シン・ORTリンデちゃん!

 

 

 

「───聖杯を、食べた?」

 

 魔術協会、巨大異星生物(ORT)特設災害対策本部にて。

 

「どういうことだ!?」

 

 怒号飛び交う阿鼻叫喚の渦、対応しなければならない異常事態が連発する地獄の底で、更に訳の分からない報告が重ねられたのだった。

 

「その、どう解析しても聖杯としか考えられない高密度の魔力反応が対象の上空で観測されて…」

 

 落下してきたそれを、対象(ORT)の王冠に似た口腔がにゅっとして、ぱくっとして、はい。

 

 連絡員からの情報をしどろもどろになりながら伝える報告者の説明に、しかし。

 

「全く意味が分からない」

 

 先程英霊(サーヴァント)が食われたとの報告はあったし、アレの捕食する対象に聖杯が加わったとて驚くことではないのだろうが。

 

 だが、そもそも、何故に聖杯がそんな所に?

 

使い魔(サーヴァント)との視界共有による目視の結果、旧式の戦闘機がそれらしきモノを運搬していたとのことです」

「何だと?まさか、何者かがアレに餌を与えようとでもしたのか?」

 

 その台詞になんとも言えない表情を浮かべる報告者の女性は、言い淀みながらも情報の続きを述べる。

 

「それが…、聖杯爆弾ではないかと」

「お前は何を言ってるんだ」

 

 狂人を見る目だった。彼女はただ挙がってきた情報を伝えているだけなのに。

 そして、本人も全く理解していないままにその情報の続きを読み上げようとしたところで、会議の参加者の中にその単語に大きく反応した者がいた。

 聖杯爆弾などという一周回って天才的な発想に心当たりがあったようで、その説明を忌々しげに引き継いで曰く。

 

「ああ、それか。以前極東で確認されたという、聖杯を丸ごと爆弾へと再構成した戦略兵器の事だな」

「誰だ!そんなものを許可なく使用した大馬鹿野郎は!」

 

 男は怒鳴り声を上げ、辺りを見渡す。

 

 さっと目を逸らす一人の魔術師。それはこの状況においては自白と同じだ。四方八方から突き刺さる刺々しい視線。

 針の筵、渦中の魔術師は観念して動機を告げた。

 

「こんな機会滅多に無いし、どさくさ紛れにイケるかなって」

「誰かコイツを摘まみ出せ!!」

 

 あーれー。

 

 連行されていく魔術師を尻目に報告の続きを促す。

 兵器だと言うのならば威力はどうか、そもそも極東で確認されたという聖杯爆弾はどのような結果を(もたら)したのか。

 

 報告者は顔を青ざめさせながら資料を読み上げていく。

 とあるサーヴァント(大うつけ)が巻き起こした、史上稀に見る大事件(ギャグイベント)の顛末を。

 

 本能が理解を拒絶する中、それでも気合いと根性で与太話を聞き終えて。

 なんとか情報を噛み砕いて出した答えは絶望的なもの。

 

「つまり、こういうことか。あの存在が、小型(ちびノブ)化するとはいえ、無数に増殖する可能性があるということだな?」

 

 会議室が、凍りついた。

 

 

 

────これは、ORTリンデちゃんと立香ちゃんが出会う少し前のお話

 

 

 

 

 

 

 

 じゃーん。じゃーん。じゃーん。

 

 ある日、家に帰ってくると珍しく目を覚ましていたスイちゃんがギターを弾いていた。

 

 すごく下手くそだった。

 

 まあ、初めてなら誰でもそんなものだろうし、むしろ初めてなのにギターを弾く姿勢がすごく様になっているので褒め称えるべきかもしれない。

 やだ、もしかしてウチのスイちゃんったら天才なの…?

 

 しかし、本人はどうやらその結果に納得いっていないようだ。

 半開きの眠たげな(まなこ)で某動画サイトのギター演奏動画と自身の手元を見比べながら、不思議そうにしている。

 

「スイちゃん?どうしたの?」

 

 その声でわたしが帰って来たことにようやく気が付いたのか、ぼんやりとコチラを見上げてきた。なになに?確認して欲しいことがあるの?

 

 スイちゃんの隣に腰掛けて、硬く柔らかでさらさらな銀髪を撫で撫でする。そうしているだけでスゴく癒される。多分マイナスイオンとかも出てる。マイナスイオンが何かは知らないけど。

 隣にいるだけでリラックスできるし、一家に一人スイちゃんな時代が来るかもしれない。…ダメ、スイちゃんはウチの子です!誰にも渡さないから!

 

 うん?ごめん、ぼんやりしてた。

 

 スイちゃんはもう一度ギターを弾き始める。やっぱり下手っぴだ。

 …あれ?音は違うのに、指の動きは完璧にコピーできてる?

 成る程、これは確かに不思議だ。映像と同じ弦を弾いているのに、聞こえる音が全く違う。動画を再生しているタブレットの音質が悪い訳でもないし。うーん。

 

「あ、そっか。チューニングが合ってないんだよ、多分」

 

 スイちゃんは首をこてんと傾げた。

 

「えっとね、チューニングっていうのは、…うーん。わたしも分かんない!」

 

 しょんぼりしちゃった。しょんぼりスイちゃんだ。

 ちょっとだけ肩を落とすスイちゃん、なんだか今日のスイちゃんはいつもに比べて感情表現がとっても豊かだ。

 悲しむ姿は胸が痛いけれど、少し嬉しいとも思ってしまう。

 

「スイちゃん…」

 

 じっとギターを見つめるスイちゃん。

 ごめんね。そのギター、わたしのじゃないから詳しくないんだ。

 でもほら、ネットで調べればいいことだから。ちょっと待っててね。

 

 スイちゃんはギターを高々と掲げて、

 

「スイちゃん?」

 

 放り投げた。

 

「スイちゃん!?」

 

 ガッシャーン、と大きな音を立て床に叩きつけられるギター。

 

 感情表現豊か過ぎるよ!もしや、これが噂の反抗期というヤツなの!?わたしはこの成長を喜べばいいの!?悲しめばいいの!?

 

 

「───凄い音がしましたけれど、大丈夫ですか?」

 

 スイちゃんにめっ、していると台所の方から届く淑やかな声。

 

「あ、キアラさん。ただいまー」

「はい、おかえりなさい。立香さん」

 

 ひょっこりと顔を出してきたのは尼僧服を着込んだ楚々とした女性、カルデアという所で働いている殺生院キアラさんである。すんごい美人さんだ。

 

 カルデアというのは、わたしがスイちゃんと一緒に暮らすにあたって色々と便宜を図ってくれている組織で、人類の未来を保障する為に色んな人達が手と手を取り合って頑張っているらしい。

 キアラさんはいい人だし、この前会ったお医者さんもいい人だったし、きっとカルデアというのは正義の味方の組織なのだろう。

 

 キアラさんがよく家に訪れるのも、カルデアの仕事の一環だ。セラピストである彼女は、スイちゃんの診察を任されているのだ。…そうか、キアラさんに聞けば良いのか。

 

「なんだか今日はスイちゃんが情緒不安定気味なんですけど、何か知ってますか?」

 

 わたしの膝に頭を乗せてぽやぽやし始めたスイちゃんの頬っぺたをつんつんしながら尋ねる。ぷにぷにだぜ。

 

「───はて、そうなのですか?(わたくし)に心当たりはありませんが」

 

 そっかー。

 わたしの指にがじがじ噛みついているスイちゃんを眺めながら考える。

 しばらく様子を見るしかないかなあ。まあ、女の子だしそんな日もあるのかも。

 

 あとスイちゃん、わたしの指を食べても美味しくないよ。それともまさか、つんつん攻撃への逆襲だったりする?

 

「ふふ、お二人は本当に仲良しさんなのですね」

 

 勿論です。二人は仲良し!

 私が(かじ)られているのとは逆の手を掲げてピースすると、スイちゃんも合わせてピースしてくれる。

 くらえっ、ダブルピースアタック!

 

 

 その様子を慈しむように見守るキアラさんの眼差しが、とても印象的だった。

 

 

 

 

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