ねてろ!ORTリンデちゃん!   作:すろ

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人魚姫の涙

 

 

 

「…スイ、ちゃん」

 

 

 握り締めた手から、少しずつ、少しずつ、力が抜けていって。

 

 

「…ご、めんね。………でも」

 

 

 光を乱反射する結晶化した街並み、幻想に満ちた水晶の世界に生々しい紅が広がっていく。

 

 

「…スイちゃん、……なら、きっ…と────」

 

 

 少女の瞳から、光が消えた。

 

 

 

 布団越しに届く柔らかな声音。

 髪を撫でる暖かな掌の感触。

 此方を見守る穏やかな眼差し。

 (かんばせ)を彩る楽しげな微笑み。

 

 思い起こされるのは、たくさんの幸せな日常(キオク)

 

 強く、強く、少女の手を握り締める。

 けれど、彼女が握り返してくることはない。

 

 いつもみたいに、優しく手を握ってもらうことは、もう、できない。

 

 

────力無く垂れた手に、雫が一つ。

 

 

 

 

 

 

 

ひとりに、しないで

 

 

 

 

 

 

 人魚姫(かいぶつ)は、心を手に入れた!

 終末の笛(ファンファーレ)が、鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『interlude‐Planet:Valkyrie』

 

 

 

 

 

 

 

 水晶渓谷外縁部に位置する監視施設、駐在している魔術師達は迅速に行動を開始した。

 先の戦いが終結して以来、沈黙を保っていた監視対象(ORT)が動き出したが故に。

 一工程(シングルアクション)で各組織へと情報を伝達できる礼装を起動、状況をリアルタイムで報告する。

 

 監視対象(ORT)は天を仰ぎ、その身を震わせた。

 そして、咆哮が響き渡る。

 

 ほとんど能動的な行動を取っていなかった監視対象(ORT)の、威嚇とも取れる叫び。

 

 しかし、それを聞いた人間が抱いた印象は、そんなものからは程遠く。

 

 誰もが、迷子の少女を幻視した。

 

 

 

 

 怪物の全身から漏れ出る群青の炎のような何かが勢い良く吹き上がる。

 天を焦がす焔は怪物自身へと向かい、その身を燃やし尽くした。

 焼け爛れた外皮は溶け出して流動し、蠢きながら一つの形を造り上げる。

 ボコボコと泡立ちながら浮き上がったのは、翼持つ人型。

 

 其れは、天使の彫像だった。

 

 一つや二つではない。

 次々と産み落とされる天使達は怪物の肉体から剥がれ落ちると、円を描く様にしてゆっくりと天へ昇っていく。

 一様に、その表情を悲嘆に染め上げながら。

 

 なんて、美しくもおぞましい光景か。

 

 数えきれない程の天使達が宙を舞い、空の彼方へと飛び立っていく。

 

 

 しかし、その内の何パーセントか、全体から見れば少数ではあるが、決して少ないとは言えない数の天使達が魔術師達の工房へと降り立つ。

 幾重にも張り巡らされた防壁を、紙を裂くように突破しながら。

 

 交戦は無意味だ。あらゆる魔術は天使達に効果を及ばさい。

 

 逃走は無意味だ。数多の天使達が監視施設の周囲を隙間無く旋回している。

 

 交渉は無意味だ。彼女には、もう、誰の言葉も届かない。

 

 諦めこそが唯一つの答え。

 

 

 天使は魔術師にゆっくりと近付くと、優しげに抱擁をした。沸き上がる悲鳴と共に、彼らの身体は徐々に、徐々に水晶へと変化していく。何を残すこともなく、彼らの全ては無価値へ堕ちて。

 

 天使達は丁寧に、念入りに、全ての生命をキレイなものに置き換えると、次の標的を探して空へと消えていく。

 

 其処にはただ、悲嘆に顔を歪めた水晶の彫像だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、天使(ワルキューレ)の軍勢が、世界中の空を覆い尽くし、

 

 

 

────黄昏が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、聖杯大戦に勝利し、人間としての生を願った魔術師(キャスター)英霊(サーヴァント)が最後に視た、一つの世界の未来(けつまつ)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …成程ねえ。

 

 ああ、ごめんごめん。

 彼の目的が何か、だったね。

 まあ、今の話を聞けばだいたいは予想できる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、だろうさ。

 

 ORTの端末として造られた少女(スイちゃん)は、立香ちゃんの為に(せいで)世界を滅ぼした。

 それは確定した未来(じじつ)なのだろう?

 ならば、その事実を裏返せばいい。

 立香ちゃんの為に、世界を守る。そういう風に誘導すればいいのさ。

 

 セラフィックスから彼女達の下へ殺生院キアラを派遣したのもその為だろう。

 彼女の扱う魔術、五停心観、そして万色悠滞はその目的にうってつけのものだからねえ。

 詳しくは後で資料を確認してくれたまえ。

 キミの立場なら閲覧に問題はないはずだよ。

 

 あまり気持ちのいい話ではないかもしれない。

 けれど、我々カルデアがやるべきことは何も変わらない。

 

 あの二人が幸せに生きられるように全力を尽くすことだ。

 それが人類の未来を保障することになるのだからね。

 

 納得できたようでなにより。

 

 んー?

 

 彼女を味方につけないといけないほどの敵がいるのか、って?

 

 ふうむ。そうだね。

 

 

 それこそ、異星からの侵略者(インベーダー)、とか?

 

 

 

 

 

 













「人類の危機にロマンなんて求めてんじゃねえ!」

 突如として現れた、人類に敵対的な天使の軍勢。
 奮戦虚しく人類は敗走を続け、彼女達はゆっくりと、しかし着実に支配領域を増やしていった。

 天使によって結晶化された大地、通称『水晶渓谷』では物理法則は改竄され、地球とは全く異なる法則が蔓延っていた。
 其処では、地球上での使用を想定しているあらゆる兵器、あらゆる魔術が用を成さなくなってしまう。戦闘機を深海で使用などできないのと同じように。
 故に人類は天使に対して効果的な攻撃を加えることができず、その侵攻を指を咥えて見ることしかできていなかった。

 人類の滅亡も間近、しかし人々は諦めることなく、迫りくる絶望に一丸となって抗っていた。

 そんな世界で一人、宇宙開発用の人型ロボットの開発を続ける男がいた。
 空の向こう、星の大海、未知なる星々を探険すること、それが男の夢だったから。

 嘲笑われるならマシな方、貴重な物資を下らないものに使うなと憎悪を向けられることもあった。

 それでも、男は夢を諦められなかったのだ。

────そして、それこそが人類の希望となる。

 異界秩序に支配された領域において、地球外で活動することを前提に開発されたその人型ロボットこそ、偽りの天使に届く反撃の刃になり得たのである!

 最後の希望を此処に。


 人々の期待を一身に背負ったロボット部隊と異形の天使達による、人類の存亡を懸けた戦いが、今、始まらない────!


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