島を離れてから7年が経った。
ビルと人で溢れた街での生活は俺を疲れさせる。
結局、大学に進学してでも就きたかった職には就けず、小さな会社でサラリーマンをしている。
仕事が楽しいわけではないが、上司や同僚に恵まれ、楽しく過ごせているのではないだろうか。
あの日から彼女とは連絡をとっていない。今、何処にいて、何をやっているのかも分からない。
連絡先を知っているかと言われたらノーなのだが。
今のことは分からないが、一昨年くらいまでは彼女をよく見ていた。
彼女に何があったのかは分からないがテレビCMやドラマに出ているのを見つけた時は驚いたものだ。
3年ほどの活動後、彼女は突如、芸能界から引退した。
詳細は不明。
ネットの噂だと結婚をした、好きな人を見つけた、両親の介護等と言われている。
俺はそんな噂ばかりの世界に疲れたのだと思う。
それでも、彼女が幸せに暮らしていてくれれば良いと願わずにはいられない。
「田嶋ぁ! 飯行くぞ!」
世話になっている先輩が叫ぶ声が聞こえる。
振り返ると事務所入り口で手を振る姿が目に入った。
「はい!」
返事をしてデータを上書きする。
「たじまん! 30秒で支度しな!」
更に俺を急かすように女性の声が響く。見なくても分かる。
世話になっている先輩、新山 涼哉の恋人の声だ。
オタクっ気があってすぐにネタをぶちこんでくれる。
「支度に5分もかかったお前が言うな」
このツッコミまでがお決まりとなっているのだから、関係は良好なのだろう。
財布を手に持ち先輩の下に向かう。
「お待たせしました。今日は何処へ?」
二人は俺に合わせて歩き出す。
「竹屋とかどうよ。つか、敬語直せ」
案を挙げながらも俺の頭を小突いてくる。
新山は人生的にも会社的にも2年先輩であるのだが、俺には敬語を止めろと言う。
理由を聞くと、友達に敬語は使わないだろう、とのこと。
共に聞いていた先輩の恋人である伊東 佳奈子さんは、尊敬できる人には自然と敬語が出るものだよ、と笑っていた。
とにもかくにも、俺の社会人生活はこの人たちのおかげで充実している。
食事を終えると、コンビニで飲み物を買い、会社に戻る。
「ふっふっふ...」
「あのなぁ、佳奈子...お前、会社にそれ持ち帰るのかよ...」
伊東さんがクジを引いて何かを持ち帰るのも日常だ。
普段と違うのは一つ。
「何よ、良いでしょ? 可愛いし」
デカイぬいぐるみということだ。しかも、別に可愛くはない。
「それをあとで部屋に持ち込まれる俺の身になれ。また狭くなるわ」
ほぼ同棲をしている新山にとっては邪魔でしかないらしい。
だが、それでも新山は伊東さんの趣味を認めている。理想的な関係だと思う。
「お前もニヤニヤすんな」
二人を見て楽しそうだ、と思っていた俺まで巻き込まれる。それも楽しく感じる辺り、俺の生活にこの人達は不可欠なのだろう。
「二人の関係を見てるのが楽しいんですよ」
言い訳だが事実でもある。
俺の言葉に二人とも顔を見合わせて笑っていた。
「よし、午後の仕事も頑張るぞ。頑張ったら晩飯奢ってやる」
「さすが涼ちん! そこに痺れる憧れるぅ!」
「いや、そのネタは分からんわ」
夫婦漫才のような二人。
俺もこんな風に笑い合える女性と出逢えるのだろうか。
そんな事を考えながら、午後の仕事に向かうのだった。
仕事を終え、帰り支度をする。結局、涼哉さんは伊東さんに連行されて帰っていった。
どうやら何かの記念日を忘れていたらしい。
専門のショップで彼女の好きなグッズを買わされるのだろう。
「それじゃ、お先します」
「ぉー、気を付けてな」
まだ残るという上司に声をかけ会社を出る。
冷蔵庫の中身を思い出しながら向かう先はスーパー。
コンビニ弁当も嫌いではないが、自炊の方が好きなものを食べれるから好きだ。
「何にするかな...」
会社帰りの人で溢れる喧騒の中、献立を考える。周囲の会話等からメニューを決めるのも楽しそうだ。
(ハンバーグ...カレー...炊き込みご飯...)
しかしピンとくるものはなく、決まる前にスーパーに着いてしまう。
仕方無しに野菜炒めでも作ろうと思い、野菜コーナーに向かう。
野菜室に残っている野菜を思い出しながら、野菜の値段を見極める。勿論、買う量は控えないと悪くするだけだ。
幾つかの野菜をピックアップし、カゴに入れると財布を取り出す。
あの日、彼女から貰ったキーホルダーが揺れる。
別に彼女を忘れられないわけではない。ただ、思い出を捨てたくなかっただけだ。
誰に聞かせるわけでもない言い訳だが、それでも俺にとっては大事な思い出だから。
「あれ...?」
だから。
「もしかして、田嶋...?」
彼女との再会は奇跡のようであった。
キャラクター設定
主人公
田嶋 要(たじま かなめ)25
離島の高校卒業後、本島の大学に進学。
同級生のヒロインに片想いしていたが、島を離れるということもあり、想いを伝えずに終わった。
大学を卒業後は中規模の会社(西村商事)に就職。
両親とは連絡を取り合うが、かつての同級生達とは連絡を取らずにいた。
ヒロイン
河野 三咲(こうの みさき) 25
高校卒業後、島で働いていたが、やりたい事が見つからず本島へ。
本島でバイト中にスカウトされ、女優を始める。
23歳になった年に、突然、メディアから姿を消す。
主人公の同僚
支倉 涼哉(はせくら りょうや)27
主人公の同僚。
一緒に飲みに行ったり、休日遊ぶくらいに仲が良い。
恋人がおり、関係は良好。
要の相談にのったり、食事を奢ったりと良い兄貴分。
友人間での敬語を嫌い、要にはタメ口で話すように言っている。
伊東 佳奈子(いとう かなこ)24
涼哉の恋人。
同じく要の同僚。
西村商事の事務員。
涼哉とはお互いを尊重し、ストレスのない恋愛が出来ている。
少しオタクっぽい所があるが涼哉曰く、趣味があるのは良いこと。
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これ以上はキャラを出しません。
この4人で掘り下げていきます。