FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第104話 幽霊船と新たな島3

 光己がオルガマリーとの約束を思い出してカルデアに連絡を入れてみると、オルガマリーはすでに準備を終えていて100ページほどもあろうかという分厚い詳細な資料を送ってくれた。

 しかもこれは1冊目に過ぎず、後日また追加があるという。職員も留守番のサーヴァントたちも美味しい食事には執着があるのだろう。

 

《で、そこに挟んであるメモが今夜の分の注文》

「ええと……あ、これですね」

 

 冊子を広げてみると注文票があったので、光己はそれに沿って聖杯で30人分ほどの食事を出してカルデアに転送した。カルデアにいる人数より多いのは、言うまでもなく1人で何人分も食べるサーヴァントがいるからである。

 

《ありがとう、それじゃまた後でね》

「はい」

 

 それでカルデアとの通信を終えると、光己はサーヴァントたちの方に向き直った。

 

「じゃあ俺たちもメシにしようか。海水浴の後はバーベキューが定番だっていうから、5つ星の素材をワイルドに食べまくろう!」

「おーっ!」

 

 もちろん現地班のメンツも美味しい食事は大好きである。山盛りの肉や野菜や魚介類をがっつりと堪能した。

 

「これが150年後の日の本の食事ですか……素晴らしいです!」

「うん、確かにこれは上等な食べ物だ。美味しみ」

 

 特にバーベキューなんて単語や調理法を知らない沖田2人は尚更だ。野獣のような勢いで咀嚼しては呑み込んでいる。

 

「いやこれはさっきも言ったけど5つ星の素材だから、よほどの金持ちでもない限り普段はここまでいいもの食べてないよ。

 バーベキューっていう調理法自体は珍しくないけど」

「なるほど、聖杯って便利なんですねえ。取り合いになるのも分かります」

 

 そんなことを話しながら夕食を食べ終わって一息ついたら、生身の光己とマシュは歯磨きをしてお風呂に入ることになる。今回は光己が出したグッズの中にビニールプールがあったので、地面を掘る手間は省けた。

 

「それじゃマシュ、別々に入るとお湯が冷めちゃって沸かし直さなきゃいけなくなるから一緒に入ろう」

「は、はい。先輩がそう仰るなら」

 

 光己は平常運転だったが、マシュが簡単に頷いてしまったのは夏の海で開放的になったからか、それとも水着サーヴァントになったせいか。光己は腰に手拭いを、マシュは胸から太腿まで覆うバスタオルを巻いて一緒にビニールプールに入った。

 なおお風呂に使えるほどの氷を適温に沸かすのはそれなりの手間がかかるので、光己が言っていることは嘘ではない。

 

「お風呂としてはちょっと浅いけど、寝そべれば問題ないな」

「そうですね、縁が枕代わりになりますし」

 

 光己は何食わぬ顔で和やかに話しているが、マシュのバスタオル姿には内心で結構ドキドキしていた。水着より肌の露出は少ないし生地も厚いのに何故だろう。シチュエーションの違いか、それとも簡単に脱げるからか。

 

「この謎を解明するため、俺はマシュを抱っこすることを試みた」

「先輩が何を考えてるのかさっぱり分からないのですが」

「つまりマシュともっとくっつきたいということだな」

「そ、そういうことでしたら」

 

 心の拠り所にしている人にストレートにスキンシップを求められて、マシュは顔を真っ赤にしながらもこっくり頷いた。

 浜辺での会話で心理的な距離が近づいたおかげかもしれない。

 

「で、では失礼して」

 

 マシュはそう言いながら、光己の脚の間にとすんと腰を下ろした。

 太腿と太腿がぴったりふれ合い、それにタオル越しとはいえ自分の背中と彼の胸板もくっついている。うまく表現できないが男性的な雰囲気が漂ってきて心臓がどきどきした。

 

「せ、先輩……!」

「うん、やっぱマシュはいい娘だなあ」

 

 光己はマシュのお腹に手を回して、さらにしっかりその体を抱きすくめた。

 太腿や背中の感触、それに濡れた体からほんのり漂う女の子の匂いが、彼女がデミ・サーヴァントなんて強者ではあっても生身の少女だという単純な事実を改めて認識させる。

 ついでにお腹に回した手の上にある大きな2つのマシュマロは触り心地も味も大変良さそうなので、ぜひマシュマシュしたかったが、実行に移したら怒られるでは済まなさそうなのでやめておいた。残念み。

 

「そ、それで謎は解明できそうですか?」

「そうだな、2時間くらいこのままでいたら手掛かりくらいはつかめそうな気がする」

 

 光己はやっぱりいつも通りだったが、マシュのタオルを脱がせようとしない点だけは評価していいかもしれない。

 

「それでは解明する前にのぼせてしまうのでは?」

 

 当のマシュもツッコミは入れつつも、彼の腕から出ようとする様子はない。むしろ嬉しそうにしている。

 一方そんな2人を物陰から羨ましそうに見つめている者もいた。

 

「むうぅ~~。ますたぁと2人でお風呂だなんて、風情がないビニールプールでわたくしたちも見ている前だとはいえなんて妬ましい」

「しかも寝る時は本当に2人きりなんですよね……ずるいです」

 

 清姫とカーマである。後ろにはヒロインXXもいた。

 

「私たちは霊体化すれば汚れは落ちますからお風呂はあくまで娯楽ですし、寝る時にテントに入る必要もありませんからねえ。取って代わる大義名分がまったくありません。

 ここを拠点にするなら無人島の時みたいに家を建てるんですが、今回は1泊だけですからそれもないですし」

 

 ルーラーアルトリアの船で寝るなら話は別だが、聖杯の魔力は無尽蔵に近いとはいえ無駄遣いは好ましくない。現状では割り込むのは無理だった。

 明日以降でもっと時間に余裕がある時なら、自分たちもお風呂に入るからという建前で攻められるかもしれないが。

 するとそのルーラーが現れて、清姫たちをスルーして光己のすぐそばまでずかずかと突入した。

 

「マスター、お(くつろ)ぎのところ申し訳ありませんが、サーヴァントが接近してきています!」

「!?!!??!!!???」

 

 立て続けの無慈悲な闖入(ちんにゅう)に光己は言葉にならない悲鳴を上げた。

 

「ガッデムホット! いや今は別に暑くないけど、っていうか何人くらい?」

「4騎です。この感覚だと海面の上を移動しているようですが、サーヴァントが走ったり空を飛んだりするよりは遅いですので、多分私のように船の宝具を持っているのだと思います」

「4騎もいっぺんにか……でももう暗いのに、なんでこんな時間に来るんだろう」

「いくつか考えられますが、特定は難しいですね」

 

 たとえ遠目が利くアーチャーがいたとしても、夜中に林の中にいる人間は見つけられまい。だからたまたま島を発見して寄港するつもりなのか、先方にもルーラーがいてこちらを探知したのか、あるいは何か想像もつかない理由があるのか。

 

「敵か味方かは分からないんだよな。うーん」

 

 どちらにせよ先方から来るというなら、戦える準備だけして待っていればいいか。光己はそう考えたが、次の情報で前提条件が変わってしまった。

 

「……いえ、ちょっとお待ち下さい。彼らはこの島に向かっているのではないようです。

 彼らがこのまま進んだ場合、この島の東を通り過ぎていくことになると思います」

 

 彼らが近づいた分観測が正確になったわけだが、これで彼らは自分たちに会いに来たのではないということが判明したのだ。よって選択肢はこちらから出向いて会いに行くか、島に残って遭遇を避けるかの2択となる。

 むろん彼らがこの島を発見して上陸してくる可能性もあるが……。

 

「どうなさいますか?」

「うーん。その人たちが誰で何をしてるのか分からんのがつらいとこだけど、人数はこっちの方が多いから行ってみるか。

 ……いや待った、サーヴァントって夜目は利くの? 俺は大丈夫だけど」

 

 光己は元一般人とはいえ、体感では9ヶ月近くもマスターを務めてきただけあって配慮がさらに行き届くようになってきたようだ。

 ルーラーが小さく首をかしげる。

 

「そうですね、その辺りは個人差があると思います。

 戦士系はある程度利くと思いますが、生前に夜間行動に慣れていない方は難しいでしょうね。

 何でしたらワルキューレに頼んで魔術で明かりを灯してもらえばいいかと」

「おおなるほど、それでいこう。

 っと、その前に本部に話通しておかないと」

 

 光己が通信機のコールボタンを押すと、具合よくエルメロイⅡ世が応答したので事情を説明すると積極策を支持してくれた。

 

《その4騎の正体や敵味方がどうであれ、接触すれば何がしかの進展はあるだろうからな。

 こちらの生体反応調査ではまだ捉えられていないが、何か分かり次第連絡するからそちらも注意して進むように》

「分かりました」

 

 そういうわけで光己たちはカルデアの備品であるテントだけは畳んで回収してから、ルーラーの船に乗って(くだん)のサーヴァントの所へ出立した。

 やがて暗い海面の上にいくつもの篝火(かがりび)が見えてくる。まだ遠目なのではっきりしないが、どうやら船が2隻いるようだ。

 

「うーん、あの船2隻にサーヴァントがそれぞれ1騎いるみたいな感じですね。

 あとの2騎は少し離れた海面上にいるようです」

 

 ルーラーがちょっと不思議そうに光己にそう報告する。4騎が仲間同士なら船は1隻で済ませればいいのに、もしかして敵同士で戦闘中なのだろうか?

 

《マスター、ターゲットが調査の圏内に入った。

 後方にいる2騎が前方にいる2騎を追いかける形になっているが、後方の2騎のうち1騎の周りには亡霊の集団が、もう1騎の周りにも怪しい……具体的に言えば戦国時代の特異点にいたちびノブと思われる反応が多数検出されている。

 どちらも単体では恐れるほどのことはない魔力量だが、両方とも百単位だから気をつけてくれ》

 

 するとⅡ世が詳しい状況を教えてくれたので、事情がだいぶ分かってきた。

 前方の2騎と後方の2騎が争っているのだと思われるが、前方組は船も部下もなくて不利だから逃げているのだろう。

 

「マスター、どちらと先に接触しますか?」

 

 前方組も後方組も時速20キロくらいに見えるから、ルーラーの船ならどちらからでも容易に接触できる。問題はどちらがカルデアにとってお得なのかだが、それが分かれば苦労はない。

 

「うーん、せめて真名が分かればなあ。いや1人は分かったようなもの……でもないか。ちびノブは長尾家にも武田家にもいたんだから、確実なのはこの特異点のどこかに信長公がいるってことだけだな」

「では前方組の方でしょうか」

 

 後方組のサーヴァントも船の甲板には出ているだろうが、取り巻きが大勢いると視認するにはかなり近づく必要がある。見るだけなら前方組の方が楽だった。

 

「うん、お願い」

 

 光己の指示で船が前方組2騎の方に舵を切る。

 すると先方もこちらの接近に気づいたらしく、船の上が騒がしくなってきた。しかしまだ声も砲弾も届かない距離なのか干渉はしてこない。

 やがて前方組の2騎がルーラーの視界に入った。足元に大きな白い板のような物も見えるから、大きな魚の背中に乗って移動しているのだと思われる。

 

「見えました! 2騎とも水着姿の女性みたいですが、白い水着の方はジャンヌ・ダルク、アーチャーです。宝具は『豊穣たる大海よ、歓喜と共に(デ・オセアン・ダレグレス)』、海棲の幻獣を呼び寄せて一斉攻撃させるもののようです。

 黒い水着の方は……こちらもジャンヌ・ダルク!? でもクラスと宝具は違いますね。クラスはバーサーカー、宝具は『焼却天理・鏖殺竜(フェルカーモルト・フォイアドラッヘ)』、火竜を召喚して攻撃させるものと思われます」

「……ほえ!?」

 

 光己にも2騎の姿は見えていたが、ルーラーの説明で頭がこんがらかって間の抜けた声を上げてしまった。

 確かジャンヌ・ダルクは裁定者(ルーラー)で宝具は結界だったはずだが、アルトリアズのように別側面、いや水着化でクラスチェンジしたのだろうか? しかし黒い方は明らかに雰囲気が違うが……。

 まあどちらにせよ、ジャンヌならフランスの時の記憶があろうとなかろうと味方になってくれるだろう。光己は前方組と接触することにした。

 

「それじゃヒルド、オルトリンデ、XX、カーマ、沖田さん。2人を連れて来てくれる? もちろん断られたら無理強いしなくていいから」

「りょうかーい!」

 

 光己が空を飛べる5人にジャンヌ2人の救出を頼むと、彼女と面識があるヒルドは元気よく同意したが、信長と知己である沖田は逆にためらいがあるようだった。

 

「マスター、ノッブと敵対するんですか? いえ反対というわけじゃないんですが」

「いや俺も信長公と敵対したくはないけど、あの船にいるのが信長公とは限らないし、ジャンヌを追いかけてる理由を先に知りたいからさ。まずはジャンヌを救出するだけってことでひとつ」

「分かりました! では沖田さんの初仕事、行ってきます!」

 

 こうして沖田も納得して、5人が甲板から飛び立つ。

 近づいてみると状況はさらに明らかになった。ジャンヌ2人は白い鯨の上に乗っていて、後ろから追ってくる亡霊と戦いながら逃げているようだ。

 

「これはまず亡霊を攻撃して、味方であることを示した方がいいですね」

「そうですね、その方が話が早そうです」

 

 オルトリンデの提案にXXたちも賛成して、声をかける前にパフォーマンスをすることになった。まずは射程が長いカーマがさとうきびの弓に矢をつがえる。

 

「いきます! えーい!」

 

 放たれた光の矢が空中で十数本に分裂し、それぞれが別の亡霊を刺し貫く。亡霊の数が多いので、1本の矢で2体3体を射抜いていた。

 ただし亡霊は結構タフで、頭か咽喉か心臓に当たらないと成仏しないようだ。

 

「面倒くさいですねー」

 

 カーマがいかにもものぐさそうにごちたが、こんなことをすればジャンヌ2人も当然気づく。

 援護射撃で亡霊の数が減ったところでヒルドとオルトリンデが2人に近づくと、白い方のジャンヌが声をかけてきた。

 

「貴女たちは……!? 亡霊を攻撃したということは、私たちを助けてくれるのですか!?」

「こんばんは、ジャンヌさん。私たちのことを覚えていますか?」

「え、もしかしてオルトリンデさん!? それにヒルドさんも!? ああ、ここは特異点ですから、マスターが修正に来てるというわけですか」

「はい、あの白い船に乗っています。よければ来てほしいと言われまして」

「はい、もちろん!」

 

 幸い白いジャンヌはフランスでのことを覚えていて、オルトリンデの誘いにすぐ応じてくれた。

 一方黒い方のジャンヌはといえば。

 

「そっか、特異点ならアンタたちが来るのも当然よね……このまま鯨の上に乗っててもジリ貧だし、しょうがないから行ってあげるわ」

「それはどうも……って、貴女はまさか竜の魔女!?」

 

 オルトリンデたちは彼女のことをアルトリアに対するアルトリアオルタのような存在だと思っていたが、間近で見たらフランスで敵対した竜の魔女にそっくりだった。彼女は最後に中立になったからかこちらへの害意はないようだが、知名度極低のはずの彼女がなぜはぐれサーヴァントになって現界しているのか!?

 

「ええ、その竜の魔女よ。気がついたらこんな海と小島しかない所に現界してて、しかも姉を名乗る不審な女に付きまとわれるなんて、もう最悪だわ」

「姉を名乗る不審な女?」

「もう、貴女はどうしてそうつっけんどんなんですか。ツンデレも過ぎると嫌われますよ」

「大丈夫よ、アンタに好かれたいなんてこれっぽっちも思ってないから」

「もうー、オルタってば天邪鬼ばかりでお姉ちゃん悲しいです」

「と、とりあえずマスターの所に行きましょう」

 

 ジャンヌ2人が何かよく分からないやり取りを始めたが、オルトリンデたちとしてはそれに付き合うよりマスターの指示を果たす方が優先である。強引に話に割り込んで、2人を連れてルーラーの船に戻ったのだった。

 

 

 




 海といえばお姉ちゃんですよね!(洗脳済み感)
 しかし原作のサーヴァントがまだ1人しか出て来てないのにフライング勢ばかりぽこじゃか現れるこの特異点の明日はどっちだ(ぉ



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