FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第105話 お姉ちゃんパワー

 ルーラーアルトリアの宝具の船は彼女が高機動型を自称するだけあって、その辺の帆船とは段違いのスピードを持っている。ジャンヌ2人を回収すると予定通り撤退に移ったが、追ってきた後方組の2隻との距離は広まるばかりだった。

 

「これなら逃げ切れるかな?」

「そうですね。島に戻りますか?」

 

 ルーラーの問いかけに光己はかぶりを振った。

 

「いや、それだとあの2隻も島に来るだろ。ジャンヌの話聞かなきゃいけないし、今日はもう疲れたから荒事は避けたい」

「では一定の距離を保ちつつ島の岸沿いに周回して、機を見て離脱というのはいかがですか?」

「そうだな、それでいこう。手間かけるけど頼むな」

「はい」

 

 今日はいろいろあったから、光己が危険で疲れるサーヴァント戦を嫌がるのも分かる。ルーラーは素直に頷いて、サーヴァント探知と操船に集中するためいったん下がった。メイドオルタや玉藻の前といったジャンヌとも信長とも面識がないサーヴァントも、万が一の警戒のためにルーラーと一緒に引っ込む。

 そうしたら光己とジャンヌ2人との対談だ。

 

「ええと、2人とも俺たちのこと覚えてて協力してくれるってことでいいの?」

「はい、妹ともどもよろしくお願いしますね!」

「……妹?」

「誰が妹よっ!」

 

 ジャンヌが口にした妙な単語に、光己と竜の魔女の返事が唱和する。

 その当然の疑問に、ジャンヌは自説がまるで宇宙の真理であるかのような確信的な表情と口調で答えた。

 

「マスターはオルタの生い立ちをご存知ですよね? 私をモデルにして私の代わりとして生まれた存在なら娘、は年齢的に無理がありますから、妹のようなものといっていいのではないでしょうか」

「うーん、なるほど」

 

 ジャンヌは農家の娘という純庶民。しかも若い女性の身でありながら、大勢の将官や兵士たちを指揮し鼓舞してきたカリスマ性と影響力、そして強い信念を持つ人物だ。そんな彼女が本気で信じていることを語るなら、メンタル的には一般人である光己が簡単に頷いてしまうのはむしろ当然といえるだろう……。

 

「ちょっとアンタ、あっさり認めてるんじゃないわよ!」

「はっ!」

 

 幸い今回は黒い方のジャンヌのインターセプトにより正気に返ったけれど。

 

「これが弱体化してない100%のジャンヌ・ダルクの信仰パワーか……救国の聖女と称えられたのも分かるな」

「アンタがチョロいだけよ」

「うぐぅ……っと、それであんたのことはどう呼ぼうか。ジャンヌっていうだけじゃ紛らわしいだろ」

「そうね、ジャンヌオルタとでも呼んでちょうだい。あとそっちの自己紹介も」

「ああ、そういえば自己紹介まだだったっけ」

 

 こうしてお互い名乗ったところで、光己はいよいよ本題に入った。

 

「それじゃえーと……まずジャンヌたちを追いかけてた2人のこと教えてくれる?」

「はい。まず亡霊がいた船の主が『アルトリア・ペンドラゴン』で、もう1隻には『織田信長』がいます。彼女にはちびノブというよく分からない生き物が従っていました。

 サーヴァントの数は同じですが、数百人もの部下がいては勝ち目は薄いので逃げていたのです」

「やはりノッブがいるのですね。それでなぜ争いになったのですか?」

 

 信長の名を聞いた沖田が気ぜわしげに訊ねる。やはり気になるようだ。

 

「はい。私はもちろんオルタもアルトリアさんも織田さんも人理焼却に賛成ではないというのは共通なのですが、具体的な行動方針の違いで決裂しまして」

「その違いとは?」

「私にも詳しいことは分からないのですが、この特異点のどこかにある『契約の箱(アーク)』に神霊を捧げると、特異点がまるごと崩壊して人類滅亡につながるらしいのです」

 

 もっとも神霊と契約の箱の所在地は4人とも分からなかったから足で探すしかないのだが、アルトリアは禍根を断つため、黒幕に挑むより先に神霊を殺すか箱を壊すことを主張した。

 一方信長はこの世界の存在ではなく平行世界から飛ばされてきた身で、元の世界に帰るためには聖杯を入手するかこの特異点を修正するかする必要があり、またそれとは別に神霊を素材にして何か怪しげな生体兵器のようなものを作りたいらしい。

 アルトリアとしては殺す対象が平行世界で生体兵器の材料にされても問題はないので2人の利害は一致したが、ジャンヌにはとても納得できない話なので物別れになったのだった。

 

「そしたらあの2人、ならば是非もなし!とか言って襲ってきたのよね。バーサーカーの私より血の気が多いってどうかと思うわ」

 

 最後にジャンヌオルタがそう締めると、沖田はふーむと首をかしげた。

 

「ちょっとノッブらしくないような気がしますが……あの人も平行世界に飛ばされるの好きですねえ。

 いえ、私も覚えてないだけで、一緒に飛ばされたのかもしれないんですけど」

「あとアルトリアが亡霊を率いてたってのは気になるなあ」

 

 彼女にそんな能力があっただろうか。疑問に思った光己は同一人物に訊ねてみた。

 

「XX、『アルトリア・ペンドラゴン』って亡霊を従えたりできるの?」

「できますよ。いえ私やルーラーやメイドオルタには無理ですが、ランサーオルタ……マスターくんが戦国時代で会った北条アルトリア・オルタですね。

 彼女は『嵐の王(ワイルドハント)』の伝承を取り込んでいますので、亡霊や妖怪の類を操ることもできるんです。

 そうそう、お昼に会ったドレイクさんも、将来はこの猟師団のトップとして名前が挙がることになるんですよ。ここのランサーオルタが船を持ってるのはその辺のつながりでしょうね」

「ほむ、なるほど」

 

 ランサーオルタの性格がアルトリアオルタに近いものだとしたら、人理を守るために神霊1柱を殺そうとしてもおかしくはない。生前の(ノーマルの)彼女でさえ、戦に勝つために村1つを干上がらせる決断をしたのだから。

 信長も彼女が建造したという「鉄甲船」は有名だから、海の特異点に来るなら宝具として持って来ることもあるだろう。生体兵器の件は想像もつかないが。

 

「あー、ちょっと待った。ジャンヌが言う神霊って、もしかしてカーマや玉藻の前のことか?」

 

 光己がふと思いついてそう言うと、ジャンヌ2人もはっとした顔をした。

 

「なるほど、それはあり得ますね。神霊なんてそうそう現界するものじゃありませんから」

「だとしたら、黒幕はよほど遠くまで見える目と陰険な性格を持ってることになるわね。

 人理を修復しに来た人たち自身を崩壊の引き金にしようっていうんだから」

 

 すると当のカーマは気まずげに目をそらしたが、すぐに気を取り直して反論した。

 

「いえ待って下さい。私たちは危なくなったら強制退去でカルデアに帰れるんですから、生贄には適さないんじゃないですか?」

「んん? うーん、確かにそうか。じゃあやっぱり別の神霊がいるってことになるのかな? ドレイクさんが沈めたポセイドンのことだったらもう心配いらないんだけど。

 どっちにしても、カーマと玉藻の前がいたら、ランサーオルタや信長公と共闘するのは無理ぽいな」

 

 逆にカーマと玉藻の前に本部に帰ってもらえば共闘できるかもしれない。2人帰して2人加えるのだから人数的には差し引きゼロだが、戦闘を避けられるメリットはある……と光己が計算していると、表情で察したのかジャンヌがずずいっと身を乗り出してきた。

 

「マスター! まさかあの2人と組むつもりなんですか!?」

「ふえ!? って、顔! ジャンヌ顔近いってば」

 

 鼻と鼻がくっつきそうな至近距離だ。美人が近づいてきてくれるのは嬉しいが、いきなりは心臓に悪い。

 顔が近いと言われてジャンヌは10センチほど引いたが、光己を見つめる視線は厳しいままである。もっとも彼も戦闘の都合だけでランサーオルタや信長との共闘を考えたのではない。

 

「問題はその神霊がどんな人、じゃない神様かってことじゃないかな。神様だからって俺たちに味方してくれるとは限らんだろ?」

 

 たとえばパールヴァティーのような善良で友好的な神霊なら、予防的に殺しておくなんて非道なことはしたくないが、例のポセイドンみたいな人類の敵なら討つしかないわけで。

 しかし神霊が何柱来ているか分からないなら、むしろ契約の箱の方をターゲットにした方が良いような気もする。光己がそう言うと、ジャンヌは困った様子で考え込んだ。

 

「…………うーん。マスターの言うことはもっともですが、契約の箱は超級の聖遺物ですから、そう簡単に破壊できるとは思えないのですね」

 

 サーヴァントでも手を触れれば問答無用で消滅するが、では剣や斧で叩き割るのは大丈夫なのか、それが駄目なら大岩を転がして圧し潰すとかビームで吹っ飛ばすとかならどうなのか。仮にも「神」に捧げられたものだけに、そのような不敬を働けば仲間ごと消されないかという懸念もある。

 

「持ち主ならその辺の事情も分かるのでしょうけど、私たちでは何とも」

「なるほど、そっちはそっちで難しいのか……」

 

 やはり特異点修正は一筋縄ではいかないようだ。光己は小さくため息をついた。

 

「でもさしあたって、今ランサーオルタたちと戦う必要はないよな。味方にもできないけど」

「そうですね。彼女たちも魔術王の味方というわけではありませんから」

 

 つまりこのまま逃走するということだ。一応カルデア本部に連絡して意見を求めると、エルメロイⅡ世も同意してくれたのでこの方針でいくことになった。

 

「それで、どちらに向かうのですか?」

「うーん、今日はあの島で寝る予定だったからまだ考えてないんだよな」

 

 エイリークの航海日誌はまだ読んでいないので、今目指せるのはドレイクが言った「見えない壁で上陸できなかった島」だけである。しかし夜中にそんな所に赴くのはいささか無鉄砲というものだ。

 

「ジャンヌたちは何かありそうな所知らない?」

「ではここから北東にカルデラの島がありますので、そこに行ってみませんか? 私たちが現界した所なんですが、まだ探索はしていませんので。

 ランサーオルタさんと織田さんはルーラーではないはずですから、いったん撒いてしまえば私たちを見つけることはできないと思います」

「じゃ、そうしよっか」

 

 ここからの距離は150キロくらいと思われるが、ルーラーの船の浮遊モードなら1時間ほどで着ける。当然ランサーオルタたちには追いつけないから、今夜はそこで寝ればいいだろう。

 この島に向かった時と同じく光己とマシュが船室に引っ込むと、ジャンヌ2人とヒロインXX、沖田2人もついて来た。見張りは交代制なのだ。

 

「うわあ、まるでお城の広間みたいにきらびやかな所ですね!」

「うん、まさにそれ。名匠がつくった広間なんだってさ」

「そんなことどうでもいいから、アンタたちの事情も聞かせなさいよ」

 

 ジャンヌは船室の造作の美しさに感心してはしゃいでいたが、オルタの方はいたってドライであった。

 仕方ないのでパーティールーム……はちょっと落ち着かないので休憩室で話すことにする。

 

(それにしてもジャンヌはやっぱ美人だしスタイルもいいよなあ……。

 このおっぱいで聖女は無理、いやマルタさんもおっぱいだったから逆に母性愛の現れということか?)

 

 部屋に行く途中に光己が口には出せないことを考えていると、ジャンヌオルタに見咎められてしまった。

 

「アンタ何か変なこと考えてない?」

「……変って具体的にはどういうこと?」

「だから変なことよ! もういいわ!」

 

 光己がごまかすために反問すると、ジャンヌオルタは自分で口にするのは恥ずかしいようで、顔を赤くしてぷいっとそっぽを向いてしまった。そっち方面はずいぶんと初心なようである。

 その隙に光己は素早く話題を変えた。

 

「ところでジャンヌオルタはどういう心境の変化で俺たちの味方になってくれたんだ?」

「ん? ああ、確かにそれは気になるわよね。

 実際私がアンタたちを助ける義理はないんだけど、でもあのままフランスの特異点と一緒に消失じゃつまんないでしょ? 何でか分からないけどせっかく現界できたんだから、この機に私の存在を確立しようと思ったのよ」

 

 カルデアに味方すれば関係者の記憶や記録に残る、つまりこの世界に存在できる根拠を得られるということだ。敵になる方向でも目的は遂げられるが、それでカルデアが負けてしまったら存在確立どころか世界が滅びてしまうから意味がない。

 

「何で現界できたのかはホントに分かんないんだけどね」

 

 英霊の座に登録されていないどころか実在すらしていないのだから、英霊召喚の儀式では召喚できないはずなのに。ジャンヌオルタ自身不思議に思っているのだが、すると後ろからジャンヌが覆いかぶさってきた。

 

「あ、そういえばまだ言ってなかったですね。それ私です。

 聖杯から召喚される気配を感じたので、その前にちょっと煉獄に行って貴女も引っ張り出したのですよ!

 お姉ちゃんに感謝して下さいね。えっへん」

「ぶーーーっ!」

 

 ジャンヌオルタは噴き出した。まさかこの姉を名乗る不審者の仕業だったとは!

 

「思い出したわ! ピエールと遊んでたらいきなり後頭部を殴られて気絶して、気がついたら現界してたのよね。なんてコトしてくれるのよアンタ!」

「だって時間がありませんでしたから。言葉で説得してもすぐにはついて来てくれなかったでしょう?」

「そりゃそうだけど、そもそもなんでアンタが私を引っ張り出そうとしたわけ!?」

「姉が妹を煉獄から助けたいと思うのは当然では?」

「だから姉でも妹でもない!」

 

「うーん。『ちょっと』で煉獄まで行ってサーヴァント引っ張り出して来られるなんて、やはりジャンヌはすごい聖女だった……」

 

 見方によっては微笑ましくも見える姉妹(?)ゲンカを眺めながら、光己は茫然と呟くのだった。

 

 

 


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