FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第106話 ちゅうにパワー

 光己たちはジャンヌオルタをなだめて姉妹(?)ゲンカを仲裁すると、休憩室に入ってテーブルについた。

 

「それじゃ咽喉も乾いたし、何か飲みながら話そうか」

「はい」

 

 マシュが収納袋から人数分のコップを出し、光己がそれに聖杯でお茶を注ぐ。

 そのどこかで見たような手のひらサイズの杯から7人分ものお茶が出てくるという明らかに怪しい事態にジャンヌ2人は思い切り目を剥いた。

 

「あ、あの、マスター」

「それ、もしかして聖杯じゃないの!?」

 

 常識的に考えてあり得ないことなので2人はまだ半信半疑だったのだが、光己はあっさり肯定した。

 

「そう、聖杯だよ。ドレイクさんとタイマン張って勝った報酬として手に入れたんだ」

「つまりどういうことだってばよ!?」

 

 ただ疲れのためか説明が端的すぎたので、理解しきれなかった邪ンヌの口調がちょっと変になっていたが……。

 気を落ち着けて再説明を求める。

 

「もう少し詳しく話してくれるかしら?」

「うん、それじゃこの特異点に来た最初のところから話すかな」

 

 というわけで、光己はレイシフトで海賊船の甲板に着いた所から現時点までの出来事を簡単に説明した。

 

「たった1日の間にずいぶん色々あったのねえ。それにしてもそのドレイクって何者!?

 今の話が本当だったら、聖杯ナシの普通の海賊船だけで海神(ポセイドン)ボコったってことになるんだけど」

「うん、信じられないのは分かる」

 

 しかし今ここに聖杯があるのだから、ただのハッタリや夢物語ではないのは確かだ。将来「太陽を落とした女」「星の開拓者」と称えられるだけのことはあるということか。

 

「でもそんな奴と一騎打ちしてよく勝てたわね。

 それとも船の上では強いけど陸の上じゃ今イチなタイプだったとか?」

「いや、陸の上でも強かったよ。でも俺には無敵アーマーと炎のブレスがあるからさ」

「無敵アーマー? 炎のブレス? 何それ」

 

 白いジャンヌは光己の特殊能力を知っているが、オルタの方は知らない。不思議そうな顔で訊ねると、光己も気づいて説明した。

 

「ああ、俺はファヴニールの血のおかげでジークフリートみたいに肌が超硬くなったんだよ。火を吐けるようになったのは清姫かタラスクのおかげかな。

 あー、そう考えるとジャンヌオルタには感謝しなきゃな。無敵アーマーがなかったら俺はローマで死んでたし」

「……!?」

 

 ジャンヌオルタは光己の話が腑に落ちるまでに数秒の時を要したが、やがて理解すると両手でテーブルをバンッと叩きながら立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと何それ!? それじゃまるで私のおかげで命が助かったって言ってるみたいじゃない」

「うん、まさにそうだよ。もしジャンヌオルタがファヴニール以外の竜を呼んでたら、俺は無敵アーマーも竜モードも会得できなかったんだから」

「あわわわわ……!?」

 

 よほどショックを受けたのか、口元を震わせてまともに喋ることもおぼつかない様子の邪ンヌ。

 何しろ復讐の魔女として、フランスひいては人類を滅ぼすためにしたことが、逆に人類を救う手助けになっていたというのだから。いや今は復讐の志は捨てているが、当時は間違いなく裁定者(ルーラー)という名の復讐者(アヴェンジャー)だったのに。

 すると空気を読めない不審者が、また後ろから覆いかぶさってきた。

 

「意図せずに人類を救ってたなんて、やっぱりオルタはいい子だったんですね! お姉ちゃん感激です」

「うるさい寄るなあっち行けーーーー!」

 

 気恥ずかしさで半泣きになりながら、自称姉を追い払おうと躍起になっているその姿は、もはや完全に単なるグレたJKで、かつてフランスで悪のボスを張っていた頃の貫禄は微塵も残っていなかった。いと哀れ……。

 

 

 

 

 

 

 邪ンヌはジャンヌを何とか引き剥がして気を鎮めると、さっき光己が話したことの中で、まだ意味が分かっていなかったフレーズについて訊ねた。

 

「それはそうと、アンタさっき『竜モード』とか言ってたわね。何のこと?」

「ん? ああ、言葉の通りだよ。ファヴニールに変身できるんだ」

「デジマ」

 

 しかも今こうして人間の姿でいるからには、竜モードと人間モードを自在にチェンジできるということになる。ジャンヌも邪ンヌも驚いた。

 

「言ったからには見せてもらえるわよね!?」

「そだな、ここじゃ無理だけど島についたら」

 

 そんなことを話している間に船は無事カルデラの島に到着したが、上陸の前にルーラーのサーヴァント探知と本部の生体反応調査を行わねばならない。その結果、この島にはサーヴァントやそれに匹敵する強力な生物はいないことが判明した。

 

「よかった、それならゆっくり休めるな」

 

 安心して寝られるのは喜ばしいことだ。一行は島に上陸すると、探索は明日にして今日はテントを張って休むことにした。

 むろんその前にジャンヌ2人との約束を果たさねばならないが。

 

「先に服を脱がなきゃならないのがつらいんだけどな」

「そういう場面は行間を読んでもらうってことで省くべきじゃないの!?」

 

 邪ンヌが顔を真っ赤にして抗議してきたが、こればかりは致し方なかった……。

 そしていよいよ、彼女の目の前に懐かしき黒い巨竜が出現する!

 

「うわ、本当にファヴニールじゃない……! 胸の紋章もちゃんとあるのね」

「でも白い鳥の翼がありますね。どういうことなんでしょう」

 

 ジャンヌが不思議そうにごちると、邪ンヌは少し考えてから自信満々に推論を披露した。

 

「それはきっと『神』の要素よ。

 さっきあいつタラスクの名前出してたでしょ? つまり『魔女に召喚された邪竜』と『聖女に従う神獣の子の竜』の血が合わさってああいう姿になったってことね。

 神と魔の間に生まれた忌まわしき邪竜、いえ邪聖竜が人間を救う使命を課されるなんて皮肉なものね。

 でもアイツからはまだ秘められた力を感じるわ。今はまだ眠っている破壊と創造の権能が目覚める時、アイツは竜を超えた竜、第八の人類悪として顕現するのよ」

「……」

 

 邪ンヌのイミフな長広舌にジャンヌやマシュはまったくついていけなかったが、光己だけは正確に理解して答えることができた。

 

「まったくその通りだ。さてはおまえも邪〇眼を持つ者か?」

「ええ、私の封印されし右目が私とアンタは同じ宿業(サガ)を持つ者だと見抜いたのよ。

 残念ね、もし私に『竜の魔女』のスキルが残ってたら、アンタを更なる高みに押し上げてやれたんだけど」

「不要! この藤宮光己、天を掴むのに人の手は借りぬ」

「そうね、それでこそ私のマスターだわ。今こそ魂の盟約を結ぶ刻よ!」

「まこと汝の言う通り! 我らが永遠の絆に光と闇の祝福を!」

 

 そして何故か意気投合してサーヴァント契約までしてしまう。これにはさすがのお姉ちゃんも開いた口が塞がらなかった……。

 元人類の敵だった妹がマスターと仲良くなったのは喜ばしいことだけれど。

 

「それで、今はどこまでできるの?」

「パワーはフランスの時のファヴニールには及ばないけど、ファヴニールにできることはだいたいできると思うよ。

 普通のブレスはもちろん滅びの吐息も吐けるし、魔力吸収も魔力感知もワイバーン産むのもできるから」

「へえ、やるじゃない」

「ま、あれから俺の体感だと7ヶ月経ってるからな」

 

 しかし幸い契約が済んだら2人とも普段のテンションに戻ったので、マシュとジャンヌは心の底から安堵した。

 ……が、光己の語りはまだ終わりではない。

 

「おっと、忘れるところだった。ファヴニールにできなくて俺にできる技が1つあるんだ」

「へえ、どんなの?」

「ああ、今見せるよ」

 

 光己はそう言って人間の姿に戻ると、パンツとズボンだけ穿いてから角と翼と尻尾を出す形態、彼が言うところの「神魔モード」をジャンヌ2人に披露した。

 敬虔なキリスト教徒であるジャンヌがこれに驚かないはずがない。

 

「こ、これは……!? マスターは確かに人間のはずなのに、これほど強い神性と魔性を同時に感じるなんて」

「フッ、どうやら私の見立ては正しかったようね」

 

 邪ンヌの方はむしろ自慢げに口角を上げて邪悪っぽい笑みを浮かべていたが……。

 光己も彼女に顔を向けてニヒルっぽく笑ってみせた。

 

「ああ、さすがは我が盟友といったところか。

 どこにでもいる商家の使用人の子が、運命の悪戯で世界を救う使命を課せられたってだけでも劇的なのに、その正体は竜にして神にして魔だったとは。我ながら属性多すぎて辛いぜ」

「やるわね、盟友として鼻が高いわ」

 

 邪ンヌはそう言って光己を称えたが、しかし彼が一介の庶民の出身であることが気にかかった。

 何故ならジャンヌ・ダルクもそうだったから。ましてや彼は聖女や魔女どころではなく正真正銘の人外なのだ。

 表情を引き締め、真面目な口調に切り替える。

 

「―――でも気をつけなさいよ。そう、用が済んだらポイ捨てってハメにならないようにね」

「うん、ありがと」

 

 光己はフランスに行く前にジャンヌ・ダルクについて勉強していたから、彼女が言いたいことは分かる。

 

「いや所長やカルデアの職員さんたちはいいんだけど、国連や魔術協会が信用できるかっていうとなあ。だから俺の手柄はみんな所長とⅡ世さんにあげて、代わりに給料に色つけてもらうのがWinWinかなって」

 

 別に英雄願望もないしなー、と光己が頭の後ろで手を組んで伸びをしながら言うと、マシュがいかにも不服そうな口ぶりで話に加わってきた。

 

「そんな、それでは先輩が命がけで頑張ってきたことが、なかったことになるじゃないですか。納得できません」

「うん、だからそうしたいんだよ。後ろ盾のない未成年の英雄なんて、ロクでもない連中が寄ってくるに決まってるからな。

 それ以前に人理修復のことは一般社会には公表されないんじゃないか? 確か魔術師って神秘の秘匿ってのが大事なんだろ?」

「そ、それはそうですが」

 

 箱入りなマシュには、光己の主張に反駁する根拠を思いつけなかった。しかしまだ同意はできないらしく、むーっとした顔をしている。

 仕方ないので光己は本音を語ることにした。

 

「分からないのか、マシュ。そのような物より、俺はサーヴァント大奥が欲しいと言ったのだ」

「せ、先輩のえっち学派ーーーー!!」

 

 マシュは光己を突き飛ばして逃げて行った。

 

 

 

 

 

 

「え、ええと。人理修復の後でマスターの功績がどうなるかはともかく、今は目の前のことを考えませんか。

 さしあたっては、魔力に余裕があるなら私とも契約をお願いします」

 

 ジャンヌは光己の「神魔モード」に驚きはしたが、避けたり非難したりするつもりはないようだ。それより話題を変えたいらしく、サーヴァント契約をもちかけてきた。

 

「ん、分かった」

 

 ジャンヌと契約すると、この特異点にいるサーヴァントだけで14騎めになるが、光己は聖杯を所有する竜人である。その上でカルデアからの供給もあるので、魔力不足に陥る恐れはなかった。

 その後は寝るまで特にすることもなかったが、光己はふとジャンヌオルタが腰と太腿に差している3本の日本刀に目を留めた。

 

「ジャンヌオルタ、それって本物の日本刀なの?」

「ん? ええ、そうよ。手作りだけどね」

「マジか!?」

 

 それはむしろどこかで買ったというより難易度激高ではあるまいか。光己はがぜん興味を持った。

 

「もしよかったら見せてくれる?」

「ええ、いいわよ」

 

 するとジャンヌオルタは腰に差した一口を鞘ごと抜いて渡してくれた。

 日本刀と聞いた沖田2人と段蔵が近づいてきたので、4人でじっくりと見せてもらうことにする。

 

「銘は『荒覇吐七十二閃(あらはばきななじゅうにせん)』よ。なかなかの出来栄えでしょ?」

「ほほぅ、ずいぶんと日本のことを研究したようだな……」

 

 アラハバキというのは日本の神の名前である。フランス人のジャンヌオルタがよく知っているものだと感心したのだが、日本刀を自作するくらいだから日本のことに詳しいのは当然かもしれない。

 柄と鞘は特に変哲もない、つまり素人の手作りとしてはとてもしっかり作られている。沖田2人と段蔵も感心した。

 

「ではいよいよ刀身だな……ごくり」

 

 光己が生唾を呑みながら、そろそろと刀を鞘から抜いていく。

 やがて現れた刀身はごく普通の日本刀のそれだった。ただ刃文はなく、代わりに黒い紋様が刻まれている。

 

「おおぅ、これを手作りしたのか……すごいな」

「フフッ、こう見えても芸術方面には自信があるのよ。

 私がその気になれば、モナリザの贋作を量産して市場を混乱させたり、同人誌即売会で売り上げトップを飾ったりすることも不可能ではないわ」

「マジか……」

 

 光己は尊敬のまなざしで彼女を見つめた。これほどの物を1人で作り上げるとは、よほどの努力をしたのだろう。

 

「サムライとニンジャから見た評価はどうかしら?」

「そうですね。名刀といわれる逸品に比べれば、鋭利さも美しさも劣ると言わざるを得ませんが、やや無骨ながら頑丈そうな作りですから、実戦向けとしては良い刀だと思いますよ」

「そうですね。しかし色合いが普通の刀とちょっと違うように見えまするが」

 

 ジャンヌオルタの感想希望に沖田と段蔵がそう答えると、刀工少女は満足げに微笑んだ。

 

「さすが見る眼があるわね。ええ、だってそれ普通の玉鋼の代わりに隕蹄鉄とか使ってるから。

 でないとサーヴァント戦には耐えられないでしょ?」

「なるほど……」

 

 これには沖田も段蔵も驚いた。素材が違えば工程や火の温度も変わってくる、つまり新しい工法を開発したということになるのだから。

 

「うーん、すごいな。俺も1本欲しいなあ」

 

 感心した光己が何の気なしにそう言うと、ジャンヌオルタが乗ってきた。

 

「なに、マスターちゃんも日本刀欲しいの?」

「マスターちゃんって……まあいいか。日本人の男子は日本刀にロマンを感じるものなんだよ」

「なら作ってあげましょうか? ……いや素材がないから無理か」

「素材なら聖杯があるからいくらでも出せるよ。それよりどのくらいかかる?」

「そうねえ。素材が揃ってるなら2週間くらいでできると思うけど」

「2週間か……」

 

 人理修復の締め切りがあと1年ちょっとしかないことを思えば重たい数字である。実戦で使うならともかく趣味に過ぎないのだから。

 しかしそこでワルキューレ2人が左右からくっついてきた。

 

「あたしは賛成だよ。ルーンを刻めば持ってるだけで護身の効果があるから」

「短刀サイズにすれば持ち運びも楽ですし」

 

 なるほどお守り刀として持つなら短くてもいいし、作るのも楽になる。つまり工期を短縮できるかと考えた光己の後ろからカーマが肩に飛び乗って座ってきた。

 

「それなら私も祝福授けてあげますよ。愛の神じきじきの祝福ですから、ありがたく思って下さいね」

「そういうことでしたら私も。太陽神の祝福をみこーんと大盤振る舞い致しましょう!」

 

 さらに玉藻の前も参戦してきた。これだけ大勢がよってたかってパワーを授けてくれるのなら、マスター保護の観点から多少の時間を割いてもいいかもしれない。

 

「では私も及ばずながら。お姉ちゃんが弟君を助けるのは当然ですしね!」

「……ほえ?」

 

 ジャンヌには、フランスでマルタと共にジークフリートにかけられていた呪いを解いた実績がある。祝福を授けてくれるのはとてもありがたいことだが、彼女は今何か妙なことを言わなかっただろうか。

 

「弟君って何?」

「はいー! 私たちもう契約しましたし、フランスでの縁もありますよね。だからもう家族みたいなものじゃないかと思うんですが」

 

 ジャンヌの迷いのないにぱーっとした笑顔に、光己もこっくり頷いた。

 

「なるほど、確かにそうだな。いやジャンヌほどの人の弟になれるなんて光栄すぎるくらいだよ」

「そうですか! ではこれからはお姉ちゃんと呼んで下さいね」

「ちょっと待ったァーーーッ!!!」

 

 もちろんすぐに邪ンヌが割り込んで阻止したのだけれど。

 

 

 




 主人公は自分の活躍をなかったことにされても気にしませんが、その理由は新宿編コミカライズのぐだ男とは全然違うのですな。属性は同じ中立・善なのですが(ぉ


主人公が邪ンヌに作ってもらっている短刀に付与する機能はどれが良いですか?(鞘とは別枠)

  • ガンド
  • 氷作成
  • 魔術解除
  • お姉ちゃん

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