FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第107話 島のドラゴン

 光己がカルデア本部に連絡を入れて今の案について話してみると、エルメロイⅡ世は聖杯から素材を出してお守り刀を作るというアイデア自体には反対しなかったが、その間に神霊が「契約の箱(アーク)」に捧げられて特異点が崩壊してしまう可能性を指摘してきた。

 

《だからまず神霊なり「箱」なりを確保して、特異点が崩壊しないようにしてから作ればよかろう》

「なるほど、分かりました」

 

 Ⅱ世が言うことはもっともである。光己は素直に頷いた。

 これで今夜はもうすることはない。

 

「じゃあお姉ちゃん、今夜は家族結成祝いに3人で川の字になって寝ようよ」

「いい考えですね! さすがは弟君です」

「絶対にノゥ!」

「決然として!」

 

 光己の思春期な野望にジャンヌはおおらかに乗ってきてくれたが、ジャンヌオルタとマシュの断固たる拒否によってあえなく頓挫した。

 といっても、光己はマシュと2人で寝るという、これはこれでハッピーな展開になるのだが、あいにくそれを妬んだ清姫やカーマが時々(霊体化モードではあるが)覗きに来るし、そもそも彼自身その気のない女の子を無理やりとかなし崩しになんてできるタチではないので、結局何も起きずに終わるのだった。

 ―――そして翌日の朝。朝食を摂り終えたらこの島の調査を行うわけだが、光己はその前に1つ思い出したことがあった。

 

「沖田さん、写真とサイン持って帰れなかったから、もう1度お願いしていい?

 おっと、沖田ちゃんとジャンヌとジャンヌオルタと、あと玉藻の前ももらってなかったな。せっかくだからぜひ」

「あ、やっぱり持ち帰れなかったんですね。もちろんいいですよ」

 

 沖田はすぐOKしてくれたが、沖田オルタたちはすぐには理解できなかった。

 

「マスター、その写真とサインとはどういうものなんだ?」

「ああ、すごく精巧な風景画や人物画を描けるカラクリがあってね。それで沖田ちゃんの似顔絵を描かせてもらって、あと名前も書いてほしいんだ。

 それで何をするってわけじゃないけど、せっかく会えたんだから思い出として残しておきたくてさ。仲間になってくれたサーヴァントには皆にお願いしてるんだ」

「退去した後でもマスターの記憶に残れるのか……もちろん了承だ」

「ありがと」

 

 こうして光己は沖田2人とジャンヌ2人、そして玉藻の前のサインとツーショット写真を手に入れた。

 

「おおおぅ、またもや5人分も増えてしまうとは……我が家宝は充実する一方じゃないか。

 しかも水着姿の傾国の美女と並んだ写真って、日本人的に考えてヤバいにも程があるな」

「た、確かにそうですね……」

 

 光己はお気楽そうにしているが、彼の独白を聞いた段蔵と沖田は冷や汗を流していたりする。いや、ヤバさでいえば「元人類悪」の「愛の神/第六天魔王」がダントツなのだが……。

 

「それじゃお仕事に入ろうか。

 XXとカーマと沖田さんは、この島の航空写真を撮ってきてくれるかな。その間に、ヒルドとオルトリンデにエイリークの航海日誌を読んでもらうってことで。

 あとの人は……特にしてもらうことないな」

 

 サーヴァントや強い生物がいないのなら、方針は前の島の時と同じだから、足で歩き回っての探索まではしない。だからマシュや段蔵たちは単なる留守番になるのだった。

 

「じゃあマスターはいつも通り()()()()訓練しよう! 日誌なんて1人でも読めるんだから」

「ファッ!?」

 

 もっとも光己はのんびり休憩なんてできなかったが。

 

 

 

 

 

 

 ヒロインXXたちが撮ってきた写真を見てみると、この島はジャンヌが言った通りカルデラ、つまり中央部が陥没した山になっていた。岩肌むき出しではなく木や草は生えているが、目を引くものは特にない。

 一方エイリークの航海日誌では、この島の北東にもう1つ島があり、そこからさらに東に行くとドレイクが言った「見えない壁で上陸できなかった島」に着くことになっていた。

 

「えーと、つまりこの特異点は東と西がつながってるってこと?」

「はい、この日誌を信じるならそうなります。北と南もそうかもしれません」

 

 どうやら今回は今までと勝手が違うようだ。いろんな地域の海が切り貼りされてることと関係があるのだろうか。

 

「どっちにしても今は北東の島に行くしかないか」

「そうですね、まずは行ける所を全部行ってみるべきだと思います」

 

 いたって妥当な意見なので全会一致で採用され、光己たちはそのまま北東の島に赴いた。

 到着してもルーラーアルトリアのサーヴァント探知スキルに反応はなかったが、カルデアからは連絡が入る。

 

《藤宮、大変よ! その島には竜モードの貴方に匹敵する、いえそれ以上の極大の魔力反応があるわ。おそらく昨日出現したワイバーンの親でしょうね》

 

 今回のメッセンジャーはエルメロイⅡ世ではなくオルガマリーだった。トップである彼女が時々出てくるのは、現場のことをⅡ世に任せ切りにはしないという各方面への意志表示なのだろう。

 

「つ、ついに現れましたか。敵か味方かは分からないんですよね」

《そうね。だから接触するかしないかはそちらに任せるわ》

 

 反応の主の敵味方や性格、その他が分からない以上、どちらが正解かは今この時点では分からない。なのでオルガマリーは現場の自主性を尊重したのだった。

 

「分かりました。それじゃ行くだけ行ってみます」

《んー、まあそうなるわね。でもくれぐれも気をつけるのよ》

「はい」

 

 といっても、現状では手掛かりらしきものがあればスルーという選択肢はないのだが、ここで問題になるのは光己が人間モードでいくか竜モードになるかだった。大人の竜種が同類に会った時、一般的にどんな反応をするのか知らないので、これもどちらが正解か分からないのだ。

 

「分からないづくしですが、先輩の身の安全を考えるなら竜の姿で行く方がいいと思います」

 

 するとマシュがこんな提案をした。

 どっちで行っても攻撃される恐れはあるなら、強い方で行く方がマシという趣旨である。

 

「そうだな、そうするか」

 

 なので光己は竜の姿になると、マシュたちを頭や首の上に乗せて飛び立った。

 竜モードになると魔力感知の範囲が広がるので、いちいち本部の生体反応調査で位置を教えてもらう必要はないのだ。

 

「この感覚だと確かに強そうだな……なるべくなら戦いたくないとこだけど」

 

 島は円筒を2つ重ねたような形で、横から見ると凸の字に似ている。ターゲットはその天辺にいるようだ。

 この島も草木がそれなりに生えていて、大人の竜種が歩き回るのはかなり面倒に思われたが、宝物を守って動かないタイプなら支障はないのかもしれない。

 やがて一同が天辺の上空について下の方を見てみると、まばらに生えた木々の間に1頭の巨大な竜が寝転んでいるのが見えた。

 前半身を直立させて二足歩行する光己とは違い、全身が横向きで四足歩行するタイプのようだ。体格は光己より一回り小さく、背中には1対の翼がある。体色は茶色系統だが、やはり色によってブレスの種類が違うのだろうか?

 竜は眠っていたのではないらしく、のっそりと鎌首をもたげて光己たちの方を見上げた。

 

「AaaaaAaa、Laalalaaaala!?」

「…………ほえ!?」

 

 そして声をかけてきたが、光己たちには竜が何を言っているのか分からなかった。

 おそらく竜言語で喋っているのだろうが、カルデアの翻訳テクノロジーもさすがに竜言語までは守備範囲外だったのだ。

 今更ながらどうしようかと悩み始める光己たちだったが、その様子を見た竜は今度は人間の言葉で話しかけてきた。

 

「何じゃ、そなた言葉を話せぬのか? それとも人間……いやサーヴァントを連れとるようじゃから人間語なら喋れるのか?」

「おお、バイリンガルで助かった!」

 

 竜が何語を喋っているのかまでは分からないが、とにかくこれで意思疎通ができる。

 竜は声質は若い女性のものだが、言葉遣いは年配者っぽい感じがする。つまりロリBB―――。

 

「そなた、今とても失礼なことを考えなかったか?」

「めっそうもない」

 

 光己は高速で首を横に振ってごまかした。頭上にいるマシュたちが振り回されて泡喰っているがスルーである。

 

「まあよい。見たところケンカを売りに来たのではないようじゃし、話をしたいならその辺に降りてくるがよい」

「では遠慮なく」

 

 竜がお許しを出してくれたので、光己はなるべくゆっくり音を立てないように着陸した。

 

「えー、それじゃ初めまして。俺は藤宮光己という者で、カルデアという組織の現地派遣部隊のリーダーをやっています」

「カルデア……? すまぬが聞いたことはないのう。

 ……(わらわ)は名前はないが、金羊毛の番をしていたと言えば分かるか?」

「おお、ギリシャ神話に出てくるあの!?」

 

 まさかいきなりこんな大物と出くわすとは。確かに名前は伝わっていないが、あの有名なヒドラやケルベロスの兄妹なのだ。

 しかもサーヴァントに召喚された現身(うつしみ)ではなく、正真正銘、生身の本物である。魔力反応が大きかったのも納得だ。

 

「しかし名前がないのは不便ですね。どうお呼びしましょうか」

「……ふむ、ではフリージアとでも呼ぶがいい」

「分かりました。それでフリージアさんは何故ここに?」

「来たくて来たのではないぞ。そなたたちも知っておろうが、人理焼却とやらの影響で、世界の表と裏の境界が緩んだせいで、たまたま紛れ込んでしまっただけのことじゃ。

 ……いや、妾のような大型の生物が移動したからには、妾に縁がある誰かがここにいる可能性が高いか」

「あー、アイエテス王かメディア王女ですね」

 

 サーヴァント界隈でよくある縁召喚というやつである。特に娘のメディアはアルゴー号の冒険に多大な貢献をした強力な魔術師で、知名度も高いからサーヴァントになる資格は十分だろう。

 

「そうじゃな、会ってはいないから確かなことは言えぬが。

 まあ仮にここにいたとしても、妾には助ける義理もなければ敵対するほどの恨みもない。そなたたちがどう対応しようと気にはせぬ」

「……はい、ありがとうございます」

 

 フリージアは異種族とはいえ旧知の人物のことでもごく淡々と語っており、あまり物事に執着がないというか、枯れたような印象を受ける。

 しかし、万が一アイエテスやメディアがいて、倒してしまったとしても彼女が敵にならないというのはありがたいことで、光己は素直に礼を述べた。

 

「で、そなたたちはここで何をしておるのじゃ?」

「それはですね。さっきフリージアさんも言った人理焼却を阻止するために、今はこの特異点を修正しに来てるんです。

 もし何か手掛かりになることをご存知でしたら、教えていただけるとありがたいのですが」

「ふむ、それでサーヴァントを連れておるのか。なるほどな。

 この異変が解決されれば妾も家に帰れるし、直接手伝うのは面倒じゃが、知っていることくらいは教えてやろう」

 

 そう言うとフリージアは軽く頭をひねった。

 

「といってもそこまで詳しいわけではないが……。

 まず1つめは、基本的に財宝が好きな我ら竜種でも近づきたくない厄物件が、ここから南南西の群島域にあるということじゃな。あとは妾が知らない海賊船が、何隻か徘徊しておるということくらいかの」

「ほむ、ありがとうございます」

 

 厄物件というのはおそらく「契約の箱」のことだろう。まさに値千金の情報で、危険を覚悟で来た甲斐があったというものである。海賊船についてはすでに知っていることだが、そんなこと気にもならない。

 これで用は済んだので光己は礼を述べて辞そうとしたが、それを遮るかのようにオルトリンデが口を開いた。

 

「すみません、あと1つお願いがあります。

 よろしければ、マスターが浸かれる程度の血液を提供して下さるととても嬉しいのですが」

「「ぶふっ!?」」

 

 光己とフリージアは同時に噴き出した。

 光己にとっては「また血の池地獄か!?」という恒例のアレだったが、フリージアにとっては違う意味だ。

 

「血液じゃと? そんなもの何に……というか、こやつが浸かれるほどの血を抜いたら妾は失血死してしまうではないか」

 

 枯れてるフリージアが声を荒げたのも残当といえるだろう……。

 するとオルトリンデも言葉足らずだったことに気づいて謝罪した。

 

「申し訳ありません、説明が不足でした。

 マスターは人間の姿になれますので、その状態で浸かれる程度という意味です」

「なんと、そんな高等魔術を使えるのか……。

 そのくらいの量ならやってもいいが、さすがに無償とはいかぬぞ」

 

 これも当然の要求であり、オルトリンデはすでにそれを考えてあった。

 

「では古代の……いえコルキスの頃よりはずっと未来になりますが、異国の金貨1千枚でどうでしょう」

「異国の金貨とな」

 

 フリージアも一般的な竜種の例に漏れず、光り物は好きである。しかもコルキスにはなかった品とあって、交渉は即座に成立した。

 

「よかろう。しかしここの地面に血の池を作るのはさすがに気が引けるが……」

「それも大丈夫です。ビニールプールがありますから」

 

 オルトリンデは昨日光己とマシュが使ったビニールプールをちゃっかり回収しており、それを使えば地面を汚さずに血液を持ち帰れるというわけだ。今回の事態を想定していたわけではないだろうが、実に準備がよかった。

 こうして金貨1千枚で大物ドラゴンの血液を入手したカルデア一行は、フリージアに別れを告げて島を立ち去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ルーラーアルトリアの船の甲板の上で、光己はいつも通り血の池地獄に入っていた。

 

「しびびびびび……痺れるぅぅぅ」

 

 今回は現身(うつしみ)ではなく本物の血液だけに刺激が強いのか、最初にファヴニールの血を浴びた時より痙攣している。清姫が心配して声をかけた。

 

「旦那様、大丈夫ですか……?」

「大丈夫……大丈夫だが、まだその時と場所の指定まではしていない。つまり今はまったく大丈夫じゃないということだな」

「あの、本当にご無理なさらないで下さいましね……!?」

 

 彼はかなりまいっているようなので、清姫は本当に止めるべきかと思ったが、光己にはギブアップできない理由があるのだ。

 

「でもオルトリンデ、金貨全部出しちゃってほんとによかったの?」

「はい、マスターが強くなるためですからまったく惜しくありません」

 

 可愛い女の子が自分のために大枚をはたいてくれたのだから。この迷いのない瞳を前にしては弱音は吐けないのだった。

 なおオルトリンデが出したのは、当然ながらローマでネロからもらった金貨の中のワルキューレ3人の取り分だけである。つまりスルーズとヒルドの分も出してしまったのだが、3人は基本的に意見を違えることはないので、そこは問題なかった。

 

「聖杯から出すのでは、フリージアさんが誠実さに欠けると見て取引に応じてくれない恐れがありましたし、かといって敵対していない方に武力行使するのは、マスターの意向に反しますから」

「……そうだな、ありがと」

 

 オルトリンデの言うことはまったくその通りなので、光己は恐れ入るしかなかった。

 そしてフリージアが言った通り、小さな島がいくつも浮かんでいるのが見えてくる。

 

「でもどの島に『厄物件』があるのかまでは分からないんだよな」

「そうですね、しらみ潰しに探すしかなさそうです」

 

 光己の問いかけに清姫とオルトリンデはそう答えたが、そこにルーラーが現れた。

 

「いえマスター、サーヴァントが2騎いるのが感じられます。まずはそちらを目当てにすれば早いかと」

「サーヴァントか……ランサーオルタと信長公か、それとも知らない人かな」

 

 ともかく、この特異点の修正が新しい段階に入るのは確かなようだった。

 

 

 




 今回はマップの「翼竜の島」ですが、主人公がドラゴンですのでイベントを入れてみました。
 次回はそろそろ原作味方鯖が出る……出る?


主人公が邪ンヌに作ってもらっている短刀に付与する機能はどれが良いですか?(鞘とは別枠)

  • ガンド
  • 氷作成
  • 魔術解除
  • お姉ちゃん

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