この閉じた海域のある地点に、1隻の木造帆船が浮かんでいた。
むろんただの船ではない。アルゴー号といって、神代につくられた神秘の船である。
その「動力」を担っている少女が、ふと遠くの空を見上げてつぶやいた。
「今のは……一体……!?」
数百キロメートルも離れた先の出来事だから、定かなことは分からないが、確かに今、地上(もしくは海上)から天に向かって恐るべき出力のビームが射出された。サーヴァントの宝具だとしたら、対城宝具かそれ以上だろう。
そこに行くべきかどうかは分からない。自分たちが目的としているモノがあるのか、それとも無関係な争いに巻き込まれるだけになるかを判断できる材料はないのだから。
それに今は、「聖杯」を所持しているサーヴァント、「黒髭」の宝具の船を付かず離れずで尾行している最中である。1度離れてしまったらまた追いつくのは難しいから、あのビームの発射元に行くのは相当な決断を要するだろう。
かといって発見した異常を報告しないわけにはいかない。少女は伴侶にして上司である青年に、今見たことを包み隠さず話したのだった。
光己たちが島の海岸に近づくと、砂浜に若い女性が2人立っているのが見えた。
当然のようにルーラーアルトリアが真名看破を行う。
「まず水色の髪で露出が多い服装の女性がオリオン……いえ、オリオンをアルテミスが乗っ取っている? アルテミスが高位の神霊だからか、特殊な現界をしているようです。彼女が手に持っている熊のぬいぐるみがオリオン当人みたいですね。
クラスはアーチャー、宝具は『
そして緑色の服を着て猫のような耳がある女性がアタランテ、アーチャーです。宝具は『
本格的にギリシャ神話関係者が増えてきた。
アルテミスといえば有名な月の女神で、つまり「
また、アタランテはさっき矢文に名前が出ていた「アルゴー号」の乗員の1人で、フランスでともにジャンヌオルタと戦った仲間でもある。
当然会うべきだが、ジャンヌオルタはフランスでアタランテといろいろあったので、光己は念のため意向を確認することにした。
「ジャンヌオルタはどうする?」
「一緒に行くわよ。私は気にしないし、仮にアタランテにフランスの時の記憶があったとしても、ケンカは売ってこないでしょ」
「そっか、じゃあ行こう」
幸い平気なようなので、カルデア一行が全員で船を降りるとアルテミスとアタランテもこちらに近づいて来た。
「来たか。……む、汝らはもしかして、フランスにも来ていたカルデアのマスターと、そのサーヴァントたちか?」
「あ、記憶があったんだ。じゃあ話が早いな」
それならカルデアや人理修復について説明する手間が省ける。一から話すと長い上に、信憑性に欠ける話題だから助かった。アルテミスとオリオンにはアタランテから話してもらえばいいし。
「あの時は世話になったな、感謝している……っと、汝らはもしかして、聖女と魔女の両方を仲間にしているのか!?」
しかも2人とも水着とくれば、アタランテが驚くのも無理はない。特に聖女の方は、頭のネジがだいぶ抜けて、ふわふわになっているように見えるが大丈夫だろうか。
「む、今何か失礼なこと考えませんでしたか? お姉ちゃんは結構鋭いんですよ!?」
「い、いや、そんなことはない……」
彼女が誰のお姉ちゃんなのかアタランテは少し気になったが、深く突っ込むのは避けた。
そして黒い方のジャンヌに顔を向ける。
「しかし竜の魔女よ、汝がカルデアの側につくとはどういう風の吹き回しだ? 罪滅ぼしなんて殊勝なことを考えるタマでもあるまいに」
「ええ、あくまで私の個人的な都合だけよ。マスターとは気が合うしね」
「そうか……」
そこでアタランテはチラッと清姫の方に目を向けたが、嘘許さない娘は何も言わなかった。どうやら本当に味方になっているようだ。
「そういうことなら深くは問うまい。まずはお互い自己紹介をしようか」
「そうだな」
こうして光己たちと島の3人は自己紹介をして、ついでにカルデア勢がこの特異点に来てからの経過も説明したわけだが、その途中に、光己はアタランテがどこか疲れたというか、意気消沈したような顔をしていることに気がついた。
「アタランテ、何か困ったことでもあるの? 知り合いと合流したんだから、もっと喜んでもいいと思うんだけど」
「ん? ああ、そうだな……汝らと会えたことはとても嬉しく思っている。
信仰する女神が恋愛脳だったことなんて、何も気にしていないとも」
「ああ、そういう……」
そういえばアタランテはアルテミスを信仰しているのだった。
アルテミスは今ちょっと話しただけでも、ゆるふわスイーツな性格なのはすぐ分かったので、それで落ち込んでいるのだろう……。
しかし、他人の信仰の問題に口出しできるほど光己は世慣れしていないので、このたびは言及を避けた。文字通り、触らぬ神に祟りなしというやつである。
アルテミスは見た目は美人でスタイル良くて、露出高めで雰囲気もゆるいが、逸話的には実際ヤバい神なので。
「いやあ、俺はあんたたちと会えて最高にハイになってるけどね!
何せめったに見られねえハイレベルの、それも水着の美女美少女が1度に14人も加わったんだ。しっかり目に焼きつけて、あわよくばデートの1つで―――」
「ダーリンの浮気者ーーーー!!」
オリオンの台詞が終わるか終わらぬかのうちに、彼はアルテミスに砂浜に体を押しつけられ、
やはりヤバい女神だったようである。
「し、死ぬ、助け……」
オリオンが哀れっぽい声で助けを求めてきたが、当然スルー一択だ。惜しいヤツを亡くした……。
「まだ死んでないからな!?」
オリオンはぬいぐるみの割になかなか頑丈なようである。さすが英雄といったところか。
一方アタランテはその辺を見ないフリして真面目な話を始めた。
「それじゃ自己紹介も済んだから用件に入ろうか。
汝らはアルゴー号とはまだ会っていないのだな?」
「うん。アタランテは当然会ってるんだよな?」
「ああ、それどころか私はイアソンに召喚されて現界したんだ。もっとも彼は魔術の心得はないし、聖杯も持っていなかったから、メディアが全部お膳立てしたのだろうが」
その後の彼女の話を要約すると、まずアルゴー号のメンバーは、彼女以外ではイアソン、メディア、ヘラクレス、それと何故か無関係のヘクトールがいて4騎である。アルゴノーツは、神話では総勢で50人ほどにもなるから、4人しか来ていないというのはカルデア側にとってはありがたいことだった。
イアソンは誰に吹き込まれたのか、「契約の箱」に神霊を捧げれば王になれるというヨタ話を信じ込んでいて、この2件と聖杯を探し回っている。アタランテはやめさせようとしたがイアソンは聞き入れなかったので、離脱して彼らを力ずくでも止めることにしたのだった。
「その方法を探している間にアルテミス様と出会って、今はこうして行動をともにしているわけだ」
「あー、そういえばイアソンって、元々王になりたくて冒険始めたんだっけ」
「ああ、だからこんな根拠のない話に飛びついてしまったんだろうな。
しかし契約の箱に神霊を捧げたら、王になるどころかこの時代が『死』ぬ。これは箱の持ち主に聞いたことだから確かな話だ」
その持ち主とはイスラエルのダビデ王で、今は別行動している。少しでも早く箱と仲間を探すために手分けをしたのだ。
「なるほど、ジャンヌもそう言ってたから間違いなさそうだな。
それで、アタランテたちは箱のありかを知ってるの?」
「ああ、だがそれを教える前に今一度確認しておこう。
汝らは、たった4人とはいえアルゴノーツと戦う勇気はあるか?」
アタランテがいい加減な答えを許さぬ強いまなざしで光己を見つめる。アルゴノーツの4人の誰か、おそらくはヘラクレスをよほど高く評価しているのだろう。
しかし光己の答えは決まっている。
「そりゃもう、やらなきゃ死ぬのが確定してるんだからやるさ。
こんな所で逃げたら、建国王や英雄王に怒られそうだしな」
「よく言った、それでこそ私のご主人様だ。
なに心配するな、
すると、メイドオルタが自信とやる気たっぷりな顔つきで自薦してきた。
その内容に驚いたアタランテが反射的に聞き返す。
「汝は……メイドオルタだったか。もしかしてヘラクレスの宝具を知っているのか?」
「ああ、名前は知らんが命が12個あるのだろう。しかし私の聖剣なら、直接頭か心臓を斬れば、少なく見積もっても1度に7個は刈り取れる」
「なんだと……」
アタランテはヘラクレスの強さを直接知っているだけに、半信半疑な様子だったが、話半分だとしても頼もしいことこの上ない。ふっと愁眉を開いた。
「分かった、いや、汝らならそう答えてくれると思ってはいたが、念のためな。
では約束通り教えよう。『契約の箱』はこの島の
汝らがアルゴノーツより先に来てくれてよかった」
「ほむ、やっぱりか」
これで話がつながった。黒幕を見つける前に特異点消滅という最悪の事態は免れたのだ。
「見に行ってみるか?」
「そだな、やっぱ自分の目で見とくべきかも」
アタランテを疑うわけではないが、やはり自分で見た方が実感がわくというものだ。カルデア一行は彼女の案内で「箱」を見に行くことにした。
林の中を歩いていると、やがて石造りの地下道の入口が現れる。扉の類はなく、古びて手入れもされてなさそうだった。
「この中に?」
「ああ」
通路は明かりがなく昼間でも薄暗くて、いかにも地下墓地らしい独特の雰囲気を醸し出している。その最奥のやや広い部屋に、異様な気配を放つ木製の箱がぽつんと置かれていた。
大きさは光己が両手で抱えられるくらいで、フタには天使の像が2体乗せられている。
「多少なりとも魔術にかかわる者なら、あれがただの木箱ではないことくらいは分かるだろう?」
「そだな、『箱』がここにあることは分かった」
それを確かめたら長居は無用である。一行はさっさと引き揚げた。
「でも入口に扉も何もないのは不用心じゃないか? いっそ土で覆っちゃえば、イアソンが来てもすぐには見つけられなくなると思うけど」
「汝もそう思うか。ではさっそく取りかかろう」
たとえば、メディアの魔術でイアソンたちがこちらの防衛線をすり抜けたとしても、入口が目に見えなければ、すぐには「箱」にたどり着けないはずだ。覆っておいて困ることは何もないし、打てる手は打っておくべきだろう。
その作業が終わったところで、アルテミスがいかにも暢気そうな口調で話しかけてきた。
「それで、これからどうするの?」
「そうですね、しばらくこの島で待つのが賢明かなと思いますが」
こちらから探しに行こうにもアテはないし、その間にアルゴノーツが入れ違いで来て「箱」を使われる恐れもある。といって、チーム分けして留守番を残すというのは、相手が相手だけに危険だから、全員居座る万全の体制で、向こうが来るのを待つのがベストということだ。敵はアルゴノーツだけではないのだし。
しばらく待ってみて誰も来なかったら、その時はその時でまた考えればいい。
「じゃ、アルゴノーツなり他のサーヴァントが来るなりするまでは、遊んでていいのね?」
「そうですね、それまではアルテミス神とオリオンさんにお願いすることは特にないかと」
アルテミスの質問に光己がそう答えると、月女神様は嬉しそうにはしゃぎ出した。
「本当!? わーい。それじゃダーリン、リーダーの許可も取ったことだしデートしましょデート!」
「え? いや、俺としては、アルゴノーツとの戦いに備えて、新顔の娘たちと交流を深めておきたいんだが」
「ダーリンのばかー!」
文字通り神を畏れぬ愚言を吐いたオリオンを、アルテミスが両手で持って雑巾のように絞り上げる。
オリオンがまた哀れっぽい悲鳴を上げたが、光己は特に反応しなかった。
(夫婦漫才っていうか、ドツキ漫才みたいなもんなんだろうなあ)
オリオンだって、ああいうことを言えばアルテミスがどう反応するかくらい分かっているはずだから、あえてボケているのだろう。仲裁なんかするのは野暮というものである。
……決して、ヤバい神のご機嫌を損じる可能性があることをするのが怖いわけではない。
「あ、でも遠くに行く時は通信機持って行って下さいね。それと暗くなる前に帰って来て下さい」
「はーい!」
アルテミスは元気よくそう答えると、オリオンと通信機を持って林の中に歩き去って行った。
それを見送った後、アタランテが話しかけてくる。
「やれやれ……しかしただ待ってるだけなのは退屈だな。何かすることはないのか?」
「んー、そうだな。いつまで居座るか分からないわけだから、まずは拠点を作るべきかな。
いや待て、その前にっていうか並行してやることがあった」
光己は何か思い出したらしく、くるっと体ごと後ろを向いた。
「ジャンヌオルタ、約束のアレ今からでいい?」
「ああ、アレね。ええ、場所と道具さえ揃えてくれれば、いつでもいいわよ」
「ありがと。それじゃ、いつ誰が来るか分からん状況だからさっそく頼む。
それにかかわらない人は、無人島の時みたいに家建てよう」
「はい、今度こそますたぁと2人でお泊りを!」
無人島の時にいっしょに来ていたマシュや清姫たちは光己の話をすぐ理解できたが、アタランテにはまったく分からなかった。竜の魔女との約束とか家を建てるとかどういう意味なのだろうか?
「マスター、いったい何の話だ?」
「ああ、その辺は話してなかったっけ。ジャンヌオルタの刀は自作だっていうから、俺も一口つくってもらうことにしたんだよ。普通は素材がないから無理だけど、今は聖杯で出せるから滅多にないチャンスだと思ってさ。
家の件は、俺たちは他の特異点で石器時代的な家を建てたことがあるから、またそれを建てようって話。サーヴァントでも夜中に野ざらしは嫌だろ?」
「なるほど、汝らはいろいろやっているのだな……分かった、私も手伝おう」
アタランテは女神に遣わされた雌熊に育てられるという野性的な幼少期を過ごしたが、石器時代の家を建てた経験はない。暇つぶしとしては面白そうなので、仲間に入れてもらうことにしたのだった。
ダビデが別行動しているというのはマンガ版の展開ですね。しかし主人公たちと合流できるかどうかは未定です。エウリュアレとアステリオスも(ぉ
主人公が邪ンヌに作ってもらっている短刀に付与する機能はどれが良いですか?(鞘とは別枠)
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