FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第11話 英霊召喚 2回目

 召喚ルームに向かう道すがら、ロマニは先頭を歩くオルガマリーの背中を見て少々物思いにふけっていた。

 

(あの気位の高い所長が、まさか新入りの藤宮君に頭を下げるなんてね)

 

 間違っているとは思わない。ロマニが彼女の立場でもそうしただろう。よくやったものだと感心しているのだ。

 普通に考えれば、ここまでの展開で1番精神的に痛手を受けたのはオルガマリーだろう。あの爆発事故による、腹心のレフ教授を含む人員と資源の喪失というだけでも大ショックだろうに、その直後に「魔術王の使徒」と7つの特異点が出現し、その問題を解決する責任まで背負ったのだ。それが20歳前の若さで、しかも職員に好かれてないのを自覚しているときている。

 ここまでマイナス材料がそろってしまっては絶望して精神を病むか、最悪自殺してもおかしくないのに立派なものだと思う。

 

(やはり、彼が精神的な支えになっているのかな?)

 

 アニムスフィア家の使命というだけでは無理がある。命の恩人でもある素人を特異点に向かわせるのに所長たる自分が塞ぎこんではいられない、そういう心理があると見てほぼ間違いないだろう。

 さいわいオルガマリーと光己は性格的な相性は良い方みたいで、オルガマリーは彼には比較的柔らかい態度を取っている。これを機に他の職員に対してもそういう風に接するようになれば、お互いにとって良い結果になると思われるが、口にするタイミングは難しそうだ。

 

「さて、着いたわよ」

 

 ロマニがそんなことを考えている間に、一行は召喚ルームに到着した。

 隅の一角にコンソールがある他は飾り気も備品もない殺風景な部屋で、床の中央には魔法陣が描かれている。

 

「難しいことはこの部屋に敷設された術式がやってくれるから、貴方はただサーヴァントを呼びたいと念じながら、さっき渡したカンペ通りに呪文を唱えるだけでいいわ。ただし真剣にね」

「どこの誰を呼びたいか指定はできるんですか? たとえばリリィに来てほしいとか」

「残念ながらそれは無理ね。縁は結んだから来てくれるのを期待はできるけど、絶対じゃないわ」

 

 もしくは召喚したいサーヴァントゆかりの遺物があれば高確率で召喚できるが、残念ながらカルデアにそんな物はなかった。

 

「そういう特別な条件がない場合は、召喚者と性質が近いか相性がいいサーヴァントが来ると言われてるから、逆にその方が付き合いやすくていいかも知れないわね」

「なるほど、つまりガチャですね!」

「仮にも英霊の召喚をソシャゲにたとえるのやめなさいよ……」

 

 オルガマリーはちょっとあきれた顔を見せたが、それほど深刻に怒りはしなかった。

 光己は普段はおバカなことをよく言うが、やる時はやってくれる人物だという信頼ができてきたのだろう。

 

「いや、冗談ですって」

 

 光己もさすがに、これから共に7つの特異点を修正してもらう仲間を招く儀式がどれほど大事かは理解している。

 それを踏まえて来て欲しいサーヴァントについて考えるに、まず単純に強い、もしくは魔術や忍術(諜報、サバイバル等含む)といった特殊技能を持っていることは必須だろう。また光己はマスターといっても会社の上司のような命令権や懲戒権はないし、サーヴァントたちに腕力で勝てるわけでもなく、カリスマ性やコミュEXや鋼メンタルといったリーダースキルも持っていないので、サーヴァント側は人格にクセが少なくやる気と協調性がある者が望ましい。逆にいくら有能でも、某フハハハハ!やアララララ~イ!みたいな破天荒で自己主張が強いタイプは扱い切れないので敬遠すべきだろう。

 

「その上で美女美少女なら文句なしだな、うん!」

「先輩!?」

「いや、ジャパニーズジョークだから!」

 

 マシュが真後ろに立って圧をかけてきたので、光己はとりあえずごまかした。

 やはりマシュは箱入りだけに、ちょっと潔癖というかマジメすぎるところがあるようだ。ヤキモチとかだったら嬉しいのだが。

 

「私としてはちゃんと監督してくれれば文句ないんだけどね」

 

 一方オルガマリーは実益優先であった。

 英雄豪傑勇者といえばほとんどは男性だが、女性でも冬木で会ったアーサー王やワルキューレやブラダマンテ、あるいはキルケーやメディアといった強者はいる。彼女たちが来ることで「最後のマスター」のモチベーションが上がるなら、むしろ喜ばしいという趣旨だ。

 

「まあどっちにしてもこちらで指定はできないから、結局は貴方の運次第よ」

「運ですか……じゃあガチャの神といわれるリヨグダコ神にでも祈っとくかな」

「その神だけはやめときなさい! いえ初めて聞く名前だけど、本能的にかかわっちゃいけない気がするわ」

「そ、そうなんですか!? 超強いっていわれてるんですけど所長がそういうなら」

 

 などという意味不明なやり取りがあったりしたが、ともかく光己はまず1回目の召喚を行うため、聖晶石を3個魔法陣の中央に置いた。

 いったん魔法陣の外に出てから、全神経を集中して召喚の呪文を詠唱する。

 

「―――告げる!

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 詠唱が終わった直後、魔法陣の上に青白い稲妻のような光がほとばしる。やがて回転する3つの輪に変わったかと思うと、まばゆい光の柱が立ち昇った。

 

「おおおっ、何かすげぇ……!?」

 

 膨大なエネルギーが発生しているのが素人の光己の感覚でも分かる。しばらくして光が薄れてくると、彼らの期待通りそこに人影があるのが見えた。

 

「召喚は成功みたいね。問題はどんな人が来るかだけど……!」

 

 オルガマリーたちも注意深く魔法陣の上を注視している。そして完全に光が消えた時、その場にいたのは―――。

 

 

 

 

 

 

「ワルキューレ───個体名、オルトリンデです。え……あなたは人間、ですか……?

 いえ、少し驚いてしまって。まさか人間に召喚されるなんて……安心してください、契約は正式に結ばれています。あなたをマスターとして認証します。以後、人理を守るために私たちを使ってください」

 

 なんと、ヒルドの同僚だった。そういう縁召喚もあったのだ。

 雰囲気はヒルドよりおとなしめで髪の色と槍の形状が違うが、全体的に見れば彼女とよく似た感じである。光己的には、服の下腹部のくり抜きとスカートのスリットの深さが同じだったので、とりあえず不満はなかった。

 

「オルトリンデ! まさかあなたも来てくれるなんて思わなかったよ。ありがとう!」

「ヒルド!? 何か縁を感じましたが、あなたがいたんですね。何やら大変なことになっているそうですが、心強いです」

 

 やはり2人は同僚、それもかなり仲がいいようだ。性格も善良そうだし、当たりといってよさそうである。

 

「そうだ、マスター! せっかくだからあと1人もワルキューレにしようよ。何人かいるけど、スルーズあたり、あたしたちと特に仲がいいからお勧めだよ」

「へえっ!?」

 

 いきなりの推薦に光己はちょっと困惑した。それはまあ、メンバーの仲が良好というのは非常なプラス要素だけれど……。

 

「でもみんなやれることが同じっていうのは引き出しが少ないってことだからなあ。それはよくない気がする。

 いや俺が指定できるわけじゃないから、来てくれたなら歓迎するけど」

「なるほどー、やっぱりマスターはいろいろ考えてるねえ」

 

 光己はあえて心にもないリップサービスはせず思ったことを正直に述べたのだが、今回はそれで正解だったようだ。ヒルドは気分を害するどころか、彼を思慮深い人物として評価を高めてくれていた。

 

「ま、俺ができることっていったらそれくらいだからさ。

 それじゃオルトリンデの紹介の前に、もう1人も呼ぶとしよっか」

「うん」

 

 というわけで光己はもう1度聖晶石を魔法陣の上に置き、召喚の呪文を唱える。先ほどと同じように光の輪が回って光柱がそそり立ち、やがて消えた。

 その後に立っていたのは―――。

 

 

 

 

 

 

 光己にとって喜ばしいことに、今回も若い女性のようだった。年齢は20歳くらい、和風のきりっとした感じの美女である。

 濡れ羽色の長い髪を濃い赤色のリボンでポニーテールにまとめ、同じ色の長いマフラーを巻いていた。黒と濃紫色のレオタードを着て、腕にはよく分からない材質の黒い籠手らしきものを付け、脚には黒い脚絆を穿いている、ように見えた。

 

「───加藤段蔵。ここに起動。入力を求めます、マスター。段蔵は忍なれば、あらゆる命令に従いまする」

 

 彼女はやはり日本人だったようだ。そして実に幸いなことに、光己は彼女の名前と経歴を知っていた。

 

「加藤段蔵? っていうとアレか、風魔の飛加藤か!?」

 

 自分のことを知っていてくれたとなれば、誰でも嬉しく思うものだ。段蔵はわずかに口元をほころばせた。

 

「マスターは段蔵のことをご存知でありましたか。現界の時に得た知識によれば、今はワタシが稼働していた時より400年以上も未来。そんな遥か遠い世の、それも段蔵が仕えるべきマスターが名を知って下さっていたとはまことに光栄に思いまする」

「へ!? いやいや、そんな大層なことじゃないって。たまたま読んだ歴史小説で見ただけだから」

 

 つまりちゃんとした歴史書で読んで正確かつ詳しい知識があるというわけではないので、大げさに喜ばれて光己は逆に恐縮してしまった。

 しかし彼女は少なくともマスターへの忠誠心は持っていてくれそうなので、特異点での情報収集や敵対者への搦め手技などでは役に立ってもらえそうである。それに外見年齢は大人だから、見た目16~17歳=未成年の光己たちと違って、現地人との交渉や宿屋に泊まる時などにも、無用な勘繰りは受けずに済みそうなのも助かる。

 

「……って、ちょっと待てよ。現地で宿屋?」

 

 冬木では生きた人間が誰もいなかったから民家に無断で宿泊させてもらったが、次以降の特異点がそうでなければ、普通の旅行者と同じようにどこかの街で宿屋に泊まることになるだろう。そうなれば当然、いやそれ以外でもいろいろと現地の通貨が必要になるはずだ。

 

「……所長、ちょっと質問いいですか?」

「え、今? いいけど何?」

 

 突然険しい視線を向けられてオルガマリーは困惑したが、光己はそれで引くわけにはいかない。

 

「レイシフトでいろんな時代のいろんな場所に行くっていいますけど、そこのお金は当然たっぷり渡してもらえるんですよね!?」

「…………」

 

 どうやらその点はまるで考えていなかったらしく、オルガマリーは脂汗をだらだら流しながら目をそらした。

 

「……げ、現地調達!?」

「ザッケンナコラー! スッゾオラー!!」

 

 ただの高校生が人類の命運にかかわる命がけの重大な任務を無一文でやれと言われたのだから、錯乱して上司につかみかかってもまあ致し方ないといえるだろう……。

 オルガマリーも罪悪感が大きいらしく、胸元を掴まれて揺すられるままになっていたが、さすがにロマニとマシュが割って入った。

 

「ま、まあまあ藤宮君! 怒るのはもっともだけど、食料や着替えや野営の道具はこっちから送れるから大丈夫だよ。少なくとも飢え死にの恐れはないから安心してくれ。

 それにほら、今召喚したのはジャパンのニンジャなんだろう? ボクは詳しくないけど、そっち方面ではいろいろ頼りになるんじゃないのかい?」

 

 ロマニが援護を求めて段蔵に視線を送ると、ニンジャ娘はこっくり頷いた。

 

「そうでございますね。現界の時にいろいろ知識をいただいておりますので、日の本以外の地域でも、野草や山菜の類が食べられるものかどうかの見分けはつきまする。

 もっともそんなことをせずとも、マスターのためとあれば悪代官や高利貸の類の屋敷から軍資金を頂戴してくるくらいは容易でありますが」

 

 さすが高名な忍者だけあって、生存のためのスキルは優秀のようだ。

 しかもお金を盗む相手を限定している辺り、まったくの非情というわけではないのは光己やマシュのようなお人好しにとっては好ましいことだった。あるいはマスターが善人そうなので合わせてくれているのかも知れない。

 光己もそういうことならいつまでも怒り続けることはない。

 

「あー、そういうことでしたらまあ。

 それじゃえーと、年上ぽいし加藤さん、とでも呼べばいいのかな?」

「いえ、ワタシは忍びの者で貴方様はマスターですので、段蔵とお呼び捨て下されば」

「そっか、じゃあ遠慮なく。これから大変なことになるかも知れないけどよろしくな」

「はい、段蔵をいかようにもお使いください」

 

 何はともあれ、こうして光己は無事サーヴァント召喚を成功させ2人と友好的な関係を結ぶことに成功した。

 あとは特異点の詳細が判明してレイシフトの準備が整うまで、サーヴァントたちとの親睦とか現地の社会情勢についての勉強とか、そもそもカルデアとはどういう組織かという勉強とかいろいろするべきことがあるのだが、今日のところはこれでお仕事おしまいとなったのだった。

 




 ニンジャってロマンですよねぇ、というわけで4人目は段蔵ちゃんでした。カラテやクビキリは使えるのだろうか(ぉ

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