家を建てるのはさほど急ぐ必要はないが、アルゴノーツやランサーオルタや織田信長がいつ現れるか分からない以上、ジャンヌオルタが刀を作るのは急いだ方がいい。光己は鍛冶場の建物と道具一式を聖杯で用意した。
「うーむ、これが聖杯の力か……」
その光景を見たアタランテは感心しきりであった。これなら「全ての子供を救う」のは無理でも、目の前にいる子供くらいは確実に救える。
もっとも今は人理修復が最優先、というかこの特異点に子供はいないのだけれど。
「それで、どんな刀を作るの?」
ジャンヌオルタが光己に訊ねる。一口に刀といってもいろんな種類があるのだ。
「うん、お守り刀用に短刀をお願い。長いと荷物になっちゃうから。
俺は元々武器使わないし、まして一品物だから実戦で使って折れたりしたら一大事だからな」
「短刀ね、了解」
ジャンヌオルタが頷くと、オルトリンデが話に加わってきた。
「私見ですが、刀身の素材は隕蹄鉄ではなく神鉄かオーロラ鋼が良いと思います」
「神鉄?」
「はい、私たちの盾は神鉄、鎧はオーロラ鋼でつくられています。いえ私たちは鎧はつけていませんが。
あと鞘に紐を巻くなら原初の産毛が良いかと」
「なるほど、日本にはその手の特殊金属って……いや、ヒヒイロカネってのがあるわね」
どれもこれも激レア素材なのだが、今回は探す必要がないので2人とも実に気楽そうな口調であった……。
なお原初の産毛とは燃え盛る炎のような獣の毛で、その神々しさから魔除けの御守として珍重されている代物である。
「ヒヒイロカネですか。私が現界した時にもらった知識にもありますが、詳しい性質が分からないと刀にするのは難しいのでは?」
「それもそうね。でもアンタの盾が神鉄製だっていうなら金色なのよね。日本刀の刃に使うには派手すぎると思うけど……オーロラ鋼ってのは何色?」
「澄んだ青色で、名前の通りオーロラのような輝きを放つ金属です」
「じゃあそっちにしましょう。神鉄は鞘と柄ね。漆の代わりに黒獣脂か何かを塗ればけばけばしくないし」
そして黒獣脂というのは、魂を喰らう獣の体表から採れるドロドロとした脂で、蒸留と精製を繰り返すことで上質の魔術資源となるものだ。これだけの材料を使う時点でお守り刀としては破格の一言につきるのだが、今回はここからが本番である。
「参考までに聞くけど、どんなルーンを刻むつもりなの?」
「まだ具体的には決めていませんが、エクスカリバーに倣って鞘に護りと癒し、刀に攻撃の力を付与しようかと考えています。
しかし戦闘には使わないのであれば、攻撃の代わりに解呪や破魔の方がいいかもしれません」
「マスターは自前で炎やビーム出せるものね」
だからぶっぱするのに道具に頼る必要はないのだ。
しかしせっかく最高の素材で渾身の一刀を鍛えるのだから、絵になる必殺技の1つでも持ってくれた方が嬉しいのも事実である。剣術をやらないなら剣に封じられているナニカが勝手に攻撃してくれるとか、ケルト神話的に考えるなら剣自身が飛んでいくとか。
……まあその辺は実際に刻む時までに当人に決めてもらえばいいだろう。
「それじゃさっそく始めましょうか。
そうだ、アンタも手伝いなさい。ルーンがあれば手間省けそうだし」
「はい」
こうしてジャンヌオルタとオルトリンデは今決めた材料を光己に出してもらうと、鍛冶場にこもって刀をつくり始めたのだった。
一方光己たちは拠点として家を建てる仕事である。必要以上に聖杯の魔力を使うのはよろしくないので、こちらは普通に島の木や草を使って建てることにした。
今回は2度目だし資料を持って来ているから、竪穴式住居を建てるのに苦労はない。
また光己はサーヴァント基準で筋力がBランクにまで育っているので、無人島の時と違って非力感にさいなまれることはなかった。
「まさに力こそパワー! 我が地底戦車のごとき掘削力を見るがいい!」
むしろ調子に乗って穴を掘りまくっている。そこに清姫が近づいて、いくぶん申し訳なさそうに声をかけた。
「あの、ますたぁ。ますたぁ自ら土を掘るのはその辺にして、監督役に戻っていただけると嬉しいのですが」
「……?」
コミュ力人並みの彼には理解できないようだったので、清姫は続きを口にした。
「何といいますか、元一般人のますたぁに、わたくしたちより剛力なところを見せつけられますと、その、サーヴァントとしての体面がちょっと」
「あー、それか」
光己があの時感じたのと同じことを清姫も感じたということか。それは悪いことをした。
「そうですね、率先垂範はもう十分かと思います」
とはいえ1人の意見だけでやめるのもどうかと思うが、マシュも賛成したので光己は採用することにした。
「そっか、じゃあそうするかな」
「はい、あとの実作業は私たちにお任せ下さい」
「代わりに後でスイーツ作って下さいね。手作りですよ手作り」
そこで尻馬に乗ったのはカーマである。一応真面目に作業しているが、何らかの対価は欲しいようだ。
言われてみれば聖杯メシはとても美味だが、手間とか愛情とか真心とかがこもっているとはいいがたい。ヒネた愛の神様としてはそれだけでは物足りないのだろう。
「そうだな。じゃあ家建てるのが一区切りついたら、段蔵といっしょに材料探しに行こうか」
「はーい」
それでカーマは納得したが、次はアタランテがやってきた。
「しかし汝はフランスの時は確かに普通の魔術師、いや一般人だったのに、何故私より腕力が強いんだ!?」
実に不思議かつ面白くない現象である。
アタランテは素早さや器用さが身上であって力自慢というわけではないが、それでも一般人に負ける気はない……というか光己が逸般人すぎるのだ。あれから何かあったのか?
「あ、これは話してなかったか。まあ要するに、悪竜現象で俺も竜種になったんだよ」
「悪竜現象……つまりファヴニールの血を浴びたということか。それなら話は分かるが……そういえばあの時はジークフリートもいたな。
……いや、やめておこう」
アタランテは何か思い出したようだが、光己には関係ないことらしく口にはしなかった。
「まあ何にせよ、最後のマスターが強くなったのは喜ばしいことだな。今回もよろしく頼む」
「うん、こちらこそ」
そんなことを話しながら作業しているうちに、家と調理場とトイレとお風呂はあらかた出来上がっていた。清姫がさっそく光己の腕に抱きつく。
「旦那様! これで今日は並んで寝られますね!」
「お、おお、そうだな」
清姫は相変わらず清姫だった。ここまでアグレッシブだとかえって引いてしまう時もあるが、彼女の宿願みたいだから、たまには叶えてあげてもいいだろう……。
あとはカーマご希望のスイーツの材料を取りに行かねばならないが、光己が同行者を募ろうとしたところでルーラーアルトリアが制止してきた。
「マスター、お待ち下さい。サーヴァント反応です」
「え。まさかアルゴノーツがもう来たのか!?」
「いえ、2騎ですからアルゴノーツではないと思います」
それならランサーオルタと織田信長だろうか。どちらにせよせっかく建てた家や鍛冶場を壊されてはたまらないから、海上で迎え撃つべきだろう。
「それじゃルーラー、船お願い。それとアタランテ、通信機でアルテミス神とオリオンさんを呼び戻してくれる?
あとはオルトリンデとジャンヌオルタか」
光己がそう言って一同の顔を見渡すと沖田が口を開いた。
「船で迎撃するのはいいですが、万が一に備えて留守番も残した方がいいのでは?」
「うーん、それもそっか。じゃああと2人……段蔵とXX、お願いしていい?」
「はい、承知致しました」
「むうー、不本意ではありますがマスターくんがそう言うなら」
こうして配置が決まり、迎撃組が海岸に向かうとアルテミスとオリオンも戻って来た。
「お待たせー! ……って何この家、もしかして草で建てたの?
んもー、そんな面白そうなことするのに呼んでくれないなんて、アタランテちゃんひどいなあ」
「んんっ!?」
突然咎めるような視線を向けられてアタランテは困惑した。まさかアルテミスが石器時代の家を建てることに興味を持つとは。
「い、いえその。アルテミス様がこんな事をしたがるとは思わなかったので……」
「むうー」
アタランテは弁解を試みたが、女神様のご機嫌は斜めのままだ。困った女狩人は救いを求めてマスターの顔を顧みた。
「……ま、まあまあアルテミス神。家はまだあと2軒建てますので、明日はぜひお願いします」
「え、明日もやるんだ。それ早く言ってくれればいいのにー」
その意を察した光己が仲裁すると、アルテミスはどうにか機嫌を直してくれた。
そして1人と12(+1)騎でルーラーの船に乗り込んで出航する。やがて前方に2隻の帆船が見えてきた。
「昨日と同じ船ですね。やはりランサーオルタと織田信長かと」
2隻は50メートルほど間を取って横に並んでいる。こちらの存在に気づいたらしく、方向転換してまっすぐ近づいてきた。
「さて、どう来るか……?」
彼女たちにとってこちらは「敵の味方」だが、まだ交渉の余地がない仇敵とまではいえないだろう。できれば話し合いで味方に引き入れたいものだけれど。
―――と考えていた時期が光己にもあった。
《マスター、右側の船で魔力反応が急速に増大している。おそらくは宝具だ!》
「血の気多いな!?」
カルデア本部からの警告に光己が思わず悲鳴を上げるとほぼ同時に、こちらも気配を感じたのかルーラーアルトリアが進み出る。
「あれはおそらく聖槍でしょう。私が対応します。
ロンゴ……もとい、主砲展開準備!」
そういえば彼女も聖槍の担い手だった。反応が早かったのはそのためだろう。
ルーラーが軽く手を振ると、船首の少し前に白鳥のような形をした光のシルエットが現れる。ランサーオルタの船からは黒い竜巻が屹立した。
「
「
2人がほぼ同時に宝具を開帳し、金色の光条と黒い暴風が両者のちょうど真ん中あたりで激突する。光と風がはじけ散り、耳をつんざくような轟音が響いた。
「うわ……!」
爆圧で大波が起こり、船が木っ端のように流される。とんでもない威力だった。
しかし竜巻自体はここまで来なかったから、一方的に押し負けたわけではないだろう。ランサーオルタと信長の船も同じように流されたはずだ。
「でも変ですね。ランサーオルタがはぐれサーヴァントであるなら、ルーラーさんと互角にはなれないと思うのですが」
船が揺れたので転倒していたマシュが慌てて起き上がりながら、今頭に浮かんだ疑問を口にする。
こちらには聖杯を持った竜人というこれ以上ないマスターがいるのだから、「同じ」サーヴァントが同じ宝具を打ち合えば勝てるはずなのに。
「おそらく彼女は『
「なるほど」
ルーラーの解説でマシュは納得したが、これは厳しい戦いになりそうだ。盾兵少女は改めて気合いを入れた。
マシュと同様に転んでいた光己も起き上がって、角と翼と尻尾を出して戦闘モードに入る。するとまたカルデアから通信が入った。
《どうやら戦闘は避けられんようだな。しかし2人と同時に戦う必要はない。
こちらの船の方が圧倒的に速いから、常にランサーオルタと織田信長を結ぶ直線の先に陣取るのだ》
「おおぅ、さすがはⅡ世さん」
そうすれば、こちらから見て後ろにいる方は、前にいる方が邪魔になって攻撃できない。つまり1隻対1隻で戦えるというわけだ。
「どっちと先に戦えばいいですか?」
《選べるならランサーオルタだな。あれほどの宝具を連発はできないはずだから、その間が攻め時だ》
「分かりました」
実に合理的な作戦である。光己はⅡ世の案を速攻で採用すると、ルーラーにその旨を話した。
「で、もし戦いながらやるのが大変だったら、探知と操船に集中してくれてもいいから」
「はい、承知しました」
ルーラーが頷いて、さっそく急速旋回して敵船2隻の横に回る。するとランサーオルタたちはこちらの考えを読んだらしく、しかもそれを防げないと見たのか、彼女の船だけが妙に高速で近づいてきた。
「急に加速した!?」
「多分
メイドオルタが小さく舌打ちしながらそう解説する。彼女にはできない芸当のようだ。
ランサーオルタの船には大砲の類は積んでいないらしく、砲撃とかはしないでひたすら突っ込んでくる。ある程度近づいたら亡霊たちを乗り込ませようという算段なのだろう。
「心配するな。弓兵とはこういう時のためにいるものだろう?」
「そうね。ダーリンと一緒にがんばっちゃうわ!」
しかしこちらには凄腕の射手が2騎も新規参入している。アタランテは1歩前に出ると、もし先方に隙があったらヘッドショットを決めてやろうなどと考えながら、ランサーオルタの船をじっと見つめた。
「さて、どこにいる……?」
アルトリアズによると、彼女たちはランサークラスの時は必ず馬に乗るそうだが、それらしい姿は見当たらなかった。まあ船の上で乗っても目立つだけで、良いことはないので降りているのだろう。
「……あれだな。あの顔に黒い槍、間違いない……って、何て破廉恥な格好をしているんだ!?」
不意にアタランテが顔を赤くして素っ頓狂な声を上げる。何を見たのだろうか?
光己はすかさず双眼鏡を取り出して、彼女が見ていた方を注視した。
「うおおぉぉ、人前でなんてえちえちな服着てるんだ。天使か!?」
服というよりランジェリーか。デザインはベビードール風で、透けた白い薄布のところどころに花模様をあしらっている。
しかし胸より下の布が少ないため、黒いパンツとガーターベルトが丸出しだった。ちなみにストッキングも黒でそろえている。
着ている当人は、ルーラーアルトリアの肌と髪の色と雰囲気がオルタになった感じか。つまりおっぱいばいんばいんでとてもえろい。
「まさか戦場でこんな良いものを拝めるとは。そうだ写真写真」
光己が今度はカメラを取り出そうとすると、遠くからでもその辺の雰囲気を察したのか、ランサーアルトリアの大音声が聞こえた。
「うるさい黙れ、私だって好き好んでこんな服着てるんじゃない!!
そこの白い私と違って水着がないからってこんな……この屈辱、ちゃんとした水着をもらってる貴様たちには分からないだろうがな!
だから私は『契約の箱』を壊してさっさと座に還るんだ。邪魔をするなーーーっ!」
どうやらランサーオルタは、恥ずかしい服で現界させられた罰ゲームを一刻も早く終わらせたくて、それでも何もせずに自決するのは矜持が許さないので、何らかの役に立ってから還りたいということなのだろう。血の気が多いのもこのせいか。
「お、おぅ……!?」
これはどうしたものだろう。光己たちは思い切り当惑して立ちすくんでしまうのだった。
主人公が邪ンヌに作ってもらっている短刀に付与する機能はどれが良いですか?(鞘とは別枠)
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ガンド
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氷作成
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魔術解除
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お姉ちゃん