FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第111話 ワイルドハント

 ランサーオルタは騎士王だけあって悪玉ではないようだ。なら殺すのは気が引ける、というか思春期少年的にはぜひとも仲間に入れたかった。あの美貌とド迫力ボディでえっちなランジェリーを着てくれている天使を失うのは、人類の半数にとって多大な損失である。

 

「俺の見立てでは、あれはハロウィンの時とかに夫や恋人を挑発して楽しむための服だな。もちろんその後は悪戯されまくって(ry」

「……先輩、そろそろ真面目にやって下さい」

「……はい」

 

 マシュが怖い顔をして睨んできたので、光己はマスターの仕事に戻ることにした。

 なおオリオンがまたアルテミスにシメられていたが、今回もスルーである。

 

「あ、そういえばお姉ちゃんはランサーオルタの姿は見てなかったの?」

「いえ、見てはいましたが男性に話すのはどうかと思って控えていたんです。教えなくても支障はないと思っていたのですが、まさかあそこまで激昂するとは予想外でした」

「うーん、それじゃ仕方ないか」

 

 しかしあの様子では、そう簡単に説得に応じてはくれないだろう。まずは落ち着いてもらわないと。

 それに、彼女の周りにいる魔物はどのみち排除せねばならない。

 

「アタランテ、宝具いける?」

「うむ、この距離ならやれる。取り巻きを蹴散らすのだな?」

「うん、お願い」

「分かった。『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!!」

 

 アタランテが空に向かって弓を構え、1本の矢を放つ。

 それがふっと見えなくなった直後、上空からランサーオルタの船に無数の矢が雨のように降り注ぐ!

 

「フン、小癪な。風王結界(インビジブル・エア)!!」

 

 しかしランサーオルタは一手早くまた槍を天にかざしていた。再び黒い竜巻が唸りを上げる。

 その竜巻が下の方から、ちょうど傘のように広がっていく。彼女の風芸は威力だけでなく器用さも備えているようだ。

 

「……あれで防ぐ気なのか?」

 

 光己が小声で呟いた直後、矢の雨が風の傘に落下する。

 当然突き刺さって突破できるだろうと光己は予想したが、意外にも矢雨は傘の上を滑って船の外に落ちてしまった。

 

「ランサーオルタの風ってそんなに強いのか!?」

「いや、傘が斜めだったから力の向きがそれたんだ。垂直だったら突破できたと思うが、うまくやられた」

 

 ランサーオルタはぷっつんしていても頭のキレは失われていないようだ。

 しかも槍の騎士王はその穂先をまたこちらに向けてきた!

 

「え、またブッパしてくるのか!?」

 

 予想外の連射力に光己たちは驚倒して一瞬反応が遅れたが、マシュだけは盾兵という役目柄、リアクションが間に合った。

 

「―――最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!」

「させません! ……顕現せよ、『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』!!」

 

 黒い暴風の進行経路にキャメロット城の幻像が立ちふさがり、轟音をあげて激突する。

 暴風の威力は冬木でアルトリアオルタが放った「約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)」に劣らないものだったが、マシュもあれから多くの経験を積んで成長していた。今回は光己やオルガマリーの後押しを必要とせず、魔力的にも精神的にも独力で耐え切ることに成功する。

 

「先輩、私、やりました……!」

 

 普段おとなしいマシュが、あまり見せない満面の笑顔で誇らしげに自分の手柄を自賛した。

 役に立てたのが嬉しいのはもちろんだが、純一般人だった先輩が何か非常識な速さで強くなっているので置いてけぼり感があった今日この頃の中で、自分も確かに成長できているのを実感できたということもある。

 

「うん、すごいぞマシュ!」

 

 光己も後輩の手柄と成長を率直に褒め称えた。先輩としてリーダーとして当然のムーブである。

 一方ランサーオルタは「キャメロット城」に自身の攻撃を防がれたことを驚いていた。

 

「あれはまさしく我が城……我が騎士の誰かがあの中にいるのか!?

 しかしそれらしい者は見当たらないが……いやあの盾はもしかして? いや女だから違うか」

 

 両者の間にはまだ多少の距離があるからか、ランサーオルタはマシュにギャラハッドが憑依していることまでは見抜けなかったようだ。

 

「まあいい、どちらにせよ王の道を阻むなら、反逆者として処断するのみ。

 ……突き立て! 喰らえ、13の牙!」

 

 そして三度宝具開帳の準備を始める。明らかに異常な事態だが、光己たちとしては状況を推察する前に、今この場の脅威に対処せねばならない。

 今回はメイドオルタが前に出た。

 

「どんな手品を使ってるのか知らんが、思い通りにはさせんぞ。『不撓燃えたつ勝利の剣(セクエンス・モルガン)』!!」

 

 メイドオルタは個人的な信条で「単独行動EX」というスキルを取った代わりに筋力や魔力などの基礎スペックは下がっているが、宝具の狙撃銃はエクスカリバーとセクエンスを組み合わせて作った物で、つまり武器を2つ使っている分高威力である。銃口から撃ち出された水流の圧力は「最果てにて輝ける槍」の風圧とほぼ同等で、また爆風と大波が起こって船は派手に押し流された。

 

「うわわ、むちゃくちゃだ……そ、そうだⅡ世さん。あれ一体どうなってるの!?」

 

 話が違うではないか、という抗議の意味を言外にこめて光己がエルメロイⅡ世にそう問い質すと、Ⅱ世はさすがに申し訳なさそうに謝罪した。

 

《すまん、どうやら見誤っていたようだ。

 だが原因は分かったぞ。ランサーオルタが宝具を撃つたびに、彼女の船にいる亡霊の数が減っている……つまり亡霊から魔力を吸い取っているんだ》

「な、何だってー!?」

 

 それではどこぞの外道麻婆や魔術師一族と同じではないか。騎士王はオルタでも王道派だと思っていたのに!

 

「それが王様のやることかよぉ!」

 

 少年らしい正義感からか、いきり立ってランサーオルタに指を突きつけて糾弾する光己。しかし黒い槍王はそれを鼻で哂った。

 

「フン、何を言うかと思えば。

 私利私欲のために生きた人間から魔力を絞り出すなら確かに外道だが、迷える亡霊をあの世に送ってやったのだからむしろ慈悲だろう。もっとも今回は人の体を不埒な目で見た懲罰も兼ねているがな」

「え!? あ、うーん、それならあんまり悪くないのか?」

 

 なるほど亡霊を成仏させるのは善なる行為といえるだろう。それにこの海域にいるなら海賊の類だから、さらなる悪事を重ねさせないという意義もある。

 また海賊の霊となれば、未練を解消させてやるとか聖職者が弔うとかいった平和的な方法は難しい。なら光己たちも昨日やったように力ずくということになるが、それなら魔力を奪って斃すのも大差ない。

 王様にセクハラを働いたのなら尚更だろう。いや今回はランサーオルタがえっちな服を着ているのが原因だが。

 

「言いたいことはそれだけか? では今度こそ我が聖槍の力を味わえ!」

「まだ撃てるのか!?」

 

 光己は正直驚いたが、ここでⅡ世が助言してきた。

 

《落ち着け。亡霊が減ったペースから見ると、連発できるのはあと1回だけだ。

 生きている魔物の魔力も奪うなら別だがな》

「あまり助けになってない!?」

 

 1回だけなら令呪を使えば済むが、その後でⅡ世が言ったようにランサーオルタが生きている魔物から魔力を吸い出したら困る。そろそろ反撃に移るべきだろう。

 

「矢じゃ牽制にならんしなあ……そうだ!

 お姉ちゃん、鯨を呼んで、ランサーオルタの船の底に体当たりしてもらうってのはどうだろう」

「なるほど、やはり弟君は冴えてますね!」

 

 ランサーオルタの船は、大きさはルーラーの船と大差ないから、排水量は300トン前後だろう。一方鯨類の中で最大のシロナガスクジラは最重で190トンにもなるので、体当たりすれば十分揺らせる。そうなれば宝具ブッパは難しくなるし、あわよくば船底に穴を開けて沈没させられるかもしれない。

 

「では大急ぎで。『豊穣たる大海よ、歓喜と共に(デ・オセアン・ダレグレス)』!!」

 

 両者の船が再び近づきランサーオルタが聖槍に魔力をこめ始めたタイミングを見計らって、ジャンヌが召喚した鯨がランサーオルタの船の底に頭突きを喰らわせる。

 船が大きく傾き、さすがの騎士王もよろめいてたたらを踏んだ。

 

「な、何だ!? 座礁でもしたのか!?」

 

 海底に岩の柱でも生えていてぶつかったのだろうか。ランサーオルタは最初はそう思ったが、2回3回と船底に何かが強打するに至って正解にたどり着いた。

 

「これは大型の海獣か何かが攻撃してきているな。誰かの宝具か!? 厄介な」

 

 ランサーオルタの船にいる魔物は大ヤドカリやラミアが主で、水中でも行動はできるがこの船を揺らせるほどの大型生物とは張り合えない。

 それでも数で押せばどうにかなるか、少なくとも何もしないよりはマシだと考えて迎撃に送り込む。

 

「よし、行け!」

 

 すると船の下の水中で戦闘が始まる気配がして、同時に船底にぶつかられるペースが下がった。

 しかしこの処置の間、敵船への注意がおろそかになっていたのは否めない。その間に白い船はまっすぐ突進してきていた。しかもアーチャーが矢を射って牽制してくる。

 

「くっ、おのれ!」

 

 ランサーオルタはそれを避けたり槍ではじいたりして凌いだが、風の傘をつくるほどの余裕はなかった。その間に敵船はますます近づいてくる。

 

「接舷するつもりか!?」

 

 こちらの船に乗り込んで白兵戦を挑む気なのか。ランサーオルタはそう解釈したが、カルデア勢が考えているのはもっと過激なことである。

 

「ルーラー、そのまま突っ込めーっ!」

「はい、マスター。総員、耐ショック防御!」

 

 船長の指示により、サーヴァント一同が身構えてその瞬間に備える。光己はマシュを後ろから抱きしめた。

 

「あ、あの、先輩!?」

「いや、船同士がぶつかった衝撃で投げ出されて離れ離れになったらまずいだろ」

「そ、それはそうですが」

 

 マシュの役目は光己を守ることである。彼の言うことはまことにもっともだった。

 

「だからといってむ、胸をつかむ必要はないのでは!?」

「つかむなんて乱暴なことしてないぞ。ちゃんとソフトにしてるだろ!?」

「そ、そういう問題では……んっ、あん、だ、だめですせんぱ……」

 

 とか言いながら2人が何か怪しげなことしている間に2隻の船は手が届くほどの距離まで近づいて―――。

 ルーラーの船の先端の衝角(ラム)が、ランサーオルタの船の土手っ腹にめりめりと音を立てて突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

「船が、割れる……!?」

 

 自分の船が真ん中からへし折られて前後にちぎれていくのを見て、ランサーオルタは茫然と呟いた。

 彼女の船は幽霊船を乗っ取ったものでさほど頑丈なものではないとはいえ、まさか一撃で真っ二つにされるとは。それとも海獣の攻撃ですでに痛んでいたからか?

 白い船からサーヴァントが何人も乗り込んでくる。空を飛んでくる者もいた。

 

「くっ、おのれ……!」

 

 だがまだ打つ手はある。ランサーオルタは生き残っている亡霊と魔物たちに応戦を命じた。

 船内に残っていた亡霊軍がカルデア勢の前に立ちはだかる。

 

「ふふーん、ついに私が本領を発揮する時が来ましたね! そーれ、っと」

 

 しかしカルデア勢には魅了スキルを持った女神様がいた。愛の矢を当てるとこちらの味方になるのだ。

 ローマの特異点では政治的な配慮で使用を控えていたが、ここでは誰にはばかることもない。

 

「「おおおおお、カーマ様ぁぁぁーっ!!」」

 

 といっても、宝具ではない通常の矢なら、多少の対魔力か精神異常耐性があれば防げるのだが、ただの海賊の亡霊にそんなものはない。ことごとくカルデア側の味方になって、ランサーオルタ軍に襲いかかった。

 

「何だと!?」

 

 今度は「嵐の王(ワイルドハント)」の軍勢に謀反を起こさせるとは。おそらく一時的なものだろうが、今この場の戦闘に勝つだけならそれで十分だ。

 ランサーオルタはデバフ解除のスキルは持っていないので、この同士討ちを止める手段はない。こうなれば元凶の敵サーヴァントを倒すしかないが……。

 

「行かせませんよ。光子ミサイル、斉射三連!」

「うん、こういう足場の悪い所でこそ私の『極地』が映えるというもの。本気出してしまうぞ!」

 

 空から変な飛び道具を撃ってくる剣士や不思議な足捌きをする剣士は非常に俊敏で、接近戦はやりづらかった。パワーでは勝っていたが、2対1なのもあって押されっ放しだ。

 それでもランサーオルタは聖槍を振るって何とか防戦していたが、不意に腿に矢が刺さる。

 

「くう!」

 

 後ろの弓兵を見落としていたか。しかもまた空を飛べる敵がやってきた。

 

「ええと、アルトリアでいいのかな? そろそろ頭冷えてきた?

 恥ずかしい服が嫌なんだったら、ちゃんとした服用意してあげてもいいんだけど」

「何!?」

 

 ランサーオルタは劣勢なのは自覚していたが、新手が手に持った槍で襲ってくるのではなく、衣服の提供を申し出てきたのには驚いた。

 しかしそこに隙が生じる。声も気配もなく背後から振るわれた後頭部への峰打ちで、ランサーオルタはがくりと前によろめいた。

 

「そこに睡眠のルーン!」

「う!? あ……ふぁ、ぅぅ……んん」

 

 そして怒涛の連携攻撃により、ついに甲板に倒れ伏したのだった。

 

 

 

主人公が邪ンヌに作ってもらっている短刀に付与する機能はどれが良いですか?(鞘とは別枠)

  • ガンド
  • 氷作成
  • 魔術解除
  • お姉ちゃん

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