FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第112話 第六天魔王1

 ヒルドたちはランサーオルタが昏倒したのを確認すると、すぐさま聖槍を没収した上で強化ワイヤーで縛り上げた。ヒルドはフランスで体験済みだし沖田は武装警察出身なので、その手並みは文字通り本職のように鮮やかであった。

 ついでランサーオルタをかかえてルーラーアルトリアの船に帰投しようとした時、ふと後ろからの視線を感じた。

 

「あれは……ランサーオルタの乗騎かな?」

 

 ちぎれた船のもう一方の甲板の上で1頭の馬がこちらを睨んでいる。かなりの敵意を感じるが、ランサーオルタが捕虜になっているからか襲ってくる様子はない。

 

「連れてくしかなさそうだけど、動物会話スキル持ってる人なんていないよねえ?」

「ルーラーさんかメイドオルタさんなら何とかなるかもしれませんが……」

 

 まだ織田信長が控えているから戦後処理はすみやかに済ませたいところだが、マスターがランサーオルタを味方にしたいと思っているからぞんざいにはできない。空を飛べるヒルドがいったん戻ってメイドオルタを連れてきた。

 

「ほう、本当にラムレイではないか。なら他の者には簡単には懐かんだろうな」

 

 しかし、メイドオルタはアルトリアのオルタだから、だいぶ近い存在なので難度は下がる。剣と銃を引っ込めて殺意はない旨を示してから手招きすると、納得した様子で彼女のそばに飛び移ってきた。

 メイドオルタがその背中にランサーオルタを乗せ、ついで轡を軽く握る。

 

「ではこちらに来い。主ともども私たちの仲間になるのだ」

 

 するとラムレイはメイドオルタの発言の趣旨は理解できたのか、素直にルーラーの船についてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その頃ルーラーの船では、怒れる盾兵少女がぷんすかしながらマスターの少年を正座させてお説教していた。

 

「まったくもう、戦闘中に何考えてるんですか!

 先輩に抱っこされるのが嫌というわけではありませんが、TPOというものを考えて下さい! ましてやその、む、胸をさわるなんて」

「いやお腹抱くだけじゃ上半身が固定されないから危ないだろ。といって顔つかむのも何だから、胸が妥当ということに」

「それはそうですが、それならち、乳房をさわらなくても胸の真ん中あたりでいいのでは」

「それじゃつまらんだろ」

「本音を出しましたね!?」

 

 などと2人が騒いでいると、意外にも清姫が仲裁に入った。

 

「まあまあマシュさん。まだ織田信長さんがいるわけですし、その辺にしておいては。

 別に嫌ではなかったんでしょう?」

「嫌というか恥ずかしいというか、とにかく戦闘中に女性の胸をさわるのはいかがなものかと思うのですが」

「それはそうですわね。それよりますたぁ、女性の胸をさわりたかったのなら、わたくしの胸をさわって下さればよかったのに」

 

 話の筋がいきなりここまでずれるあたり、清姫はランサーになっても狂化EXであった。しかしこれはすぐには頷けない。

 

「いや、清姫の胸さわるのは、さすがに大義名分がないだろ」

「これはますたぁとも思えぬお言葉。さわりたいからさわる、愛し合ってるから抱き合う。それで良いではありませんか」

 

 何という説得力。光己は大いに蒙を啓かれた。

 すっくと立ち上がり、清姫に向かって大きく腕を開く。

 

「その通りじゃないか。かもん清姫!」

「はい、旦那様!」

 

 そのままひしと抱き合う光己と清姫。実にしょうもない茶番だったが、シールダーとしては放っておけない。

 

「まだ織田信長さんがいるんですよ!? 離れて下さい」

 

 そう言いながら2人を強引にひっぺがそうとするマシュ。しょうがないので光己と清姫はいったん離れた。

 ところでその信長はどこにいるのだろうか?

 

「ああ、信長の船ならあそこにいるぜ。ずいぶん流されて距離が開いたが、あれだけ宝具をブツけ合えば見失ったりしねえよな」

 

 するとオリオンが海の一角を指さして教えてくれた。ぬいぐるみになってしまっても狩人の目の良さは健在のようだ。

 

「あー、ありがとうございます。速さはどれくらいですか?」

「ランサーオルタの幽霊船と同じくらいだな。この船よりはずっと遅い」

「よかった、それなら一休みできますね」

 

 信長は船を加速できるスキルは持っていないようだ。これで宝具を使ったマシュやルーラーたちが魔力を回復する時間を稼げる。

 そして信長の船を監視しつつそのまま待っていると、やがてヒルドたちが戻って来た。黒い馬の背中にランサーオルタを横向けにうつ伏せにして乗せている。

 

「ただいま、マスター。ランサーオルタ連れてきたよ」

「うん、4人ともお疲れさま」

 

 光己はさっそくランサーオルタの麗しいお姿を拝見しに赴いた。

 彼女の後ろ側に回ってみると、半分透けた白い薄布とセクシーな黒いパンツに覆われた立派なお尻と太腿が目の前に現れる。

 

「おおぅ、何というド迫力えちえち……」

 

 光己は魅了されたかのようにふらふらとランサーオルタに近づいて、その魅惑の臀部をさわろうとしたが、さすがにヒルドに止められた。

 

「あー、マスターはそこまでね」

 

 ついでルーンでバスタオルを投影してランサーオルタの体にかぶせる。これで彼女の体はまったく見えなくなってしまった。

 

「ああっ、何てことを!?」

「このまま斃しちゃうなら止めないけど、味方にするならねえ」

「ぐぬぬ」

 

 ランサーオルタが寝ている内に殺してしまうなら、彼女の信頼や好意を得る必要はないから多少のおいたは構わないと思うが、勧誘するならそうはいかない。当然の処置であり、光己も返す言葉がなかった。

 

「それよりこの人今すぐ起こす? それとも信長との戦いが終わってからにする?」

「うーん、どうするかなあ」

 

 ランサーオルタを今起こした場合、信長と接触する前に味方にできれば頼りになるが、間に合わなかったら面倒すぎる。基本的に慎重派である光己は、リスクを排除する方向を選択した。

 

「寝ててもらった方がいいかな。ヒルド、睡眠のルーン重ねがけしてもらっていい?」

「うん、了解」

 

 慎重なのは悪いことではない。ヒルドはマスターの指示通り、ランサーオルタが滅多なことでは起きないようルーンをマシマシでおかわりした。

 あとはメイドオルタがラムレイともども船室に連れて行けば大丈夫だろう。

 

「それじゃメイドオルタ、ランサーオルタと馬のことお願いね」

「分かった、任せておけ」

 

 そうして2人と1頭が船の中に入るのを見送ったら、改めて信長の船に注意を戻す。

 

「そういえばお姉ちゃん、信長公ってどんな感じの人だった?」

「え!? あ、はい、そうですね。そんなに長い時間一緒にいたわけではありませんが、一言でいうなら冷徹な君主という感じでした。

 Tシャツを着ていましたが、その下は多分水着でしょう」

「……んー!?」

 

 ランサーオルタのことがあったのでジャンヌは質問にすぐ答えてくれたが、その内容に光己はちょっと違和感を感じた。

 彼が知っている信長は確かに冷徹な所はあるが、普段は陽気でノリがいいタイプだったからだ。ましてサーヴァントは水着になると、たいていは南国チックに明るく開放的になるのに何故だろう。もしかして平行世界から来た、あの時とは別人の信長オルタとかそういう存在なのだろうか。

 

「神霊を材料にして生体兵器をつくるというのもノッブらしくない感じしますしねー」

 

 沖田も疑問を抱いているようだ。まあその辺は本人に確かめるしかないだろう。

 やがて両者の距離が縮まり、信長の船がはっきり見えてきた。

 

「おお、あれはやっぱり鉄甲船か」

 

 鉄甲船とは、木造櫂船に帆も備えた大型の軍船「安宅船(あたけぶね)」の船体の外側に、薄い鉄板を張り付けたものである。史料が少ないので実態はよく分からないが、今光己たちの眼前に浮かんでいる船は水面より上は完全に鉄で覆われた黒鉄の船だった。

 その甲板の舳先(へさき)で信長(と思われる女性)が、茶色い甲冑を着て大型の銃を持った兵士を従えて、傲然とこちらを見据えている。さっそくルーラーが真名看破を行った。

 

「あの女性がそうですか。

 ……真名は織田信長で合ってますね。クラスはバーサーカーで、宝具は『第六天魔王波旬~夏盛~(ノブナガ・THE・ロックンロール)』、巨大な骸骨を召喚して対象1体を殴打するものですね。神性を持つ者に対しては特に有効です」

「……ほえ?」

 

 やはり水着化すると頭が夏になるようだ。

 しかし神性特攻となると、ヒルドとカーマと玉藻の前、それにアルテミスとオリオンは後ろに下がっていた方が良さそうである。光己自身も角と翼と尻尾を引っ込めた。

 その傍らで沖田が不審げに目を細める。

 

「うーん、私が知ってるノッブとはだいぶ感じが違いますね。いえ水着化のせいだと言われたらそれまでなんですが。

 でもあんな兵士見たことないんですよね」

 

 本格的にあの彼女は信長オルタだという可能性が出てきた。どちらであっても話し合いで仲間にできればそれに越したことはないのだが。

 

「もし説得できなかったら沖田さんはどうする?」

「別にどうもしませんよ。マスターに斬れと言われれば斬る、ただそれだけです」

「おおぅ、さすがは新選組一番隊長……」

 

 光己は友人同士で争いにならないよう配慮したつもりだったが、沖田は予想以上の人斬り脳であった。

 戦場に人情を持ち込まないのは正しい判断とも言えるけれど。

 

「仮にあのノッブが私のことを覚えてて勧誘されても乗りませんので、そこは安心して下さい!

 私の願いは最後まで戦い抜くこと、寝返りなんてあり得ませんから!!」

 

 そう言ってえっへん!と思い切り元気よく胸を張る沖田。嘘発見娘(きよひめ)がそばにいることを知っていての発言だから信憑性は非常に高い。

 

「そっか、ありがと。じゃあその時は前衛でバリバリ頼むな」

「はい、お任せ下さいっ!」

 

 こうして光己と沖田が信頼を深めていると、オルタの方もやってきた。

 

「マスター、私はそもそも織田信長という人物を知らないから寝返る必然性がまったくないぞ。安心してほしい」

「おお、確かにそれなら安心だな!」

 

 沖田オルタはノーマルに対抗心を抱いたのか、単にかまってほしいだけか。光己がとりあえず頭を撫でてみると、褐色少女は嬉しそうにくっついてきた。

 やはりメンタルは見た目年齢よりお子様……何の問題もないな!

 

「……で、マシュたちはそろそろ魔力回復できた?」

 

 それはそうと、戦闘準備は整っただろうか。光己がそれを訊ねると、マシュはこっくり頷いた。

 

「はい、宝具ならいけます」

「私も大丈夫だ」

 

 ついでアタランテたちも首を縦に振ってくれたので、光己はそのまま前進して信長に接触することにした。

 なお両者の位置関係は、図で表すなら「  ̄  _ 」のような感じである。このまま2隻ともまっすぐ進んだ場合、50メートルほど離れてすれ違うことになるだろう。

 

「昨日攻撃してきたのは亡霊だけだったけど、信長公はどう動くかなあ」

 

 今のところ大砲や鉄砲を撃ってきてはいないが……。

 そしてついに、声が届きそうな距離まで近づいた。

 

「ノッブ、久しぶりですねー! 水着になったみたいですけど元気ですかー?」

 

 まずは沖田がフレンドリーに呼びかけてみたが、それへの反応はけんもほろろなものだった。

 

「何じゃ、貴様は。わしを誰だと思っておる、馴れ馴れしいぞ」

「……へ!?」

 

 どうやら信長は沖田のことを知らないようだ。

 

「貴様らが何者でここで何をしておるのかは知らぬ。じゃがわしと敵対した者を助けた上に、仮初とはいえ同盟を組んだ者を討った(やから)を見逃すわけにはゆかん」

 

 そしてもちろん、簡単に仲間になってくれるわけもなかった。

 

「見れば大勢雁首並べておるようじゃし、アルトリアを討った者を侮る気はない。

 しかしそちらも侮るでないぞ!?」

 

 そう言うと、彼女自身は飛び道具を持っていないのかいったん兵士の向こうに引っ込んだ。

 代わりにその兵士たちが前に出て、得物の銃を撃ち始める。

 

「銃っていうより火炎放射器か!?」

 

 光己が思わずそう評した通り、彼らの銃が発射したのは弾丸ではなく、まっすぐ飛ぶ橙色の炎だった。

 ぱっと見相当な熱量を持ってそうだが、弾速は普通の銃弾よりずっと遅い。戦士系のサーヴァントなら余裕で回避……と言いたいところだが、100人単位という数の暴力で来られてはそうもいかなかった。

 しかも船本体からは大砲の弾が飛んでくる。

 

「ちょ、ノッブのっけから殺意高すぎじゃありません!?」

「熱づづづづづづ!? お、乙女の柔肌に何てことを」

 

 沖田が逃げ回る後ろで、玉藻の前は被弾したのか熱そうに悲鳴を上げていた。

 

「シ、シールドエフェクト展開します!」

 

 その様子を見たマシュが慌てて「誉れ堅き雪花の壁」のスキルで防壁をつくる。しかし相手の数が数だけにそう長くは保たないだろう。

 ついでにいえばこの城壁は「壁」なので、中から外に一方通行で攻撃するという器用な芸当はできない。

 火炎はともかく大砲の弾が城壁に当たってガンガンと耳障りな騒音を立てる中で、光己たちはどんな反撃をするのであろうか……。

 

 

 




 つまりここのノッブは「ぐだぐだ帝都聖杯奇譚」のノッブが水着化した存在というわけです。鉄甲船はサービスということで(ぉ


主人公が邪ンヌに作ってもらっている短刀に付与する機能はどれが良いですか?(鞘とは別枠)

  • ガンド
  • 氷作成
  • 魔術解除
  • お姉ちゃん

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